ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

9 / 10
第八話 「最初の売上」

朝の港は活気に満ちていた。

 

潮風が吹き抜ける。

 

船大工達の怒鳴り声。

 

木材を運ぶ掛け声。

 

金槌の音。

 

魚を売る商人の声。

 

海鳥の鳴き声。

 

島の一日が始まっている。

 

レインは岸壁へ腰掛けながら、その光景を眺めていた。

 

最近は港の景色が少し変わった。

 

あちこちに滑車が設置されているのだ。

 

木材置き場。

 

船着き場。

 

修理中の船。

 

最初は一つだけだった。

 

だが便利さが広まるにつれ、いつの間にか島中へ広がっていた。

 

「そっち引け!」

 

「おう!」

 

ロープが引かれる。

 

すると大人が数人がかりで運んでいた木材が軽々と持ち上がった。

 

「やっぱ便利だな」

 

「もう昔のやり方に戻れねぇ」

 

そんな声が聞こえてくる。

 

レインは少しだけ笑った。

 

(ちゃんと役に立ってるな)

 

嬉しかった。

 

前世でも似た経験はある。

 

自分が考えた仕組みが社会へ広がる。

 

誰かが便利になったと言う。

 

だが今は少し違う。

 

誰が使っているのか。

 

誰が助かっているのか。

 

それが目の前で見える。

 

それが妙に嬉しかった。

 

その時だった。

 

「レイン!」

 

船大工の一人が近づいてくる。

 

日に焼けた大男だった。

 

「ん?」

 

「ちょっと頼みがある」

 

レインは首を傾げる。

 

男は少し気まずそうに頭を掻いた。

 

「お前の滑車をもう一つ作ってくれねぇか?」

 

レインは少し考える。

 

「自分で作れないの?」

 

「作れなくはねぇ」

 

男は苦笑した。

 

「でも、お前が作ったやつの方が丈夫だし使いやすい」

 

レインは少し照れ臭くなった。

 

その時だった。

 

「待て」

 

後ろから低い声が響く。

 

父親だった。

 

父親は当然のように言う。

 

「金は?」

 

男が固まる。

 

「え?」

 

「作ってもらうんだろ」

 

「なら払え」

 

レインも少し驚いた。

 

男は困った顔をする。

 

「いや、相手は子供だぞ?」

 

父親は肩を竦める。

 

「だからなんだ」

 

「技術に年齢は関係ねぇ」

 

その言葉にレインは少しだけ目を見開いた。

 

前世でも同じだった。

 

価値のある技術には対価が発生する。

 

それが商売だ。

 

男は少し考え込み、懐から硬貨を取り出した。

 

「これでどうだ?」

 

レインは硬貨を見る。

 

決して大金ではない。

 

だが。

 

この世界で初めて、自分の技術に支払われる金だった。

 

「いいよ」

 

男は嬉しそうに笑う。

 

「助かる!」

 

そう言って去っていった。

 

レインは手の中の硬貨を見つめる。

 

前世では何億という金を動かした。

 

だが。

 

今手の中にある数枚の硬貨の方が重く感じた。

 

「嬉しそうだな」

 

父親が言う。

 

レインは小さく笑った。

 

「自分で作ったものがお金になったからね」

 

父親は静かに頷いた。

 

その日の夜。

 

レインは部屋でノートを開いていた。

 

机の上には今日受け取った硬貨。

 

人生最初の売上だ。

 

レインはペンを取る。

 

そして表紙へ文字を書いた。

 

『商会計画書』

 

書き終えたところで、扉が開いた。

 

父親だった。

 

「何してる」

 

「将来の計画」

 

父親はノートを覗き込む。

 

そして苦笑した。

 

「商会か」

 

「気が早ぇな」

 

レインは肩を竦めた。

 

「いつか作るよ」

 

父親はしばらくノートを見ていた。

 

やがて静かに言った。

 

「だったらまず工房からだな」

 

レインが顔を上げる。

 

「工房?」

 

「ああ」

 

父親は頷く。

 

「商会なんてのはもっと先だ」

 

「まずは仕事をする場所がいる」

 

「道具もいる」

 

「信用もいる」

 

「一歩ずつ積み上げろ」

 

レインは少し考える。

 

確かにその通りだった。

 

前世の会社も、小さな事務所から始まった。

 

いきなり大企業になったわけではない。

 

父親はノートを指差す。

 

「名前も変えろ」

 

「商会じゃ早すぎる」

 

「じゃあ何?」

 

父親は迷いなく答えた。

 

「レイン工房」

 

レインは首を傾げた。

 

「でも工房を作るなら、お父さんが作るんでしょ?」

 

「ならお父さんの名前じゃなくていいの?」

 

父親は一瞬目を丸くした。

 

そして笑った。

 

「確かに表向きの責任者は俺だ」

 

「金の管理も俺がやる」

 

「工房を建てるのも俺だ」

 

そこまで言って、父親はレインを見る。

 

「でも設計は誰がやる?」

 

「僕」

 

「滑車を考えたのは?」

 

「僕」

 

「これから新しい技術を作るのは?」

 

「僕だと思う」

 

父親は満足そうに頷いた。

 

「営業は?」

 

レインは少し笑う。

 

「多分僕」

 

父親も笑った。

 

「だろうな」

 

そして真面目な顔になる。

 

「この工房の中心はお前だ」

 

「俺じゃない」

 

レインは少し驚いた。

 

父親は続ける。

 

「俺は土台を作る」

 

「だが大きくするのはお前だ」

 

「近いうちに継ぐのもお前だろう」

 

「だったら最初からお前の名前でいい」

 

レインは言葉を失った。

 

前世では誰にも頼らず会社を作った。

 

だが今は違う。

 

支えてくれる人がいる。

 

それが少し嬉しかった。

 

父親は照れ隠しのように言う。

 

「それに俺の名前よりレイン工房の方が聞こえがいい」

 

「それは否定できないな」

 

レインは笑った。

 

そしてノートの表紙を書き直す。

 

『レイン工房計画書』

 

まだ何もない。

 

工房もない。

 

従業員もいない。

 

資金も少ない。

 

だが。

 

確かな第一歩だった。

 

窓の外から波の音が聞こえる。

 

未来はまだ遠い。

 

それでも。

 

レインは確信していた。

 

いつか必ず辿り着く。

 

その未来へ。

 

そしてその第一歩となる名前が、今ここに生まれた。

 

――レイン工房。

 

後に世界中へ名を轟かせることになる技術企業の、最初の名前だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。