逆転なんて許さない   作:続(ツヅ)

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第8話『エナジーを支払いカードをプレイする』

 

「決着だ」

 

 【U】はそう言い放ち引き金に手を賭ける直前、フィールドの上空…月夜に照らされたビルの屋上。

 対戦の途中から下を見下ろして観戦していた少女は、一枚の光るカードを懐から取り出し…飛び降りる。

 落ちていく少女の天色の長髪が風でなびかれる。

 

 黒の帳に光のカードを押し付けたその瞬間、空間を断絶する壁にヒビが走り崩壊する。

 

 ソウルファイトが強制中断され、【U】は咄嗟に後ろに跳ぶ。

 対戦していた【U】とユウナの間に侵入者である少女が、音一つ立てずに静かに降り立つ。

 

 光のカードを構えた少女はこちらへと顔を向け、口を開く。

 

「うちの縄張りで勝手なことはさせないよ」

 

「貴様は確か…宝龍会の所の愛娘『大蛇(おろち) コタツ』か」

 

 重たい空気が辺りを支配する中、二人の視線が交差する。

 互いに指一本も動かさず、目の前の相手の動きを注視する。

 

 様子を見守る他の3人も二人の雰囲気に圧倒され、口を開けない。

 

 

 この静寂を破ったのは、対面する二人でもそれを傍観する者でもなく、新たな乱入者。

 万事屋と大きくプリントされたTシャツを着た銀髪の女性が、ユウナの後方…路地の奥から現れる。

 

「お嬢、こんなところに急に来いだなんていったい何の仕事なんですか?」

 

 お嬢と呼ばれたコタツは、隣で頭を搔いている女性を一瞥するだけして、こちらに向き直る。

 

「これでこちらは万全なファイターが二人…ダークエナジーも残り少ないだろうに、尻尾を撒いて逃げたらどうじゃ『シャドウリヴォルト』?」

 

 コタツが挑発するかのように提案する。

 

「取り消してもらうぞ…その言葉」

「乗るなや総督」

 

 軽い挑発に乗る【U】をセツナが頭を叩きながら制止させる。

 セツナに続くようにマクマにおぶられているメアも隣に来る。

 

「宝龍会に万事屋まで来て、そんなにそいつのことを守りたいんか?」

 

「ただの治安維持に決まってる。お主らのようなカード狩りが蔓延っていては無垢な市民だって安心できないじゃろうて」

 

 その答えを最後に、再び両者の間で静寂が生まれる。

 両者ともデッキケースを取り出せるように手を構え、一触即発の空気となっている。

 

 どれくらい時間が経っただろうか。緊迫した空気の中、マクマスーツの中が快適であくびでも出そうになった時、ディスプレイ表示されたチャット機能が動く。

 

『カードを奪うためのダークエナジーも尽きたしここは撤退や』

『ワイらをおぶって撤退してくれメンス』

『合図は送るやで』

 

 セツナと目と目が合うと、顔を頷かせている。

 

 メアは既に背負っている、次に右手にいる【U】の首根っこを掴んで脇に挟む。最後にセツナの足を引っかけて転ばせるところを回収する。

 

「マクマ!何をする!」

「撤退や撤退、エナジーがもうないやろアホ」

 

 

「くっ、覚えてろ貴様ら!次こそはそのカードを手に入れてやるー!!!!」

 

 

 闇夜の支配する路地裏で取り残された3人は…

 

「逃げましたねあいつら」

「去ったのならよい。妾は帰る。その子を頼むぞ『白』」

 

 「はいはい」と白が答えると、コタツはその場を去ろうとする。

 そこでようやく横になっていたユウナが何とか口を開く。

 

「まっ待って…くだ…さい…」

 

 去ろうとしていたコタツは足を止めて振り返る。

 

「何じゃ」

 

 明らかに身体の限界を超えて何かを言おうとしているユウナ。

 

「あ…りが……」

 

 しかし最後まで言葉を紡ぐ前に力尽きて気絶してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電気の灯りが窓から漏れ出ているおんぼろビル、シャドウリヴォルトのアジトでは少し遅めの夕飯を食べながら会議をしていた。

 

 会議と言っても話し合っているのは大体【U】とセツナの二人だけである。

 

「それじゃあダークエナジーの回復は明日には足りるんだな?」モグモグ

「回復すると言ってもあのカードを奪いきる量があるかは分からんやで」モグモグ

「モグモグ何とかならんのかセツナ?」

「金と資材があればなー何とかなるんやが」ズズズ

「今の我らには金がない。何かアルバイトでも始めたらどうだ?貴様は成人していたであろう?」

「拙者働きたくないでござる。それに我らは指名手配されてるやろ」

 

 二人の会話をBGMに箸を進める。

 聞きかじりのある専門用語がいくつか聞こえてくるが詳しくは知らないので黙って会議を聞いている。

 闇のカードと言えばアニメとかで聞いた覚えがあるけど…ダークエナジーやら光のカードやらよく分からん単語が飛び出して来て話についていけないのが現状である。

 

 専門用語については説明はなかった代わりに話の中で他の組織について聞くことができた。

 最初に乱入してきたロリっ子の所属が『宝龍会』と言い、この辺りを支配する極道らしい。公的機関と敵対しているため、悪い意味で民衆に有名だそうだ。

 もう一人の方の所属は宝龍会ではなく『万事屋410』という何でも屋の一人。宝龍会と同じくアウトローな組織だが、こちらの方は民衆から信頼され愛されている組織らしい。

 

 どちらの組織も俺らシャドウリヴォルトとは敵対しているらしく、普段はあいつらが来る前にファイトで勝利してカードを取ってたらしいが、ユウナが思いの外強かったから時間が掛かってしまったらしい。

 

「ムムム…やはりユウナの持つあの闇のカードが欲しいぞ!」

「まぁ確かに今まで見たことないほどのエナジーが秘められてたからやな」

 

 【U】が勢いよく味噌汁を飲み干し、テーブルに置いて告げる。

 

「よし、明日もう一度行くぞ!」

「エナジーがないから明後日からにしろや」

「…わかった明後日行こう」

 

 

「さて…今後の方針は決めたことやし、サカイのことについて話したいんやがその前に一つだけ…」

 

「どうした?俺に何かあんのか?」

 

 方針が決まったらしい【U】とセツナが俺をじーっと見てくる。

 メアに関しては会議なんてどうでもいいのかモキュモキュ飯を食っている。

 

「そりゃおかしいやろ。何でマクマのまま飯を食ってるんや」

「それはいったいどこから口に運んでるんだ?」

 

「あー…何となく快適だったからこのままでいいかな~ってな」

 

 二人の言う通り俺は、着ぐるみ姿のまま飯を食べていた。

 なんせ料理を作る時とか中が快適で外したくなかったからな。

 

 

「まぁいいか。それで本題に入るがサカイ…いいやユウナの前では確か『セカイ』なんていう偽名を使ったそうじゃないか」

 

「そりゃあこんな裏組織に入ってるんだから、そうやすやすと本名なんて使いたくねぇよ」

 

「うむ、いい判断だったぞサカイ。そこで話なんだが…」

 

 本題を話しそうになったところで口ごもる。

 何なんだ一体?何を言われるというんだ?

 

 

 

「金がないから働いてきてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 働けと命じられてから約1週間…『読辻 堺』(よみつじ サカイ)改め『黄泉使 世界』(よみつか セカイ)と名乗りアルバイトに励んでいた。

 

 

「セカイさん、在庫の整理はありがたいのですが既に休憩時間ですよ」

「休憩時間と言っても平日の真昼間から来る人なんて少ないじゃないですか?大会も今日は開いてないし」

 

「たしかに二人では時間が有り余って効率的ではありませんね…では新たな仕事を命じます。ショーケースをランダムに入れ替えて新弾のカードも置きましょうか。しっかりと見にくいように置いてくださいね」

 

 この経営者にあるまじき置き方を指示する女性は、俺のアルバイト先のカードショップ『ラビリンス』の店長のマキナさん。

 白髪ゆるふわロングヘアーと同じように言動に見合わず頭の中もゆるふわ仕様に出来上がっていて、アルバイトの俺には制服を着るよう言う癖に本人は営業中にもかかわらず可愛らしくお洒落な私服に身を包んでいる。

 

 

「やっぱりあのクソみたいな並べ方止めませんか?客二度と来ませんって」

 

「ふむ、直してもいいですが給料は下げておきましょうか。人件費も削減出来て売上が更に伸びますもんね」

 

「すみませんでした何も意見はありませんでしたので何卒今日の給料を下げないでください」

 

 この人の言葉はいつも棒読みみたいなせいで冗談なのか本気なのかわっかんねぇんだよな。

 おかしなこと言いだして唐突にニート限定ランニングファイト大会開いておつまみにするのを実行したのは本当に正気を疑ったぜ。なんでそんなふざけた大会に6人も集まんだよ?開催時刻深夜だったんだぞ?

 

 

 何故こんなにも頭のおかしい女の元で働くことになったかと言えば…頭がおかしいが故に好条件のアルバイト契約だったせいなのもあるが、一番の理由は偽名だけ用意しても戸籍関連の偽造まではできなかったからだ。

 ユウナと出会った日の時は接客の様子から真面目な人だと思ってたんだがなぁ。

 

 そんなことを考えてショーケースを弄っているとポケットにしまっている携帯電話がいつもの音を鳴らす。

 

「店長ーちょっと店外します」

「あぁ、いつものですね」

 

 店長の言う通りこの音は電話などではなく、【U】達シャドウリヴォルトからの連絡である。

 

 

「早くデカいの出してきてくださいね。それとトイレ掃除はちゃんとしてくださいね」

「トイレじゃねぇよ店長、知ってんだろ」

 

 

 店の裏に行きマクマを装着して店を出る。

 

 

 

 俺がアルバイトに励んでる間、他の3人が何をしているのかと言えばカード狩りである。

 あの日から二日三日ごとにユウナを襲撃しているが一度も成功できておらず、3人だけでは警察のお世話になるため俺を呼んでタクシー代わりに使っている。

 

 前回の狩りではユウナはファイト部なるものに入部していたらしい。確かその時はユウナの代わりに友だち?がファイトで足止めして、護衛の依頼をしている万事屋410の妨害もあり失敗。

 今の連絡もカード狩りが失敗した時の音だし、今日はどんなことが起きたんだか。

 

 

 そうこう走っていると学校を囲む柵までたどり着く。

 勢いを殺さずにジャンプで柵を飛び越え学校に不法侵入する。

 3m以上の壁を飛び越えられるのもマクマのサポートあってのこと。これがないと現実離れした芸当など出来ない…はず。

 

 学校の中まで侵入すれば3人のいる所まであと少し、声も聞こえてきた。

 

「くっ、今日のところはここまでで許してやる!また明日「明日は無理や総督」じゃあ3日後まで足を洗って待っていろ貴様ら!!!」

「総督…早く帰りたい…」

 

 今日は屋上でユウナと直接ファイトできたのか。そう考えながら3人の後ろに飛び降りる。

 【U】とセツナを脇へ抱えて、メアは…何もせずとも背中にしがみつく。

 

「またねー【U】ちゃーん!」

 

 ユウナが笑顔で手を振っているのを背に学校から去る。

 

 

 

「…」『今日はどうだったんだ?』

 

 3人を抱えながら尋ねる。

 

「どうもこうもない、何やら悩んでいたからその隙をついたんだが…」

「総督とファイトしてから何か吹っ切れたようでそんまま逆転勝利したんやで」

「あれは凄かった…」

 

 

──フハハハハハ前のように<最後の英雄(ラストライク) ブレイヴ>で誰も残っていないじゃないか!!

──何度失敗しようとまた立ち上がるだけです!

──ならば見せてみよ!<ラストライク ソルジャー>でダイレクトアタック!

──カウンターマジック<紡がれる絆、孤独との別れ(メイクアップエンゲージ)>!効果で<親友人形(マイベストフレンドール) フレン>を蘇生してブロック!

──なんだと!?

 

 

「…」『リベンジされたな【U】』

「次こそは勝つ!」

 

 猛スピードで走っていた足を止め、一目のない路地で3人を降ろす。

 

「…」『ここまで離れれば大丈夫だろ。お前ら後は自分で歩いて帰れよ』

「えぇーめんどくさい、アジトまで連れてって」

 

 メアが頬っぺたを膨らませて抗議するがそんなの関係ない。

 

「…」『俺はまだバイトがあるんだから仕方ないだろ。それじゃまた後で』

 

 後ろから3人の抗議の声が聞こえるが関係ない。

 これ以上バイトをサボったら今日の給料が下げられちまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、こちらが今日の給料です」

 

 店長からお札の入った封筒を受け取って頭を下げる。

 

 俺を雇った時シャドウリヴォルトの事を知っているのか、金がすぐに必要なことを察してくれて1ヶ月の間だけ毎日給料を出してくれているのは本当に助かってるが…

 

「ありがとうございます店長」

「そうですか。ならこの恩は倍にして返してもらいましょうか」

「そりゃあもちろん。何でも言ってくださいよ」

「それじゃあラビリンスを全国展開して他のカードショップを潰しましょうか」

 

 ?????????

 

 こういう所があるから素直に感謝の気持ちになれないんだよなぁ。

 

 

 

 おんぼろビル…シャドウリヴォルトのアジトに戻る。

 

「ただいまー部屋の片付けはいい加減終わったのかー」

 

 スーパーで買った食材を冷蔵庫にしまいながら皆を呼ぶ。

 リビングの方の床は俺が来た時よりも片付けられているようだが…この感じは掃除サボってたなあいつら。

 

「飯は1時間くらいかかるからその間に風呂でも入って来いよー」

 

「我が一番風呂だ!」

「ワイは最後でいいでー」

「…めんどくせー」

「お前も一緒に入るぞメア!さっさと立て!」

 

 我先にと【U】がメアを引きずって降りてきて、部屋の奥からセツナも返事をする。

 

 

 

 飯も終えて部屋に戻り、マクマのメモ機能を開く。

 

 明日の準備も終えて後は就寝するだけだが時刻はまだ10時、寝るには少しだけ早い。

 マクマをスマホ代わりにしてメモをする。携帯電話があっただろうって?あれはセツナが急造した連絡にしか使えないガラパゴス携帯モドキだからメモ機能もあったもんじゃない。

 

 話は戻り何をメモしているのかと聞かれれば、俺のカード知識である。

 前世界と違ってここではお手軽にカードを調べることができないから、忘れてしまう前に覚えてる限りのカード知識を書き写していく。

 

 この作業をやる理由は多々あるが、一番大きな理由はリヴォルトを暗記するためである。

 

 感応率がマイナスなせいでリヴォルトが使えないどころか効果が見えないせいで、効果を知らないカードや忘れているカードを出されてしまえば対策もリカバリーもあったもんじゃない。

 

 

 

「ふぅ、今日はこの辺にしとくか」

 

「今日のメモは終わり?」

 

 机で作業していた俺に布団を被っているメアが聞く。

 なんで俺の部屋なのにメアがいるのか…その理由は。

 

「それじゃあさっさとこっち来て枕になって」

「はいはい」

 

 メアが愛用していた巨大ぬいぐるみ…マクマが俺のスーツに改造されたせいである。

 

 マクマが改造されてから、中に誰かが入らないと感触が悪いらしく、こうして添い寝のような形で枕役になっている。

 マクマを来て布団も被ってても、スーツの中が快適すぎてこれでもいいかと俺も納得している。

 強いて不安な点を挙げればここ最近、1日でマクマを着ている時間の方がだんだん伸びてきてることだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




セカイは繰り返される 形を変えようと結果は変わらず
 セカイは繰り返される 誰の目にも見えないところで 

──新世界より
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