ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第七十六話 「守るために」

 

「そろそろ終わりにするか」

 

バルドの一言で空気が変わった。

 

今までの余裕が消えている。

 

遊び半分で戦っていた男が、本気でこちらを潰しに来る。

 

それを誰もが理解した。

 

レインは息を整える。

 

右腕は痛い。

 

全身も痛い。

 

ルークも満身創痍だった。

 

だが、それ以上に不味かったのは別のことだった。

 

勝てる未来が見えない。

 

本気のバルド。

 

その現実が目の前にあった。

 

「下がれ」

 

レインが言う。

 

「嫌です」

 

ルークは即答した。

 

「今度は本当に死ぬぞ」

 

「レインさんもでしょう」

 

さっきと同じ答えだった。

 

レインは苦笑する。

 

本当に頑固な弟子だった。

 

その時だった。

 

バルドが消えた。

 

いや、速すぎて見えなかった。

 

「なっ――」

 

ドォォォン!!

 

巨大な斧が振り下ろされる。

 

地面が砕けた。

 

レインとルークは咄嗟に飛び退く。

 

ほんの一瞬でも遅ければ終わっていた。

 

「速くなった!?」

 

ルークが叫ぶ。

 

違う。

 

今まで本気ではなかっただけだ。

 

バルドが笑う。

 

「ようやく楽しめそうだな」

 

再び踏み込む。

 

ドォン!!

 

ルークが吹き飛ぶ。

 

「ぐあっ!」

 

港を転がる。

 

レインが反撃しようとする。

 

しかし、拳を受け止められた。

 

「軽い」

 

バルドの拳が腹へめり込む。

 

ドォォォン!!

 

呼吸が止まる。

 

レインの身体が吹き飛んだ。

 

地面を転がる。

 

視界が揺れる。

 

立て...立たなければ...

 

頭では分かっている。

 

だが身体が言うことを聞かない。

 

その時だった。

 

「何を見ておる!!」

 

長老の怒声が港へ響いた。

 

全員が振り返る。

 

長老は杖を突きながら立っていた。

 

「お前達の島じゃろうが!!」

 

その一言だった。

 

島民達の顔が変わる。

 

漁師達。

 

職人達。

 

採掘場の男達。

 

工房の従業員達。

 

全員が武器を握り締めた。

 

「そうだ……」

 

誰かが呟く。

 

「俺達の島だ」

 

次の瞬間。

 

「おおおおお!!」

 

島民達が一斉に走り出した。

 

バルドが眉をひそめる。

 

「邪魔だ」

 

斧を振るう。

 

だが、今度は違った。

 

一人ではない。

 

十人。

 

二十人。

 

三十人。

 

次々と飛び掛かる。

 

一人が倒れる。

 

二人目が飛び付く。

 

三人目が足へしがみつく。

 

「離せ!」

 

バルドが怒鳴る。

 

だが離れない。

 

家族がいる。

 

仲間がいる。

 

守るべき島がある。

 

だから誰も逃げない。

 

レインはその光景を見ていた。

 

胸の奥が熱くなる。

 

今まで勘違いしていた。

 

自分が守る。

 

自分が何とかする。

 

そう思っていた。

 

だが違った。

 

皆で守るのだ。

 

この島は。

 

「ルーク!」

 

「はい!」

 

ルークも立ち上がる。

 

口元から血を流しながら笑っていた。

 

「まだ動けるか?」

 

「もちろんです」

 

強がりだった。

 

だが、十分だった。

 

レインは周囲を見る。

 

港のクレーン。

 

滑車。

 

ロープ。

 

木材。

 

全部見慣れた景色だった。

 

そして、全部自分達の武器になる。

 

「ルーク!」

 

「何ですか!」

 

「あのロープを切れ!」

 

ルークが走る。

 

バルドの真上。

 

荷揚げ用に積まれていた巨大な木材。

 

ロープが切れる。

 

次の瞬間。

 

ドゴォォン!!

 

木材が落下した。

 

バルドが腕で受ける。

 

しかし動きが止まる。

 

「今だ!」

 

レインが叫ぶ。

 

島民達が一斉に押さえ込む。

 

漁師。

 

職人。

 

工房の従業員。

 

全員が飛び付いた。

 

バルドが暴れる。

 

だが一瞬。

 

本当に一瞬だけ。

 

隙が生まれた。

 

レインは走る。

 

全力で。

 

今までの人生で最も速く。

 

拳を握る。

 

軍艦バッグ。

 

毎日の鍛錬。

 

仲間達。

 

全てを乗せる。

 

「おおおおおお!!」

 

ドォォォォォン!!

 

渾身の一撃がバルドの顎へ突き刺さった。

 

鈍い音が響く。

 

バルドの身体が大きく揺れた。

 

そして、初めて膝をつく。

 

港が静まり返った。

 

バルド自身も驚いていた。

 

だが、完全には倒れない。

 

怪物だった。

 

バルドはゆっくり立ち上がる。

 

口から血を流しながら笑った。

 

「ははっ……」

 

そして海賊船を見る。

 

仲間達も既にボロボロだった。

 

島民達も限界。

 

どちらもこれ以上は危険。

 

数秒の沈黙。

 

そして、

 

「撤退だ」

 

海賊達が目を見開く。

 

「船長!?」

 

「聞こえなかったか」

 

バルドが笑う。

 

「撤退だ」

 

海賊達は急いで動き始めた。

 

島民達は追わない。

 

追う余力など残っていなかった。

 

海賊船が離れていく。

 

バルドは最後に振り返る。

 

そしてレインを見る。

 

「覚えたぞ」

 

口元を歪める。

 

「レイン」

 

その言葉を残し、鉄斧海賊団は去っていった。

 

港に静寂が戻る。

 

レインはその場へ座り込んだ。

 

勝った。

 

だが、港はボロボロだった。

 

怪我人も大勢いる。

 

工房の倉庫も壊れた。

 

失ったものは少なくない。

 

それでも、守れた。

 

島を。

 

仲間を。

 

そしてレインは知らない。

 

この戦いの噂が、東の海全体へ広がっていくことを。

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