ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
ガレスが帰ってから三日後。
レインは一枚の紙を見つめながら考え込んでいた。
机の上には簡単な資料が並んでいる。
工房の規模。
島の人口。
港の利用状況。
見張りの配置。
そして、新聞に載っていた海賊の記事。
レインは腕を組みながら小さく息を吐いた。
「やっぱり一度話した方がいいな」
そう呟くと席を立つ。
この件は自分一人で決める話ではない。
島全体に関わる問題だからだ。
その日の夕方、長老の家へ関係者が集められていた。
長老。
父。
ルーク。
港の責任者。
採掘場の責任者。
他にも島の中心人物が数名。
突然呼び出されたこともあり、皆不思議そうな顔をしていた。
長老が口を開く。
「さて、レイン」
「今日は何の話じゃ?」
レインは全員の顔を見渡した。
そして静かに話し始める。
「海賊対策についてです」
その言葉に場の空気が少し変わる。
父が眉をひそめた。
「海賊?」
「そうです」
レインは頷く。
「もし万が一、この島が海賊に襲われたらどうするかという話です」
数人が顔を見合わせた。
突然の話だった。
長老が顎へ手を当てる。
「確かに海賊はおるが……」
「この島は今まで襲われたことはないぞ?」
他の者達も頷いた。
島は東の海の外れにある。
人口も少ない。
大きな町でもない。
海賊から見れば目立つ場所ではなかった。
しかし、レインは首を横へ振る。
「今まではそうだったと思います」
「ですが、これからもそうとは限りません」
レインはガレスとの話を説明した。
変形滑車の評判。
東の海へ広がり始めた噂。
レイン工房の名前。
興味を持ち始めた商人達。
話を聞くにつれ、皆の表情が少しずつ真剣になっていく。
父も腕を組んだ。
「つまり」
「この島が目立ち始めているってことか」
「そうです」
レインは頷く。
「レイン工房だけじゃありません」
「油田があります」
「鉄鉱石があります」
「港も以前より発展しています」
「商船も増えています」
レインは一つずつ指を折りながら説明する。
「海賊から見れば、昔よりずっと魅力的な島になっています」
部屋が静かになった。
誰も反論できない。
全て事実だった。
島は発展している。
それは喜ばしいことだ。
だが同時に目立つということでもある。
しばらく沈黙が続いた後。
採掘場の責任者が口を開いた。
「だが海賊が来ると決まったわけではないだろう?」
「その通りです」
レインは素直に認めた。
「来ないかもしれません」
「一生来ない可能性もあります」
そこで一度言葉を区切る。
「ですが、来てから考えるのでは遅いと思います」
その言葉に長老がゆっくり頷いた。
父も口を開く。
「確かにな」
「火事と同じだ」
「起きてから井戸を掘っても意味がない」
島の大人達も納得したようだった。
準備は必要だ。
それは誰も否定しない。
問題は何をするかだった。
「それでレイン」
長老が尋ねる。
「何か案があるのじゃろう?」
その言葉を待っていた。
レインは用意していた紙を机へ広げる。
簡単な島の地図だった。
「まず見張り台です」
全員が地図を覗き込む。
レインは港を指差した。
「今でも見張りはいます」
「ですが、人が立っているだけです」
「もっと高い場所を作りましょう」
「海を広く見渡せるようにします」
港の責任者が頷く。
悪くない案だった。
「次に警報です」
「警報?」
父が首を傾げる。
レインは説明する。
「海賊船を見つけても、島全体へ知らせるまで時間が掛かります」
「だから鐘を設置します」
「鐘?」
「大きな鐘です」
「決められた回数鳴らせば、島中が異常事態だと分かるようにします」
長老達は顔を見合わせた。
なるほど、確かに分かりやすい。
さらにレインは続ける。
「港にも防壁を作りたいです」
「防壁?」
「船の侵入を妨害するための設備です」
もちろん大砲などはまだ無い。
だが、船の接岸を遅らせることはできる。
時間を稼げれば避難もできる。
準備もできる。
それだけでも意味がある。
話し合いは二時間以上続いた。
反対意見もあった。
本当に必要なのか。
金はどうするのか。
人手は足りるのか。
様々な意見が飛び交う。
その全てにレインは答えていった。
最終的に、長老が結論を出した。
「よし」
部屋の全員が長老を見る。
「やろう」
その一言だった。
「海賊が来ないなら、それが一番良い」
「じゃが」
長老は静かに続ける。
「来た時に後悔するのはもっと嫌じゃ」
誰も異論は無かった。
会議が終わり。
帰り道。
父が隣を歩く。
夕日が島を赤く染めていた。
「お前は心配性だな」
父が苦笑する。
レインも笑った。
「そうかもしれない」
前世の知識があるからだろう。
この世界がどれほど危険か知っている。
だから備えたくなる。
だが、レインは海を見ながら思う。
備えが無駄になるなら、それが一番良い。
海賊が来ないなら、それで良い。
何も起きないなら、それが理想だ。
それでも、準備だけはしておきたい。
そんな気持ちは変わらなかった。
遠くの海を眺める。
今はまだ平和だ。
だが、その向こうでは海賊達が暴れている。
新聞で見た賞金首もどこかにいるのだろう。
世界は思っている以上に危険だ。
だからこそ、守るための準備が必要だった。
レインは静かに拳を握る。
工房も。
島も。
仲間達も。
守れる力を手に入れるために、十歳の船大工は少しずつ未来への備えを進めていくのだった。