ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第八十五話「時間との戦い」

 

ガープが島を去ってから、一か月ほどが過ぎていた。

 

海辺には相変わらず大きな看板が立っている。

 

『海軍本部中将 ガープ』

 

堂々と書かれたその文字は、今や島の新しい名物になっていた。

 

最初こそ恥ずかしくて仕方がなかったレインだったが、島民達が喜んでいる姿を見ると文句も言えなくなった。

 

おかげで最近は海賊船の姿も見ない。

 

ガープの名前の威力は絶大だった。

 

そんな平和な日々の中で、レインは新しい問題に直面していた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

まだ日も昇り切らない早朝。

 

レインは島の外周を走っていた。

 

修行である。

 

ガープとの出会いによって、改めて思い知らされた。

 

この世界は技術だけでは生きていけない。

 

どれだけ優れた船を作ろうと、どれだけ便利な道具を作ろうと、それを守る力がなければ奪われる。

 

前世で読んだONEPIECEでの、ロジャーも、レイリーもそうだった。

 

世界を動かしている者達は例外なく強い。

 

ならば、自分も強くならなければならない。

 

その結論に辿り着いたレインは、毎朝の走り込みを日課にしていた。

 

幼い体には中々厳しい。

 

それでも足を止める気はなかった。

 

「あと少し……!」

 

最後の坂を駆け上がり、ようやく家へ戻る。

 

全身は汗だく。

 

息も上がっている。

 

前世ならシャワーを浴びて一息つきたいところだが、そんな暇はない。

 

朝食を済ませると、そのまま工房へ向かう。

 

「おはようございます!」

 

工房ではルークが既に掃除を終えていた。

 

出会った頃と比べると見違えるほど働き者になっている。

 

「おはよう、ルーク」

 

「また走ってきたんですか?」

 

「おう」

 

「本当にすごいです」

 

レインは苦笑した。

 

正直、褒められるほど余裕はない。

 

最近は毎日が時間との戦いだった。

 

工房の仕事。

 

修行。

 

研究。

 

船大工の手伝い。

 

どれも必要なことだ。

 

どれも捨てたくない。

 

だから全部やっている。

 

問題は、それらを全部こなせるほど一日が長くないことだった。

 

午前中は包丁やナイフの製作に追われた。

 

以前なら余裕を持って終わらせていた作業だ。

 

しかし最近は違う。

 

修行の疲労が残っている。

 

腕が重い。

 

肩も張っている。

 

集中力も以前より落ちていた。

 

カン。

 

金槌が僅かにずれた。

 

「っと」

 

危うく失敗するところだった。

 

ルークが慌てて駆け寄る。

 

「大丈夫ですか?」

 

「うん。大丈夫」

 

そう答えたものの、ルークの表情は納得していなかった。

 

「レインさん、最近疲れてませんか?」

 

図星だった。

 

レインは思わず苦笑する。

 

隠していたつもりだったが、案外周りには見えているらしい。

 

昼過ぎには工房の仕事を終え、そのまま父の船大工仕事を手伝う。

 

木材を運び、寸法を測り、図面を確認する。

 

その最中だった。

 

「レイン」

 

父が不意に声をかけた。

 

「なんだ?」

 

「最近無理してるだろ」

 

「そんなことないよ」

 

「嘘をつけ」

 

即座に否定された。

 

父は呆れたように笑う。

 

「顔を見れば分かる」

 

レインは言葉に詰まった。

 

確かに疲れている。

 

前世で会社を立ち上げたばかりの頃を思い出すほど忙しかった。

 

いや、今の方がきついかもしれない。

 

何しろ体はまだ子供なのだ。

 

父は手を動かしながら続ける。

 

「お前は昔からそうだ」

 

「何が?」

 

「あれもやりたい、これもやりたいで全部抱え込む」

 

その言葉が妙に胸に刺さった。

 

工房も大事。

 

修行も大事。

 

研究も大事。

 

船も作りたい。

 

飛行機も作りたい。

 

どれも将来のために必要だと思っている。

 

だから全部やろうとしていた。

 

「父さんならどうする?」

 

何気なく尋ねる。

 

すると父は即答した。

 

「人に頼る」

 

「……え?」

 

予想外の答えだった。

 

父は当然のように言う。

 

「一人で出来ることには限界がある」

 

その瞬間、レインの脳裏に前世の記憶が蘇った。

 

会社を経営していた頃。

 

仕事が増えた時、自分はどうした。

 

答えは簡単だ。

 

社員を雇った。

 

仕事を分担した。

 

仕組みを作った。

 

それによって会社は成長した。

 

決して自分一人で全部やったわけではない。

 

なのに今の自分はどうだ。

 

設計。

 

製作。

 

営業。

 

研究。

 

修行。

 

全部自分で抱えている。

 

時間が足りないのは当然だった。

 

夕食を終えた後、レインは工房の机に向かっていた。

 

目の前には真っ白な紙。

 

ランプの灯りだけが静かに揺れている。

 

「さて……整理するか」

 

紙の上に書き出していく。

 

工房。

 

修行。

 

研究。

 

船大工。

 

やるべきことは山ほどある。

 

だが全部を同じ優先度で扱うことはできない。

 

まず何が重要なのか。

 

誰に任せられるのか。

 

効率化できる部分はないか。

 

考え始めると次々に案が浮かんでくる。

 

ルークに任せられる仕事は増やせる。

 

将来的には弟子を増やすこともできる。

 

道具を改良して作業効率を上げる方法もある。

 

そう考えると、少しずつ道が見えてきた。

 

「なるほどな……」

 

レインは小さく笑った。

 

問題は努力不足ではない。

 

働き方だった。

 

前世で培った経営者としての経験を、今までほとんど使っていなかったのである。

 

技術者として成長するだけでは足りない。

 

組織を作る力も必要だ。

 

それこそが自分の本当の強みなのかもしれない。

 

窓の外では波の音が静かに響いていた。

 

レインは新しい紙を取り出す。

 

そこへ大きく文字を書いた。

 

『工房拡張計画』

 

そして、その下に次の一文を記す。

 

『ルークの昇給』

 

「まずはここからだな」

 

そう呟きながら、レインはペンを走らせる。

 

新しい修行が始まった。

 

それは拳を鍛える修行ではない。

 

限られた時間をどう使うか。

 

未来を見据え、仕組みを作るための戦いだった。

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