ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
森の主と遭遇してから一か月が経った。
あの日の恐怖は今でも忘れていない。
目を閉じれば、あの金色の瞳を思い出せる。
森を震わせた咆哮も...
家ほどもある巨体も...
だが、だからこそレインは修行を続けていた。
いや、以前よりも遥かに真剣に取り組むようになっていた。
「はぁっ!」
拳を振るう。
乾いた音が響く。
目の前にある木へ何度も打ち込む。
最初の頃は数回殴るだけで痛みに顔を歪めていた。
しかし今は違う。
拳の皮は厚くなり、以前より強く打ち込めるようになっていた。
走り込みも続けている。
毎朝の日課だ。
距離も速度も一か月前とは比べ物にならない。
もちろん、まだまだ足りない。
それでも成長している実感はあった。
大きな変化は工房だった。
ルークへ任せる仕事が増えたのである。
技術部門責任者としての仕事だけではない。
作業員達への指示。
進捗確認。
材料管理。
品質確認。
今では多くの業務をルークが中心となって回していた。
おかげでレイン自身の時間が増えた。
その時間を全て修行へ注ぎ込んでいる。
工房を出たレインは森へ向かった。
腰にはナイフ。
背中にはロープ。
一か月前とは違う。
今では狩りも修行の一部になっていた。
獣の気配を探す。
風向きを読む。
足跡を見つける。
全てが実戦経験になる。
しばらく歩くと足跡を発見した。
大きい。
ウサギではない。
鹿ほどではないが、それなりの大きさがある。
レインはしゃがみ込んだ。
地面の状態を確認する。
新しい。
それほど時間は経っていない。
周囲を見渡す。
折れた枝。
踏み荒らされた草。
進行方向。
少しずつ分かるようになってきた。
一か月前の自分なら見逃していただろう。
レインは足跡を追った。
十分ほど進んだ頃。
草むらの向こうに動く影を見つける。
イノシシだった。
前世の世界にも存在した動物だが、この世界のものは少し大きい。
体長は一メートルを超えている。
十分危険な相手だ。
だが、一か月前ほどの恐怖はなかった。
レインはゆっくり距離を詰める。
風下へ回る。
音を立てない。
慎重に。
確実に。
イノシシはまだ気付いていない。
そして距離が十分に縮まった瞬間。
レインは飛び出した。
イノシシが驚いて走り出す。
だがレインも追う。
以前なら追いつくことすらできなかった。
しかし今は違う。
足が速くなっている。
体力も増えている。
森の中を駆け抜けながら距離を縮める。
イノシシが方向を変える。
レインも追従する。
木々を避けながら走る。
息は乱れない。
やがてイノシシの動きが鈍る。
そこでレインは飛び掛かった。
二人分ほど転がりながら地面へ倒れる。
イノシシが暴れる。
レインは必死に押さえ込む。
腕が痛い。
力も強い。
それでも離さない。
数分後。
ようやく動きが止まった。
レインはその場へ座り込む。
汗が止まらない。
だが顔には笑みが浮かんでいた。
「勝った……」
一か月前の自分には無理だった。
間違いなく成長している。
まだ森の主には遠く及ばない。
それでも確実に前へ進んでいる。
その事実が嬉しかった。
夕方。
レインは獲物を担いで工房へ戻った。
作業員達が驚いた顔をする。
「おお!」
「坊主、やったな!」
「結構大きいじゃねぇか!」
次々と声が飛ぶ。
レインは少し照れ臭くなった。
その時だった。
奥からルークがやってくる。
獲物を見るなり目を丸くした。
「レインさん、とうとうイノシシまで狩ってきたんですか」
「その反応は酷くないか?」
「いえ、いずれ成功するとは思っていましたが……」
ルークはイノシシを見て苦笑した。
「思ったより大物だったので」
その言葉にレインは胸を張る。
「少しは成長しただろ?」
「はい」
ルークは素直に頷いた。
「かなり成長されたと思います」
その一言が嬉しかった。
最近は修行ばかりしている。
工房の仕事も減らしている。
正しい選択だったのか迷うこともあった。
だが今日だけは違う。
成長している。
確実に、それを実感できた。
夜。
家へ帰ったレインは一人で空を見上げていた。
満天の星空。
静かな海。
穏やかな夜だ。
レインは森の方角を見る。
あの奥には森の主がいる。
今でも勝てる気はしない。
だが、一か月前のような絶望感もなかった。
届かない壁ではない。
まだ遠いだけだ。
レインは拳を握る。
「もっと強くなる」
その声は静かだった。
だが決意は揺るがない。
森の主へ辿り着くまで。
そして、その先へ進むために、レインの修行は、まだ始まったばかりだった。