ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第七十九話 「増え始めた来訪者」

 

海賊襲来から一か月が経った。

 

島は少しずつ元の日常を取り戻しつつあった。

 

壊れた倉庫は修復され、港の柵も新しく作り直された。海賊との戦いで砕けた木箱や荷揚げ設備も交換され、港には再び人々の活気が戻っている。

 

もちろん、全てが元通りになったわけではない。

 

戦いで負った傷はまだ残っていた。

 

レインの右腕もようやく包帯が外れ始めた程度だ。ルークも見た目こそ元気そうにしているが、無理をすればすぐに痛みが出る。

 

それでも二人は工房へ復帰していた。

 

職人達からは何度も休めと言われたが、じっとしている方が性に合わなかったのである。

 

そんなある日の朝だった。

 

「また船が来ましたー!」

 

見張り台から元気な声が響く。

 

レインは設計図から顔を上げ、思わずため息を吐いた。

 

「今日で三隻目か……」

 

隣で書類整理をしていたルークが苦笑する。

 

「増えましたね」

 

「増えたな……」

 

二人は工房の窓から港を見る。

 

そこには見慣れない商船が停泊しようとしていた。

 

最近、この光景が日常になりつつあった。

 

以前は数日に一隻来れば良い方だった。

 

しかし今は違う。

 

毎日のように船が来る。

 

それも商船だけではない。

 

職人。

 

商人。

 

冒険家。

 

研究者。

 

様々な人間がガロアークの島を訪れるようになっていた。

 

理由は一つ。

 

海賊撃退の噂である。

 

東の海で名の知れた鉄斧海賊団を追い返した島。

 

その噂は予想以上の速さで広がっていた。

 

そして噂には必ず尾ひれが付く。

 

いつの間にか、

 

『東の海最強の防衛設備を持つ島』

 

『天才発明家がいる島』

 

『海賊が恐れる港』

 

などという話にまで発展していた。

 

正直、レインからすれば困惑しかない。

 

「俺、そんな大したことしてないんだけどな……」

 

そう呟くと、ルークが呆れたような顔をした。

 

「その台詞を真顔で言うの、やめた方がいいと思います」

 

「何でだよ」

 

「嫌味にしか聞こえません」

 

「酷くない?」

 

「事実です」

 

即答だった。

 

レインは納得いかない顔をしたが、周囲の職人達も頷いているので諦めた。

 

どうやら自分だけ感覚がズレているらしい。

 

その日の昼、工房には十人近い見学者が訪れていた。

 

ほとんどが船大工や鍛冶職人である。

 

「これが変形滑車か……」

 

「なるほど、そういう仕組みだったのか」

 

「確かに便利だな」

 

男達は興味津々で設備を眺めていた。

 

レイン工房の従業員達も、今ではすっかり案内に慣れている。

 

「こちらが特許第一号になります」

 

「実際に動かしてみましょうか」

 

「おお!」

 

歓声が上がる。

 

少し前まで職人見習いだった者達が、今では他所の職人へ説明しているのだから不思議なものだった。

 

レインは少し離れた場所からその様子を眺める。

 

「変な感じだな」

 

「何がです?」

 

「昔は俺達が他所の技術を見たいと思ってたんだぞ」

 

レインは笑う。

 

「それが今じゃ逆だ」

 

ルークも周囲を見回した。

 

確かにその通りだった。

 

今や見学に行く側ではなく、見られる側になっている。

 

少し前まで想像もしていなかった未来だった。

 

その時だった。

 

「おお!」

 

一人の職人が声を上げる。

 

「これが特許第一号の変形滑車か!」

 

「すげぇな……」

 

「本当に十歳が考えたのか?」

 

自然と視線がレインへ集まる。

 

レインは思わず顔を逸らした。

 

正直、こういうのは苦手だった。

 

前世でも営業はしていた。

 

人前で話すこともできた。

 

プレゼンだって経験している。

 

だが、それと注目されることは別だった。

 

「有名人ですね」

 

ルークが面白そうに言う。

 

「やめてくれ」

 

レインは即答した。

 

「俺は静かに暮らしたいんだ」

 

すると近くで話を聞いていた父が大笑いした。

 

「無理だな」

 

「何でだよ」

 

「全部お前が始めたことだからだ」

 

その言葉に周囲の職人達まで笑い始める。

 

レインは反論しようとして、結局何も言えなかった。

 

見張り台。

 

港の防壁。

 

特許制度。

 

変形滑車。

 

レイン工房。

 

全部自分が始めたことだった。

 

確かに今さら静かに暮らしたいと言っても説得力は無い。

 

そんなやり取りをしていた夕方。

 

事件は起きた。

 

ゴォォォォォン!!

 

鐘の音が港に響き渡る。

 

工房の全員が動きを止めた。

 

レインも反射的に立ち上がる。

 

一か月前の戦いが脳裏をよぎった。

 

海賊か?

 

誰もがそう思った。

 

だが次の瞬間、見張り台から聞こえてきた声は予想外のものだった。

 

「海軍だー!!」

 

港が静まり返る。

 

レインの表情が変わった。

 

海軍。

 

本当に来た。

 

ガレスの言葉が脳裏をよぎる。

 

『海軍も来るぞ』

 

あの時は半信半疑だった。

 

だが現実になった。

 

レインは港へ向かって走る。

 

ルークも後を追う。

 

島民達も次々と集まってくる。

 

やがて水平線の向こうに船影が見えた。

 

白い船体。

 

海軍旗。

 

そして堂々とした軍艦。

 

ゆっくりと港へ近付いてくる。

 

レインは船首を見る。

 

そして目を見開いた。

 

そこに立っていた男を知っていたからだ。

 

巨大な体格。

 

犬の被り物。

 

豪快な笑顔。

 

見間違えるはずがない。

 

「まさか……」

 

思わず声が漏れる。

 

モンキー・D・ガープ。

 

海軍の英雄と呼ばれる男。

 

その人物が今、真っ直ぐガロアークの島を見ていた。

 

そして、ガープは港に集まった島民達を見渡した後、一人の少年へ視線を止める。

 

レインだった。

 

まるで最初から探していたかのように。

 

ガープはニヤリと笑った。

 

その瞬間、レインは嫌な予感しかしなかった。

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