ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第九十四話「虎を担いだ少年」

 

レインはもう一度虎の様子を確認した。

 

「……死んでる」

 

レインは虎の前にしゃがみ込んだ。

 

何度確認しても同じだった。

 

呼吸はない。

 

脈もない。

 

完全に息絶えていた。

 

レインは頭を掻く。

 

正直、自分でも困惑していた。

 

気絶しただけだと思っていたのだ。

 

だが違った。

 

あの一撃は思っていた以上の威力だったらしい。

 

「本当に何だったんだ……」

 

黒く染まった拳。

 

時間がゆっくり流れるような感覚。

 

そして虎を一撃で倒した力。

 

どれも説明がつかなかった。

 

だが考えても答えは出ない。

 

今は持ち帰る方が先だった。

 

レインは虎を見下ろす。

 

大きい。

 

とにかく大きい。

 

体長は二メートルを優に超えている。

 

前世の動物園で見た虎よりも明らかに巨大だった。

 

「よし」

 

レインは虎を肩へ担ぎ上げる。

 

ずしりと重い。

 

だが持ち上がる。

 

三か月間の修行は伊達ではなかった。

 

森を歩く。

 

木々の間を抜ける。

 

そして村へ続く道へ出た。

 

最初に遭遇したのは木こりの職人だった。

 

「おーい、レイン.........」

 

声が止まる。

 

視線が固まる。

 

レインを見る。

 

虎を見る。

 

もう一度レインを見る。

 

「……何してるんだ?」

 

「運んでる」

 

「それは見れば分かる」

 

正論だった。

 

レインも頷く。

 

「確かに」

 

木こりの職人は深いため息を吐いた。

 

何かがおかしい。

 

だが何がおかしいのか多すぎて整理できない。

 

レインはそのまま歩き続けた。

 

やがて港へ到着する。

 

昼下がりの港は今日も賑わっていた。

 

漁師達が網を修理し、船大工達が船を整備している。

 

そして、全員の動きが止まった。

 

「……ん?」

 

「おい」

 

「待て」

 

「何だあれ」

 

港中の視線が集まる。

 

レインへ......いや、レインの肩に担がれた巨大な虎へ。

 

沈黙。

 

誰も言葉を発しない。

 

理解が追い付かなかったのだ。

 

レインは首を傾げる。

 

「どうした?」

 

その言葉でようやく皆が我に返る。

 

「どうしたじゃねぇ!」

 

「何で虎担いでるんだ!」

 

「しかもでかすぎるだろ!」

 

「森の奥にいるやつじゃねぇか!」

 

一斉に騒ぎ出した。

 

レインは困ったように頭を掻く。

 

そんなに驚くことだろうか。

 

すると漁師の一人が恐る恐る尋ねた。

 

「まさか拾ったのか?」

 

「違う」

 

「誰かが倒したやつか?」

 

「違う」

 

「じゃあ……」

 

全員が息を呑む。

 

レインは特に隠すこともなく答えた。

 

「俺が倒した」

 

静寂。

 

風の音だけが聞こえる。

 

誰も動かない。

 

誰も喋らない。

 

数秒後。

 

「は?」

 

誰かが言った。

 

そして。

 

「はぁぁぁぁぁ!?」

 

港中が大騒ぎになった。

 

「無理だろ!」

 

「相手虎だぞ!?」

 

「しかも成獣だ!」

 

「お前十歳だろ!?」

 

「十歳だぞ!?」

 

なぜか二回言われた。

 

レインもそう思う。

 

自分でも信じられない。

 

だが事実なのだから仕方ない。

 

その時だった。

 

船大工の一人が虎へ近付いた。

 

体を確認する。

 

傷を探す。

 

そして顔色が変わった。

 

「おい」

 

周囲が静かになる。

 

「どうした?」

 

「傷がほとんどない」

 

皆が虎を見る。

 

確かにそうだった。

 

切り傷はない。

 

刺し傷もない。

 

爪痕すらない。

 

あるのは胸の辺りの打撲だけ。

 

船大工は信じられない顔をしていた。

 

「これ……」

 

「何だ?」

 

「一撃だ」

 

その場が静まり返る。

 

誰も言葉を発しない。

 

船大工は続けた。

 

「胸骨が砕けてる」

 

「は?」

 

「たぶん一発で内臓まで潰れてる」

 

再び沈黙。

 

全員の視線がレインへ向く。

 

レインは気まずそうに目を逸らした。

 

「いや、俺もびっくりしてるんだって」

 

「びっくりしてるのはこっちだ!」

 

誰かが叫んだ。

 

まったくその通りだった。

 

その時、

 

「レイン!」

 

聞き慣れた声が響く。

 

父だった。

 

騒ぎを聞き付けてやって来たらしい。

 

父は人混みをかき分ける。

 

そして虎を見る。

 

レインを見る。

 

虎を見る。

 

レインを見る。

 

しばらく固まった。

 

「……説明してくれ」

 

真顔だった。

 

レインは苦笑する。

 

「俺も説明してほしい」

 

港中が爆笑した。

 

だが笑いながらも皆の顔には驚きが残っていた。

 

十歳の少年が巨大な虎を一人で討伐した。

 

普通なら信じない。

 

しかし目の前には証拠がある。

 

巨大な虎の死体。

 

そしてそれを担いで帰ってきたレイン。

 

父は頭を抱えた。

 

「お前、本当に何をしたんだ……」

 

その呟きに誰も答えられなかった。

 

レイン自身でさえ分からないのだから。

 

ただ一つ確かなことがある。

 

この日を境に。

 

『レインが巨大な虎を一人で倒した』

 

という噂は、あっという間に島中へ広がることになるのだった。

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