ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
「今度は俺です」
ルークは金槌を握り締めながら、レインの隣へ立った。
足は震えている。
喉も渇いている。
怖くないわけがなかった。
目の前にいるのは、島の大人達を次々と倒した怪物なのだから。
それでも逃げなかった。
レインは横目でルークを見る。
「下がれ」
短く言った。
ルークは即座に首を振る。
「嫌です」
「死ぬぞ」
「レインさんもでしょう」
即答だった。
レインは少しだけ笑った。
こんな状況だというのに。
なぜか可笑しかった。
「馬鹿だな」
「よく言われます」
バルドが二人の様子を見て笑う。
「感動の師弟愛ってやつか?」
巨大な斧を肩へ担ぎながら近付いてくる。
「だがな」
一歩。
また一歩。
「ガキが二人になったところで変わらねぇよ」
凄まじい威圧感だった。
普通なら立っているだけで精一杯だろう。
だが二人は動かなかった。
レインは小さく息を吐く。
右腕は痛む。
まともに使えない。
おそらくヒビが入っている。
だが頭はまだ動く。
「ルーク」
「はい」
「正面から行くな」
「分かっています」
短いやり取り。
それだけで十分だった。
三年間、同じ工房で働いてきた。
毎日顔を合わせていた。
今さら細かな説明など必要ない。
バルドが動く。
巨大な斧が振り上げられた。
「潰れろ!!」
ドォォン!!
地面が砕ける。
しかし当たらない。
レインは左へ。
ルークは右へ。
同時に回避していた。
「ほう」
バルドが眉を上げる。
次の瞬間、ルークが飛び込んだ。
金槌を振り抜く。
ガン!!
バルドの腕へ命中。
だが、
「軽いな」
まるで効いていない。
バルドの腕が動く。
ルークは咄嗟に後退した。
直後、拳が空気を裂く。
もし当たっていれば終わっていた。
「ちっ」
ルークが距離を取る。
額には汗が浮かんでいた。
その瞬間、レインが踏み込む。
ドォン!!
拳が腹へ突き刺さる。
バルドが腕で受ける。
鈍い音が響いた。
「またか」
しかし今度は後退しない。
「効いてるが浅い」
バルドは笑った。
レインも理解していた。
拳は通る。
だが決定打にならない。
それでも、
「ルーク!」
「はい!」
再び左右へ散る。
バルドの視線が迷う。
レインを見る。
ルークが動く。
ルークを見る。
レインが動く。
少しずつ。
本当に少しずつ。
バルドの対応が遅れ始めた。
港の島民達も気付き始める。
「押してる……?」
「いや」
「互角か?」
誰かが呟いた。
レインは冷静に否定する。
互角ではない。
まだ圧倒的に不利だ。
ただ、一人の時には無かったものがある。
隙だ。
バルドが振り向く。
その瞬間、背後からルーク。
ルークへ意識が向く。
その瞬間、正面からレイン。
一人では作れなかった隙。
二人だから作れる隙。
レインはそこで初めて気付いた。
(そうか)
前世では何でも一人でやろうとしていた。
工房も。
発明も。
経営も。
だが今は違う。
ルークがいる。
従業員達がいる。
父がいる。
仲間がいる。
その時だった。
バルドの拳がレインへ向かう。
避けられない。
レインの目が見開かれる。
しかし、
ドォン!!
間に飛び込んだ影があった。
ルークだった。
「ぐっ!!」
拳を受ける。
身体が吹き飛ぶ。
港の地面を転がった。
「ルーク!」
レインが叫ぶ。
ルークは何とか起き上がる。
口元から血が流れていた。
それでも笑う。
「大丈夫です」
全然大丈夫ではない。
それでも立つ。
レインの胸の奥で何かが燃え上がった。
怒りだった。
だが、冷静さは失わない。
バルドへ向かって走る。
踏み込む。
拳を握る。
今までで最高の一撃。
ドォォォォン!!
拳が唸る。
バルドは咄嗟に腕を交差させた。
衝撃。
そして初めて、バルドの表情が歪んだ。
「ぐっ……!」
港が静まり返る。
効いた。
確実に効いた。
バルドが数歩後退する。
島民達の目に希望が宿る。
勝てるかもしれない。
誰もがそう思った。
だが、次の瞬間。
バルドの笑みが消えた。
完全に...
「なるほどな」
巨大な斧を両手で握る。
空気が変わった。
今までとは明らかに違う。
遊びではない。
本気だ。
レインの背筋を冷たい汗が流れる。
ルークも同じだった。
そしてバルドは静かに告げる。
「そろそろ終わりにするか」
港にいた全員が息を呑んだ。
本当の地獄は、これから始まろうとしていた。