逆転なんて許さない   作:続(ツヅ)

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プロローグ

 桜が咲く季節になり、大学卒業も目前に迫ってきた今日この頃。

 既に就職の準備を終えた俺はとある目的のため、行きつけのカードショップへ向かっていた。

 

 背中のリュックサックの中には今まで愛用してきたデッキの数々が入っている。

 そして今日、最後に残ったこのデッキたちを買取に出すために向かっていた。

 

 

 昔からカードが好きだった。

 

 

 始まりは友達から勧められたホビーアニメからだった。それからパックを剥き、カードを集め、友達と対戦をして喧嘩する。

 強いカード、強いデッキ、強い動きを知って自分自身も強くなっていった。

 

 

 大人になるにつれカードゲームにのめりこんでいった。

 

 

 カード同士のシナジーを考えたり、オリジナルデッキがうまく回らなかったり、デッキバランスが終わってたり、手札事故で何にも動けなかったり、一枚一枚が高すぎる環境デッキ。

 

 

 カードをいじるのも楽しかった。

 

 

 フレーバーテキストに記された物語を読んだり、イラスト同士の繋がりを楽しんだり、面白い名称のデッキやコンボ名に笑いあったこともあった。

 

 

 カードを見るのも楽しかった。

 

 

 友達と対戦したり、大会に出たり、ほかの人と議論したり、競い合ったり、デュエマッスルを鍛えないかと不審者に言われたり、害悪戦法はいいぞぉとかいう嫌な人もいたし、おかしなレギュレーションがめっちゃうまい人がいたり、デッキのカードをすべて。

 

 

 みんなでカードゲームをするのも楽しかった。

 

 

 動くことのできない手札事故、使うカードの順番、妨害するタイミング、相手の使うカードの予測、アタックするかどうかの迷い、トラップを発動するタイミング、何のリバースカードを使うか、いつリバースカードオープンすべきか、トリガーが来ないように祈る瞬間。

 

 

 対戦での駆け引きも楽しかった。

 

 

 けれど、楽しかった時間も今日で完全にお別れだ。

 

 俺は夢を本気で叶えるためTCGから完全に引退を決意した。

 TCGがあると夢を追いかけることに集中できなくなる。

 

 既にストレージのカードはすべて買取済み、残りは背中の大型リュックサックに入ったデッキ数十個のみ。

 

 引退を決意してから迷うこともあったが、覚悟を決めた今、迷いはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩き慣れた道を進み、いつも通り曲がり角を左に曲がる。カードショップまではまだ数分かかる。

 横断歩道に差し掛かると、運悪く赤信号になってしまった。早朝ということもあり肌寒い。

 人影は少なく、車の数も少ない。

 

 

 信号が青に変わり、横断歩道を渡ろうとした時に気づく。

 

 

 信号無視のトラックがこちらに向かって突っ込んできている。

 隣の女性はヘッドホンを被りスマホに集中していて気づいていない。

 

「危ねえ!!」

 

 大声で呼びかけてようやく気付くが、混乱していて逃げるには間に合わない。

 

 

 考えるよりも先に身体が動いた。

 

 

 トラックの前に立ち、全力で力を込めて受け止める。

 

 絶対にはねられると誰もが思った。当然俺も同じように思った。

 

 大きな衝突音があたりに響き渡る…が、数mだけ下がりトラックが止まる。

 

 

 

「マジかよ…デュエマッスルって本当にあったのか」

 

 

 

 

 

 その後、通行人が通報したのかすぐに警察が駆け付けてきて、いろいろ事情聴取された。

 どうやらトラックの運転手が夜通し仕事をしていて、居眠り運転をしていたらしい。

 運転手は連行されていき、俺たちは無事解放された。

 

 一応ケガとかしていないか聞かれたが、自分の筋肉には傷一つついていなかった。

 たしかに普段から知人に誘われてジムに通っていたが、ここまで鍛えられてたとは完全に思わなかった。あのデュエマッスル狂信者まじもんの人だったのか?いつの間にか人体改造でもされたっけ?そうでもないとこんなことになるなんて思わねえよ。…今後もあの狂信者についていって大丈夫なのか?

 

 そんな風に考えに耽っていると…

 

 

「先ほどは助けていただきありがとうございます!!」

 

 振り返ると先ほど助けた少女が頭を思いっきり下げていた。

 

 感謝されたのは嬉しいけど…帽子とかカバンの荷物、いろいろ落ちてますよ。

 その中に一つ、見慣れた物があった。

 

「Reバースのカードが一枚?なんでだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、だからカード一枚だけ持ってたというわけか」

 

「いや~お恥ずかしい」

 

 あの後、お礼をさせてほしいと言われたので、コンビニで高級缶コーヒーを奢ってもらっていた。

 

「Reバース始めたいからって、今の時間帯にカドショは空いてねぇよ」

 

「本当にお恥ずかしい///」

 

 先ほど助けた少女は恥ずかしいのか帽子を深くかぶる。

 

 

 う〜ん、Reバースを始めたいかぁ。

 

 方やReバースを引退するために、方やReバースを始めるためにカードショップへ向かっていたか…1つ思いついた

 

 

「…一つ提案なんだが」

 

「なんですか?」

 

「実は今日、俺はReバースを引退するからデッキを買い取りに出しにきたんだが……俺のデッキを貰わねぇか?」

 

「うん??えっ?!受け取れませんよ!!」

 

 突然のありえない提案に持っていたココアを落としそうになる。

 

「まぁまぁ、一回話だけでも聞いてくれ」

 

 

 

──俺は今日Reバースを引退する。だからデッキを買い取りに出そうかと先ほどまで考えていた。

──だが、せっかくなら使ってくれる人の手に渡った方がいい。

──君は姉とReバースをするために強いデッキが欲しい。俺はReバースの引退と布教が同時にできる。

 

「まさにwinnwinnじゃないか」

 

 少女は俺の話を聞いて驚愕といった表情で固まっていた。

 

「…こんな見ず知らずの人にあげちゃっていいんですか。もしかしたらReバースやらずに転売するかもしれないんですよ」

 

「さっきまであんなに姉のカード事情をぺらぺら話す奴が嘘をつけるように見えねぇよ。それに売られたとしてもまた誰かの手に渡るからいいんだ」

 

 う〜んう〜んと大きく悩んで、顔をうなずかせる。

 

 決心できたか。

 

「答えは決まったか」

 

「はい!私は絶対絶対Reバースを全力でやります!だからあなたのデッキを受け継ぎます」

 

 へぇ~

 

「…受け継ぐか、アニメらしい表現でいいな」

 

 リュックサックを下ろしてデッキをすべて(数十個)取り出す。

 

「それじゃあ、こいつらをよろしく頼む」

 

「あっ…えっと…多くないですか?」

 

 ……リュックサックごとあげるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで完全に引退かぁ~」

 

 

 すっからかんとなった部屋を見渡す。2部屋も占領していた大量のカード達はすべて誰かの手に渡った。

 

 何年もかけて集めた思い出の詰まったカードはもうなくなった。

 

 

「お別れはあっさりだったな」

 

 

 お世話になっているカドショにも夢を追いかけると伝えたし、知り合いのプレイヤー達にも一報いれておいた。

 

 明日からは夢へ向かって全力で走り出し始める。

 

 

「…もう寝るか」

 

 夜10時、普段ならデッキをいじったり、イベントをチェックしたり、環境を調べたり、動画で面白いデッキを探したり、一人回しをしたりしていたが、今は何もない。

 

 引き出しの奥の奥に厳重に保管している一番愛用したデッキ一つを除いてなにもない。

 

 それを取り出そうかとも思ったが、やっぱりやめた。

 

 

 ベッドへ潜り瞳を閉じる。

 

 明日は…そういえばずっとスルーしてたコミックスとかアニメとか見てみるか。カドショにも寄って…引退したんだった。

 カードのない生活かぁ、慣れないとなぁ。

 なんだか今になって腕が痛くなってきた。

 近いうちに身体測定でもしに行こうかな。

 

 そんなことを考えていると意識が暗闇へと落ちていく。

 

 

 

 その夜、奇妙な夢を見た。

 

 

 

 すごく見覚えのあるカードを使って必死に戦う誰か──

 

 

 

(あれは、Reバース?)

 

 

 

 崩壊していく世界──

 

 

 

(空に浮かぶ城かぁ)

 

 

 

 知らない女性が攻撃をかばって目の前で消える光景──

 

 

 

(誰だ?俺をかばった?)

 

 

 

 何故か既視感を感じる災害、戦争、世界中に広がる感染症──

 

 

 

(こんなこと現実で起こったことないのに…なんでだ?)

 

 

 

 

 突如として浮遊感に襲われる。

 

 

 

 

 

 

\..%--.^´¨-=_?.(ザツギ.コザ_-カイザホロボ)

 

 

 

 

 

 

 

 なんなんだ一体?などという考えは頭が打ちつけられた衝撃で完全に吹き飛ぶ。

 

 

 

 

 痛みに悶えて目が覚める。

 

 

 

 

「くそ痛ってぇ…ベットから転げ落ちでもしたか?」

 

 

 

 

「貴様は何者だ?」

 

 

 

 

 甲高い声が辺りに響く。

 

 

 振り返りながら、寝ぼけた頭で質問に答える。

 

 

 

 

「俺は…読辻 堺(よみつじ サカイ)

 

 

 

 

 目の前には変な格好のロリッ子ツインテール。

 

 

 

 

「そうか、ならば我も名乗らねばならないな!」

 

 

 

 

 羽織っている軍服っぽい衣装をたなびかせて少女が声を上げる。

 

 

 

 

「我が名は総督【U】!闇を統べる王にして、シャドウリバースの総督!世界を陰で覆い支配する者!」

 

 

 

 

 それは俺にとって新たな人生の始まり…そして未来で逆転するための最初の一歩(出会い)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




逆転の一手がなんなのか、誰にも知る術はない
だが、誰だって逆転の一手を持っている

──最初の喜劇、最後の悲劇(ラストスタート)
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