もしも雲明世代でエイリア編がまた始まったら   作:こころにいつも中二病

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英雄たちのヴィクトリーロードのパッケージ版発売+新規DLC配信おめでとうございます!(一日遅れ)

長らく更新できておらず申し訳ございません。合宿でのシーンに思いの外時間がかかった+長くなってしまいました……。その関係で予定より短くなってしまいましたが、読んでくれると幸いです。





合宿のサプライズは満天なる宙の下で

 

 

 

 

 キャラバンがヘリコプターに、なんて予想外で想定外の変身をかまして空を飛び立ってから、いかほどの時間が経っただろうか。

 少なくとも断言できることは、全員が考えていたよりもずっと、もっと、早く、その時がやってきた、ということだろう。

 

 

 

「ねえねえ、あれが旅館じゃない!?」

 

 

 

 前側かつ窓側に座っていた忍原が声を上げる。その言葉に男どもは顔を上げると、冷静な一部の者を除いて一斉に窓へと張り付いた。

 

 南雲原ではあり得ない街並みを俯瞰で見下ろした先。確かに、豊かな緑に囲まれ、周囲の景観と見事に調和した豪奢な和風建築がそこに位置していた。

 

 そこに、車内最前席で運転を担当している緑川が声を上げた。

 

 

「みんな、もうすぐ着くよー!」

 

 

 吉良財閥が誇る最新テクノロジーの結晶たる新世代キャラバン──もとい、最新鋭ヘリコプターは、南雲原から旅立つと文字通り『千里一飛』の速度で西日本の空を駆け抜けた。

 九州から京都までの道程は、陸路や新幹線を使えばそれなりの時間を要するはず。しかし、雲を眼下に空を直進するこの機体は、そんなの関係ねえとばかりにわずか二、三時間で京都の空域へと到達してしまったのだ。

 

 

 余談だが、通常京都には空港が存在しないため、空路を使うとなれば最寄りの空港──大阪国際空港(伊丹空港、とも言われる)を経由し、そこから陸路で移動しなければならない。

 

 ……が。

 

 そこはさすがの世界的大企業である。今回彼らが滞在する宿は吉良財閥のグループ会社が運営しており、その広大な敷地内には、なんとヘリが直接降り立つことができる専用のヘリポートまで完備されていたようだ。

 

 

 

 ……閑話休題(さて、話を戻そう)

 

 

 

 眼下に飛び込んでくる、瓦屋根の連なりと、美しく整備された日本庭園の全貌が見えてくる。その光景に窓にへばりつく部員たちのテンションがどんどんと高まっていくのは仕方なかった。

 

「すっげぇ〜!」

「すごい旅館……! こんなところに泊まっていいの……?」

 

 木曽路が窓ガラスに鼻を押し当てんばかりの勢いで歓声を上げれば、古道飼がその豪華さに早くも気圧されたように身を縮める。しかし、「いいんだって!」と木曽路が明るい調子では反論すると、瞳に爛々とした輝きを増しながら再び窓を見下ろした。

 

 そんな様子を見ながらシートの背もたれに深く寄りかかっていた桜咲が、まだ浮遊感の残る身体を伸ばして息を吐く。

 

「あっという間だったな……」

「俺としては、じっくり道中の景色を見る時間があってもいいと思ったがな」

 

 桜咲の言葉に品乃が少しだけ不満げに腕を組む。彼としてはどうやら想定外の交通手段に言いたいこともあるらしい。しかし、向かい側の席に座った空宮が「えー?」と眉を顰めた。

 

「俺、すっごいワクワクしましたけど! ね、雲明はどう?」

「そうだね……。征の意見も品乃先輩の意見も納得できるけど、やっぱり今回の機会の希少さを考えると、征に同意したいかな」

「さすが雲明! わかってる!」

 

 同意を求めて話を振った雲明が頷けば、空宮が我が意を得たりとばかりに表情を明るくさせる。二対一では流石に分が悪いと判断したのか、品乃はやや納得していない表情を浮かべながらも、「まあ、そういう意見もあるな」と受け入れる。その様子を、隣にいた友部が苦笑いで眺めていた。

 

「あー、ワクワクしてきた! 早く降りれないかなー?」

「もう少しだと思うぞ。……しかし、出発早々、とんでもねえ体験しちまったな……」

「流石の柳生君もこんな体験は初めてだったみたいだね」

 

 忍原がシートベルトを握りしめながら、待ちきれないとばかりにバタバタと足を動かす。柳生が彼女の言葉に補足しつつも、内心抑えきれない感嘆のため息をこぼせば、普段は真面目を体現したような四川堂が珍しく茶目っ気を含んだ口調を交えながら微笑む。

 

 少なくともこの場にいる人間のほぼ全てが、滅多にない経験とすぐ近くに迫った非日常の始まりに、さまざまな感情を湧き上がらせているようだった。

 

 

 そしてそれは、彼も例外ではない。

 

 

「…………」

 

 

 一人、キャラバン後方の空いた席に座っていた敦士も、窓の向こうの景色に言葉を失い、口を半開きにし、表情から唖然や驚きという感情を消せずにいたようだった。

 

 

 

 それからしばらくもしない間に、軽い衝撃と共に車輪がアスファルトを捉え、ヘリが完全に着陸した。重低音を響かせていたローターの回転が徐々にゆっくりと落ちていく。

 

 

「みんな、お待たせ! 無事着陸したよ!」

 

 

 機体が完全に停止し、心地よい電子音と共にシートベルトのロックが外れると、運転席の緑川が振り返って明るく声をかけた。

 その瞬間今か今かと待ち遠しそうにうずうずしている部員たちの顔が一斉にパァッと明るくなる。それを見た緑川は「はいはい、落ち着きなって」と手で制するが、気分を害した様子は一切見られなかった。

 

 

「荷物を持ったら、まずは受付のホールに集合! 俺のチェックイン手続きが済んだら、各自宿泊部屋と、先に送っておいた大きな荷物の確認。いいかい?」

「「「はーい!」」」

 

 

 緑川の指示に元気よく返事をした部員たちが、ガチャガチャと金具の音を立てて立ち上がる。

 各々が頭上の棚から荷物を下ろしたり、伸びをして身体をほぐしたりと準備を始める中。木曽路が「なあなあ雲明!」と、小走りで雲明の隣にすり寄ってきた。

 

 

「本当なら、バスで行ってもっと時間がかかるはずだっただろ? 空いた時間とか、どうするんだ?」

 

 

 木曽路の期待と願望に満ちた目線に、雲明は「うーん」と顎に手を当てて、わざとらしく声のトーンを落とした。やがて、静かな声で自らの考えを呟く。

 

 

「そうだね……。せっかくまとまった時間が取れたし、空の旅だったからみんなもそこまで疲れていないみたいだしね。……初日から特訓のメニューを増やしても……」

 

 

 その『特訓』という言葉に、木曽路をはじめ、近くで聞き耳を立てていた一部の部員たちが「えっ」と一斉にぎょっとした表情を浮かべる。

 確かに。想定外の送迎方法により、予定より早く着いたのは事実である。加えて、それほど疲れてもいないのもそれほど異論はなかった。……ないのだが。

 

 

 いや、別に文句はない。練習は力だ。強くなりたい。

 それは皆わかっているが、ここ最近の練習を思い返すと多少なりとも身構えてしまうのは仕方がなかった。

 

 東風異国館戦からサッカーガーデンに赴くまでの一ヶ月を彷彿とさせるような厳しい特訓。それを、この早朝から初めてさらに予定よりプラスするつもりなのだろうか。せっかく京都まで赴いたのに。

 

 まさかとは思いつつも、こういう時、彼は“やる”人間であることはこの場にいる誰もがわかっていた。

 周りが不安な気持ちを込めた視線で雲明を見つめる。しかし、彼はそのようなものなど気に留めることもせず、粛々としたポーカーフェイスを崩さなかった。

 

 

 静寂に包まれたまま、数秒が経過する。

 

 

 ──だが、次の瞬間。

 

 

 そんな彼らの予想に反して、雲明はフッと口角を上げた。そして、ちょっとした驚かしが成功したような悪戯っ子を思わせる声で、部員たちにこう告げた。

 

 

 

「……って言うのもいいけど。せっかくの京都だもんね。少し予定が早いけど、今日は観光と買い出しにしようか」

 

 

 

 きょとん、とした一瞬の空白。

 

 直後、雲明の言葉の意味を理解した部員たちの瞳が一気にキラキラと輝き出し、最高に明るい表情へと変わっていく。

 

 

 

「「「やったーーっ!!!」」」

 

 

 

 吉良財閥の厳かな旅館の前に、中学生たちの年相応な大歓声が遠慮なく響き渡った。そんな彼らの様子に雲明はしてやったりの顔でくすくすと笑みをこぼし、緑川は微笑ましい表情で深く頷く。

 

 

 こうして、予想外の連続から企画された合宿は、当然の如く予想外の展開から華々しく始まったのである。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 そこからは、怒涛のように過ぎ去っていく、鮮烈で濃密な夏の日々が始まった。

 

 

 

 

 予定外の観光が始まって、最初にやってきたのは京都の中でも特に有名な参道だった。神聖さすら醸し出す朱塗りの鳥居が立ち並ぶその道を息を切らしながら駆け上がっていくのは、南雲原が誇るストライカーの二人である。

 

「おい空宮、急に立ち止まるな! 後ろが閊えるだろ!」

「桜咲だって後ろの人気づいていない! 写真の邪魔になってるっての!」

 

 厳かな空気を微塵も感じさせない喧騒。

 どっちもどっちな言い争いを繰り広げる二人に、年長者の品乃が空宮の首根っこを掴んで(流石に桜咲の方は無理だったらしい)「こんなところで争うな」とぴしゃりと咎めた。その言葉に(大変不満そうな表情を浮かべながらも)争いをやめ静かになった彼らに、もう一人の年長者である友部が「ほら、邪魔になっているから。行くよ」と静かに促す。

 

 

(なお、彼らは全く気づいていないが、この集団の約半数は中学生とは思えぬ長身で構成されている。それゆえに、日常的な小競り合いすら、他の観光者からは注目の的となっていた。中には中学サッカーを追っているものもいたらしく、「あれ、桜咲丈二と空宮征じゃない?」とひそひそとした話に興じるものもいた。……当然、そんなことがあったなど、彼らは知りもしないのだが)

 

 

 

 ともかく、なんやかんやありつつも参道を抜けてしばらく歩けば、鴨川沿いに並ぶ屋台に辿り着く。屋台に並ぶは和菓子をはじめとした色とりどりの食べ物たち。古道飼が両手に持ったみたらし団子を頬張りながら至福の溜息をついたその横で、忍原がSNSに上げる写真を撮りながらきなこパフェを堪能していた。

 

 

「んー、おいしーい! 冷たいからこの暑さにちょうどいい!」

「ほ、ほんとですか? 来夏さんが言うなら僕も後で買おうかなあ……」

 

 

 ほんのりとした甘さが舌に広がり頬を緩める忍原に、古道飼がキラキラとした目を向ける。しかし、すぐに財布の残りを思い出すとうーんと顔を顰めた。

 一応財布の中身にはまだ余裕はある。が、今の観光で想定以上にお金を使いすぎたのもあり、今後のお土産などのためにも残しておきたかったのだ。

 

「ほら、古道飼。買ってきてやったぞ」

 

 そこに現れたのが、190センチオーバーの救世主だった。

 

「え、いいんですか!?」

「これぐらい大したことねえよ。俺も気になってたしな」

 

 そう告げる柳生の両手には、紛れもなく忍原が食べているものと同じパフェ二つ乗せられていた。太っ腹な先輩に古道飼は「ありがとうございます!」と感謝を告げると、その片方を受け取り遠慮なくパフェにかぶりつく。

 

 一方、少し離れたところでは、千乃がほかほかの回転焼きを穴が開くように執心的にじっと見つめている光景があった。

 

「…………」

「あの、会長。食べないですか?」

「た、食べるけど……」

 

 隣の百道の言葉に頷き、そっと口を開ける。しかし、手に伝わる暑さに戸惑っているようだ。なかなか一歩が踏み出せない千乃に近づいたのは、あっという間にパフェをほとんど食べてしまった忍原だった。

 

「思いっきりかぶりつけばいいんだよ。今なら少し熱い態度で火傷はしないだろうし、食べごろだよ」

「え、ええ……いただきます」

 

 律儀にそう告げてから、ぱくりと回転焼きを口に放り込んだ。小さな唇にわずかな量の生地と餡子が吸い込まれてからしばらく、彼女の瞳に星が宿る。二口目、三口目と次々と食べる千乃の様子に忍原と百道は顔を見合わせると、ぐっと示し合わせたようなガッツポーズをとった。

 

 

 そんなこんなで、予定外の観光の時間はあっという間に過ぎ去っていく。

 

 

 

 ──もちろん、忘れてはいけないが。

 

 これは特別合宿である。その本分はサッカーにおける技術の向上。

 当然、観光だけで優雅に終わるなんてことは、あり得ない。

 

 

 

 

 京都に到着して数時間が経てば、日も真上に登る。正午を過ぎ昼食をそこそこに取れば、すぐに新たな環境での厳しい特訓が始まった。

 

 京都特有の、風が止まったかのような蒸し暑い盆地の気候。その中で、山間部のアップダウンの激しい地形を利用した過酷な走り込みは彼らの体力をどんどん削っていく。

 

 

「ぜぇ、はぁっ……! 雲明、お前……これ、絶対……殺す気だろ……!」

「口が動くならまだ走れますよ、桜咲先輩。ちなみに征は先ほどもう一本行きました」

「マジかよ。あいつ……!」

 

 

 しかし、ここで折れるのは悔しいのか、いつも以上に張り切った様子で前を走る空宮を睨みつける。そうしてもう一度足に力を入れると、先ほどよりも勢い付けて走っていく。その様子を見て、うんうん、と頷く雲明の姿に、少し後ろを走っていた四川堂が「流石の手腕だね……」と感心していた。

 

 当然特訓は走り込みだけではない。

 吉良財閥が提供した特別体育館での練習や、山や丘の敷地を借りた足場が特殊な地での練習も過酷を極めた。

 皆、汗をかきながら、時には足を持たせながら特訓に身を費やす。しかし、慣れない地での練習は、部員たちに新たな気づきを得るきっかけとなるようだった。

 

 

 

 ──そして、厳しい特訓の後に訪れる、夜の和風旅館での癒しの時間。

 

 日もどっぷり沈んだ時刻になれば、広々とした露天風呂で汗と疲れを流す。

 

 一方、風呂上がりの大広間では癒しとは程遠い、一世一代の勝負が繰り広げられていた者たちもいた。

 

「くらえ! 俺のスマーッシュ!」

「甘いね木曽路君! “油断大敵”……っ、だよ!」

 

 浴衣姿の緑川と木曽路が、卓球台を挟んで尋常ではないラリーの応酬を繰り広げている。そこには年齢差などもはや関係なく、互いが対等に熱を燃やした、一進一退の名勝負を繰り広げていた。

 

「あっ返された! 緑川さんなかなかやるねー」

「おい、木曽路! こんなところで負けんな!」

 

「どう見える? 一見、木曽路が攻めているように見えるが……」

「でも、緑川さんは今まで冷静さを崩していない。この勝負、どう転ぶかはわからないな」

 

 その様子を、空宮や柳生が身を乗り出して応援する。少し離れた縁側では四川堂と品乃が静かに盤面を見つめながら、湯上がりの瓶牛乳を片手に彼らの勝負の行方について考察を重ねる。

 

 なお、どちらかが勝ったのか──というのは秘密にしておこう。ただ言えるのは、最終的に野次馬──もとい観客だった他の部員たちが一斉に拍手をするほどの名勝負を繰り広げた、ということだけだ。

 

 

 

***

 

 

 

 ──新たな日々を目の前に、時に胸を躍らせ、時に限界まで肉体を追い込み、時に腹を抱えて笑い転げる。

 辛くも充実した夏の日々は、一日、また一日中とカレンダーの数字を次々と塗り潰しながら、あっという間に過ぎ去っていく。

 

 

 そんな中で、誰もがこの特別な日々を全力で取り組み、楽しみ、大切に過ごしていた。

 瞬く間に過ぎていく青春の時間に鮮やかな一ページを焼き付けるように、それぞれが思い思いにこの一度きりの合宿にひたすらに向き合っていた。

 

 

 

「……………」

 

 

 ──ただ、一人。

 

 

 ずっといつも、少しだけ離れた場所で誰に話しかけることもなく傍観者のように彼らを見つめていた新参者────吹雪敦士を除いては。

 

 

 

***

 

 

 

 合宿も佳境に入った、最終日の前日の夜。

 それは、雲明がスケジュール表で『秘密』としていた、あの“空白の時間”だった。

 

 

 夕食を終え、旅館でしばしの休憩をとっていた南雲原の面々は、緑川やマネージャーたちに呼ばれ、再びあの白のキャラバンに乗り込んだ。

 今回は飛行機には変形せず、車は静かなエンジン音を響かせながら、夜の道をひたすらに走っていく。

 

 

「おい、どこ行くんだこれ」

「もしかして、夜の肝試し的な……?」

「え……や、やめてよ木曽路君……」

「えー、おもしろそうじゃない?」

 

 

 外灯もまばらな暗い道を走る車内で、部員たちが疑問と少しの不安を募らせながらわいわいと予想大会や雑談に勤しむ。

 車が走り出して数十分が経った頃。やがて、キャラバンはひっそりとした山道の手前で静かに停止した。

 

「少し歩きます。そうすれば、到着ですよ」

 

 最初に雲明が立ち上がると、部員たちを促す。

 懐中電灯を手にした雲明の、迷いのない足取りを追いかけ、彼らは暗い山道を登っていく。街の喧騒はとうに消え去り、虫の音と自分たちの足音だけが静寂に響く。

 やや険しい山道を数分ほど歩き、木々が開けた先──。

 

 

 彼らは、山の頂上付近にある、広々とした見晴らしの良い丘へと辿り着いた。

 

 

「ここは……」

 

 木曽路が周囲を見回す。

 街の灯りは完全に遮断され、周囲には彼ら以外の人影は一切ない。まさに穴場と呼ぶにふさわしい、静謐な空間だった。

 

「おい、雲明。夜更けにこんな暗いところまで来て、一体どんなことを──」

 

 桜咲が眉をひそめて尋ねようとした、その時だった。

 

 

 

「……星が……」

 

 

 

 おもむろに口を開いたのは、それまでずっと口を閉ざしていた敦士だった。

 

 ぽつりと呟かれたその言葉に、桜咲が「あ?」と眉を寄せる。

 しかし、敦士の視線は彼らではなく、遥か上空へと向けられていた。暗闇に慣れてきた彼の海の色の瞳には、まるで無数の宝石が散りばめられたかのように、小さな光が瞬いて反射していた。

 

 

「星が、流れて──そっか、今日、は…………」

 

 

 敦士の言葉に導かれるように、全員が一斉に空を見上げた。

 

 

 

 ──そこには。

 

 

 

「……っ!」

 

 

 息を呑む音が、あちこちで重なる。

 街明かりも雲も、彼らの視界を邪魔するものは何一つない。漆黒のキャンバスのような夜空一面に、数え切れないほどの星々が輝く。

 

 ──そこに、夜空の端から端へ、一筋の光が滑った。

 

 宙の海を切り裂くように、白銀の軌跡が流れては静かに消えていく。

 一筋、また一筋と。まるで空が、自らの内側にしまい込んでいたものを、静かに手放していくように、静かに流れていく。

 

 

「……あ……」

 

 

  誰かが、声にならない声を漏らす。それが誰の声かも、もはや分からなかった。

 

 次々と光の矢が夜空を駆け抜けていく。一つ、また一つと、瞬く間に現れては消える光の軌跡。それはまるで、天上の神々がこぼした涙のようでもあり、厳しい合宿を乗り越えた彼らを祝福する白金の雨のようでもあった。

 

 呆然と宙を見上げる彼らの横顔を、星々の淡い光が優しく照らす。

 

 それまで雑談に騒いでいた者も、何が起こるのだろうと不安そうに右往左往していた者も、今はただ魔法にかけられたように言葉を失い、等しく天を仰いでいた。

 虫の音さえも、この幻想的な光景の前では遠く霞んでいく。

 冷たく澄んだ山の空気の中、隣に立つ仲間たちの微かな体温と、揃った呼吸の音だけが、確かな現実としてそこに存在していた。

 

 

「雲明! これって……!」

 

 

 空宮が、興奮冷めやらぬ様子で隣の雲明を振り返った。

 ようやくこの“空白の時間”の真意に気づいた部員たちの輝く顔を見て、雲明はふっと、どこか誇らしげな微笑みを浮かべた。

 

「はい。これが、僕から皆さんへの“サプライズ”です」

 

 雲明は煌めく星空を見上げながら、静かな声で告げる。

 

 

 

「今宵はペルセウス座流星群が最もよく見える日。せっかくの機会ですから……これまでの特訓の疲れを癒す目的も兼ねて、星空観察でもしましょうか」

 

 

 

 それは、厳しい特訓を乗り越えてきた彼らに贈られた、最高のプレゼント(サプライズ)

 雲明から告げられたその言葉に、贈り物に、ちょっとした特別に、南雲原サッカー部の部員たちは一斉に顔を綻ばせる。

 

 

 

 降り注ぐ星の雨と、静けさの中で響く仲間たちの穏やかな呼吸。

 二度と巡ってこないこの奇跡のような一夜を、それぞれの胸の奥深く、決して消えない光として刻み込むように瞬く夜空を見上げる。

 

 明日になれば、この合宿は終わりを迎え、南雲原での日常が戻る。この合宿での日々も、新たな地での思い出も、今この瞬間も、永遠には続かない。

 

 

 

 それでも、今夜だけは。

 

 

 

 特別合宿を彩る最後の夜は幻想的な星空と数多に降り注ぐ流星たちに見守られながら、穏やかに始まったのだった。

 

 

 

 

 






 余談ですが、香澄崎先生と万部は学校でお留守番。
 理由は先生が学校側の都合で離れられない、万部は「合宿内容をはじめとする情報漏洩の可能性がある」と雲明からストップがかかったからです(その代わり、万部の方は雲明からいくつか雑務を任せてある)。

 ただ、この2人も後々少しながら出番がある……かもしれない。


 また、セレクトキャラのアンケートも次回更新時に締め切ります。メインで取り扱う予定はありませんが、試合シーンなどには出す予定なので、好きなキャラがいれば投票していただけると嬉しいです。


登場してほしいセレクトキャラは?

  • 幕下照
  • 弁天九郎丸
  • 伊勢谷要
  • 頂挑夢
  • 雨道未理科
  • 井馬里陽愛
  • 古手打七南
  • 判目才人
  • 牛島突五郎
  • 妖士乃銀郎
  • 濱南暁海
  • 福良むすび
  • 鉄野ケルビン
  • 黒原玲文
  • 星美哉
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