ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
それから数日後。
港では、ある小さな変化が起きていた。
「おい、そっち引け!」
「おう!」
掛け声と共にロープが引かれる。
すると巨大な木材が、以前とは比べ物にならないほど楽に持ち上がった。
「やっぱすげぇなこれ」
「楽すぎるだろ……」
船大工達が感心したように滑車を見上げる。
レインは少し離れた場所からその様子を眺めていた。
(定着したな)
前世では当たり前だった技術。
だがこの世界では違う。
ほんの少し工夫しただけで、作業効率は劇的に変わる。
レインは改めて実感していた。
この世界には、まだまだ改善できることが山ほどある。
問題は。
それをどこまでやるかだった。
父親の言葉が頭をよぎる。
『この世界は未来を嫌う』
あれは脅しではない。
事実なのだろう。
地下施設。
失われた文明。
世界政府。
全部繋がっている。
だからこそ、目立ちすぎるのは危険だ。
(まぁ、だからって止める気はないけど)
レインは苦笑する。
元々そういう性格ではない。
前世でもそうだった。
誰かに無理だと言われると、逆にやりたくなる。
できないと言われれば、やってみたくなる。
だから会社も作った。
だから成功した。
そして。
だから今もここにいる。
その時だった。
「レイン!」
港の向こうから声が飛んできた。
振り向く。
同年代の子供達だった。
「かけっこしようぜ!」
「いやだ」
即答だった。
子供達がずっこける。
「なんでだよ!」
「勝てるから」
「ムカつく!!」
港に笑い声が響く。
レインも少し笑った。
精神年齢だけなら既に大人だ。
正直、一緒に遊ぶより工具を触っている方が楽しい。
だが。
こういう時間も嫌いではなかった。
前世では忙しすぎた。
会社が大きくなるにつれ、遊ぶ時間も減っていった。
毎日仕事。
毎日会議。
毎日数字。
それも嫌ではなかった。
だが今思えば、少し走り続けすぎていたのかもしれない。
レインは空を見上げる。
青空。
雲が流れている。
そして。
鳥が飛んでいた。
(飛びたいな)
自然とそう思った。
地下施設で描いた飛行機。
まだ夢物語だ。
材料もない。
技術もない。
動力もない。
だが。
不思議と出来る気がしていた。
なぜなら。
自分は知っているからだ。
人が空を飛べることを。
前世では当たり前だった。
だから。
不可能とは思わない。
その時だった。
「レイン」
また父親だった。
最近やたら話しかけてくる。
いや。
正確には違う。
父親がレインを観察している。
そんな気がしていた。
父親はレインの隣へ腰を下ろした。
しばらく二人で海を見る。
波音だけが聞こえる。
やがて父親が口を開いた。
「お前は、
将来何になりたい」
突然だった。
レインは少し考える。
普通の子供なら。
海賊。
海軍。
冒険家。
そんな答えかもしれない。
だが。
レインは違った。
「会社作る」
父親が固まる。
「……会社?」
「うん」
レインは当然のように続けた。
「船作って」
「技術開発して」
「世界中に支店作って」
「金稼ぐ」
父親が頭を抱えた。
「お前、
本当に子供か?」
「たぶん」
「たぶんってなんだ……」
レインは笑う。
だが目は真剣だった。
本気で考えている。
海賊にはならない。
海軍にもならない。
王にもならない。
目指すのは別だ。
世界最大の企業。
技術集団。
巨大なネットワーク。
前世で途中までしかできなかった夢。
それをこの世界で完成させる。
(まずは船大工会社かな)
レインは静かに考える。
船は必要だ。
人も必要だ。
金も必要だ。
そして。
信頼も必要だ。
一人では未来は作れない。
なら仲間を集めるしかない。
その瞬間。
地下施設で見た手帳が脳裏をよぎる。
『我が友、ジョイボーイへ』
あの技術者もきっと同じだった。
一人で未来を作ろうとしたわけではない。
誰かと共に夢を見た。
だから手紙を残した。
だから文明を作った。
レインは静かに立ち上がる。
海風が吹く。
遠くの水平線が輝いて見えた。
まだ何も始まっていない。
会社もない。
技術もない。
仲間もいない。
だが。
確かなものが一つだけあった。
目標だ。
前世では上場企業の社長だった。
なら。
今度は世界を変える企業を作ろう。
レインは小さく笑う。
その目には、年齢不相応な野心が宿っていた。
誰も知らない。
この港で木材を運んでいる少年が。
将来、世界政府ですら無視できない存在になることを。
まだ誰も知らなかった。