ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
警報鐘が完成してから二週間後。
レインは再び港へ来ていた。
見張り台は順調に運用されている。
警報鐘も既に島の生活へ溶け込み始めていた。
試験的に鐘を鳴らす訓練も何度か行われている。
島民達も海賊対策を他人事ではなく、自分達の問題として考えるようになっていた。
そんな中、レインには最後の課題が残っていた。
港の防壁である。
「本当に作るのか?」
父が海を眺めながら尋ねた。
レインは頷く。
「作る」
「見張り台も鐘も分かる」
「だが防壁はなぁ……」
父は苦笑する。
実感が湧かないのだろう。
それは他の島民達も同じだった。
見張り台は分かる。
鐘も分かる。
しかし海賊船を止める設備となると想像しにくい。
「完全には止められないよ」
レインは素直に言った。
「相手が本気なら突破される」
「じゃあ意味無いじゃねぇか」
父が笑う。
しかしレインは首を振った。
「意味はある」
そして港を指差した。
「必要なのは勝つことじゃない」
「時間を稼ぐことだ」
その言葉に父は黙った。
レインが欲しいのは数分。
長くても十分程度。
その時間があれば見張り台から連絡できる。
鐘を鳴らせる。
避難できる。
武器を持てる。
準備ができる。
つまり防壁の役割は撃退ではなく遅延だった。
「なるほどな」
父は納得したように頷く。
「相手を倒すんじゃなくて準備の時間を作るのか」
「そういうこと」
レインは笑った。
今回作る防壁は単純な構造だった。
港の入り口付近へ巨大な木杭を何本も打ち込む。
さらに鉄鎖を通せるよう加工する。
普段は邪魔にならないよう開放しておき、緊急時だけ鎖を張る。
船が高速で侵入できないようにするためだった。
前世で見た港湾防衛設備を参考にしている。
もちろん規模はずっと小さい。
だが今の島には十分だった。
工事はすぐに始まった。
島民達も協力的だった。
以前なら半信半疑だったかもしれない。
しかし見張り台と鐘が実際に役立っている今、レインの提案を疑う者は少なかった。
むしろ、
「次は何を作るんだ?」
と楽しみにしている者までいる。
港では大勢の人間が汗を流していた。
杭を運ぶ者。
穴を掘る者。
ロープを張る者。
鉄鎖を加工する者。
レインも設計図を持ちながら走り回っている。
「レインさん!」
ルークが呼ぶ。
「こっちの金具終わりました!」
「早いな」
レインは完成品を見る。
綺麗な出来だった。
今やルークの技術は島でも上位に入る。
十六歳や十七歳の職人にも負けない。
少なくとも製作技術だけなら既に一人前だった。
「軍艦バッグはどうですか?」
ルークが小声で聞く。
レインは少し笑う。
「毎日やってる」
「やっぱりですか」
ルークは呆れたようにため息を吐く。
最近は船板を割る頻度も増えてきた。
相変わらず化け物だと思う。
数日後、防壁は完成した。
港の入口には太い杭が並んでいる。
さらに巨大な鉄鎖も設置された。
実際に動かしてみると、予想以上に迫力があった。
「おお……」
長老が感心する。
港の入口が封鎖される。
大型船でも簡単には突破できそうにない。
もちろん絶対ではない。
だが確実に時間は稼げる。
「これで最後か?」
父が尋ねる。
レインは完成した設備を見渡した。
見張り台。
警報鐘。
防壁。
最低限の準備は整った。
今できることはやったと言っていい。
「ひとまずはな」
レインは頷く。
その言葉に皆が安堵したような表情を浮かべる。
ここ数か月。
島は大きく変わった。
以前より安全になった。
以前より団結している。
それを誰もが実感していた。
夕暮れ。
レインは一人で見張り台へ登った。
高い場所から港を見下ろす。
見張り台。
鐘。
防壁。
全てが見える。
自分の考えた物が島を守るために存在している。
その光景は少し誇らしかった。
海を見る。
水平線の向こうには広い世界がある。
海賊もいる。
海軍もいる。
怪物のような強者達もいる。
今の自分ではまだ足りない。
だが、少しずつ前へ進んでいる。
それだけは確かだった。
その時だった。
見張り役の男が遠くを指差した。
「レイン!」
「船だ!」
レインは反射的にそちらを見る。
遠くの水平線。
小さな船影が見えた。
まだ距離はある。
旗も見えない。
商船かもしれない。
漁船かもしれない。
海賊船かもしれない。
今はまだ分からない。
だが、レインは小さく笑った。
「まずは確認だな」
以前の島なら見逃していただろう。
しかし今は違う。
見つけられる。
備えられる。
動ける。
そのために作ったのだから。
十歳の船大工は、静かに水平線の向こうを見つめるのだった。