ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
季節はゆっくりと流れていた。
港へ吹く風も、少しずつ暖かくなっている。
海は相変わらず広く、空はどこまでも青かった。
レインが滑車を作ってから数か月。
港には小さな変化が生まれていた。
「そっち引け!」
「おう!」
掛け声と共にロープが引かれる。
すると、数人がかりで運んでいた木材が軽々と持ち上がる。
船大工達は今や当たり前のように滑車を使っていた。
最初は半信半疑だった。
子供の遊びだと思っていた者もいた。
だが、一度使えば分かる。
便利なのだ。
単純で。
壊れにくく。
誰でも使える。
「これ考えたの本当にあのガキか?」
「信じられねぇよな」
そんな声も聞こえてくる。
レインは少し離れた場所から、その様子を眺めていた。
(ちゃんと定着したな)
前世でも似た経験はあった。
新しいサービスを作る。
仕組みを改善する。
最初は誰も信じない。
だが便利だと分かれば自然と広まる。
技術とはそういうものだ。
だからレインは確信していた。
未来を作ることはできる。
問題は。
どれだけの人を巻き込めるかだった。
その時だった。
「レイン」
聞き慣れた声。
振り返る。
父親だった。
「ちょっと来い」
「また地下?」
「そうだ」
レインは苦笑した。
最近は二人で地下施設へ行くことが増えていた。
父親自身も変わったのだろう。
今まで守るだけだった場所。
それが動き始めた。
その事実は父親にとっても大きかったはずだ。
二人は島の外れへ向かう。
草木に隠された洞窟。
薄暗い通路。
巨大な鉄扉。
そして。
青白い光に照らされた地下施設。
何度見ても胸が高鳴る。
レインは真っ先に手帳を開いた。
『我が友、ジョイボーイへ』
あの日見つけた手帳。
レインは暇さえあれば読んでいた。
全ては理解できない。
だが少しずつ読める部分が増えている。
まるでヴェルク家の血が導いているかのようだった。
ページをめくる。
設計図。
理論式。
発電構造。
未知のエネルギー。
どれも面白い。
どれも未来だった。
だが。
今日、レインの目を止めたのは技術ではなかった。
文章だった。
古びたページの端。
小さく書き残された一文。
『未来は、一人では辿り着けない』
レインはしばらくその言葉を見つめていた。
地下施設には機械音だけが響いている。
未来は一人では辿り着けない。
その言葉が妙に胸へ残った。
(まぁ……そうだよな)
前世でも同じだった。
営業時代。
一人で結果を出していたと思っていた。
だが違う。
顧客がいた。
上司がいた。
仲間がいた。
会社を立ち上げた時もそうだった。
社員がいた。
取引先がいた。
投資家がいた。
誰かがいたから前へ進めた。
一人では何もできなかった。
レインは静かにページを閉じる。
その時だった。
「レイン」
父親が口を開いた。
「お前は、この島を出るんだろうな」
突然だった。
だがレインは驚かなかった。
「たぶんね」
父親は苦笑する。
「だろうな」
少しの沈黙。
機械音だけが響く。
やがて父親は壁へ背中を預けた。
「技術者に一番必要なものは何だと思う?」
レインは少し考える。
知識。
技術。
発想力。
色々思いつく。
だが父親は首を振った。
「違う」
そして。
真っ直ぐレインを見た。
「人だ」
短い言葉だった。
だが重かった。
地下施設の空気が少し変わった気がした。
父親は続ける。
「どれだけ優れた技術を持っていても、一人じゃ何もできねぇ」
「作るのも人」
「広めるのも人」
「守るのも人だ」
レインは黙って聞いていた。
父親の言葉には実感があった。
きっと先祖達も同じだったのだろう。
ヴェルク家だけで文明は築けない。
仲間がいた。
技術者がいた。
そしてジョイボーイがいた。
だから未来を目指せた。
父親は少し笑う。
「お前は頭が良い」
「だが、それだけじゃ足りねぇ」
「信用できる奴を見つけろ」
「それが一番難しい」
レインは静かに頷いた。
確かにその通りだった。
技術よりも。
金よりも。
本当に難しいのは人だ。
裏切らない人。
信じられる人。
同じ夢を見られる人。
それを見つけることが、一番難しい。
そして。
一番価値がある。
父親は立ち上がった。
「まぁ、お前なら大丈夫だろ」
「なんで?」
父親は少し笑った。
「人を惹きつける目をしてる」
レインは苦笑した。
前世でも似たことを言われた記憶がある。
営業向き。
人たらし。
そんな言葉を。
だが自分ではよく分からない。
ただ。
人が好きだった。
誰かの話を聞くのが好きだった。
夢を語るのが好きだった。
それだけだ。
その夜。
レインは一人で海を見ていた。
満天の星空。
静かな波音。
水平線の向こうには、まだ見ぬ世界が広がっている。
ロジャー。
白ひげ。
レイリー。
トム。
未来の英雄達。
まだ誰とも会っていない。
だが。
いつか必ず出会う。
そして。
仲間を集める。
会社を作る。
技術を発展させる。
世界を繋ぐ。
そのためには。
まず人だ。
技術だけでは足りない。
夢だけでも足りない。
レインは夜空を見上げる。
流れ星が一筋、空を横切った。
「人か……」
小さく呟く。
不思議と悪くない気分だった。
前世で築いた会社も。
結局最後に残ったのは人との繋がりだった。
だから今度も同じだろう。
技術は手段。
夢は目標。
そして人こそが財産だ。
レインは静かに笑う。
その目には年齢不相応な野心と、どこか楽しそうな光が宿っていた。
未来は、一人では辿り着けない。
ならば。
最高の仲間を集めればいい。
世界を変えられるくらいの。
そんなことを考えながら、レインは静かな海を見つめ続けていた。