ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
港の防壁が完成してから数日後。
島は久しぶりに平穏な日々を取り戻していた。
見張り台は毎日稼働している。
警報鐘も定期的に試験を行っている。
港の防壁も問題なく動作した。
海賊対策として考えていた設備は一通り完成したと言っていい。
レインも久しぶりに工房の仕事へ集中できるようになっていた。
その日の昼過ぎだった。
工房ではルーク達が製作作業を行っている。
レインは事務室で見積書を確認していた。
最近は変形滑車の注文が増えている。
ガレスからの追加注文もあり、工房は過去最高と言っていいほど忙しかった。
そんな時だった。
ゴォォォォォン!!
島中へ鐘の音が響いた。
レインの手が止まる。
工房の中も静まり返った。
従業員達が顔を上げる。
ルークも作業の手を止めた。
ゴォォォォォン!!
二回目。
そして、
ゴォォォォォン!!
三回目。
レインは立ち上がった。
三回。
事前に決めた合図だった。
見張り台が船を発見した時の合図である。
「来たか」
レインが呟く。
ルークも立ち上がった。
「どうします?」
「港へ行く」
「了解です」
工房の従業員達も慌てて動き始める。
まだ海賊とは決まっていない。
だが確認は必要だった。
外へ出ると島中が少し騒がしくなっていた。
鐘の意味は既に周知されている。
漁師達も港へ向かっている。
商人達も様子を見に出てきていた。
長老の姿も見える。
父も既に港へ向かっていた。
「レイン!」
父が手を振る。
「見張り台だ!」
レインは頷いた。
そして皆と共に見張り台へ向かう。
階段を駆け上がる。
最上階へ到着すると、見張り役の男が海を指差した。
「あれです!」
全員が水平線を見る。
確かに船影が見える。
かなり遠い。
だが確実にこちらへ向かっている。
「旗は?」
レインが尋ねる。
「まだ見えません!」
距離が遠い。
見張り台が無ければ発見できなかっただろう。
それだけでも設備の価値は十分だった。
長老が腕を組む。
「どうじゃ?」
レインは目を細めた。
まだ判断できない。
海賊船か。
商船か。
漁船か。
距離がありすぎる。
「もう少し待ちましょう」
そう言って全員で様子を見ることになった。
十分後。
船は少しずつ近付いてくる。
見張り役が突然声を上げた。
「あ!」
全員がそちらを見る。
「旗が見えました!」
空気が変わる。
父が身構える。
ルークも表情を引き締める。
長老も真剣な顔になった。
「何の旗じゃ?」
長老が尋ねる。
見張り役は目を凝らす。
そして、数秒後。
「商船です!!」
沈黙。
「……」
「……」
「……」
レインが最初に吹き出した。
「ははっ」
父も笑う。
ルークも笑う。
長老も大笑いした。
「何じゃそれは!」
長老が腹を抱える。
周囲の島民達も一気に力が抜けた。
海賊船ではなかった。
ただの商船だったのである。
港へ集まった人々も次々に笑い始めた。
緊張していた分だけ反動が大きい。
誰かが言う。
「びっくりしたぁ!」
別の者が言う。
「心臓に悪いぞ!」
島中が笑い声に包まれた。
やがて商船が港へ到着する。
船から降りてきた商人は不思議そうな顔をしていた。
港に人が集まりすぎていたからだ。
「何かあったんですか?」
商人が尋ねる。
父が笑いながら答える。
「いや、ちょっとな」
長老もまだ笑っている。
事情を聞いた商人も苦笑した。
だが、レインだけは違った。
見張り台から降りる途中。
一人で考え込んでいた。
「どうしたんですか?」
ルークが尋ねる。
レインは少し笑う。
「いや」
「大成功だなと思って」
ルークは首を傾げた。
海賊ではなかった。
皆ずっこけていた。
何が成功なのか分からない。
「見張り台が機能した」
レインは指を一本立てる。
「鐘も機能した」
二本目。
「島民もちゃんと集まった」
三本目。
「つまり全部予定通りだ」
ルークは一瞬考える。
そして納得した。
確かにその通りだった。
もし本当に海賊だったら。
今日と同じ流れで動くことになる。
つまり訓練としては完璧だった。
「ちなみに」
レインが言う。
「何分だった?」
見張り役が記録を確認する。
見張り台発見。
鐘。
港集合。
その時間を計測していたのだ。
「七分です!」
レインは頷いた。
「悪くないな」
だが、もう少し短縮できる。
改善点も見つかった。
その日の夜。
レインはノートへ今日の出来事を書き込んでいた。
改善点。
問題点。
集合時間。
連絡体制。
次回への課題。
海賊は来なかった。
だが、その方が良い。
来ないのが一番だ。
それでも、来た時のために備える。
窓の外には静かな海が広がっていた。
しかしレインは知らない。
その海のどこかで、本物の海賊船がこちらへ向かい始めていることを。
そして、その船首には大きな鉄斧の紋章が描かれていることを。