ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第七十四話 「十歳の拳」

 

港に重い沈黙が流れていた。

 

倒れた父。

 

吹き飛ばされた島民達。

 

そして平然と立つ鉄斧のバルド。

 

その姿はまさに怪物だった。

 

レインは父の様子を確認する。

 

意識はある。

 

命に別状は無さそうだ。

 

だが戦える状態ではない。

 

肋骨も折れているだろう。

 

無理をさせれば危険だった。

 

「父さん、下がって」

 

「だが……」

 

「下がって」

 

レインは強い口調で言った。

 

父は悔しそうに歯を食いしばる。

 

しかし立ち上がれない。

 

現実を理解していた。

 

バルドがその様子を見て笑う。

 

「親父を庇うのか?」

 

「違う」

 

レインはゆっくり立ち上がった。

 

「戦力外だから下がってもらうだけだ」

 

港が静まり返る。

 

島民達が目を見開いた。

 

ルークも思わずレインを見る。

 

まさかそんなことを言うとは思わなかった。

 

だがレインは本気だった。

 

感情で動くな。

 

前世で何度も自分へ言い聞かせてきた言葉だった。

 

父が戦えないなら戦力外。

 

それだけの話だ。

 

「がはははは!」

 

バルドが豪快に笑う。

 

「面白ぇガキだ!」

 

巨大な斧を肩へ担ぐ。

 

そしてレインを見下ろした。

 

「来いよ」

 

レインはゆっくり前へ出る。

 

港にいる全員の視線が集まった。

 

十歳の少年。

 

懸賞金八百万ベリーの海賊。

 

普通なら勝負にもならない。

 

誰もがそう思っていた。

 

だがレインだけは違った。

 

(見える)

 

先ほどから観察していた。

 

重心。

 

癖。

 

足運び。

 

肩の動き。

 

視線。

 

バルドは強い。

 

だが速くはない。

 

「どうした?」

 

バルドが笑う。

 

「怖くなったか?」

 

次の瞬間。

 

バルドが動いた。

 

ブォン!!

 

巨大な斧が横薙ぎに振るわれる。

 

普通なら避けられない。

 

だが、レインは一歩下がる。

 

斧が鼻先を通過した。

 

「なに?」

 

バルドの眉が動く。

 

続けて二撃目。

 

縦斬り。

 

ドォン!!

 

地面が砕ける。

 

だがレインはいない。

 

既に横へ移動していた。

 

三撃。

 

四撃。

 

五撃。

 

どれも当たらない。

 

港がざわつく。

 

「避けてる……」

 

「レイン坊が?」

 

「本当に十歳か?」

 

島民達も驚いていた。

 

レインは息を整える。

 

ギリギリだった。

 

余裕はない。

 

少しでも読みを外せば終わる。

 

それでも見えていた。

 

(右肩が下がる)

 

(次は横薙ぎ)

 

(踏み込みが深い)

 

観察した情報が繋がっていく。

 

バルドも違和感を覚えていた。

 

「当たらねぇ……」

 

ただの偶然ではない。

 

このガキ。

 

見ている。

 

考えている。

 

その時だった。

 

バルドの踏み込みが大きくなる。

 

レインの目が光る。

 

(今だ)

 

身体が自然と動いた。

 

一気に懐へ飛び込む。

 

港の全員が息を呑んだ。

 

バルドも驚く。

 

「っ!?」

 

その距離は。

 

斧が最も使いにくい距離だった。

 

レインは腰を落とす。

 

拳を握る。

 

三ヶ月間、毎日殴り続けた船をただひたすら...

 

拳が唸る。

 

ドォォン!!

 

拳がバルドの腹へ突き刺さった。

 

鈍い衝撃音。

 

バルドの身体が僅かに浮く。

 

そして、

 

一歩。

 

二歩。

 

後ろへ下がった。

 

港が静まり返る。

 

誰も声を出せない。

 

今、バルドが下がった。

 

十歳の少年の拳で。

 

バルド本人も目を見開いている。

 

「お前……」

 

初めて笑みが消えた。

 

レインも驚いていた。

 

効いた。

 

確かに効いた。

 

だが、次の瞬間。

 

ゾクリ。

 

背筋が凍る。

 

バルドが笑った。

 

今までとは違う。

 

獲物を見つけた猛獣の笑みだった。

 

「面白ぇ」

 

低い声が響く。

 

「本当に面白ぇな」

 

次の瞬間。

 

ドォォン!!

 

拳が飛んできた。

 

速い。

 

避けられない。

 

レインは咄嗟に腕を交差させる。

 

衝撃。

 

骨が軋む。

 

景色が吹き飛ぶ。

 

ズガァァン!!

 

レインの身体が港の木箱へ激突した。

 

木箱が砕け散る。

 

島民達の顔が青ざめる。

 

「レインさん!!」

 

ルークが叫ぶ。

 

土煙の中。

 

レインは何とか立ち上がる。

 

腕が痺れていた。

 

いや、おそらくヒビが入っている。

 

痛い。

 

圧倒的に痛い。

 

そして理解した。

 

勝てない。

 

少なくとも。

 

一人では、その時だった。

 

ルークが前へ出る。

 

金槌を握り締める。

 

そして、レインの隣へ立った。

 

「今度は俺です」

 

レインは横目でルークを見る。

 

ルークの足は震えていた。

 

それでも逃げない。

 

バルドが笑う。

 

「もう一人増えたか」

 

巨大な斧を構える。

 

十歳の天才発明家。

 

十三歳の弟子。

 

そして東の海の海賊。

 

港の戦いは、まだ終わらない。

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