Fate/extra days   作:俯瞰

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遅ればせながら、あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。


ーinterlude/3ー

 

 

「あぁ……」

 

 口から漏れ出た苦悶。手にしていたペンが指の隙間からかたりと零れ落ちる。

 静かな空間にその音だけが嫌に響いた。カーテンのわずかな間から射し込む陽光に照らされた大気中の塵がきらきらと煌いているのは突っ伏した状態で視界に捉える。

 あとで換気でもしようか、そういえば掃除したばかりだって言ってたっけなんて考えていれば、机の反対側から聞こえてきた声に耳が傾く。

 

「もうギブアップかね? キミはもっと忍耐力の高い人間だと思っていたが、私の思い違いだったか」

 

「お生憎様で、ここ最近は自分自身の評価を再確認している真っ最中です」

 

「そうか、有益なモノになることを祈ろう」

 

 これっぽっちも心無い言葉、むしろ嫌味ぷんぷんだったけど、まあ時計塔の粘着質な連中に比べればこの人の、ロード・エルメロイII世の言動には一定した信頼をおいてはいるから、苦笑する程度に留めておく。

 現代魔術科(ノーリッジ)の本部に缶詰めになって早二日。どうして私がここに居るのかといえば、それは先日の跳開橋の一件に他ならない。アレのおかげで協会は揉み消しに一苦労。

 あの追走劇は衆人環視の中でかなり騒ぎになったし、警察関係の御役所との折り合いやらなんやらで時間を喰っている内に教会の連中がここぞとばかりに出張ってきて、目撃者の記憶抹消に手を割き、結果的に教会に貸しを作る形で事態は終息。

 

 終結後、責任はあの事件に絡んだ生徒達の中で、もっとも被害を被り、もっとも被害を拡大させるに至った当事者である私、遠坂凛へと集中したわけで。

 

「先生、ひとつよろしいでしょうか?」

 

「なにかね、言いたまえ」

 

「この定理部分の回答としては術式に値する媒体として、価値そのものをブースターとして活用、属性ごとの強化付与への機転を促す流れでしょうか?」

 

「確かに異なる属性の価値を最大限利用することも、利用出来ることも魔術師としては箔が付くだろう、しかしそれも其々の特性や適性に基づく理論であり、今キミが口にしたことが必ずしも正解だと言い難い。ーーーということだけ覚えておきたまえ」

 

 ソファーに身体を横倒し、目元を腕で伏せているがその眉間にはあいも変わらず皺が寄っていることだろう。気持ちは分かるんですけど、私だって辛いんですからね。鉱石科(キシュア)の方で散々こき使われたんですから。

 この前の書庫の整理に続きこの始末。ロード・ミスティールは今回は関わらず、その分鉱石科と現代魔術科の方へとお鉢が回ってきた次第である。

 この前は鉱石科。

 そして今は二日に渡って現代魔術科の方でロード・エルメロイII世とのこの科目に対する取り組みの姿勢と意見と、見解と様々な部分で一蓮托生に勉学に励んでいる。

 

 ……これって遠回しに、いやすごく分かりやすく現代魔術科への嫌味。というかロード・エルメロイII世への嫌がらせじゃないのかしら? 現にロードはもうお疲れのご様子だし。

 そこで、お邪魔しているロードの私室に響くノックの音。「どうぞ…」と疲労の溜まった声音でロードが告げれば、静かに入ってきた人物と目が合う。

 

「失礼します…、紅茶を持ってきました」

 

 ボードに乗せたポットを持って入ってきたロードの内弟子のグレイ。そっか、この子が来るってことはもうすぐ講義かしらね。

 ふふ……気づけば朝ですものね、あれおかしいわね…眠った記憶が無いような。深く被っているフードから溢れた瞳には気遣いの色が見えた。ああ、人ってこんなにも優しいものだったのね。私は汚れていく一方だもの。

 

「ああ、すまない。そこに置いておいてくれ」

 

「ごめんなさいね、朝っぱらからこき使っちゃって」

 

 昨日も昨日で色々と世話を焼いてくれたし、ロードがいるから当然かもしれないけどついでに私の分もあれこれとやってくれるから感謝してもしきれない。隅のテーブルの方で私とロードの分のカップに紅茶を淹れている背中に感謝を告げてから、目の前の課題に目を向ける。が、進まない…。

 ああダメだ、このままやっても進まない。一回気分を変えたいわね。脇に置いてくれたカップに手を伸ばして一口含む。背凭れに身を預けて一息つく。

 

「師匠、そろそろ」

 

「……わかっている、時間か。 ミス・トオサカ。まさかとは思うが欠席などはするまい。申請を受理した覚えは無いのだが」

 

「はい、分かっております。行きますよ」

 

 二人揃ってグレイの淹れてくれた紅茶を一気に流し込む。身体全体がぽかぽかと暖まるのを気休め程度に感じながら立ち上がる。眠気も幾らか覚めたような気はするけどまだ足りない。「ちょっと顔を洗ってきます」と告げてからロードの部屋をあとにする。手洗い場に少し駆け足で向かい、顔をさっぱりと洗い流す。そこであらかたの化粧を直していれば数刻前よりも目が冴えてくる。

 よし、まあこんなものかしらね。

 深呼吸を数回重ねてから講義に向かおうと手洗い場の出口へと足を向ければ。

 

「あ!」

 

「げっ」

 

 思わず声が出てしまった。

 唐突に目の前に現れた見知った顔に心が隠せなくて普通に晒してしまった。当然そんな私の表情を視界に収めている彼女は、

 

「あー! ひっど! リンちゃん今『うげっ、こいつかよ』って顔したでしょー!?」

 

 あーもう朝っぱらからうるさい。

 だって鉱石科の方でも顔合わせてるのに、こっちでも顔合わせる羽目になるんだから、そりゃ知り合いには違いないんだけど、今の私の状態で会うともう…耳に響くのよこいつの声。徹夜の身には辛いわ。

 

「あーはいはい、悪かったわよイヴェット。早くしないと講義に遅れるわよ」

 

 絡まれるのも面倒なので早々に立ち去る。どうせあとで会うのは確定してるけど、今だけは勘弁なのよね。これから待ち構えているであろうあの女に備えて今は出来るだけ体力を温存しておかないと。

 

 どうせ何か言ってくるに決まってるんだから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

Fate/extra days

ーーーinterlude/3ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちになって」

 

 今日の講義内容は、魔術界で区分けされているそれぞれの属性の変性と、そこから発展していく新しい術式構築の理論を用いて、学生ごとに異なる見解を提示していくいわば発表会のようなものだった。二週間に一回。もしくは月一で行なわれる行事で、私も一応事前に予習と対策、発表内容に関しては模索してきたつもりだったんだけど。

 

「……どうぞ、ミス・ルヴィアゼリッタ」

 

 スッと、片手を上げて私の発表内容を遮ってきやがった金髪のお嬢様は、私の言葉を受けて静かにゆったりと起立すると。

 

「ルーン魔術への置換に関してはまあ及第点としましょう。ですがそこから派生するに至って詠唱にアクションを起こすにしても「一工程(シングルアクション)」だからこそ活かされるルーン魔術そのものを少々疎かにしていませんこと? それでしたら、ミスタ・フラットが得意としている魔術の方がよほど有意義に活用されていますわよ」

 

「確かに、ここまで説明だとそう捉えられても不思議じゃないかもね。 でも、ここをこうしてみればーーー」

 

「なっ、貴女正気ですの!?」

 

「あら、これでも上手く式としては噛み合っているのよ。 なんなら見せて差し上げましょうか?」

 

 ふんだ、悔しがってる悔しがってる。

 この遠坂凛がなんの実証もなく、ここでこんなことをペラペラと話すと思う? ちゃんと自身の手で検証済みよ。苦虫を潰したような表情を浮かべているルヴィアは、

 

「ふ、ふん。ですが、それでもやはり魔術としては愚策中の愚策。 使う用途があったとしても対人戦向きではありませんわね」

 

「戦闘に対しての魔術が全てではないわ。現にそれ以外の神秘がこの世には溢れているもの。 何処かの誰かさんのようにすぐに物理的な手段と行動に頼る魔術師では、いざという時の対処の仕方も変わってくるでしょうね」

 

「…あらあらあら、どうして私を見つめながら言うのかしら。困りましたわ、私、勘違いをしてしまいそう。 ですがまあ一理あります。私の知る何処かの誰かさんも自分では手も足も出せず弟子に色々と丸投げしたまま、無様に雑務に追われていたりしますものね」

 

 あらあら、それって誰のことかしら?

 最近色々ありすぎてちょっと脳がパンク仕掛けているのよねー。「ハッ…」と笑いを零しながらこっちを見てくるのやめてくださらないかしらね、このアマっ……。

 そこの紫寄りのピンクとフラット。なんなのよそのワクワクした顔は。腹立つからガンドでもお見舞いしてやろうかしら。

 

「……自分だって気絶してたくせに…」

 

 知ってるのよ私。

 アンタがあの時無様にのびてたってね。

 気がついてみたらもう事件は終わっていてすっかり蚊帳の外だったものね。むしろこいつは責任だなんだと揉みくちゃにされるよりも、中途半端に関わってた挙句に最終的に全然関係のない立ち位置に置かれてた方がよっぽど堪えそうな気がするのよね。

 

「な・に・か、言いまして? ミス・トオサカ」

 

「いいえ、別になにも。 あ、そうだわルヴィアゼリッタ、実は最近机の上で物書きに励んでいたせいか、すっかり身体が鈍ってしまって困ってるのよね」

 

「奇遇ですわね。 実は私も多少持て余しておりましたの。 良い対戦相手でも現れてくれないかと悶々としておりました」

 

「じゃあ、ーーーいいわよね?」

 

「ええ、もちろん」

 

「「ーーー戦い(殺り)ましょうか」」

 

 

 

 そこから先は簡単だった。もはや授業そっちのけで、スラー近隣にある修練場に足を運び。バックに詰め込んであった動きやすい服装に身を直してから、正面に仁王立つ(ルヴィア)に神経を注ぐ。

 

「いっけー! ふたりともー!」

 

「はいはーい、賭けるなら私が仕切ってるからこっちにきてねー」

 

 外野(フラット)がうるさい。

 なんで賭けてんのよ。そんなイヴェットの掛け声によって見物にきた生徒たちが次々に彼女の方へ歩み寄っては手から数枚の札を用意してあったらしい袋に入れていく。

 外出中の狼くん(スヴィン)辺りがいたら幾らか落ち着かせて……いや、あっちもあっちで結構悪ノリする方だから意味ないか。むしろエルメロイ教室の方じゃ古株だから、周りを流れに促す材料になりそうだ。

 イヴェットのやつ、なんだかんだ言って賭け金丸ごと持っていくつもりでしょ。アイツの手の内は読めてんのよ。ていうか。

 

「いいんですか、先生? 止めなくて」

 

 グレイの真横。ロードは葉巻を蒸しながら静かにそこに控えていた。流石に来るとは思ってなかったから結構意外。ていうか教室を飛び出てこんなところに来た時点で色々と覚悟はしていたのに。講義も終了間近だったからお許しが出たという解釈しておこう。

 

「たまには悪くない。 私もここのところ缶詰めだったのでね、まあちょっとした気分転換というやつだ」

 

「そうだよカウレス君! せっかくリンちゃん達がバトってるんだから観なきゃ損だよ!」

 

 手を振りながら「頑張ってー! 」と応援をしてくるフラットを一瞥してから目線を正面に戻す。腕を組んでこっちを見つめていたルヴィアが構えを解いた。

 さっさと来なさいってことかしら!お望みどおり行ってやろうじゃない。ロードの言葉を借りるならちょっとした気分転換になるでしょうしね!

 

「ーーー、ふっー!!」

 

 吐息を零し、同時に脚へと強化付与。

 踏み出した床が若干砕けた感触を覚えながらも、まずは正面突破。腰を屈めそこから乗ったままの速度を維持して右脚をスライドするようにルヴィアの足元へと突き出す。

 けれど、一切動じる様子のないルヴィアが一瞬視界から失せた。不意に差し込んだ影。

 上か! ちらりと目を揺らす。私の足技がかかる寸前に腕に強化を付与し一気に地面を片腕だけで跳ねたのだ。そこから宙返りをしてみれば、ルヴィアの伸びた片脚が私の顔面目掛けて上空から殺到する。

 

「ーーはぁっ!」

 

「ちっー!」

 

 身体を横に捻る。直後に轟音と共に亀裂から瞬時に床が凹んでみせた。ふわりと背中から身体が宙に浮き上がる。

 随分容赦のない一撃かましてくれるじゃない。ならこっちだって! 態勢を整える前に仕掛ける。両腕をボロく崩れた地面に固定し、そこから一気に浮き上がらせた両脚の先端をルヴィアに繰り出す。

 くっそ、ダメか、避けられた!

 後方へ身体全体を傾け、ギリギリのところで回避したルヴィアを視界に収めながら、私はその勢いを利用して距離を取らんとバク転。地面に両足を着けた瞬間に今度はルヴィアが正面から突っ込んできた。

 

「ふっーーー!」

 

 一気に突き出された掌底が鳩尾に喰い込む。がはっ、いっつ…! 空気が臓腑から抜ける。意識が一瞬ぐらついてしまった。そこへ追撃を加えようとするルヴィアの姿を捉え、歯を食いしばった。やれてばっかでいられますかっての! ルヴィアの肘打ちが迫る。

 そこに合わせるように、私もありったけの魔力を注いで強化した肘打ちを同時にルヴィアの肘へと叩き込んだ。 ありえないほどの重音が場に響き渡る。直後、顔を歪めたルヴィアへと素早く接近し右拳を鳩尾に叩き込む。

 

「がっ…」

 

 ルヴィアの足元が崩れる。支えていた身体の力が抜けて、ってーーー!

 即座に引こうとした右腕がガシッと両手で掴まれた。少しだけルヴィアの口元が綻ぶように曲がったのが見えた。まさかこいつ、これを狙ってたっての!?

 

「ふっ……はあああ!!」

 

 一瞬の微笑みのあと、慣れた足取りで瞬時に身体に密着され半身を封じられる。やばいという思考が追いつく間も無く、ふわりと足が浮き上がり、そこから一気に身体を引っ張られ、すんなりと抵抗できずに投げ飛ばされた。ルヴィアことだから、どうせジャーマンスープレックスでも繰り出してくるだろうと構えていたってのに!

 ダメだ、勢いが強すぎるっ!

 瞬時に受け身を取ろうとするが、ここでアイツが呑気に私が身体を打ち付けるのを黙って見ているなんてない。背中から急降下していく中で首をルヴィアに向ける。やっぱり猛スピードでこっちに近づいて来る。

 

 ならこっちはっーーー!

 

 両腕に魔力を灯す。床に突き出した手がしっかりと浮いたままの肉体を支え、勢いを削ぐ。そこから曲げた腕をバネのようにして身体全体をしならせる。

 流石のルヴィアもこの急展開を予想していなかったのか、庇うように前面に出された腕を伸ばした両足で絡め取った。

 

「おりゃあああああっっーーー!!」

 

 咆哮を共に、魔力を全体に注ぐ。

 絡め取ったルヴィアの片腕を軸にそのまま真横に吹っ飛ばした。その刹那にルヴィアの腕が私の脚を掴もうと伸びてきたけど、すんなりと回避してやった。

 あ、ごめんね、カウレスくん。別に狙ってあなたのいる方向にそいつを吹っ飛ばしたわけじゃないのよ。「うわぁっ!」と声がして良い感じに飛翔したルヴィアを、真横に飛んで避けていた彼に心の中で謝罪をしてから起き上がって呼吸を整える。

 多少の窪みを壁に刻んで、ゆっくりと起き上がったルヴィアも呼吸を整えていた。ただしお互いに視線はそらさずに。

 いいわね、まだやろうっての。

 まあ、私も全然終わる気なんてないんだけど。むしろこっからが本番よ。互いにまだ怪我だってしていないし、前哨戦(ウォーミングアップ)としてはよかったわよ。

 

「そろそろよろしくて? トオサカリン」

 

「そろそろもなにも、こっちはいつでもオーケーなんだけど?」

 

 瞬間、足が動く。互いの拳が伸びる。

 こっからが腕の見せどころよ!!

 

「うん、いいねぇ。 女の友情って……」

 

「だよねぇ。 リンちゃんもルヴィアちゃんも仲良しだよねぇ」

 

 イヴェット・フラット(そこのふたり)! うるさい!

 

 

 

 

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