ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
港へ降り立った鉄斧のバルド。
その姿を前に、誰もが言葉を失っていた。
大きい。
ただ大きいだけではない。
その全身から放たれる威圧感が異常だった。
まるで猛獣が目の前に立っているような感覚。
長年海で生きてきた漁師達ですら、本能的な恐怖を感じていた。
バルドは巨大な斧を肩へ担ぐ。
そして港を見渡した。
「なるほどな」
低い声が響く。
「面白い島だ」
誰も答えない。
答えられなかった。
次の瞬間だった。
一人の漁師が前へ出る。
三十代半ば。
島でも腕っぷしの強い男だった。
手には銛を持っている。
「ふざけるな!」
叫びながら突っ込んだ。
家族を守りたかったのだろう。
島を守りたかったのだろう。
その気持ちは本物だった。
だが、現実は残酷だった。
バルドが斧を振る。
ただそれだけ。
技でも何でもない。
雑な一振りだった。
ドォン!!
漁師の身体が吹き飛ぶ。
近くに積まれていた木箱へ激突した。
木箱が砕け散る。
男は動かない。
気絶しただけだと願いたかった。
港が静まり返る。
誰も動けない。
あまりにも差があった。
「次は誰だ?」
バルドが笑う。
その笑顔は余裕に満ちていた。
レインは歯を食いしばる。
想像以上だった。
新聞で読んだ。
懸賞金八百万ベリー。
海賊。
危険人物。
理解していたつもりだった。
だが、目の前で見るのは全く違う。
(強い)
その一言だった。
その時、今度は別の男が飛び出した。
採掘場で働く大男だった。
手にはつるはしを握っている。
続いて二人。
三人。
島の男達が一斉に襲い掛かる。
「おおおおお!!」
気合いと共に武器を振り下ろす。
普通の相手なら終わりだっただろう。
しかし、バルドは笑った。
ドォン!!
拳が一人の腹へめり込む。
男が吹き飛ぶ。
横から来た攻撃を斧で弾く。
つるはしが折れる。
さらに蹴り。
ズドォッ!!
また一人が地面を転がった。
数秒後、立っているのはバルドだけだった。
島民達が息を呑む。
強い。
強すぎる。
「こんなもんか?」
バルドは肩を回した。
まるで準備運動でもしたかのようだった。
レインは冷静に観察を続ける。
怒りに任せて飛び出すのは簡単だ。
だが意味が無い。
勝てない戦い方をしても仕方がない。
重心。
足運び。
斧の軌道。
攻撃の癖。
全てを見る。
すると一つ気付く。
(遅い)
正確には大きいし、攻撃力は異常だ。
だが動きは洗練されていない。
力任せ。
だからこそ隙もある。
もちろん、見つけたからといって勝てるわけではない。
今のレインでも正面から受ければ終わる。
それでも、何も分からないよりは遥かに良かった。
その時だった。
「レイン!」
父が前へ出る。
「父さん!」
レインが叫ぶ。
だが止まらない。
父は船大工だった。
長年重い木材を運び続けた男だ。
身体も鍛えられている。
島の中では間違いなく強い部類だった。
「親父さんか」
バルドが笑う。
「お前は少しは楽しませてくれそうだ」
父は答えない。
木槌を握る。
そして踏み込んだ。
ドンッ!!
木槌が振り抜かれる。
速い。
島民達から歓声が上がる。
しかし、バルドは受け止めた。
片手だった。
「なっ……」
父の顔が歪む。
その瞬間、バルドの拳が放たれる。
ドォォン!!
父の身体が吹き飛んだ。
港の地面を転がる。
「父さん!!」
レインが走る。
父は意識こそある。
だが立てない。
肋骨が何本かいったかもしれない。
「大丈夫だ……」
そう言う声も苦しそうだった。
レインは拳を握る。
怒りが湧く。
だが同時に理解もしていた。
父は弱くない。
島では強い。
それでも勝てなかった。
それほどの差がある。
「レインさん!」
ルークが叫ぶ。
今にも飛び出しそうだった。
だが、レインは首を振る。
「まだだ」
ルークが目を見開く。
「でも!」
「まだだ」
レインは繰り返した。
今飛び出しても意味が無い。
負けるだけだ。
まずは見る。
考える。
勝つ方法を探す。
それがレインの戦い方だった。
バルドが笑う。
「どうした坊主」
巨大な斧を肩へ担ぐ。
「さっきまでの威勢はどこへ行った?」
港の視線が集まる。
レインはゆっくり立ち上がった。
そして前へ出る。
島民達が息を呑む。
バルドの笑みが深くなる。
「ようやく出てくるか」
レインは何も答えない。
ただ真っ直ぐバルドを見つめる。
十歳の船大工。
東の海の海賊。
両者の距離は数メートル。
そして、本当の勝負が始まろうとしていた。