ようこそ伝説の超生徒がいる教室へ   作:シュユ

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第3話

――綾小路清隆視点

 

 四月のDクラスは、分かりやすく緩んでいた。入学してすぐに10万ポイントを与えられ、校内の施設は自由に使える。教師たちは最低限の説明しかしない。授業中に少し私語をしても、机の下で携帯を触っても、居眠りをしても、誰かが大声で叱ることはなかった。授業担当の教師は黒板に文字を書き、教科書を読み、決められた範囲を淡々と進めていく。普通の学校なら注意されてもおかしくない場面が何度もあったが、この学校の教師たちは、それを見ていないかのように扱った。

 

「なあ、今日の昼どうする?」

 

「食堂行こうぜ。俺、昨日のカツ丼また食いたい」

 

「俺、昨日服買ったわ」

 

「また?」

 

「10万あるんだぞ? 余裕だろ」

 

 授業中にも、池や山内の小声はよく聞こえた。最初は周囲も多少気にしていたが、教師が何も言わないと分かると、だんだん遠慮がなくなっていく。須藤は机に伏せていることが増えたし、女子の何人かも授業中に小さく携帯を確認していた。もちろん、平田や櫛田のように真面目に受ける生徒もいる。堀北は最初から最後まで姿勢を崩さない。だが、クラス全体としては、どう見ても緩んでいた。

 

「先生、何も言わないな」

 

 ある授業中、池が小声で言った。

 

「そういう学校なんじゃね?」

 

 山内も同じように小声で返す。

 

「自由ってことか」

 

「いい学校じゃん」

 

 その言葉に、オレは少しだけ違和感を覚えた。自由という言葉は便利だ。だが、注意されないことと、許されていることは同じではない。教師が何も言わない理由を、誰も深く考えていないように見えた。

 

「あなたはどう思う?」

 

 隣の堀北が、前を向いたまま小さく聞いてきた。

 

「何についてだ?」

 

「この授業態度よ。教師が何も言わないことも含めて」

 

「自由な校風なんじゃないか?」

 

「本気で言っているの?」

 

「半分くらいは」

 

「残り半分は?」

 

「何か記録されている可能性はある」

 

 堀北は少しだけ目を細めた。

 

「そう考える方が自然ね」

 

「茶柱先生も、問題を起こせば記録されると言っていた」

 

「ええ。けれど、あの言い方だと、問題だけが記録されるとは限らないわ」

 

「授業態度もか」

 

「この学校なら、十分ありえるでしょう」

 

 堀北はそう言って、再びノートに視線を戻した。

 

 そんな中で、教師が注意しないこととは別の意味で目立っていたのが悟空だった。授業中の私語や携帯は、まだ普通の生徒の範囲に収まる。だが、早弁の規模が普通ではなかった。机の下に隠しているつもりなのかもしれないが、膝の上には弁当が三つ並んでいる。ひとつ食べ終えると、当たり前のように次の包みを開ける。しかも、匂いの強い唐揚げ弁当だった。

 

「……なあ、山内」

 

「なんだよ」

 

「あいつ何してんの?」

 

「早弁じゃね?」

 

「授業中だぞ」

 

「見りゃ分かるよ」

 

 池と山内が小声で言う。前では教師が黒板に向かって説明を続けている。悟空の早弁に気づいていないわけではないだろう。匂いが教室の後方まで届いている。だが、教師は一度も振り返らなかった。

 

「いや、先生も何か言えよ……」

 

「小声で言うなよ。聞こえたら俺たちまで巻き込まれるだろ」

 

 山内はそう言いながらも、明らかに弁当の方を見ていた。

 

「悟空、それどこで買ったんだよ」

 

「うっせぇ!邪魔すんじゃねえ!」

 

「えぇ……お前、初日でポイントほぼ使い切ったはずだよな」

 

 悟空は悪びれる様子もなく食べ続ける。早弁というより、授業中に食堂の延長をやっているようなものだった。しかも一時間目からそれが始まることもある。昼休みになる頃には、悟空の周辺だけ小さな食後の空気ができていた。

 

「彼、本当に授業を受けに来ているのかしら」

 

 堀北が小声で言った。

 

「少なくとも、食事はしているな」

 

「見れば分かるわ」

 

「なら聞かないでくれ」

 

「皮肉よ」

 

 堀北は冷たい声でそう返した。

 

 ベジータもまた、別の意味で目立っていた。授業中は腕を組み、教師の説明を聞いているのかいないのか分からない顔をしている。何かにつけて妙に偉そうな態度を取るが、教師が反応しないので、独り言のように流れていくことが多かった。

 

「オレはサイヤ人の王子なんだ!なぜ今更こんな授業を…!」

 

「今の、先生に言ったのか?」

 

 池が小声で言う。

 

「知らねぇよ。黒板に向かって言ったんじゃね?」

 

「黒板に?」

 

「王子って大変なんだな」

 

「そういう人だ…!父さんという人は…!」

 

 山内の雑な感想に、トランクスも何か言っている。

 

 ブロリーは意外にも、授業中は比較的静かだった。椅子が限界に近い音を立てることはあったが、本人は低出力で座っている。教科書を見ているのか、ただ開いているだけなのかは分からない。だが、悟空が弁当を広げた時や、どこかで「カカ」と聞こえる単語が出た時には、わずかに反応することがあった。

 

「カカロットォ…?」

 

「今、何に反応したの?」

 

 堀北が小声で聞く。

 

「分からない」

 

「あなた、最近ずっと分からないと言っているわね」

 

「分からないものは分からない」

 

「便利な言葉ね」

 

「便利な顔の次は、便利な言葉か」

 

「事実でしょう」

 

 堀北は涼しい顔でノートを取り続ける。

 

 四月は、そのまま過ぎていった。遅刻する者、授業中に喋る者、携帯を見る者、居眠りする者。教師たちは基本的に何も言わない。悟空の早弁だけは、周囲の生徒が小声で突っ込むほど異常だったが、それすら教師は見て見ぬふりをしていた。生徒たちはだんだん、この学校は本当に自由なのだと思い始める。少なくとも、Dクラスの多くはそうだった。

 

「このクラス、大丈夫なのかしら」

 

 四月の終わり頃、堀北がそう呟いた。

 

「何についてだ?」

 

「全部よ。授業態度、生活態度、ポイントの使い方。どれを見ても、将来の優秀な人材には見えないわ」

 

「まあ…だが堀北がそこまで気にすることか?」

 

 オレがそう言うと、堀北は少しだけこちらを見た。

 

「この学校が実力を評価する場所なら、なぜ私がこんなクラスに置かれたのか疑問なのよ」

 

「茶柱先生は、詳しいことは生活していく中で分かると言っていたな」

 

「ええ。そして、そろそろ何か分かる頃かもしれないわね」

 

 堀北の言葉は、ただの予感というより、これまでの違和感をつなげた結果のように聞こえた。無料商品、無料定食、教師の不自然な無干渉、記録という言葉。答えまでは分からない。だが、何かがあるということくらいは分かる。

 

 そして、5月1日が来た。

 

 その朝のDクラスは、いつもより少しだけ浮ついていた。理由は簡単だ。新しい月になったからだ。生徒たちは、当然のように新たな10万ポイントが振り込まれると思っていた。池や山内は朝から携帯を開き、何を買うかという話をしている。

 

「今月はさ、ちょっと高い服買おうと思ってんだよ」

 

「俺はゲーム系かな。あと食堂で高いやつ食う」

 

「悟空は?」

 

「美味いもの」

 

「それしか無いのかよお前……まず先月いくら使ったんだよ」

 

「ま、そんなことはどうでもいいさ。オラ腹減っちまって☆」

 

「どうでもよくはないだろ」

 

 池が笑う。悟空も特に気にしていない様子だった。近くでは山内が端末を操作しながら、ポイント残高を確認している。

 

「なあ、振り込みって何時なんだ?」

 

「もう入ってるんじゃね?」

 

「マジ? 見てみるわ」

 

 山内が携帯を操作する。数秒後、表情が止まった。

 

「……あれ?」

 

「どうした?」

 

「入ってない」

 

「は?」

 

「いや、だから、ポイントが入ってないんだよ」

 

「更新遅れてんじゃね?」

 

 池も携帯を確認する。すぐに同じような顔になった。

 

「……マジで入ってない」

 

 その声が教室に広がる。あちこちで生徒たちが携帯を開き始めた。櫛田も確認し、少し困ったような顔をする。平田も画面を見て眉を寄せた。

 

「私のところにも入ってないよ…」

 

「僕もだ」

 

「嘘だろ? 毎月10万って話じゃなかったのかよ!」

 

「先生、何も言ってなかったよな?」

 

「振込ミスじゃね?」

 

「学校側の不具合とか?」

 

 教室は一気に騒がしくなった。10万ポイントが入ると思って使っていた生徒たちにとって、振込額ゼロはかなり大きい問題らしい。中には、すでに先月のポイントをほとんど使い切っている者もいるようだった。

 

「堀北は?」

 

「ゼロよ」

 

「やはりか」

 

 堀北は携帯を閉じた。表情に大きな変化はない。だが、教室のざわつきを見て、少しだけ冷めた目をしていた。

 

オレは教室全体を見る。池は焦り、山内は携帯を何度も更新し、須藤は苛立ったように机を叩いている。悟空は状況を理解しているのかいないのか分からない顔で、何か食べ物を探していた。ベジータは端末を見て固まっている。トランクスは何か言おうと立ち上がった。

 

「なあ、誰か先生に聞きに行こうぜ!」

 

「僕もそう思います」

 

「職員室ってどこだっけ?」

 

「僕が行きます」

 

「早速職員室に出掛ける!後に続け山内!」

 

 トランクスはまた流されていた。

 

 その時、教室の扉が開いた。茶柱が入ってくる。いつも通りの冷めた表情だった。その後ろには、なぜかパラガス校長もいた。校長が教室に現れたことで、騒がしかった生徒たちの声が少しだけ弱まる。

 

「全員席につけ」

 

 茶柱の一言で、教室はようやく静かになった。完全に落ち着いたわけではないが、少なくとも声は小さくなる。パラガス校長は教卓の横に立ち、妙に満足そうにDクラスを見渡していた。

 

「Dクラスのみんな、ご機嫌は如何かな?」

 

「校長。余計な前置きは不要です。説明は私が行います」

 

 茶柱は淡々とそう言い、黒板に大きく数字を書いた。

 

 0

 

 白いチョークの数字が、教室の前に置かれる。

 

「お前たちの今月のプライベートポイント振込額だ」

 

「は?」

 

 池が声を漏らした。

 

「いやいやいや、先生。ゼロってどういうことっすか?」

 

「言葉通りだ。今月、お前たちに振り込まれるポイントはない」

 

「なんでだよ! 毎月10万ポイントって話だっただろ!」

 

「私は、毎月10万ポイントが無条件で支給されるとは一言も言っていない」

 

 教室がさらにざわつく。

 

「そんなの詐欺じゃねぇか!」

 

 須藤が声を荒げる。

 

「詐欺ではない。説明を聞いていなかったお前たちの問題だ」

 

「聞いてたって分かんねぇだろ!」

 

「分からないまま浮かれていたのはお前たちだ」

 

 茶柱の声は冷たい。怒っているというより、最初からこうなることを予想していたようだった。

 

 パラガス校長が横から何か言おうとする。

 

「やっと能天気なお前らでも飲み込めたようだな」

 

「校長。まだです」

 

「ゑ?」

 

「まだです」

 

 茶柱は校長を一度だけ横目で見たあと、説明を続けた。

 

「この学校では、生徒個人ではなくクラス単位で評価が行われる。各クラスにはクラスポイントが与えられ、そのポイント数に応じて、毎月のプライベートポイントが支給される仕組みだ」

 

「クラスポイント……?」

 

 平田が呟く。

 

「1クラスポイントにつき、100プライベートポイント。入学時点で、お前たちDクラスには1000クラスポイントが与えられていた。だから4月には10万プライベートポイントが支給された」

 

「じゃあ、今月ゼロってことは……」

 

 櫛田の声が小さくなる。

 

「Dクラスの現在のクラスポイントはゼロだ」

 

 教室が止まった。

 

 さっきまで騒いでいた生徒たちも、すぐには言葉が出ないようだった。1000あったポイントが、ひと月でゼロになった。その意味を理解するのに、少し時間がかかったのだろう。

 

「ど、どうしてゼロなんですか?」

 

 平田が静かに聞いた。

 

「分からないのか?遅刻、欠席、授業中の私語、携帯電話の使用、居眠り、授業妨害、飲食、その他生活態度の悪さ。お前たちの行動はすべて評価対象だ」

 

「飲食……」

 

 何人かの視線が悟空に向く。

 

「考えたなチキショー!!オラおめえを絶対許さねえええ!!」

 

「いや、今そこは黙ってろよ!」

 

 池が思わず突っ込んだ。

 

「さらに、校内での問題行動も記録されている。幸い、施設破壊や退学処分に至る行為は未然に防がれているが、危険行為として報告されたものもある」

 

 茶柱の視線が一瞬だけブロリーの方へ向く。ブロリーは低く反応した。

 

「なんだぁ…?」

 

 パラガス校長が横で咳払いをする。

 

「全くお前達は危機管理能力が無さすぎる」

 

「校長」

 

「んん?」

 

「あなたは管理者としての報告書を提出してください」

 

「ゑゑ!?」

 

 茶柱は完全に無視して黒板へ向き直った。

 

「この制度をSシステムと呼ぶ。学校はお前たちの行動、成績、生活態度、協調性、問題行動などを総合的に評価し、クラスポイントとして反映する。高い評価を受ければポイントは増え、低い評価を受ければ減る。今回、お前たちは一ヶ月で1000クラスポイントをすべて失った」

 

「そんな……」

 

 櫛田が小さく呟く。

 

「待ってください。つまり、今月は全員ポイントなしで生活しろってことですか?」

 

 平田が聞く。

 

「そうだ」

 

「でも、もうほとんど使っちゃったやつもいるぞ!」

 

 池が焦ったように言う。

 

「無料の商品、無料の食事、寮。最低限の生活はできるようになっている」

 

 その言葉で、堀北がわずかに目を細めた。前に見た無料商品と山菜定食の意味が、ここでつながる。学校は最初から、ポイントが尽きる生徒が出ることを想定していた。

 

「やっぱり、そういうことだったのね」

 

 堀北が小さく言った。

 

「予想通りか?」

 

「完全ではないわ。でも、無料制度の意味はこれで分かった」

 

 茶柱はさらに続ける。

 

「そして、もう一つ重要なことを伝えておく。この学校の進学率、就職率がほぼ100パーセントという説明に嘘はない。だが、その恩恵を最大限に受けられるのは、卒業時にAクラスに所属している生徒だけだ」

 

「Aクラスだけ……?」

 

「そうだ。希望する進学先、就職先への推薦、支援。それらはAクラスで卒業した生徒に与えられる。Dクラスのまま卒業しても、同じ恩恵は受けられない」

 

 教室の空気が変わった。

 

 10万ポイントが入らないという目の前の問題よりも、三年後の進路に関わる話の方が重い。池や山内も、さすがに笑っていられない顔になった。須藤は舌打ちをし、櫛田は不安そうに平田を見る。平田は何かを考えるように視線を落としていた。

 

「じゃあ、俺たちはAクラスを目指せってことか?」

 

 須藤が言った。

 

「目指すかどうかはお前たちの自由だ。ただし、AクラスとDクラスの差は、今この瞬間にも広がっている」

 

「他のクラスは何ポイントなんですか?」

 

 平田が聞く。

 

 その問いに、茶柱は特に驚いた様子も見せなかった。最初からその質問が出ることを分かっていたのだろう。教卓の横に置いていた筒状のケースを手に取ると、中から一枚の大きな紙を取り出した。

 

「いい質問だ、平田。口で説明するより、見せた方が早いだろう」

 

 茶柱は黒板へ歩き、その紙を磁石で貼りつけた。

 

「よく見ろ、地獄へ行ってもこんな面白い数字は見られんぞ」

 

 パラガス校長がそう言うと、教室中の視線が、そこへ集まる。

 

 紙には、各クラスの現在のクラスポイントが記されていた。

 

 Aクラス 940ポイント

 Bクラス 650ポイント

 Cクラス 490ポイント

 Dクラス 0ポイント

 

 誰かが息を呑む音がした。

 

 数字は、あまりにも分かりやすかった。上から順に、A、B、C、D。まるで最初から決められていた序列を、そのまま紙に写しただけのようだった。

 

「嘘だろ……Aクラス、940も残ってんのかよ」

 

「Bも650……Cだって490あるじゃん……」

 

「なんでDだけ0なんだよ!」

 

 池や山内の声が飛ぶ。須藤も不満そうに舌打ちした。櫛田は困ったように周囲を見回し、平田は黒板に貼られた数字を真剣な表情で見つめている。

 

 堀北は黙っていた。

 

 だが、その横顔は明らかに険しくなっていた。単にDクラスだけが損をしたという話ではない。今、目の前に貼られた紙は、この学校の構造そのものを示していた。

 

「これで分かっただろう。お前たちDクラスだけが減点されたわけではない。他のクラスも、4月の行動に応じてクラスポイントを失っている」

 

 茶柱は淡々と言った。

 

「だが結果はこの通りだ。Aクラスは940。Bクラスは650。Cクラスは490。そしてDクラスは0。つまり、今月お前たちに支給されるプライベートポイントは0ということになる」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 平田が声を上げた。

 

「じゃあ……最初は全クラス一律で1000ポイントあったってことですよね? それなのに、ここまで差が出たってことですか?」

 

「そうだ」

 

 茶柱は短く答えた。

 

 その瞬間、教室の空気がまた少し沈んだ。

 

 全クラスが同じ条件で始まった。そこから1ヶ月で、この差がついた。そう考えれば、Dクラスの0という数字はただの失敗ではない。4月の1ヶ月間、このクラスが学校からどう評価されたのかを、これ以上ないほど分かりやすく突きつけている。

 

 だが、オレが気になったのはそこだけではなかった。

 

 A、B、C、D。現在のクラスポイントは、綺麗にその順番通りに並んでいる。もちろん、偶然という可能性もある。4月の1ヶ月間で、たまたまAクラスが最も減点が少なく、Bクラスがその次、Cクラスがその次、Dクラスが最下位になった。そう考えることもできる。

 

 だが、この学校がそんな偶然に頼るとは思えなかった。

 

「先生。つまり、このAからDのクラス分けにも、最初から意味があったということですか?」

 

 堀北が口を開いた。

 

 教室の何人かが、堀北を見る。

 

 茶柱はわずかに目を細めた。

 

「気づいたか、堀北」

 

「この順位を見る限り、偶然とは思えません。Aクラスには入学時点で最も評価の高い生徒が集められ、B、C、Dと下がるにつれて評価が低くなっている。そう考える方が自然です」

 

 教室がざわついた。

 

「は? じゃあ俺たちって……」

 

「最初から一番下ってこと?」

 

「そんなの聞いてねえぞ!」

 

 山内が声を荒げる。池も顔を引きつらせていた。須藤は机を睨みつけるようにしている。

 

 茶柱は、その反応を少しも慰めようとはしなかった。

 

「その通りだ。AからDというクラス分けは、単なる記号ではない。入学時点で学校が下した、お前たちへの評価だ」

 

 静かだった教室に、その言葉が落ちた。

 

「Aクラスは、最も優秀だと判断された生徒たち。Bクラス、Cクラスと続き、Dクラスは入学時点で最も低く評価された生徒たち…つまり不良品の集まりだ」

 

 誰もすぐには言葉を返せなかった。

 

 10万ポイントを与えられ、好きなものを買い、好きに過ごした1ヶ月。その始まりにあったDという文字は、ただのクラス名ではなかった。最初から、オレたちは最下位に置かれていた。

 

 ふと、隣の方から重い気配がした。

 

 ブロリーが黒板の数字を見ている。理解しているのかどうかは分からない。ただ、Dクラスの横に書かれた0という数字だけは、妙にじっと見つめていた。

 

「オレが不良品…?違う…オレは悪魔だ…」

 

 その低い声に、近くの生徒が肩を跳ねさせた。

 

 パラガス校長が慌てて一歩前に出る。

 

「落ち着けえ!伸び代があるというわけだぁ!」

 

「校長、余計な補足は結構です」

 

 茶柱が即座に切った。

 

 パラガス校長は口を閉じた。いや、閉じさせられたと言った方が正しいかもしれない。

 

 悟空は黒板の数字よりも、今月の食費の方が重大らしく、端末を何度も確認している。ベジータはDクラスという評価そのものが気に入らないのか、腕を組んで震えていた。トランクスは何かを言おうとして片手を上げかけたが、誰にも拾われないまま、そっと下ろした。

 

 Dクラスの混乱は、収まるどころか広がっていく。

 

 だが、茶柱の説明はまだ終わっていなかった。

 

「だが、Dクラスに配属されたからといって、3年間ずっとDクラスで固定されるわけではない。クラスポイントは、今後の試験や学校生活によって増減する。DクラスがCクラスのクラスポイントを上回れば、クラスの順位は入れ替わる」

 

「つまり……上に行ける可能性はあるんですね?」

 

 平田が確認するように言った。

 

「ああ。理屈の上ではな」

 

 茶柱の言い方は冷たかった。

 

「だが、上がるということは、他のクラスを蹴落とすということでもある。Aクラスに上がりたいなら、B、C、Aの全てを相手にしなければならない。仲良しごっこでどうにかなるほど、この学校は甘くない」

 

 その言葉に、堀北の目が鋭くなる。

 

 オレは黒板の紙を見た。

 

 Aクラス、940。

 Bクラス、650。

 Cクラス、490。

 Dクラス、0。

 

 無料の商品。無料の山菜定食。教師が注意しない授業。監視カメラ。10万ポイントという甘い餌。

 

 それらが、ようやく一本の線になり始めていた。

 

 この学校は、生徒に自由を与える。

 そして、その自由の使い方を評価する。

 

 Dクラスは最初から一番下だった。

 そして4月の1ヶ月で、自分たちがなぜそこに置かれたのかを証明してしまった。

 

 茶柱はそう言って、教室を見渡した。

 

「お前たちは、この学校を楽園か何かと勘違いしていたようだが、ここは実力至上主義の学校だ。自由は与えられる。だが、その自由の使い方も評価される」

 

 誰もすぐには言い返せなかった。

 

 パラガス校長が、ここぞとばかりに一歩前へ出る。

 

「こーんな最低の生徒達には何の未練も無い。やりたい放題して卒業できると思っていたお前らの姿はお笑いだったぜ。腐☆腐」

 

「校長。締めの挨拶は不要です」

 

 茶柱は冷たく言い切った。

 

 茶柱は最後に、黒板のゼロを軽く叩いた。

 

「これが今のお前たちの評価だ。来月もゼロでいたいなら、今まで通りに過ごせばいい」

 

 そう言って、茶柱は教室を出ていった。パラガス校長も何か言いながら続こうとしたが、廊下の向こうで茶柱に止められていた。

 

「茶柱先生、夕食でも如何かな?」

 

「職員室です」

 

「如何かな?」

 

「職員室です」

 

 扉が閉まる。

 

 教室には、ゼロという数字だけが残った。

 

「……どうすんだよ、これ」

 

 池が呟く。

 

「俺、もうポイントあんまり残ってねぇんだけど」

 

「俺もだよ……」

 

「悟空、お前は?」

 

「みんなのポイントをくれ……ポイントを、くれぇぇぇぇぇ!!」

 

「終わってるじゃねぇか!」

 

 山内が叫ぶ。

 

 櫛田は不安そうに周囲を見回していた。

 

「みんな!まずは落ち着こ!まだ何もできないわけじゃないよ!」

 

「そうだね。状況を整理しよう」

 

 平田が櫛田に続いた。二人はすぐにクラスをまとめようとしている。だが、教室の空気は簡単には戻らない。10万ポイントが消えたこと。Dクラスの評価がゼロになったこと。Aクラスで卒業しなければ、この学校の恩恵を受けられないこと。そのすべてが、ようやく現実として生徒たちに重くのしかかっていた。

 

 教室の沈黙の中で、悟空が小さく腹を鳴らした。いや、本人の腹なのか、机の下に隠している何かの音なのかは分からない。

 

「悪りぃけど急ぎの用事が出来ちまったんで……じゃ、バイバーイ☆」

 

「ちょ、おま」

 

 そういうと悟空はダッシュで教室を出て行った。

 

 一方、ベジータは机に伏している。

 

「もうダメだ…おしまいだぁ…」

 

「情けない王子ね」

 

 堀北が冷たく言う。

 

 ベジータはさらに何か言いたげだったが、それ以上は言わなかった。

 

 トランクスが立ち上がる。

 

「是非あなた達に知って欲しい重大なことが…」

 

「それは確かに大事だね」

 

 平田が真面目に頷く。

 

「じゃあ、まず今後の方針をみんなで考えようか」

 

「おーーーーーい!!」

 

 トランクスは少し固まったあと、静かに座った。内容は拾われたのに、本人はあまり拾われていない。器用な無視だった。

 

 堀北は静かに立ち上がった。ブロリーが反応する。

 

「どこへ行くんだぁ?」

 

「考えるためよ。ここにいても騒がしいだけだわ」

 

「Dクラスをどうにかするつもりか?」

 

「どうにかしなければ、私自身が困るもの」

 

「協力者は必要じゃないのか?」

 

 オレがそう言うと堀北は少しだけこちらを見た。

 

「あなた、自分を協力者として売り込んでいるの?」

 

「ただの確認だ」

 

「なら、確認だけで十分よ」

 

 堀北はそう言って教室を出ていった。

 

 オレは黒板に残されたゼロを見る。無料商品、無料山菜定食、記録という言葉、教師たちの不自然な無干渉。それらが、ようやく一つの形になった。ここは、ただ自由な学校ではない。自由をどう使うかまで見られている学校だ。

 

 教室の後方では、ベジータは腕を組んだまま黙り、トランクスはまた何か言おうとして山内の叫びにかき消されている。ブロリーは黒板のゼロをじっと見ていた。

 

「堀北ぁ、元気無いです…」

 

 その声に、教室の何人かがまた静かになる。

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