ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第六十八話 「海賊旗」

 

初めての警報騒ぎから五日後。

 

島は再び平穏な日常へ戻っていた。

 

港では商船の積み下ろしが行われ、工房では変形滑車の製作が続いている。

 

誤報騒ぎの後、レインは見張り台の運用方法を少しだけ改善していた。

 

見張りの交代時間。

 

報告手順。

 

鐘を鳴らす基準。

 

細かな部分を修正したことで、島の防衛体制は以前よりも洗練されつつあった。

 

その日の午後、レインは工房の事務室で図面を描いていた。

 

ルークは隣で注文書を確認している。

 

以前なら考えられない光景だった。

 

工房が大きくなったことで、職人達へ任せられる仕事も増えた。

 

そのおかげでレインは設計や経営に集中できている。

 

「レインさん」

 

ルークが書類から顔を上げた。

 

「ガレスさんの追加注文ですけど、今の人数でも十分間に合いそうですね」

 

「そうだな」

 

レインは頷く。

 

「ただ、来年には工房を少し広げるかもしれない」

 

「また大きくするんですか?」

 

「注文が増え続けるならな」

 

ルークは苦笑した。

 

十歳児の会話とは思えない。

 

今さらだが、本当に何者なのだろうと時々思う。

 

その時だった。

 

遠くから鐘の音が聞こえた。

 

ゴォォォォォン!!

 

工房の空気が一瞬で変わる。

 

レインの手が止まった。

 

ルークも顔を上げる。

 

前回と同じ三回の鐘なら商船だ。

 

だが、

 

ゴォォォォォン!!

 

二回目。

 

そして、

 

ゴォォォォォン!!

 

三回目。

 

さらに、

 

ゴォォォォォン!!

 

四回目。

 

ゴォォォォォン!!

 

五回目。

 

工房の中が静まり返った。

 

五回。

 

緊急招集だった。

 

「ルーク」

 

「はい」

 

「港へ行くぞ」

 

二人は同時に立ち上がった。

 

前回とは違う。

 

見張り役が何か異常を感じたのだろう。

 

外へ出ると島民達も慌ただしく動いていた。

 

長老の家へ向かう者。

 

港へ走る者。

 

漁師達も網を放り出して集まり始めている。

 

前回の誤報があったからこそ、誰もが素早く動けていた。

 

レイン達が港へ到着すると、既に父や長老も来ていた。

 

見張り台の上では見張り役が必死に海を見ている。

 

レインはすぐに階段を駆け上がった。

 

「何があった?」

 

見張り役は振り返る。

 

その顔は前回とは違った。

 

明らかに緊張している。

 

「船です」

 

「それは知ってる」

 

「今度は違います」

 

その一言で空気が変わった。

 

見張り役は遠くの海を指差す。

 

レインは目を細めた。

 

水平線の向こう。

 

小さな船影が見える。

 

距離はまだある。

 

だが、前回より明らかに大きい。

 

そして、何かがおかしい。

 

「旗は見えるか?」

 

父が尋ねる。

 

見張り役はしばらく黙り込んだ。

 

そして、ゆっくりと口を開く。

 

「見えます」

 

周囲が静まり返る。

 

「何の旗だ?」

 

見張り役は唾を飲み込んだ。

 

その額には汗が浮かんでいる。

 

「……海賊旗です」

 

誰も言葉を発しなかった。

 

風の音だけが聞こえる。

 

長老がゆっくりと海を見る。

 

父も黙っている。

 

ルークの表情も固い。

 

前回は商船だった。

 

だが今回は違う。

 

見張り役が見間違えるはずがない。

 

海賊...

 

その言葉が持つ重みを、誰もが理解していた。

 

レインは静かに海を見つめる。

 

不思議なことに、頭は冷静だった。

 

むしろ確認したいことが次々と思い浮かぶ。

 

船の大きさ。

 

人数。

 

進行方向。

 

速度。

 

そして旗。

 

「どんな旗だ?」

 

レインが尋ねる。

 

見張り役は答える。

 

「骸骨です」

 

当たり前だった。

 

海賊旗なのだから。

 

だが、見張り役は続けた。

 

「骸骨の後ろに……」

 

一度言葉を切る。

 

「大きな斧があります」

 

レインの瞳が僅かに動いた。

 

その瞬間、数日前に読んだ新聞記事が脳裏をよぎる。

 

懸賞金八百万ベリー。

 

東の海で商船を襲っている海賊。

 

鉄斧のバルド。

 

まさか...

 

レインは再び海を見る。

 

距離はまだ遠い。

 

確証は無い。

 

だが、嫌な予感だけはあった。

 

長老が静かに言う。

 

「レイン」

 

「何だ?」

 

「お前の備えが役に立つ時が来たかもしれんぞ」

 

レインは小さく頷いた。

 

見張り台。

 

警報鐘。

 

港の防壁。

 

全てはこの時のために作った。

 

遠い水平線の向こう。

 

海賊船はゆっくりと島へ近付いてくる。

 

そして船首には、確かに鉄斧の紋章が掲げられていた。

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