ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
森の主と遭遇してから二か月近くが経った。
レインの修行は順調だった。
毎朝の走り込み。
森での狩り。
筋力鍛錬。
積み重ねた努力は確実に成果として現れている。
最近ではイノシシや鹿程度なら狩れるようになっていた。
もちろん森の主には遠く及ばない。
それでも以前の自分と比べれば大きな成長だった。
そして、その成果は思わぬ形で家計にも貢献していた。
「また肉か」
夕食の席で父が苦笑する。
食卓には肉料理が並んでいた。
焼き肉。
肉入りスープ。
野菜炒め(肉多め)。
以前より明らかに肉の割合が増えている。
「最近本当に多いわね」
母も笑う。
レインは肩を竦めた。
「狩れるようになったんだから仕方ないだろ」
最初はウサギ一匹だった。
それが今ではイノシシや鹿まで狩れるようになっている。
家族三人では食べ切れない量になることも珍しくない。
「助かるんだけどね」
母はそう言いながらも苦笑する。
「最近お肉ばっかりなのよ」
「贅沢な悩みだな」
父が笑った。
確かに以前なら考えられないことだった。
レインは少し考えた後、口を開く。
「余ってるならルークの家に持って行くよ」
「それが良いわね」
母はすぐに賛成した。
翌日。
レインは解体した肉を持ってルークの家へ向かった。
扉を叩く。
しばらくすると中から大柄な男性が現れた。
日に焼けた肌。
太い腕。
長年働いてきたことが分かる逞しい体。
ルークの父だった。
「おう、レインか」
「こんにちは」
レインは肉を差し出す。
「狩り過ぎたからお裾分け」
ルークの父は肉を見る。
そしてレインを見る。
もう一度肉を見る。
さらにレインを見る。
「……お前が狩ったのか?」
「うん」
「そうか……」
遠い目になった。
最近では聞き慣れた話だ。
だが改めて考えるとおかしい。
十歳の子供がイノシシを狩っているのである。
そこへルークが家の奥から出てきた。
「レインさん!」
「おう」
ルークは肉を見るなり驚いた。
「また狩ったんですか!?」
「また狩った」
「凄いですね……」
心底感心している様子だった。
その時、ルークが何かを思い出したように手を叩いた。
「あ、そうだ!」
「ん?」
「レインさん、ちょっと見てください!」
そう言うと家の裏へ走っていく。
数分後、戻ってきたルークの肩には分厚い木の板が担がれていた。
船大工修行で使っている材料だ。
レインは首を傾げる。
「何するんだ?」
ルークは少し得意げな顔をした。
「最近やっとできるようになったんです」
そう言って板を立てる。
深呼吸する。
そして腰を落とした。
次の瞬間。
バキッ!!
乾いた音が響いた。
板が真っ二つになる。
レインは思わず目を見開いた。
「おぉ!」
かなり分厚い板だった。
以前のルークなら絶対に無理だっただろう。
ルークは嬉しそうに笑う。
「やっと割れるようになりました!」
「凄いじゃないか」
「ありがとうございます!」
その時だった。
様子を見に来たレインの父も合流する。
地面に転がる板を見る。
レインが持ってきた肉を見る。
そして二人を見る。
しばらく沈黙した。
ルークの父も同じだった。
二人揃って何とも言えない顔をしている。
「なあ」
レインの父が口を開く。
「何だ?」
ルークの父が返す。
「ルークって十三歳だったよな?」
「ああ」
「レインは十歳」
「そうだな」
再び沈黙。
ルークの父が頭を掻いた。
「俺が十三歳の頃は板なんか割れなかったぞ」
「俺もだ」
レインの父も即答する。
そこへ母親達も出てきた。
状況を見て首を傾げる。
「どうしたの?」
ルークの母が尋ねる。
ルークの父は苦笑しながら答えた。
「レインはイノシシを狩ってくる」
「うん」
「ルークは板を割る」
「うん」
レインの母も苦笑する。
「普通の十歳と十三歳って何してたかしら」
「魚釣りとかじゃない?」
ルークの母が答える。
「木登りとかもしてた気がするわ」
「そうよね」
四人は揃ってレインとルークを見る。
そして同時に口を開いた。
「「「「お前達は何を目指しているんだ?」」」」
見事に声が揃った。
レインとルークは顔を見合わせる。
そしてレインが真面目な顔で答えた。
「世界一の船大工?」
ルークも頷く。
「俺は世界一の職人ですかね」
あまりにも真剣だった。
冗談ではない。
本気で言っている。
だからこそ大人達はさらに遠い目になった。
「そうか……」
「そうね……」
誰も否定はしない。
だが少しだけ心配だった。
この二人なら本当にやりそうだからである。
夕方。
帰り道。
レインとルークは並んで歩いていた。
「世界一の職人ですか」
ルークが少し照れ臭そうに言う。
「悪くないな」
「悪くありませんね」
二人は笑った。
そして別れ道に差し掛かる。
「ではまた明日」
「ああ」
ルークが帰っていく。
レインはその背中を見送った。
頼もしくなったと思う。
工房を任せられる。
技術も伸びている。
本当に良い仲間だ。
ふと森の方を見る。
夕日に照らされた森。
その奥には森の主がいる。
イノシシを狩れるようになった。
体も強くなった。
だが、まだ足りない。
あの巨体を思い出すだけで分かる。
今の自分では到底届かない。
レインは拳を握った。
「まだまだだな」
小さく呟く。
超えるべき壁は遥か先にある。
だからこそ面白い。
レインは笑みを浮かべながら家への道を歩き始めた。