ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
海賊襲来から一か月が経った。
島は少しずつ元の日常を取り戻しつつあった。
壊れた倉庫は修復され、港の柵も新しく作り直された。海賊との戦いで砕けた木箱や荷揚げ設備も交換され、港には再び人々の活気が戻っている。
もちろん、全てが元通りになったわけではない。
戦いで負った傷はまだ残っていた。
レインの右腕もようやく包帯が外れ始めた程度だ。ルークも見た目こそ元気そうにしているが、無理をすればすぐに痛みが出る。
それでも二人は工房へ復帰していた。
職人達からは何度も休めと言われたが、じっとしている方が性に合わなかったのである。
そんなある日の朝だった。
「また船が来ましたー!」
見張り台から元気な声が響く。
レインは設計図から顔を上げ、思わずため息を吐いた。
「今日で三隻目か……」
隣で書類整理をしていたルークが苦笑する。
「増えましたね」
「増えたな……」
二人は工房の窓から港を見る。
そこには見慣れない商船が停泊しようとしていた。
最近、この光景が日常になりつつあった。
以前は数日に一隻来れば良い方だった。
しかし今は違う。
毎日のように船が来る。
それも商船だけではない。
職人。
商人。
冒険家。
研究者。
様々な人間がガロアークの島を訪れるようになっていた。
理由は一つ。
海賊撃退の噂である。
東の海で名の知れた鉄斧海賊団を追い返した島。
その噂は予想以上の速さで広がっていた。
そして噂には必ず尾ひれが付く。
いつの間にか、
『東の海最強の防衛設備を持つ島』
『天才発明家がいる島』
『海賊が恐れる港』
などという話にまで発展していた。
正直、レインからすれば困惑しかない。
「俺、そんな大したことしてないんだけどな……」
そう呟くと、ルークが呆れたような顔をした。
「その台詞を真顔で言うの、やめた方がいいと思います」
「何でだよ」
「嫌味にしか聞こえません」
「酷くない?」
「事実です」
即答だった。
レインは納得いかない顔をしたが、周囲の職人達も頷いているので諦めた。
どうやら自分だけ感覚がズレているらしい。
その日の昼、工房には十人近い見学者が訪れていた。
ほとんどが船大工や鍛冶職人である。
「これが変形滑車か……」
「なるほど、そういう仕組みだったのか」
「確かに便利だな」
男達は興味津々で設備を眺めていた。
レイン工房の従業員達も、今ではすっかり案内に慣れている。
「こちらが特許第一号になります」
「実際に動かしてみましょうか」
「おお!」
歓声が上がる。
少し前まで職人見習いだった者達が、今では他所の職人へ説明しているのだから不思議なものだった。
レインは少し離れた場所からその様子を眺める。
「変な感じだな」
「何がです?」
「昔は俺達が他所の技術を見たいと思ってたんだぞ」
レインは笑う。
「それが今じゃ逆だ」
ルークも周囲を見回した。
確かにその通りだった。
今や見学に行く側ではなく、見られる側になっている。
少し前まで想像もしていなかった未来だった。
その時だった。
「おお!」
一人の職人が声を上げる。
「これが特許第一号の変形滑車か!」
「すげぇな……」
「本当に十歳が考えたのか?」
自然と視線がレインへ集まる。
レインは思わず顔を逸らした。
正直、こういうのは苦手だった。
前世でも営業はしていた。
人前で話すこともできた。
プレゼンだって経験している。
だが、それと注目されることは別だった。
「有名人ですね」
ルークが面白そうに言う。
「やめてくれ」
レインは即答した。
「俺は静かに暮らしたいんだ」
すると近くで話を聞いていた父が大笑いした。
「無理だな」
「何でだよ」
「全部お前が始めたことだからだ」
その言葉に周囲の職人達まで笑い始める。
レインは反論しようとして、結局何も言えなかった。
見張り台。
港の防壁。
特許制度。
変形滑車。
レイン工房。
全部自分が始めたことだった。
確かに今さら静かに暮らしたいと言っても説得力は無い。
そんなやり取りをしていた夕方。
事件は起きた。
ゴォォォォォン!!
鐘の音が港に響き渡る。
工房の全員が動きを止めた。
レインも反射的に立ち上がる。
一か月前の戦いが脳裏をよぎった。
海賊か?
誰もがそう思った。
だが次の瞬間、見張り台から聞こえてきた声は予想外のものだった。
「海軍だー!!」
港が静まり返る。
レインの表情が変わった。
海軍。
本当に来た。
ガレスの言葉が脳裏をよぎる。
『海軍も来るぞ』
あの時は半信半疑だった。
だが現実になった。
レインは港へ向かって走る。
ルークも後を追う。
島民達も次々と集まってくる。
やがて水平線の向こうに船影が見えた。
白い船体。
海軍旗。
そして堂々とした軍艦。
ゆっくりと港へ近付いてくる。
レインは船首を見る。
そして目を見開いた。
そこに立っていた男を知っていたからだ。
巨大な体格。
犬の被り物。
豪快な笑顔。
見間違えるはずがない。
「まさか……」
思わず声が漏れる。
モンキー・D・ガープ。
海軍の英雄と呼ばれる男。
その人物が今、真っ直ぐガロアークの島を見ていた。
そして、ガープは港に集まった島民達を見渡した後、一人の少年へ視線を止める。
レインだった。
まるで最初から探していたかのように。
ガープはニヤリと笑った。
その瞬間、レインは嫌な予感しかしなかった。