ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

93 / 94
第九十二話「お前達は何を目指しているんだ?」

 

森の主と遭遇してから二か月近くが経った。

 

レインの修行は順調だった。

 

毎朝の走り込み。

 

森での狩り。

 

筋力鍛錬。

 

積み重ねた努力は確実に成果として現れている。

 

最近ではイノシシや鹿程度なら狩れるようになっていた。

 

もちろん森の主には遠く及ばない。

 

それでも以前の自分と比べれば大きな成長だった。

 

そして、その成果は思わぬ形で家計にも貢献していた。

 

「また肉か」

 

夕食の席で父が苦笑する。

 

食卓には肉料理が並んでいた。

 

焼き肉。

 

肉入りスープ。

 

野菜炒め(肉多め)。

 

以前より明らかに肉の割合が増えている。

 

「最近本当に多いわね」

 

母も笑う。

 

レインは肩を竦めた。

 

「狩れるようになったんだから仕方ないだろ」

 

最初はウサギ一匹だった。

 

それが今ではイノシシや鹿まで狩れるようになっている。

 

家族三人では食べ切れない量になることも珍しくない。

 

「助かるんだけどね」

 

母はそう言いながらも苦笑する。

 

「最近お肉ばっかりなのよ」

 

「贅沢な悩みだな」

 

父が笑った。

 

確かに以前なら考えられないことだった。

 

レインは少し考えた後、口を開く。

 

「余ってるならルークの家に持って行くよ」

 

「それが良いわね」

 

母はすぐに賛成した。

 

翌日。

 

レインは解体した肉を持ってルークの家へ向かった。

 

扉を叩く。

 

しばらくすると中から大柄な男性が現れた。

 

日に焼けた肌。

 

太い腕。

 

長年働いてきたことが分かる逞しい体。

 

ルークの父だった。

 

「おう、レインか」

 

「こんにちは」

 

レインは肉を差し出す。

 

「狩り過ぎたからお裾分け」

 

ルークの父は肉を見る。

 

そしてレインを見る。

 

もう一度肉を見る。

 

さらにレインを見る。

 

「……お前が狩ったのか?」

 

「うん」

 

「そうか……」

 

遠い目になった。

 

最近では聞き慣れた話だ。

 

だが改めて考えるとおかしい。

 

十歳の子供がイノシシを狩っているのである。

 

そこへルークが家の奥から出てきた。

 

「レインさん!」

 

「おう」

 

ルークは肉を見るなり驚いた。

 

「また狩ったんですか!?」

 

「また狩った」

 

「凄いですね……」

 

心底感心している様子だった。

 

その時、ルークが何かを思い出したように手を叩いた。

 

「あ、そうだ!」

 

「ん?」

 

「レインさん、ちょっと見てください!」

 

そう言うと家の裏へ走っていく。

 

数分後、戻ってきたルークの肩には分厚い木の板が担がれていた。

 

船大工修行で使っている材料だ。

 

レインは首を傾げる。

 

「何するんだ?」

 

ルークは少し得意げな顔をした。

 

「最近やっとできるようになったんです」

 

そう言って板を立てる。

 

深呼吸する。

 

そして腰を落とした。

 

次の瞬間。

 

バキッ!!

 

乾いた音が響いた。

 

板が真っ二つになる。

 

レインは思わず目を見開いた。

 

「おぉ!」

 

かなり分厚い板だった。

 

以前のルークなら絶対に無理だっただろう。

 

ルークは嬉しそうに笑う。

 

「やっと割れるようになりました!」

 

「凄いじゃないか」

 

「ありがとうございます!」

 

その時だった。

 

様子を見に来たレインの父も合流する。

 

地面に転がる板を見る。

 

レインが持ってきた肉を見る。

 

そして二人を見る。

 

しばらく沈黙した。

 

ルークの父も同じだった。

 

二人揃って何とも言えない顔をしている。

 

「なあ」

 

レインの父が口を開く。

 

「何だ?」

 

ルークの父が返す。

 

「ルークって十三歳だったよな?」

 

「ああ」

 

「レインは十歳」

 

「そうだな」

 

再び沈黙。

 

ルークの父が頭を掻いた。

 

「俺が十三歳の頃は板なんか割れなかったぞ」

 

「俺もだ」

 

レインの父も即答する。

 

そこへ母親達も出てきた。

 

状況を見て首を傾げる。

 

「どうしたの?」

 

ルークの母が尋ねる。

 

ルークの父は苦笑しながら答えた。

 

「レインはイノシシを狩ってくる」

 

「うん」

 

「ルークは板を割る」

 

「うん」

 

レインの母も苦笑する。

 

「普通の十歳と十三歳って何してたかしら」

 

「魚釣りとかじゃない?」

 

ルークの母が答える。

 

「木登りとかもしてた気がするわ」

 

「そうよね」

 

四人は揃ってレインとルークを見る。

 

そして同時に口を開いた。

 

「「「「お前達は何を目指しているんだ?」」」」

 

見事に声が揃った。

 

レインとルークは顔を見合わせる。

 

そしてレインが真面目な顔で答えた。

 

「世界一の船大工?」

 

ルークも頷く。

 

「俺は世界一の職人ですかね」

 

あまりにも真剣だった。

 

冗談ではない。

 

本気で言っている。

 

だからこそ大人達はさらに遠い目になった。

 

「そうか……」

 

「そうね……」

 

誰も否定はしない。

 

だが少しだけ心配だった。

 

この二人なら本当にやりそうだからである。

 

夕方。

 

帰り道。

 

レインとルークは並んで歩いていた。

 

「世界一の職人ですか」

 

ルークが少し照れ臭そうに言う。

 

「悪くないな」

 

「悪くありませんね」

 

二人は笑った。

 

そして別れ道に差し掛かる。

 

「ではまた明日」

 

「ああ」

 

ルークが帰っていく。

 

レインはその背中を見送った。

 

頼もしくなったと思う。

 

工房を任せられる。

 

技術も伸びている。

 

本当に良い仲間だ。

 

ふと森の方を見る。

 

夕日に照らされた森。

 

その奥には森の主がいる。

 

イノシシを狩れるようになった。

 

体も強くなった。

 

だが、まだ足りない。

 

あの巨体を思い出すだけで分かる。

 

今の自分では到底届かない。

 

レインは拳を握った。

 

「まだまだだな」

 

小さく呟く。

 

超えるべき壁は遥か先にある。

 

だからこそ面白い。

 

レインは笑みを浮かべながら家への道を歩き始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。