ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第九十六話「虎と商人」

 

虎討伐の騒動から一夜明けた。

 

島の噂は相変わらず収まる気配を見せない。

 

港では漁師達がその話をしており、市場では商人達が盛り上がり、工房の作業員達も何度目か分からない話題で笑っていた。

 

そんな中、一隻の商船が港へ入ってきた。

 

船から降りてきたのは見慣れた男だった。

 

ガレスである。

 

レイン工房がまだ小さかった頃から付き合いのある商人であり、今では定期的に島へやって来る重要な取引相手だった。

 

「久しぶりだな」

 

ガレスは港を見回しながら呟く。

 

前回訪れた時よりも活気がある。

 

採掘事業も軌道に乗り始めているらしく、以前より人の動きも増えていた。

 

「さて、まずはレインのところへ行くか」

 

そう言って歩き始める。

 

工房への道もすっかり慣れたものだった。

 

そして数分後、レイン工房が見えてくる。

 

ガレスは思わず足を止めた。

 

「……ん?」

 

何かがおかしい。

 

工房の横。

 

そこに見慣れないものが吊るされている。

 

巨大な縞模様。

 

鋭い牙。

 

巨大な四肢。

 

どう見ても虎だった。

 

しかも異常に大きい。

 

ガレスはしばらく固まった。

 

「……何だあれ」

 

思わず呟く。

 

もう一度見る。

 

やはり虎だった。

 

見間違いではない。

 

巨大な虎が工房の横に吊るされている。

 

商人として様々な土地を巡ってきたガレスだが、工房の横に虎が吊るされている光景は初めてだった。

 

「新しい事業か?」

 

真っ先に浮かんだのはそれだった。

 

レインのことだ。

 

また何か思い付いたのだろう。

 

皮革事業か。

 

毛皮事業か。

 

それとも全く別の何かか。

 

正直、どれもあり得る。

 

ガレスは真剣に考え込んだ。

 

だが、もしそうなら事前に相談があるはずだ。

 

今回は何も聞いていない。

 

考えれば考えるほど分からなかった。

 

結局、本人に聞くしかない。

 

ガレスは工房の中へ入った。

 

すると中ではいつも通り作業員達が働いていた。

 

そして奥には見慣れた少年の姿がある。

 

「よう、レイン」

 

「ガレスさん! お久しぶりです」

 

レインが顔を上げる。

 

久しぶりの再会だった。

 

「元気そうだな」

 

「はい、お陰様で」

 

ガレスは笑いながら近付く。

 

そして開口一番尋ねた。

 

「外の虎は何だ?」

 

レインは一瞬固まった。

 

そして納得したように頷く。

 

「ああ、あれですか」

 

その反応が余計に不安だった。

 

ガレスは嫌な予感がする。

 

「説明してくれ」

 

「説明も何も、虎です」

 

「それは見れば分かる」

 

ガレスは即座に突っ込んだ。

 

工房の作業員達が笑い始める。

 

その反応にさらに嫌な予感が強まった。

 

ガレスは腕を組んだ。

 

「何で虎が吊るされてるんだ?」

 

レインは少し考える。

 

そして当然のことのように答えた。

 

「討伐したので、とりあえず持ち帰りました」

 

沈黙。

 

ガレスは理解できなかった。

 

いや、言葉の意味は理解できる。

 

問題は内容だった。

 

「誰が?」

 

「俺です」

 

再び沈黙。

 

工房の中が静まり返る。

 

ガレスはゆっくりとレインを見る。

 

次に虎を見る。

 

再びレインを見る。

 

そして作業員達を見る。

 

誰も笑っていない。

 

冗談ではないらしい。

 

「……本当に?」

 

「はい」

 

「一人で?」

 

「結果的にはそうなります」

 

ガレスは頭を抱えた。

 

商人として多くの天才を見てきた。

 

変人も見てきた。

 

だが十歳で巨大な虎を一人で討伐した人間は見たことがない。

 

それどころか聞いたこともない。

 

「いや待て」

 

ガレスは手を上げた。

 

情報を整理する必要があった。

 

「俺が前回来た時、お前は何をしていた?」

 

「修行です」

 

「なるほど」

 

「それで虎に襲われました」

 

「なるほど」

 

「気付いたら倒していました」

 

「なるほど」

 

全くなるほどではなかった。

 

ガレスは深く息を吐く。

 

そして工房の作業員達へ視線を向けた。

 

「お前らは止めなかったのか?」

 

すると年配の作業員が苦笑する。

 

「俺達も聞きたいくらいですよ」

 

「そうか……」

 

ガレスは遠い目になった。

 

その時だった。

 

ルークが奥から現れる。

 

「ガレスさん、お久しぶりです」

 

「おう、久しぶりだな」

 

挨拶を返した後、ガレスは思わず尋ねた。

 

「お前、どう思う?」

 

ルークは即答した。

 

「俺、一生レインさんに追い付ける気がしません」

 

工房中が爆笑した。

 

ガレスも吹き出す。

 

「それは分かる」

 

「でしょう?」

 

ルークは真剣だった。

 

レインだけが不満そうな顔をしている。

 

「何で皆そうなるんですか」

 

「逆に聞くが」

 

ガレスは真顔になった。

 

「十歳で虎を倒す奴がどこにいる」

 

レインは少し考える。

 

そして首を傾げる。

 

「そう言われると確かにいませんね」

 

「お前だよ!」

 

ガレスのツッコミに工房は大爆笑に包まれた。

 

レインは首を傾げている。

 

その姿を見て、ガレスはさらに頭を抱えた。

 

その日、ガレスは改めて理解することになる。

 

レイン工房は順調に成長している。

 

採掘事業も軌道に乗っている。

 

人も増えた。

 

技術も進歩している。

 

しかし一番成長していたのは、間違いなく工房長本人だった。

 

もっとも、その成長速度が常識外れだったことに頭を抱えるのだが。

 

工房を出る時、ガレスは吊るされた虎を見上げながら呟いた。

 

「本当に何者なんだ、あいつは……」

 

その疑問に答えられる者は、まだ誰もいなかった。

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