魔法科高校の劣等生 四葉の火の鳥   作:ペンギン豚

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ここからは巻いていく形になります。



九校戦編10

モノリス・コードへの代替選手出場が認められた後、一高側の動きは一気に慌ただしくなった。

 

時間はない。

 

だが、出場しないという選択肢もない。

 

森崎たちが負傷した以上、本来の布陣は崩れた。

 

それでも、競技は続く。

 

大会委員会が代替選手の出場を認めたことで、一高にはまだ戦う道が残された。

 

その中心に立つことになったのは、司波達也だった。

 

代理選手として達也が指名される。

 

そして、達也自身の指名により、西城レオンハルトと吉田幹比古が選ばれた。

 

突然のことだった。

 

だが、驚いている時間はない。

 

達也、レオ、幹比古。

 

この三人で、モノリス・コードに出る。

 

急造のチーム。

 

本来なら、不安材料ばかりのはずだった。

 

だが、達也は淡々としていた。

 

レオは少しだけ口元を引きつらせていたが、その目にはすでに戦う気が宿っている。

 

幹比古は、静かに頷いていた。

 

その姿を見て、聖火は少しだけ目を細める。

 

だが、声には出さなかった。

 

達也たちが作戦会議に入る一方で、聖火と中条あずさは準備に走った。

 

代理出場は認められた。

 

だが、それで終わりではない。

 

選手登録の確認。

 

装備の準備。

 

競技服の手配。

 

CAD調整に必要な備品。

 

試合までの短い時間で、揃えなければならないものは多かった。

 

「鷹山くん、そっちの上着は西城くん用です。吉田くんの分は、こちらの番号になります」

 

「了解です。サイズ違いの予備は?」

 

「一応、一つずつ持ってきました」

 

「さすが中条先輩。抜けがないですね」

 

「急ぎですから」

 

中条の声には焦りがあった。

 

だが、手は止まらない。

 

聖火も同じだった。

 

レオと幹比古の選手用上着。

 

モノリス・コード用の競技服。

 

予備の装備。

 

登録確認用の端末。

 

それに、CAD接続用の備品。

 

必要なものを抱え、二人は達也たちがいる部屋へ戻った。

 

部屋に入った瞬間、そこにはすでに別の熱があった。

 

レオは腕を組み、真剣な顔で達也の説明を聞いている。

 

エリカは壁際に立ち、美月は幹比古の近くで静かに様子を見守っていた。

 

そして、中央では達也がキーボードを叩いていた。

 

速い。

 

ただ速いだけではない。

 

迷いがない。

 

画面には、CADの調整項目が次々と展開されていく。

 

中条は、達也が完全マニュアルでCADを調整できることを知っている。

 

それでも、目の前の光景には息を呑んだ。

 

通常の調整ではない。

 

急きょ代理出場が決まった三人分のCAD。

 

それぞれの適性。

 

役割。

 

試合中の動き方。

 

相手校の傾向。

 

そして、残された時間。

 

それらを踏まえた上で、達也はほとんど手を止めずに調整を進めていた。

 

迷いながら組んでいるのではない。

 

完成形が頭の中にあり、それを画面へ写している。

 

そう見えた。

 

中条は、思わず抱えていた競技服を持ち直した。

 

「……すごい」

 

小さく漏れた声は、誰かに聞かせるためのものではなかった。

 

理解しているからこそ、驚く。

 

中条あずさの表情には、そんな色が浮かんでいた。

 

聖火は装備を置きながら、部屋の中を見渡した。

 

そして、幹比古の顔で視線を止める。

 

前に話した時より、迷いが薄い。

 

何かが完全に解決したわけではない。

 

だが、顔つきが違う。

 

達也くんが、何か言ったのかな。

 

聖火はそう思った。

 

自分の言葉が何かを変えた、などとは考えなかった。

 

今、幹比古の隣にいるのは達也だ。

 

なら、きっと彼が何かをしたのだろう。

 

「鷹山」

 

達也の声が飛ぶ。

 

「はい」

 

「装備は?」

 

「レオくんと幹比古くんの選手用上着、競技服、予備装備、登録確認用端末、CAD接続用の備品。一式揃っています」

 

「確認する」

 

達也は画面から目を離さずに言った。

 

聖火は中条とともに装備を並べる。

 

その中に、見慣れない武器があった。

 

聖火はそれに目を止める。

 

「達也くん、これは?」

 

「レオ用だ」

 

レオがその形を見て、すぐに顔を上げた。

 

「あれか。前に練習場で試したやつだな」

 

「ああ」

 

達也は短く頷いた。

 

「剣先を射出し、空中で固定する。防衛に使う」

 

レオは武器を手に取り、軽く感触を確かめた。

 

「守りで使うのか」

 

「レオ、お前は自陣モノリスの防衛だ。正面から止めるだけではなく、踏み込んできた相手を迎え撃て」

 

「なるほどな」

 

聖火はその説明を聞き、少しだけ目を細めた。

 

「つまり、レオくん自身が壁で、その武器は迎撃用の杭ってことかな」

 

「大きくは間違っていない」

 

「珍しく判定が甘い」

 

「時間がない」

 

レオは自分の上着を手に取り、眉を上げた。

 

「おお、もう用意できてんのか」

 

「試合は待ってくれないからね」

 

「助かる」

 

「お礼は勝ってからでいいよ」

 

「言ったな」

 

「言った」

 

エリカが小さく笑う。

 

「こういう時の聖火って、妙に手際いいわよね」

 

「普段も手際よくしているつもりなんだけど」

 

「普段は余計な一言が多いのよ」

 

「否定しづらい」

 

美月が少しだけ笑った。

 

そのわずかな笑いで、部屋の空気が少しだけ軽くなる。

 

だが、達也の手は止まらない。

 

画面の中では、各選手のCAD調整が次々と進んでいく。

 

レオ用の調整は、単純な出力強化ではなかった。

 

自陣モノリスを守るための反応速度。

 

距離を詰める時の初動。

 

正面から受け止めるための安定性。

 

レオの身体能力と耐久力を活かしながら、無駄な隙を減らす調整。

 

幹比古用の調整は、さらに繊細だった。

 

現代魔法とは違う癖。

 

精霊魔法を使う幹比古にとって、CADはすべてを肩代わりする道具ではない。

 

流れを邪魔しないこと。

 

発動の余白を残すこと。

 

遊撃手として奇襲や撹乱に回るため、動きの自由度を削りすぎないこと。

 

達也はそこを見ている。

 

聖火は画面を横目で見ながら、改めて思った。

 

やっぱり、達也くんはおかしい。

 

褒め言葉として。

 

しばらくして、達也が一度だけ長く瞬きをした。

 

ほんの一瞬。

 

他の者なら見逃したかもしれない。

 

だが、聖火は見逃さなかった。

 

「達也くん、目」

 

「問題ない」

 

「問題が出る前に止めるのが補助スタッフの仕事だよ」

 

達也の手が一瞬だけ止まる。

 

部屋の空気が、わずかに変わった。

 

達也は聖火を見る。

 

「聖火」

 

「何?」

 

「代われ」

 

部屋の中が静かになった。

 

中条が目を丸くする。

 

レオは首を傾げ、エリカは面白そうに眉を上げた。

 

「代わるって、何を?」

 

レオが聞く。

 

達也は淡々と答えた。

 

「入力だ」

 

聖火は苦笑する。

 

「俺でいいの?」

 

「判断はこちらで行う。お前は入力だけでいい」

 

「つまり、俺は手ね」

 

「そうだ」

 

「もう少し人を使う言い方を覚えようか」

 

「時間がない」

 

「はいはい」

 

聖火は肩をすくめ、達也と席を替わった。

 

達也は椅子の背に身体を預け、目を閉じる。

 

それだけで、中条の表情が変わった。

 

完全に作業を止めるのではない。

 

目を休めながら、判断は続けるつもりなのだ。

 

「第二ブロックを開け」

 

達也の声が静かに響く。

 

聖火の指がキーボードに置かれた。

 

「遅延値を二下げる。補助項目三番を無効化。次、起動式の記述を表示」

 

聖火の指が動く。

 

達也ほど速くはない。

 

達也ほど無駄がないわけでもない。

 

だが、止まらない。

 

指示を聞き、理解し、入力する。

 

その流れが途切れない。

 

「次。三行目、条件式を入れ替える。右側の式は残せ」

 

「了解」

 

「そこではない。一つ下だ」

 

「おっと。危ない」

 

「修正」

 

「はいはい」

 

軽口を挟みながらも、聖火の手は止まらなかった。

 

中条が息を呑む。

 

彼女が驚いたのは、聖火が達也と同じことをしているからではない。

 

違う。

 

達也の入力は、判断そのものだった。

 

聖火の入力は、指示の再現だった。

 

その差は明確にある。

 

だが、それでも、達也の指示を聞きながら迷わず手を動かせるだけで、普通の生徒ではあり得なかった。

 

「……どうして、今の指示だけで打てるんですか」

 

中条の声は小さかった。

 

聖火は画面から目を離さずに答える。

 

「達也くんに昔、妙な鍛え方をされたので」

 

「俺は鍛えていない」

 

目を閉じたまま、達也が即座に否定した。

 

「面白がって手順を見せたじゃないか」

 

「見せただけだ」

 

「それを見せられた側がどうなるか考えてほしい」

 

「お前が勝手に覚えた」

 

「ほら、ひどい」

 

エリカが吹き出した。

 

「何それ。聖火、達也のせいでそんなことできるようになったの?」

 

「だいたいそんな感じ」

 

「違う」

 

達也の否定は早かった。

 

だが、誰も完全には信じていない顔をしていた。

 

レオは画面と聖火の手元を見比べ、眉間に皺を寄せる。

 

「何がすげえのか全部は分かんねえけど、すげえことしてるのは分かる」

 

「分からないのに分かるのね」

 

エリカが呆れたように言う。

 

「うるせえ。空気で分かるんだよ」

 

美月は画面と聖火の手元を交互に見ていた。

 

「すごい……」

 

幹比古も黙って見ていた。

 

その目には、驚きがある。

 

だが、それ以上に、何かを受け止めようとする静けさがあった。

 

「次、幹比古くんの方?」

 

聖火が聞く。

 

「ああ。発動補助を触る」

 

達也は目を閉じたまま答えた。

 

「ただし、余白は削るな」

 

「精霊魔法の邪魔になる?」

 

「そうだ」

 

「了解」

 

幹比古がわずかに目を見開く。

 

達也は続けた。

 

「吉田」

 

「何だい?」

 

「お前の魔法は、CADに合わせるな。CADを使って、必要な部分だけを補え」

 

幹比古は一瞬黙った。

 

それから、深く頷く。

 

「分かった」

 

その声に、以前のような硬さはなかった。

 

聖火はキーボードを打ちながら、横目で幹比古を見た。

 

やはり、顔つきが違う。

 

何かが落ちたような顔。

 

それを言葉にするつもりはなかった。

 

今は、試合の前だ。

 

余計なことを言う時間ではない。

 

「聖火」

 

達也の声が戻る。

 

「はい」

 

「そこから三項目戻れ」

 

「戻った」

 

「二番目を保持。三番目を無効化。四番目を条件付きで残す」

 

「了解」

 

聖火の指が動く。

 

中条は、その様子を黙って見ていた。

 

達也が異常なのは知っている。

 

だが、その達也の指示を、聖火が曲がりなりにも受け取れている。

 

しかも、冗談を挟みながら。

 

それは中条にとって、別種の驚きだった。

 

やがて、達也が目を開けた。

 

「代われ」

 

「もういいの?」

 

「十分だ」

 

「了解」

 

聖火は席を立ち、達也と入れ替わる。

 

達也は画面を一瞥し、すぐに作業を再開した。

 

確認のために、ほんのわずかだけ手を止める。

 

それだけだった。

 

聖火が入力した部分に、大きな修正は入らない。

 

中条はそれを見て、もう一度小さく息を呑んだ。

 

達也は淡々と言う。

 

「使える」

 

「もう少し人を褒める言い方ない?」

 

「入力補助としては十分だ」

 

「それは褒めてる?」

 

「事実だ」

 

「知ってた」

 

エリカが肩を震わせて笑った。

 

「この二人、なんなの」

 

美月は少し困ったように笑うだけだった。

 

調整は続いた。

 

レオは装備を確認しながら、達也の説明を受ける。

 

幹比古は自分のCADを手に取り、静かに感触を確かめる。

 

エリカは軽口を挟みつつも、二人の状態をよく見ていた。

 

美月は幹比古を心配そうに見守りながらも、何も言わずにそばにいる。

 

中条は残りの手続きと装備確認を進める。

 

聖火は、必要なものを補充し、足りないものを先に拾い、達也が声をかける前に備品を差し出した。

 

完全な準備などあり得ない。

 

急造のチーム。

 

代理出場の選手。

 

限られた時間。

 

それでも、一高は戦える形を作っていった。

 

やがて、試合の時間が来た。

 

モノリス・コードの会場に、三人が立つ。

 

達也。

 

レオ。

 

幹比古。

 

本来の布陣ではない。

 

だが、三人の空気は悪くなかった。

 

試合が始まる。

 

レオは自陣のモノリス前に残った。

 

その役割は、防衛。

 

相手の侵入を防ぎ、モノリスを守ること。

 

レオの身体能力と打たれ強さを考えれば、最も分かりやすく、そして最も適した配置だった。

 

ただ立っているだけではない。

 

相手が近づけば、即座に距離を詰める。

 

撃ち込まれれば、耐える。

 

突破しようとすれば、力で止める。

 

単純な役割に見えて、その存在感は大きかった。

 

レオがそこにいるだけで、相手は一高のモノリスへ容易には近づけない。

 

相手が自陣モノリスへ踏み込もうとした瞬間、剣先が飛んだ。

 

大会二日目、練習場で一度試した武器。

 

その使い方を、レオは覚えていた。

 

狙うのは、相手を倒すことではない。

 

迎え撃つこと。

 

射出された剣先は、相手の踏み込みを遮る位置で空中に固定される。

 

突き出された刃のように。

 

あるいは、踏み込んできた相手の勢いを止める杭のように。

 

相手の動きが、一瞬だけ止まる。

 

その一瞬で十分だった。

 

レオが前へ出る。

 

剣先で受け、身体で押し返す。

 

防衛。

 

ただ守るのではなく、守るべき場所へ踏み込ませない。

 

達也が用意していた手札を使い、レオは自陣のモノリス前を守り切っていた。

 

その間に、幹比古が動く。

 

遊撃手。

 

それが、幹比古の役割だった。

 

正面から押し込むのではない。

 

相手の視界の外から干渉し、動きを乱し、隙を作る。

 

奇襲。

 

撹乱。

 

支援。

 

現代魔法とは違う角度から場に触れる精霊魔法は、モノリス・コードのような集団戦では厄介な働きをする。

 

以前よりも、幹比古の動きには迷いが少なかった。

 

無理に速くしようとしていない。

 

自分の呼吸で、必要な場所へ必要な魔法を置く。

 

その一つ一つが、相手の判断をわずかに遅らせた。

 

そして達也は、先行していた。

 

敵陣へ向かう。

 

相手のモノリスを攻撃するために。

 

無理に派手な突破をするわけではない。

 

敵の配置。

 

射線。

 

反応。

 

幹比古が作ったわずかな乱れ。

 

レオが守ることで生まれた後方の安定。

 

そのすべてを見ながら、達也は必要最小限の動きで前へ進む。

 

急造のチーム。

 

代理出場の選手。

 

本来なら、不安材料ばかりのはずだった。

 

だが、試合が始まってしまえば、その不安は少しずつ別のものへ変わっていった。

 

レオが守る。

 

幹比古が乱す。

 

達也が攻める。

 

それぞれの役割が、噛み合っていく。

 

完璧ではない。

 

だが、十分だった。

 

一戦目。

 

一高は勝った。

 

続く試合でも、三人の動きは大きく崩れなかった。

 

レオは自陣を守り続ける。

 

幹比古は遊撃として相手を揺さぶる。

 

達也は敵陣へ先行し、勝負を決める。

 

派手さだけなら、他校の選手にも見せ場はあった。

 

だが、一高は崩れない。

 

自陣の守りはレオが固める。

 

敵の連携は幹比古が乱す。

 

勝つための道筋は、達也が切り開く。

 

急造とは思えない役割分担に、観客席の空気も少しずつ変わっていった。

 

森崎たちの事故で沈んだ一高の空気は、完全に晴れたわけではない。

 

だが、彼らが勝ち進むたびに、少しずつ熱を取り戻していく。

 

聖火は観客席の端で、その様子を見ていた。

 

中条も隣で、息を詰めるように試合を追っている。

 

「すごいですね」

 

中条がぽつりと言った。

 

「ええ」

 

聖火は頷いた。

 

「急造とは思えません」

 

「達也くんがいるから、というのはもちろんですけど」

 

聖火は競技場を見る。

 

レオが守る。

 

幹比古が乱す。

 

達也が攻める。

 

「二人も、ちゃんと応えてます」

 

中条は小さく頷いた。

 

試合は進む。

 

一高は、モノリス・コードでも順当に勝ち進んでいった。

 




次回プリンスとジョージはダイジェストにお送りする形になると思われます。

九校戦、こんなに書くことあったんですね。

これでも書きたかったこと省略しているのですが

本格的に巻いていきたいと思います。
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