<アンブレイダーNo.21 ニール>がダイレクトアタックを決めて俺の勝ちでファイトが終わる。
ファイトが終わると同時に俺達を囲っていた暗い壁が消え去っていく。
ダイレクトアタックを受けて吹き飛ばされた警察官の足元に黒いオーラを放つカードが1枚落ちている。
「主と違って随分と時間が掛かったな、マクマよ」
明かりのない廃工場に響く声はメアでもマクマでも、ましてや最初に戦った宝龍会の二人のものでもない。
あいつはたしか、総督とユウナの時に乱入してきた。
『大蛇コタツ』
いつの間にいたのかはわからないが、まぁ恐らく宝龍会の二人を助けにでも来たんだろう、端の方で楽な姿勢で寝かせているし。
しかし分からない点が一つ、何でメアは縄で縛られてるんだ。
「マクマ~助けて~不審者にファイトを迫られてる~」
「待て!誤解を招くような発言をするな」
『どうしてこんなことに?』
俺がファイトをしてる間にメアはファイトを終わらせたのだろうが…そこからどうやって大蛇コタツに捕まるんだ。
コタツは一呼吸挟んで説明しだす。
「あの二人を回収しに来た時、ちょうどお主らがファイトを始めたのじゃ」
「そうそう…そしてファイトが終わって気が抜けた私は、背後から近づく怪しげな影に気が付かなかったの」
『ダウト、急に嘘を挟みこむな』
声色から明らかな嘘だと分かるのに何で言ったんだ。
縄を握ってるコタツも鬱陶しそうな目で見始めてるぞ。
「…うむ、お主の言う通りこの者の言ってることは嘘じゃ。正しくはファイトが終わったこやつに事情を聴いたのじゃが、逃げ出そうとしたのでな?この通りじゃ」
『なるほど、それでファイトを迫った件はどうした』
一瞬だけだが話しの途中で目をそらしたのはどうせ何か隠しているんだろうな。
人間急には嘘はつけない。
必ず動作のどこかに不自然な動きがどうしても出る、イカサマを見破る時と同じ理論。
と言っても普段からやってる奴はまーじで見抜けねぇが。
「そのな、勘違いしないでほしいのじゃが今回の件はファイトをして捕らえようとする気はないのじゃ。こうして妾の代わりにこやつらを助けてくれたのじゃからな」
「…捕まえるためじゃなかったんだ」
「『既に捕まってるだろ』じゃろ」
というかちゃんと話しを聞いてなかったのか、眠すぎてまともに頭働かなかったのか?
「それで本題に戻るが、妾とファイトをしないか?安心せよ、ただの力試しみたいなものじゃ」
『断る』
「…何故じゃ」
『遊ぶにしては時間が遅すぎる、こちらはさっさと飯の準備をしなくちゃならない』
「しないのか、ファイト」
あーなんか段々分かってきたぞ。
『ファイトはしない、捕まえる気がないならメアは離してくれ』
「…一試合くらいなら」
こいつファイトしたいだけだ。
闇のカードを回収してから三度目の返答を送る。
『またいつか会った時ファイトをしよう、今回は間が悪かったということで見逃してくれ』
そんなしょぼくれた顔をしたって間が悪かったんだコタツ。
眠たそうなメアの様子を見るにあいつも断ったか。
「マクマもあぁ言ってるしそろそろ帰る…けど次会うときはファイトしよっか」
「そうじゃな、それなら今回も見逃してやろう」
よし、大蛇コタツも納得してくれたことだし帰るとするか。
メアを回収するため二人の方へ向かう。
「あぁ今縄をほどいてやろう」
「そんな面倒は大丈夫だよ…だってマクマがいるんだから」
そう言われながら期待された通り縄を引きちぎる。
と言ってもこんな芸当ができるのも着ぐるみのおかげなんだけどな。
若干引いている様子のコタツを無視してメアを背負う。
「それじゃあ
……メアとマクマが去った後、倒れた二人が目覚めるのを待つコタツの元に一人の使者が現れる。
仮面を被った白装束の男が人を小ばかにするような声色で質問する。
「何故我々とのファイトは断るくせに、あのようなちっぽけな野良犬とはファイトしたがるのです?」
「ちっぽけな野良犬とは教会の番犬もすっかり質が落ちたのではないか?」
月の光を雲が遮り薄暗い廃工場の中、二人を影が覆っていく。
「フッ、我々の質が落ちたかなど勝手にほざいてればいい。それよりも例の件ですが…返答はどうですか?」
「いいだろう、そなたらの誘い受けてやろう」
「えぇ、コタツ様ならば受けてくださると思いましたよ…強さしか信じることのできないコタツ様ならね」
誰も聞いていない空間、暗躍するコタツの目からは光が消えていた。
「お母様…あなたの考えは間違っていた…必要だったのは…力なのじゃ」
◆
あれからアジトへと戻り夕飯も食べ終わった。
メアは歯を磨いてさっさと布団にくるまっている。
セツナは誰かの配信を見ているらしい。
そして俺は、【U】が座っているソファの横に座る。
「どうしだのだサカイ?闇のカードならもうセツナに任せたぞ。それとも何だ、我のおやつでも奪いに来たのか!」
「いいや違う違う、別のことを聞きに来ただけだ」
「別のこと?」
【U】はこんな時でも帽子と軍服を外さずにおやつに手を付ける。
たまには夜食におやつでもいいだろうと俺もおやつに手を伸ばす。
「セツナに聞いたんだがこれまでのも含めて闇のカードを数十枚も収集してるらしいじゃないか」
「どうしてそんな数の闇のカードを集めるんだ?」
「サカイにはまだ話していなかったか、我らがシャドウリヴォルトの宿願を」
「宿願?闇のカードを集めていったい何をするんだ」
「世界征服」
背の低い小学生程度の【U】から出た言葉はまさに子どものふざけた夢。
ノータイムで語られた世界征服という四文字を【U】は本気で言っている。
どうやって実現するのか、何故世界征服するのかなどといった疑問を投げかける前に答えを告げる。
「闇のカードのエネルギー…ダークエナジーがあれば世界の理をも帰ることができる」
「光のカードも似たような力があるが、あれはド地下化と言えば世界の理を守る力だ。我々には要らぬ無用な力だ」
──我が何故世界征服するのかなど分からぬ
「自分の夢なのに分からないのか」
「…人が夢を見始めた理由などいつの間にか忘れてしまうだろう」
夢を見始めた理由か、まぁ確かにあんまり覚えてはいないな。
「それに、世界征服すれば何かが分かるかもしれない」
「それじゃあこんな非合法な悪の組織じゃなくてもっと別の方法は考えなかったのか?」
「それはロマンというか何というか、結果もそうだが過程も大事なのだ!コソコソやるよりも派手にドーンっとやりたいのだ!」
「悪の組織の時点でコソコソしてるだろうが」
「いつか派手に事を起こすに決まってるだろ!」
若干怒り気味な【U】はおかしの袋を持って最後のカスまで口に掻き入れる。
「とーにーかーく!我々は世界征服を目指すのだ!サカイだって世界征服ができたなら帰れるやもしれぬぞ!」
「マジで?」
◆
静かな空間、メアと一緒のベッドで寝るのにも随分となれたもんだ。
それにしても、今日は本当に大変だったな。
「そうだね読辻 サカイ…といっても何が大変だったの?」
そりゃあお前…
他にあるとしたら急に元の世界に戻る手掛かりが得られた事か?といってもこっちのほうは時間が掛かりそうだけどな。
「ふーん、ファイトは結構思い通りにできたんじゃないの?」
残念だがあの試合はただただ相手が弱かったから勝てただけだ。
今の俺のデッキじゃどうやったって真面目に試合されたら負けるだろうな…カードパワーが違いすぎる。
それにあいつが弱くてもこっちの手札次第じゃ負けてた。
「そんなにギリギリだったんだ。それならもっと焦ったりしないの?」
勝ちは諦めないが、如何せん負けることには慣れてる。俺だって何度も大会に出てるんだから負けは覚悟してるさ。
と言っても闇のカードが出された時…あの時は内心終わったと思ったな。
<『獄』
「闇のカードの恐ろしさは今回で実感できた?」
そりゃあ嫌というほど実感したさ、
特に踏み倒しの参照元が増えてるのがヤバかったな。
「確か手札、エナジー、墓地だよね」
そうそう、元のフウラというか
というか二番目に恐ろしい強化点がここだな。
「二番目?聴いてる限りじゃ
あーそっちではないな。
そっちの方はまぁ許容範囲の改造だからよかったんだ。
正直元のフウラの対象が1体のみだったのが、全体になって使いやすさがグンと上がってて良かったな。公式も次
「聴いてる感じロックの方はほとんど問題なかったんだね…」
現代じゃ攻撃できない効果なんて似たようなカードがいくつもあったからな。
「ふーん…あぁ<焦燥の音盤 ガーチュント>とか?」
音盤シリーズの方はなぁ…自分の属性以外のアタックをできなくするんだが如何せん他のメタカード積んで出すこと自体制限した方が良いんだよなぁ。
まぁ安いおかげで5000円縛りで遊ぶ時とかにお世話になるけど。
「5000円なんて何が買えるの?!」
前の世界ならユウナの<
メアの<
一応別ベクトルでヤバいテーマはあるが…あれはゲームルールとやることが変わりすぎるからダメだな。
「そんなテーマあったっけ?」
そりゃReボードの悪名を広めた元凶その2のテーマだろ。
全てのTCGの中で最もイカサマが起こり、最もイカサマが難しく、最もイカサマが許されているイカレタTCGなんて悪名…本当止めてほしんだがな。
普通に遊んでる一般ファイターに迷惑が来てんだよあのカスが。本当なんであんな場所でイカサマやっちゃうんだよ…何でイカサマを広めるんだよ…何でイカサマ対策も普及させてるんだよ元凶その1め。
「その言い方だと読辻 サカイの知り合いに聞こえるけど…」
そりゃあアイツのせいで一時期疑心暗鬼に……俺は
お前は誰だ?
「…今夜はお開きとしようか」
そりゃ答えてくんねぇか。
「またね読辻 サカイ」
◆
「ボーっとしてどうしたんです?昨日夜更かしでもしたのですか?」
「あ、すいません店長」
時刻はお昼前、昨夜変な夢を見た気がするが何も思い出せない。
気を抜いていたが幸いなことに客はいなかった。
平日ということもあり客足は全くと言っていいほどない。
「しばらくは平和な日常でも満喫するか」
「平和な日常なんてつまらないことを言いますね、今週はイベントを多く開催しましょうか。当然イベントスタッフとして全てに出てもらいますよ」
店長がめんどくさい提案を挙げているが、どうせ拒否したとしても選択肢などないのだろう。
「変なイベントは開催しないでくださいね店長、せめてフォーマットを買える程度に抑えてください。じゃないとまた客足が遠のきますよ」
「この程度で去る客などラビリンスの客にはいません」
生存者バイアスなんじゃねぇのかそれは。
「はぁ、俺は今週は大会の予定が入ってるからそんなにイベント出られませんよ」
「先ほどのデッキのお披露目というわけですね、優勝できるといいですね」
店長はそう言って俺のデッキケースを見る。
朝の暇な時間、前のデッキを分解して新しく作り直した二つのデッキ。
「前のデッキよりカードパワーもコンセプトも良くなってるが…優勝できるかなんて分かりませんよ。手札事故起こしたら俺普通に負けますよ?」
そうして平和な日常が続くのだろうと思ったのもつかの間、ラビリンスのドアが開く。
「「いらっしゃいませ」」
店にやってきた客を見てつい目を見開く。
「おや、久しぶりに来ましたね。用事はもういいのですか?」
「うむ、ここしばらくは暇なのでな。またお邪魔させてもらうぞ」
店長と仲良く喋る少女の名は大蛇コタツ…昨夜別れたばかりの相手との思わぬ再会であった。
何のために生まれて
何をして生きるのか
分からなくとも決めるのは己自身だ
──忘却の戦士