ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
港の空き地には、多くの島民が集まっていた。
漁師達。
職人達。
工房の従業員達。
そして海軍の兵士達。
皆が興味津々な様子で中央を見つめている。
その中心に立つのは二人。
海軍本部中将モンキー・D・ガープ。
そしてレインだった。
「何でこうなったんだ……」
レインは小さく呟く。
ついさっきまで普通に仕事をしていたはずなのに、気付けば海軍の英雄と手合わせする流れになっていた。
意味が分からない。
「諦めろ」
父が笑いながら言った。
「俺だったら全力で逃げる」
「俺も逃げたいよ」
レインは本音を漏らす。
「だったら逃げればいいじゃないですか」
ルークが言う。
「逃げられるならな」
レインは遠い目をした。
相手はガープだ。
本気で逃げても捕まる未来しか見えなかった。
一方のガープは、実に楽しそうだった。
「ぶわっはっはっはっ!」
豪快な笑い声が響く。
「そんなに嫌か?」
「嫌ですよ」
レインは即答した。
「相手が悪すぎます」
「そうか?」
「そうです」
そのやり取りに、海兵達が揃って頷く。
どうやら全員同意見らしい。
ガープは腕を組みながらレインを見る。
「一発だけでいい」
「はい?」
「わしに向かって来い」
港が静まり返った。
レインは眉をひそめる。
「それだけですか?」
「それだけじゃ」
ガープは笑う。
「ほれ、来い」
両腕を広げる。
完全に舐められていた。
だが、それも当然だった。
十歳の少年と海軍本部中将。
比較すること自体がおかしい。
レインは深く息を吸う。
どうせ逃げられない。
ならばやるしかない。
「後悔しないでくださいよ」
「せん」
即答だった。
レインは静かに構える。
周囲も息を呑む。
そして、地面を蹴った。
ドンッ!!
一気に距離を詰める。
軍艦バッグ。
海賊との戦い。
これまで積み上げてきた全てを乗せる。
一直線にガープへ向かう。
だが、
「ん?」
レインは違和感を覚えた。
近付いている。
確かに近付いている。
なのに遠い。
あと一歩。
その一歩が異様に遠かった。
ガープは動いていない。
避けてもいない。
ただ立っているだけだ。
それなのに届かない。
「何だ……これ」
レインはさらに踏み込む。
届け。
届け。
届け。
そして、渾身の拳を放った。
ドォン!!
鉄斧のバルドを後退させた一撃。
確かに当たった。
しかし、ガープは微動だにしない。
港が静まり返る。
レインも固まった。
全力だった。
間違いなく全力だった。
それなのに、一ミリも動かない。
まるで巨大な山を殴ったような感覚だった。
ガープは少しだけ目を見開く。
「ほう」
そして笑った。
「悪くない」
レインは息を切らしながら見上げる。
初めてだった。
ガープに褒められた。
だが、嬉しさより衝撃の方が大きかった。
差が大きすぎる。
あまりにも...絶望的なほどに。
ガープは軽く指を立てた。
「次はわしじゃな」
嫌な予感しかしない。
「待ってください」
「何じゃ?」
「本当に手加減してくださいよ?」
ガープは笑う。
「もちろんじゃ」
その瞬間だった。
ゴン。
ただのデコピン。
本当に軽く額を弾いただけ。
それだけだった。
それだけなのに。
「え?」
レインの身体が吹き飛んだ。
ドガァァァン!!
十メートル以上先まで転がる。
港に悲鳴が響いた。
「レインさん!」
ルークが叫ぶ。
父も慌てて駆け寄る。
だが、レインは何とか立ち上がった。
頭が痛い。
とてつもなく痛い。
それでも意識はある。
ガープは満足そうに頷いた。
「うむ」
「丈夫じゃな」
海兵達が苦笑する。
「中将」
「それ、本当に手加減ですよね?」
「もちろんじゃ」
誰も信じていなかった。
レインは額を押さえる。
そして理解する。
鉄斧のバルド。
あれで強いと思っていた。
だが違う。
世界はもっと広い。
もっと強い者がいる。
目の前の怪物のように。
ガープは真剣な表情になった。
「レイン」
「はい」
「お前は強い」
港が静まり返る。
「同年代なら飛び抜けておる」
「じゃがな」
ガープは空を見上げた。
「海は広い」
「東の海で満足するな」
その言葉は重かった。
レインは黙って聞く。
「この先にはもっと強い奴がおる」
「もっと大きな世界がある」
「だから鍛えろ」
ガープは笑う。
「面白いくらいにな」
レインは小さく頷いた。
その言葉は素直に胸へ入ってきた。
ガープは背を向ける。
軍艦へ向かって歩き始める。
そして途中で振り返った。
「そうじゃ」
「何ですか?」
「海軍はいつでも歓迎じゃぞ」
レインは即答した。
「行きません」
一秒も迷わなかった。
ガープが大笑いする。
海兵達も苦笑する。
港には穏やかな空気が流れていた。
だがレインの心は違った。
海は広い。
世界は大きい。
そして自分はまだまだ弱い。
その事実を、レインは今日初めて本当の意味で理解したのだった。