ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第八十六話「任せるということ」

 

朝日が昇る頃、レインはいつものように修行を終え、工房へ向かっていた。

 

全身に心地よい疲労が残っている。

 

山での走り込みを始めてから少しずつ体力は付いてきた。

 

だが、まだまだ足りない。

 

ガープと出会ってからというもの、強さへの意識は以前より遥かに高くなっていた。

 

この世界で生きていく以上、技術だけでは限界がある。

 

だから修行は続ける。

 

それは決めたことだった。

 

工房へ到着すると、既に作業員達が働いていた。

 

鉄を運ぶ者。

 

木材を加工する者。

 

道具の整備をする者。

 

それぞれが自分の持ち場で仕事をしている。

 

その中心にいるのはルークだった。

 

「おはようございます、レインさん」

 

「おはよう」

 

ルークは帳簿を片手に作業員へ指示を出している。

 

以前なら考えられない光景だった。

 

出会った頃のルークは、ただレインの後ろを追いかける少年だった。

 

しかし今は違う。

 

技術部門責任者として十人の作業員をまとめている。

 

レインは少し離れた場所からその様子を眺めた。

 

指示は的確。

 

無駄もない。

 

作業員達も迷うことなく動いている。

 

正直なところ、自分が口を挟む必要を感じなかった。

 

「成長したな……」

 

思わず呟く。

 

するとルークが苦笑した。

 

「レインさんに言われると少し嬉しいですね」

 

「事実だからな」

 

工房の朝は忙しい。

 

本来ならレインもすぐに仕事へ加わるところだ。

 

だが今日は少し違った。

 

帳簿を確認しながら違和感を覚えたのである。

 

仕事は回っている。

 

むしろ以前より順調だ。

 

それなのに、自分は毎日時間に追われている。

 

原因は何だろうか。

 

昼休み。

 

レインはルークを呼び止めた。

 

「少し話がある」

 

「はい」

 

二人は工房の裏手にある木陰へ移動した。

 

海風が心地良い。

 

しばらく沈黙した後、レインが口を開く。

 

「最近思うんだ」

 

「何をですか?」

 

「工房は回ってるんだよ」

 

ルークは頷いた。

 

「そうですね」

 

「でも俺は時間が足りない」

 

その言葉にルークは少し考え込んだ。

 

そして静かに尋ねる。

 

「レインさんは最近、何をされていますか?」

 

「修行、研究、設計、工房の確認だな」

 

「工房の確認ですか」

 

何か引っかかったらしい。

 

レインは首を傾げる。

 

「どうした?」

 

「確認というのは、どこまでですか?」

 

「全部だな」

 

「全部?」

 

「作業内容、品質、材料管理、納品予定……」

 

言いながらレインは気付いた。

 

確かに全部だった。

 

毎日工房全体を確認している。

 

ルークへ任せているはずなのに、最後は自分で確認していた。

 

ルークは苦笑する。

 

「それは時間が足りなくなりますよ」

 

「そうか?」

 

「そうです」

 

即答だった。

 

「レインさん」

 

「ん?」

 

「全部確認していたら、いつまで経っても修行できませんよ」

 

レインは言葉に詰まる。

 

その通りだった。

 

ルークは続ける。

 

「俺を技術部門責任者にしたのは誰ですか?」

 

「俺だけど」

 

「なら、もっと任せてください」

 

真っ直ぐな言葉だった。

 

レインは少し驚く。

 

ルークからこういうことを言われるのは珍しい。

 

「信用してないわけじゃないぞ」

 

「分かっています」

 

ルークは笑った。

 

「でも責任者は全部やる人じゃありません」

 

「……」

 

「任せる人です」

 

その言葉が胸に刺さる。

 

前世の記憶が蘇った。

 

会社を経営していた頃。

 

社員が十人になった時。

 

五十人になった時。

 

百人になった時。

 

自分はどうしていた。

 

全部を確認していただろうか。

 

違う。

 

そんなことは不可能だった。

 

部署ごとに責任者を置き、権限を渡していた。

 

だから会社は成長したのだ。

 

今の自分はどうだろう。

 

工房が大きくなったにもかかわらず、昔と同じ感覚で動いている。

 

これでは時間が足りなくなるのも当然だった。

 

「なるほどな……」

 

レインは小さく笑った。

 

ようやく答えが見えた気がする。

 

問題は人手不足ではない。

 

管理方法だった。

 

「ルーク」

 

「はい」

 

「技術部門は今まで以上に任せる」

 

ルークが少し目を見開く。

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

「責任重大ですね」

 

「そのための責任者だろ」

 

ルークは嬉しそうに笑った。

 

その表情を見て、レインも安心する。

 

任せても大丈夫だ。

 

いや、もっと早く任せるべきだったのかもしれない。

 

その日の夕方。

 

レインは工房全体を見渡していた。

 

十人の作業員達が働いている。

 

その中心にはルークがいる。

 

工房はもう自分一人で支える場所ではない。

 

仲間達が支えてくれている場所だ。

 

「少し考え方を変えないとな」

 

レインは空を見上げた。

 

修行もある。

 

研究もある。

 

設計もある。

 

やりたいことは山ほどある。

 

だからこそ、自分にしかできない仕事へ集中するべきだ。

 

工房を任せる。

 

仲間を信じる。

 

それもまた成長なのだろう。

 

夕日に照らされた工房を眺めながら、レインは静かに笑った。

 

新しい課題は見つかった。

 

今度の相手は時間ではない。

 

自分自身の考え方だった。

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