魔法科高校の劣等生 四葉の火の鳥   作:ペンギン豚

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今回は原作改変を少しいたします。


九校戦編11

三高対一高。

 

モノリス・コードの決勝は、観客の予想通り、そして予想以上に苛烈なものとなった。

 

三高には、一条将輝がいる。

 

そして、吉祥寺真紅郎がいる。

 

一条のプリンス。

 

カーディナル・ジョージ。

 

その二人を擁する三高は、やはり強かった。

 

急造の一高チームが順当に勝ち上がってきたとはいえ、三高の圧力はそれまでの相手とは違う。

 

レオは自陣モノリスを守る。

 

幹比古は遊撃として戦場を乱す。

 

達也は敵陣へ向かう。

 

これまで噛み合っていた三人の役割は、決勝でも崩れなかった。

 

だが、三高はその上から力で押してきた。

 

特に一条の攻撃は、別格だった。

 

その一撃が、達也を捉える。

 

会場の誰もが、何が起きたのかを正確には理解できなかった。

 

攻撃が直撃した。

 

達也が倒れた。

 

観客の目に映ったのは、その結果だけだった。

 

だが、その間に起きていたことは、常人が捉えられる時間の外側にあった。

 

コンマ一秒にも満たない刹那。

 

達也の自己修復術式が発動する。

 

致命的な損傷は、致命に至る前に修復された。

 

倒れたはずの達也が、立ち上がる。

 

そして、一条の耳元で指を鳴らした。

 

それだけだった。

 

だが、発生した音波は、一条の意識を刈り取るには十分だった。

 

一条が倒れる。

 

同時に、達也も膝を屈した。

 

相打ち。

 

少なくとも、観客に見えた結果はそうだった。

 

戦場の中心が崩れたことで、勝敗は残る者たちに委ねられた。

 

幹比古は吉祥寺と向き合っていた。

 

カーディナル・ジョージ。

 

その名に恥じない相手だった。

 

幹比古にとって、容易な相手ではない。

 

むしろ、技量だけを見れば、押し切られても不思議ではなかった。

 

それでも幹比古は退かなかった。

 

持てる力をすべて使った。

 

迷いを捨て、呼吸を整え、今の自分にできる最善を積み重ねる。

 

精霊魔法は、派手な勝利を約束するものではない。

 

だが、場の流れを変えることはできる。

 

一手。

 

また一手。

 

幹比古は、わずかな隙を拾い続けた。

 

そして、辛くも吉祥寺を破る。

 

それは圧勝ではなかった。

 

余裕の勝利でもなかった。

 

だが、勝利だった。

 

残ったのは、レオだった。

 

一条の攻撃を受け、倒れていたはずのレオ。

 

だが、彼もまた、完全には折れていなかった。

 

自陣モノリスを守るために立っていた男は、最後の最後で再び動いた。

 

三高の最後の選手が、一高のモノリスへ迫る。

 

その前に、レオが立ちはだかった。

 

体は重い。

 

意識も万全ではない。

 

それでも、守るべき場所は分かっていた。

 

踏み込んできた相手を迎え撃ち、力で押し返す。

 

最後の衝突。

 

それを制したのは、レオだった。

 

三高最後の選手が倒れる。

 

その瞬間、試合は終わった。

 

勝者、一高。

 

急造のチーム。

 

代理出場の選手。

 

誰もが不安を抱いていたはずの布陣は、最後に三高を破った。

 

観客席が大きく揺れる。

 

歓声。

 

驚き。

 

困惑。

 

興奮。

 

そのすべてが混ざり合い、会場を満たした。

 

達也は倒れた。

 

一条も倒れた。

 

幹比古は限界まで力を使い、レオも満身創痍だった。

 

勝った。

 

だが、軽い勝利ではなかった。

 

それでも、一高は勝った。

 

モノリス・コード決勝。

 

一高は三高を破り、優勝を決めた。

 

その歓声の裏側で、聖火は会場を離れていた。

 

観客席ではない。

 

選手控えでもない。

 

会場裏の、人通りの少ない通路。

 

壁際に立ち、聖火は携帯端末を耳に当てていた。

 

歓声はまだ聞こえている。

 

一高の勝利を称える声。

 

達也たちの戦いに沸く声。

 

だが、その熱は、今の聖火には遠かった。

 

「……うん。こっちは勝ったよ」

 

端末の向こうから、軽い声が返ってくる。

 

『それは何よりだ。随分と派手な試合だったらしいな』

 

「そっちにも届いてるの?」

 

『噂は速い。特に金が絡む場所ではな』

 

聖火の表情から、わずかに笑みが消えた。

 

「それで、頼んでいた件は?」

 

短い沈黙があった。

 

歓声が、遠くで弾ける。

 

『胴元が分かった』

 

端末越しの声が告げる。

 

『九校戦を賭けの対象にしていた連中。香港系の反社会勢力だ』

 

「名前は?」

 

聖火の声が低くなる。

 

『ノーヘッド・ドラゴン』

 

その名を聞いた瞬間、聖火はわずかに息を止めた。

 

知らない名ではない。

 

噂としてなら、耳にしたことがある。

 

香港を拠点に活動する犯罪組織。

 

魔法師を利用することもあるとされる、厄介な連中。

 

「……本当に?」

 

『裏は取った。少なくとも、今回の賭けの金はそこへ流れている』

 

「日本にいるの?」

 

『いる。日本支部が動いている』

 

聖火は端末を握る手に、わずかに力を込めた。

 

「場所は?」

 

『今送った』

 

端末が短く震える。

 

聖火は耳から端末を離し、送られてきたデータを開いた。

 

地図。

 

住所。

 

建物の外観。

 

周辺の出入り記録。

 

そして、いくつかの名前。

 

聖火は画面を見つめたまま、しばらく黙っていた。

 

会場の歓声が、また一段大きくなる。

 

一高の勝利を祝う声。

 

達也たちを称える声。

 

それとは対照的に、聖火の目は冷えていく。

 

「……助かった」

 

『貸し一つな』

 

「今度来日するときに、おいしい日本食のお店でも紹介するよ」

 

『それはいいな。期待している』

 

「高くつきそうだね」

 

『お前が頼んできた時点で、安い話じゃないだろ』

 

「それもそうか」

 

聖火は小さく笑った。

 

だが、その笑みはすぐに消える。

 

「この件、表には出さないで」

 

『言われなくても。こっちも面倒はごめんだ』

 

「ありがとう」

 

通話が切れる。

 

聖火は端末を下ろした。

 

画面には、ノーヘッド・ドラゴン日本支部とされる場所の情報が表示されている。

 

偶然ではない。

 

事故も、賭けも、金の流れも。

 

そして、電子金蚕。

 

ようやく、線が一本に繋がり始めていた。

 

聖火は会場の方を見た。

 

歓声はまだ続いている。

 

一高は勝った。

 

達也たちは、勝利を掴んだ。

 

だが、裏側では別の勝負が始まろうとしている。

 

「……勝った後の方が、忙しいね」

 

誰に聞かせるでもなく、聖火はそう呟いた。

 

端末をしまい、聖火は一度だけ目を閉じる。

 

十文字に伝えるべきか。

 

達也に伝えるべきか。

 

あるいは、別の誰かに確認を取るべきか。

 

答えはすぐには出ない。

 

ただ一つだけ、はっきりしていることがあった。

 

これはもう、九校戦の中だけで終わる話ではない。

 

聖火は壁から背を離し、歓声の方へ歩き出した。

 

表では勝利が告げられている。

 

裏では、敵の名が明らかになった。

 

ノーヘッド・ドラゴン。

 

その名は、聖火の中で静かに重みを増していた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

ミラージ・バットの検査場には、いつも以上に張り詰めた空気が漂っていた。

 

各校の選手たちが、競技用デバイスの検査を受けるために列を作っている。

 

一高の選手も、その列の中にいた。

 

表面上は、いつも通りの検査だった。

 

だが、その列の脇には、本来そこにいる必要のない二人が立っていた。

 

司波達也。

 

そして、鷹山聖火。

 

二人は検査場の少し離れた位置から、検査台の周辺を見ていた。

 

「本当に来ると思う?」

 

聖火が小さく聞く。

 

達也は視線を動かさない。

 

「来るならここだ」

 

「だよね」

 

聖火は肩をすくめた。

 

「選手を狙うより、デバイスを狙う方が楽だ。しかも検査場なら、触る理由がある」

 

「大会委員会の職員なら、なおさらだ」

 

達也の声は低かった。

 

昨日までの事故。

 

四高の主張。

 

七高選手の証言。

 

CAD確認の不自然さ。

 

大会委員会内の不審な動き。

 

それらを繋げた時、次に警戒すべき場所は限られていた。

 

競技前の検査場。

 

選手のデバイスに、正式な手順として触れることができる場所。

 

聖火は胸元に下げた小さな笛へ、指先で触れた。

 

前夜、各校の代表者との間で決めた合図だった。

 

声では届かない。

 

端末では遅い。

 

ならば、一瞬で視線を集める音を使う。

 

各校の代表者たちは、その意味を知っている。

 

騒ぎを起こすためではない。

 

自校の選手を守るために。

 

やがて、一高の順番が来た。

 

一高選手のデバイスが検査台に置かれる。

 

検査員が端末を操作する。

 

一見すれば、ただの通常確認だった。

 

だが、検査員の指が、一瞬だけ止まった。

 

達也の目が細くなる。

 

「聖火」

 

「うん」

 

「あいつだ」

 

その一言で十分だった。

 

聖火はすかさず笛を吹いた。

 

鋭い音が、検査場を切り裂く。

 

選手たち。

 

検査員。

 

大会委員会の職員。

 

各校の上級生。

 

その場にいた全員の視線が、聖火へ集まった。

 

聖火は迷わず、検査台の前にいる男を指さした。

 

「そいつだ! 捕まえろ!」

 

その瞬間、動いたのは一高だけではなかった。

 

四高の上級生が、男の腕を押さえる。

 

七高の代表者が、逃げ道を塞ぐ。

 

三高の生徒が、検査台を守るように前へ出る。

 

一高の上級生が、男の身体を机から引きずり出した。

 

検査員は声を上げる暇もなく、床へ押さえ込まれる。

 

周囲が一気にざわついた。

 

「何をしている!」

 

大会委員会の職員が叫ぶ。

 

だが、その声にかぶせるように、別の学校の代表者が言った。

 

「各校の選手の安全確認です」

 

それは、前夜に確認していた言葉だった。

 

一高だけが騒いでいるのではない。

 

各校が同時に動いている。

 

だから、大会委員会はすぐには押し返せない。

 

達也は、押さえ込まれた男には目もくれず、検査端末へ向かった。

 

選手のデバイスには不用意に触れない。

 

検査端末の履歴を呼び出し、直前に走った処理を確認する。

 

「不正な介入があった」

 

その声は低かった。

 

一高の選手は、自分のデバイスと、床に押さえ込まれた男を交互に見た。

 

もし今の処理が見逃されていたら。

 

その意味に気づいた瞬間、顔から血の気が引いていく。

 

「何事かね」

 

その声が響いた瞬間、検査場のざわめきが一段低くなった。

 

現れたのは、九島烈だった。

 

各校の上級生たちが大会委員会の検査員を取り押さえ、周囲の委員たちは動揺している。

 

その中心で、達也はデバイスと検査端末を確認していた。

 

達也は九島へ一礼する。

 

「デバイスにウイルスのようなものが混入していることを確認いたしましたので、その容疑者を捕らえたところです」

 

「ほう」

 

九島の目が、わずかに細くなる。

 

その時、十文字克人が歩み出た。

 

「九島閣下。説明は私から」

 

九島は十文字へ視線を向けた。

 

「聞こう」

 

十文字は一礼し、簡潔に事情を説明した。

 

ここ数日、例年になく事故が多発していること。

 

事故に関わった選手たちの証言と、デバイスやCADの挙動に不自然な点があったこと。

 

大会委員会内にも、不審な動きを見せる者がいたこと。

 

一高は早い段階から調査を開始していたこと。

 

そして昨夜、各校との親睦会の席で、安全確保のための協力を仰いだこと。

 

各校代表者はそれを了承し、本日の検査場をそれぞれの立場で監視していた。

 

その結果、今、不正介入の証拠が出た。

 

十文字はそう説明した。

 

さらに、十文字は声を少し落とす。

 

「また、十文字家の伝手でも周辺情報を確認させました。大会委員会側に工作員がいる可能性は、低くないと判断しております」

 

九島はしばらく黙っていた。

 

周囲の大会委員たちは、明らかに動揺している。

 

一高だけではない。

 

三高、四高、七高の生徒も動いている。

 

十文字家の名前も出た。

 

もはや、単なる学生の騒ぎとして片づけることはできなかった。

 

九島は達也へ視線を向ける。

 

「見せてもらえるかね」

 

「はい」

 

達也はデバイスを慎重に取り外し、九島へ差し出した。

 

九島はそれを受け取ると、しばらく無言で確認していた。

 

周囲の空気が張り詰める。

 

やがて、九島は思い出すように呟いた。

 

「確かに、異物が混入しているようだ」

 

その声は静かだった。

 

だが、軽くはなかった。

 

「これは……電子金蚕だったな」

 

その名を聞いて、何人かの大会委員が息を呑んだ。

 

九島はデバイスから視線を外さず、淡々と続ける。

 

「東シナ海戦域で、広東軍が使っていた。こいつには、随分と苦しめられたものだよ」

 

そして、九島は達也たちへ視線を向けた。

 

「それで、君たちはこれを知っていたのかね」

 

達也は首を横に振った。

 

「いえ。ウイルスのような何かとしか思っておりませんでした。そんな代物だったとは思いもしませんでした」

 

九島は小さく頷いた。

 

「そうか」

 

その視線が、床に押さえ込まれている検査員へ向けられる。

 

「それで、君はどこでこれを手に入れたのだね?」

 

検査員は抵抗をやめていた。

 

観念したような顔で、視線を落としている。

 

やがて、他の大会委員たちが彼を拘束し、連れていった。

 

九島はその背を見送り、静かに息を吐く。

 

それから、九島は十文字へ視線を向けた。

 

「さて。該当する生徒には予備のデバイスを使わせるといい。このような事情だ。改めて検査する必要はあるまい」

 

十文字は一礼した。

 

「お心遣い、感謝いたします」

 

九島は頷き、次に大会委員たちへ視線を移した。

 

その目は、先ほどよりもずっと冷えていた。

 

「大会運営の中に不正を行う者がいるなど、かつてない不祥事だ」

 

隣にいた委員たちの顔色が変わる。

 

「あとで、言い訳を聞かせてもらおうか」

 

誰も答えられなかった。

 

九島は再び、達也、聖火、十文字、そしてその場にいた各校の上級生たちを見た。

 

「君たちはよくやってくれた」

 

その一言で、張り詰めていた空気がわずかに緩む。

 

「準備もあるだろう。下がってよい」

 

各校の生徒たちは、九島へ一礼した。

 

一高。

 

三高。

 

四高。

 

七高。

 

それぞれの代表者たちは、互いに短く視線を交わし、それぞれの持ち場へ戻っていく。

 

該当する一高の選手もまた、予備のデバイスを受け取り、競技の準備へ向かった。

 

聖火はその背中を見送りながら、小さく息を吐いた。

 

間に合った。

 

少なくとも、今回は。

 

だが、九島の口から出た「電子金蚕」という名は、聖火の耳に重く残っていた。

 

達也はその横で、何も言わずに検査場を見ていた。

 

十文字もまた、押さえ込まれた検査員が連れていかれた先を見つめている。

 

犯人は一人捕まえた。

 

デバイスも守れた。

 

事故も防げた。

 

それでも、これで終わりではない。

 

聖火は、そう感じていた。

 

電子金蚕。

 

大会委員会への工作。

 

そして、その背後にいる何者か。

 

見えなかった敵の輪郭が、少しずつ形を持ち始めていた。

 

 




ここ美月の見せ場なんでしょうが、それしてしまうと救えませんのでこうなりました。
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