「コタツ様がラビリンスに来るのは1ヶ月ぶりですね」
「うむ、ここ最近は護衛の二人が張り付いてて大変だったのじゃ」
「まぁ護衛がついていたら学校をサボることはできませんからね。そのお二人は昨夜のファイトで大丈夫だったのですか?」
「…何故知っておるかはいつも通りスルーするとして、まぁファイトには負けてしまったが一般市民を助けること自体はできておった。あれほどの気概があるならここに連れてきても良いかもしれぬな」
「それは遠回しにこの店が一般客向けじゃないと言ってませんか?」
「大方間違ってなどいないじゃろう」
やってきて早々、店の入口で繰り広げられる会話を遠くから眺める。
宝龍会の要人もラビリンスに来るんだなぁなどと思っていると、コタツがこちらに視線を向ける。
「ふむ、この店に店員を雇うという考えがあったのか」
「彼は8年ぶりに雇ったファイトが強いセカイ君です」
店長は余計な嘘情報を混ぜながら俺を紹介する。
「はい、数週間前に入ったアルバイトの黄泉使セカイです」
若干棒読み気味で言ってしまったが、それよりも気にすべき点がある。マクマの正体が俺だとバレないことである。
流石に着ぐるみで全身を隠して声まで変えたんだからバレないよな?
コタツは腕を組みながら俺の顔をジーっと見つめる。
「店長よ…本当に強いんだろうな?」
「腕は保証します」「強くねぇよ!」
ニッコニコで嘘を言うから、つい敬語を忘れてしまった。
前の世界じゃともかく、今の俺は確実に弱いと断言できる。なぜかと言われればRevoltが使えないからの一言に尽きるだろう。
Reボードに収録されている全てのカードには例外なくRevoltがある。
それが弱いか強いかは関係なく、『使える』と『使えない』という二つの状況を比べれば有利な側は明らかだろう。
ゲーム中2度しか発動できないRevoltであるが…たった1度のRevoltだけでも主導権を奪われてしまう。
これが普通の紙でのしばきあいだったら、こちらも戦況を見てRevoltを使って盤面をひっくり返すだろう。
しかし今の俺…この世界じゃ俺はRevoltが使えない。
「それならばファイトをするぞ。真か嘘か、どちらにせよファイトすれば分かることじゃ」
昨夜のことが思い浮かぶ。
俺は今からこいつのことを
それはそれとして昨夜と違って今ならば思う存分ファイトができる。
物は試しだ、新調したデッキの贄となってもらおう。
「仕方ない…ファイトするか」
「お主、仕方ないと言いながら笑っておるぞ」
俺は気づかないうちに笑っていたのか、これじゃあ
店の奥にあるファイトスペースに移動して立ち位置へ立つ。
「コタツ様、セカイは強いですから本気でやって大丈夫ですよ」
「ふむ、それならばお言葉に甘えるとしよう…セカイ、妾は手加減しないぞ」
コタツはデッキを取り出し迷いなくファイトボードにセットする。
俺もデッキを取り出そうするが、伸ばした手を止める。
「さーて、どちらを使うか」
手の先には二つのデッキケース。
それは前のデッキとギリギリ言えるような代物とは違う、明確なテーマがある二つのデッキ。
◆
「朝から仕事をサボって何をしているんです?」
店長はそう言って後ろから俺の作業を覗く。
「何って、デッキを組んでるに決まってるだろ」
時刻は朝の7時、こんな時間帯に来る客なんていないだろう。ましてやラビリンスに来る客なんて普段から滅多にいないからこうしてデッキを広げることができるし、遠慮なく素の喋り方ができる。
「今まで使ってたデッキはただの紙束だったからな。金も貯まった今カードを買ってデッキを新調すんだ」
「ほう…デッキの新調ですか。いいですね」
「けど目の前に広げられたカード達…ほとんどテーマバラバラですね」
店長の言う通りテーブルには多い順に<
「…これは前のデッキですか?」
「いや流石にこんなにテーマごちゃ混ぜして作ってるわけないだろ」
以前使っていたデッキはバランスに注意しながらこの中のカードを入れ替えてファイトをしていた。
「と言っても<
「まぁこのカード達の1/3が<
「ストレージに大量にあったもんで、つい大量に買ってしまってな…まぁ今後デッキを組む上で非常に助かるから」
この先いくつもデッキを作るならばこれほどの種類と数は絶対に必要なのだ。
「そうですか、まぁ
「それは許せねぇが…今はそんなことよりもデッキのことだ」
Revoltが使えない今、Revoltがないことを前提としたデッキを組まなければならない。
今まで買い込んだカード達は前々から考えていたデッキに必要なパーツだ。
本当ならもっと良いデッキが思いついていたが必要なパーツが軒並み高いか存在しない。
Rのカードでも数千円するカードがあり揃えるのに苦労した。特に汎用性の高いトラップ周りが一番高かった。
考えていたデッキは二つ…<アンブレイダー>と<
前者のデッキは以前のデッキでも使っていた無限アタックをしながらATKを上昇させ続けるギミックを目指す。あのギミックは<
コンボに必要なパーツ数が多いというデメリットは
そして後者のデッキ…<
「さて、組みあがったはいいものの…一人回しは家に戻ってからだな」
壁にかけられた時計を見るとデッキを組み始めてから既に3時間も経っていた。
ラビリンスのショーケースやストレージを漁りながら良いカードがないか探しながら組んでいたら思っていたよりも時間がかかった。
「サボりは十分に楽しめましたか?」
またもや後ろから声をかけられて少し驚く。
「あぁ、満足いくものが組めた」
「本当に満足できましたか」
「前のデッキと比べれば断然な」
本音を言えばURやLRなどといった切り札級のカードが欲しかった所だが…数BOX買っても出る気配がない。
調べたところ封入率は1カートンに1枚あればいい方らしい…というかSRだとしても1BOX2~3枚ほどという地獄の封入率。
しかし人によってはパックをバラで買ったらURを2枚引きしたとかいう人もいるらしい。
「あーあ、満足出来たのならこのボーナスは要らないようですね」
店長はそう言って2枚のカードをひらひら見せる。
「いるいるいる!?」
その2枚のカードは<アンブレイダー>と<
テキストを見れば明らかにカードパワーの違う2枚のカード。1枚だけだろうが関係ない。
「そうですかそうですか…ではこのボーナスをあげる代わりに今後1回だけ私の命令に従ってもらいましょうか」
「あぁ、勿論」
2枚のカードを手に取る。
もう一度デッキを広げて調整し直す。
その様子を店長は後ろから見守り、サカイに聞こえないほどの声でつぶやく。
「さて…コタツ様とサカイ…エクリプスカードの担い手とただの紙を握る者…どちらが勝つでしょうか」
祖は全てを統べた─
祖は全てを壊した─
祖は─の最期である
──古龍海 ドラグニル