ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
「戦う」
レインの言葉が港へ響いた。
その瞬間、海賊達が歓声を上げる。
島民達は武器を握り直した。
そして鉄斧のバルドは口元を歪める。
「いいだろう」
巨大な斧を肩へ担ぎながら笑った。
「久しぶりに骨のある獲物だ」
だが、レインの頭の中は既に次の段階へ進んでいた。
交渉は終わった。
相手の目的も分かった。
ここからはどう勝つかではない。
どう生き残るかだ。
レインは海賊船を見ながら状況を整理する。
海賊は約三十人。
島側は人数だけなら勝っている。
しかし、ほとんどが漁師や職人だ。
まともな戦闘経験は無い。
正面からぶつかれば被害は大きくなる。
だからこそ、最初から正面勝負をするつもりはなかった。
「父さん」
レインは振り返る。
「何だ?」
「絶対に海へ出ないでくれ」
父は少し驚いた顔をした。
「どういう意味だ?」
「相手の土俵へ行くなってことだ」
レインは港を指差す。
「俺達は守る側だ。この港の構造も、防壁の使い方も、どこに何があるかも全部知っている」
そして島民達を見渡した。
「有利な場所で戦う」
父は数秒黙った後、ゆっくり頷いた。
「なるほどな」
レインの言いたいことを理解したのだろう。
ルークも近付いてくる。
「レインさん、準備はできています」
「分かった」
レインは小さく頷く。
数日前、防壁完成後に考えていた仕掛けがあった。
港の高台。
そこには大量の丸太が積み上げられている。
表向きは工事用資材だ。
だが、本当の目的は別だった。
「合図したらロープを切って!」
「了解です」
ルークは真剣な表情で答えた。
その頃、海賊船では上陸準備が進んでいた。
防壁によって大型船は港へ入れない。
ならば小舟を使うしかない。
海賊達が次々と小舟へ乗り込んでいく。
十人。
十五人。
二十人。
彼らは笑っていた。
島民など恐れる必要は無いと思っているのだろう。
しかし、バルドだけは違った。
見張り台。
警報鐘。
港の防壁。
ここまで用意されていることに違和感を覚えていた。
普通の島ではない。
誰かが考え、準備し、行動している。
それだけは理解していた。
小舟が港へ向かう。
波を切りながら距離を縮めてくる。
百メートル。
八十メートル。
五十メートル。
島民達の緊張も高まっていく。
武器を握る手に汗が滲んでいた。
三十メートル。
二十メートル。
海賊達の顔が見える。
武器も見える。
嘲笑する声まで聞こえてきた。
その時だった。
レインは静かに右手を上げる。
誰もが息を呑む。
そして、
「今です」
短く告げた。
ルークがロープを切る。
次の瞬間だった。
ゴゴゴゴゴッ!!
高台に積まれていた丸太が一斉に動き出す。
重力に従い、勢いよく坂を転がり落ちていく。
「なっ!?」
海賊達が目を見開く。
気付いた時には遅かった。
ドォン!!
先頭の小舟へ丸太が直撃する。
船体が砕け、海賊達が海へ投げ出された。
さらに二本、三本と続く。
次々に落ちてくる巨大な丸太。
小舟は混乱に包まれた。
「避けろ!」
「うわぁぁぁ!」
「沈むぞ!」
海賊達が悲鳴を上げる。
小舟同士がぶつかり合い、海へ落ちる者もいた。
港へ到達する前に戦列が崩れていく。
島民達から驚きの声が上がった。
誰もが目の前の光景を信じられないでいる。
父ですら言葉を失っていた。
「お前、最初からこれを……」
レインは答えなかった。
視線は海賊船へ向いている。
まだ終わっていないからだ。
海賊達の半数近くが足止めされた。
上陸できる人数も大幅に減る。
それだけでも十分な成果だった。
島民達の士気も一気に上がる。
「やった!」
「効いてるぞ!」
歓声が上がる。
だがレインは笑わない。
むしろ警戒を強めていた。
海賊船の上。
バルドがゆっくり立ち上がる。
その顔から笑みは消えていた。
「なるほどな」
低い声が響く。
「そういうことか」
巨大な斧を肩へ担ぐ。
そして次の瞬間...
ドォォン!!
バルドが船首から飛び出した。
信じられない跳躍だった。
まるで砲弾のような勢いで港へ向かってくる。
ズドォォォン!!
港へ着地した瞬間、地面が砕けた。
衝撃で木片が跳ね上がる。
近くにいた島民達が思わず後ずさった。
静まり返る港。
誰もが理解する。
今までの海賊達とは違う。
この男だけは別格だ。
レインも同じ結論に辿り着いていた。
丸太の仕掛けが通用する相手ではない。
人数を減らすことはできても、目の前の怪物は止められない。
バルドはゆっくり立ち上がる。
そして巨大な斧を構えた。
「面白ぇ」
その声だけで空気が震える。
「本気で遊んでやる」
港にいた全員の背筋を冷たいものが走った。
本当の戦いは、ここから始まるのだった。