ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
朝日が昇る頃、レインはいつものように修行を終え、工房へ向かっていた。
全身に心地よい疲労が残っている。
山での走り込みを始めてから少しずつ体力は付いてきた。
だが、まだまだ足りない。
ガープと出会ってからというもの、強さへの意識は以前より遥かに高くなっていた。
この世界で生きていく以上、技術だけでは限界がある。
だから修行は続ける。
それは決めたことだった。
工房へ到着すると、既に作業員達が働いていた。
鉄を運ぶ者。
木材を加工する者。
道具の整備をする者。
それぞれが自分の持ち場で仕事をしている。
その中心にいるのはルークだった。
「おはようございます、レインさん」
「おはよう」
ルークは帳簿を片手に作業員へ指示を出している。
以前なら考えられない光景だった。
出会った頃のルークは、ただレインの後ろを追いかける少年だった。
しかし今は違う。
技術部門責任者として十人の作業員をまとめている。
レインは少し離れた場所からその様子を眺めた。
指示は的確。
無駄もない。
作業員達も迷うことなく動いている。
正直なところ、自分が口を挟む必要を感じなかった。
「成長したな……」
思わず呟く。
するとルークが苦笑した。
「レインさんに言われると少し嬉しいですね」
「事実だからな」
工房の朝は忙しい。
本来ならレインもすぐに仕事へ加わるところだ。
だが今日は少し違った。
帳簿を確認しながら違和感を覚えたのである。
仕事は回っている。
むしろ以前より順調だ。
それなのに、自分は毎日時間に追われている。
原因は何だろうか。
昼休み。
レインはルークを呼び止めた。
「少し話がある」
「はい」
二人は工房の裏手にある木陰へ移動した。
海風が心地良い。
しばらく沈黙した後、レインが口を開く。
「最近思うんだ」
「何をですか?」
「工房は回ってるんだよ」
ルークは頷いた。
「そうですね」
「でも俺は時間が足りない」
その言葉にルークは少し考え込んだ。
そして静かに尋ねる。
「レインさんは最近、何をされていますか?」
「修行、研究、設計、工房の確認だな」
「工房の確認ですか」
何か引っかかったらしい。
レインは首を傾げる。
「どうした?」
「確認というのは、どこまでですか?」
「全部だな」
「全部?」
「作業内容、品質、材料管理、納品予定……」
言いながらレインは気付いた。
確かに全部だった。
毎日工房全体を確認している。
ルークへ任せているはずなのに、最後は自分で確認していた。
ルークは苦笑する。
「それは時間が足りなくなりますよ」
「そうか?」
「そうです」
即答だった。
「レインさん」
「ん?」
「全部確認していたら、いつまで経っても修行できませんよ」
レインは言葉に詰まる。
その通りだった。
ルークは続ける。
「俺を技術部門責任者にしたのは誰ですか?」
「俺だけど」
「なら、もっと任せてください」
真っ直ぐな言葉だった。
レインは少し驚く。
ルークからこういうことを言われるのは珍しい。
「信用してないわけじゃないぞ」
「分かっています」
ルークは笑った。
「でも責任者は全部やる人じゃありません」
「……」
「任せる人です」
その言葉が胸に刺さる。
前世の記憶が蘇った。
会社を経営していた頃。
社員が十人になった時。
五十人になった時。
百人になった時。
自分はどうしていた。
全部を確認していただろうか。
違う。
そんなことは不可能だった。
部署ごとに責任者を置き、権限を渡していた。
だから会社は成長したのだ。
今の自分はどうだろう。
工房が大きくなったにもかかわらず、昔と同じ感覚で動いている。
これでは時間が足りなくなるのも当然だった。
「なるほどな……」
レインは小さく笑った。
ようやく答えが見えた気がする。
問題は人手不足ではない。
管理方法だった。
「ルーク」
「はい」
「技術部門は今まで以上に任せる」
ルークが少し目を見開く。
「本当ですか?」
「ああ」
「責任重大ですね」
「そのための責任者だろ」
ルークは嬉しそうに笑った。
その表情を見て、レインも安心する。
任せても大丈夫だ。
いや、もっと早く任せるべきだったのかもしれない。
その日の夕方。
レインは工房全体を見渡していた。
十人の作業員達が働いている。
その中心にはルークがいる。
工房はもう自分一人で支える場所ではない。
仲間達が支えてくれている場所だ。
「少し考え方を変えないとな」
レインは空を見上げた。
修行もある。
研究もある。
設計もある。
やりたいことは山ほどある。
だからこそ、自分にしかできない仕事へ集中するべきだ。
工房を任せる。
仲間を信じる。
それもまた成長なのだろう。
夕日に照らされた工房を眺めながら、レインは静かに笑った。
新しい課題は見つかった。
今度の相手は時間ではない。
自分自身の考え方だった。