魔法科高校の劣等生 四葉の火の鳥   作:ペンギン豚

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今回は雫と深雪、二人の話を少ししたいと思っております。


約束のパウンドケーキ

 

 

夏休みも終わりに近づいたある日。

 

鷹山聖火は、北山雫の家の前に立っていた。

 

手には、丁寧に包まれた箱がある。

 

中身は、フルーツのパウンドケーキ。

 

九校戦のダンスの時に、雫から要求された約束の品だった。

 

ただのパウンドケーキではない。

 

アメリカから遊びに来ていた友人、ケイシー・ライバックから教わったレシピをもとに、聖火が自分で焼いたものだ。

 

ドライフルーツは前日から香りを移し、生地は重くなりすぎないように調整した。

 

焼き上がってから少し寝かせ、味が落ち着くのを待った。

 

美沙には、

 

「これは、なかなか本気ね」

 

と言われた。

 

聖火としても、否定はしなかった。

 

約束した以上、半端なものを持っていくわけにはいかない。

 

それに、相手は北山雫である。

 

ごまかしが通じる相手ではない。

 

聖火は目の前の邸宅を見上げた。

 

広い敷地。

 

整えられた門構え。

 

無駄なく手入れされた庭。

 

建物そのものも大きいが、派手に見せびらかすような成金趣味ではない。

 

静かに、しかし確かに格がある。

 

「……さすが」

 

思わず、そう呟いた。

 

門の前で名前を告げると、ほどなくしてメイドが現れた。

 

「鷹山聖火様でいらっしゃいますね」

 

「はい。本日はお招きありがとうございます」

 

聖火は丁寧に頭を下げた。

 

メイドは礼儀正しく一礼し、屋敷の中へ案内する。

 

廊下を歩きながら、聖火は改めて感心した。

 

隅々まで整っている。

 

だが、冷たくはない。

 

人が住む家としての温度がある。

 

雫らしい家だ、と聖火は思った。

 

案内された先は、落ち着いた雰囲気の応接室だった。

 

そこにはすでに、三人の少女が席についていた。

 

北山雫。

 

光井ほのか。

 

司波深雪。

 

雫はいつも通り静かな表情でこちらを見る。

 

ほのかは嬉しそうに顔を明るくした。

 

深雪は柔らかな微笑みを浮かべている。

 

「こんにちは。お待たせ」

 

聖火は軽く頭を下げた。

 

「約束の品を持ってきたよ」

 

雫の目が、ほんの少しだけ動いた。

 

「待ってた」

 

「うん。そう言うと思った」

 

ほのかがくすりと笑う。

 

「雫、今日ずっと楽しみにしてたんだよ」

 

「してた」

 

雫は否定しなかった。

 

深雪が箱へ視線を向ける。

 

「聖火くんが自分で焼いたの?」

 

「一応ね。レシピは知り合いの料理人から教えてもらったものだけど」

 

「料理人の方?」

 

「うん。少し変わった人だけど、腕は本物」

 

雫が静かに言う。

 

「期待してる、聖火」

 

「名前を添えられると、圧が少し増すね」

 

「圧はかけてない」

 

「雫さんの期待は、無言でも圧になるんだよ」

 

ほのかが困ったように笑い、深雪も口元を押さえた。

 

聖火は箱を軽く持ち上げた。

 

「切り分けと、あと紅茶を淹れたいんだけど、厨房を少し借りてもいいかな? ケーキに合う茶葉も持ってきたから」

 

雫はすぐに頷いた。

 

「いい。お願い」

 

控えていたメイドが静かに一礼する。

 

「それでは、こちらへご案内いたします」

 

「ありがとうございます」

 

聖火は三人に軽く会釈した。

 

「少し待ってて。せっかくだから、ちゃんと出すよ」

 

「うん」

 

「楽しみにしてるね、聖火くん」

 

「待っているわ、聖火くん」

 

聖火はメイドに案内され、応接室を出ていった。

 

扉が静かに閉まる。

 

少しの間、三人の間に穏やかな沈黙が流れた。

 

最初に口を開いたのは、ほのかだった。

 

「聖火くんって、本当に何でも自然にやるよね」

 

雫が小さく頷く。

 

「気配りが細かい」

 

「ただケーキを持ってくるだけじゃなくて、紅茶まで用意してくるところが聖火くんらしいよね」

 

ほのかの言葉に、深雪は柔らかく微笑んだ。

 

「ええ。聖火くんらしいと思うわ」

 

その言い方があまりに自然だったので、ほのかと雫は同時に深雪を見た。

 

深雪が少し不思議そうに首を傾げる。

 

「どうかした?」

 

ほのかは少し迷った後、遠慮がちに尋ねた。

 

「あの、深雪。深雪は、聖火くんのことをどう思っているの?」

 

「聖火くんのこと?」

 

「うん。なんというか……すごく親しそうだから」

 

雫も静かに言う。

 

「深雪、聖火の前だと少し雰囲気が違う」

 

「そうかしら?」

 

「違う」

 

雫は短く断言した。

 

深雪は少しだけ目を伏せた。

 

聖火くんのことをどう思っているのか。

 

そう問われると、少し困る。

 

嫌いではない。

 

もちろん、苦手でもない。

 

むしろ、深雪にとって聖火くんは、とても大切な人の一人だった。

 

けれど、それは兄である達也への想いとは違う。

 

達也は、深雪にとって唯一無二の存在だ。

 

比べること自体ができない。

 

聖火への感情は、それとは別の場所にある。

 

「自分でも、不思議なの」

 

深雪は静かに言った。

 

「聖火くんと一緒にいると、時々、自分が普通の子供に戻ったような気持ちになるの」

 

ほのかが瞬きをする。

 

「普通の子供?」

 

「ええ」

 

深雪はゆっくり頷いた。

 

「私は、父というものをよく知らないわ。だから、これが正しい表現なのかは分からないけれど」

 

そこで一度、言葉を探すように間を置く。

 

「聖火くんが私を見る時、時々、ただの深雪として見てくださっているように感じるの」

 

「ただの深雪……」

 

ほのかが小さく繰り返す。

 

深雪は微笑んだ。

 

「優秀な魔法師としてでも、お兄様の妹としてでもなく。ただ、深雪ちゃんとして見てくださっているように感じるのよ」

 

雫は黙って聞いていた。

 

深雪の声は、いつもより少し柔らかかった。

 

「聖火くんは、私を子供扱いなさることがあるの」

 

「子供扱い?」

 

ほのかが少し驚いたように言う。

 

「ええ。失礼な意味ではないわ。むしろ、とても自然に」

 

深雪は少しだけ困ったように笑った。

 

「最初は戸惑ったわ。でも、今はそれが少し安心するの」

 

「安心……」

 

「ええ。何かを期待されているわけではない。評価されているわけでもない。ただ、そこにいていいと言われているような気がして」

 

そこで、深雪は小さく首を傾げた。

 

「……ただ、どうしてそう感じるのかは、私にもよく分からないの」

 

ほのかは、その言葉に少しだけ胸の奥が温かくなるのを感じた。

 

深雪にとって聖火は、恋の相手ではない。

 

達也の代わりでもない。

 

けれど、確かに特別な場所にいる。

 

そのことだけは分かった。

 

雫はしばらく黙っていたが、やがてぽつりと言った。

 

「聖火、変な人」

 

深雪は少し驚いたように雫を見る。

 

雫は続ける。

 

「でも、悪い変さじゃない」

 

ほのかが笑う。

 

「うん。それは分かるかも」

 

深雪も、つられるように小さく笑った。

 

「ええ。聖火くんは、少し不思議な方ね」

 

そこで、ほのかは少し考えるように視線を落とした。

 

「私は、聖火くんのこと、友達としてすごく頼りにしてるかな」

 

深雪と雫が、ほのかを見る。

 

ほのかは少し照れたように笑った。

 

「もちろん、変わってるなって思うところもあるけど。でも、困った時に自然に手を貸してくれるし、こっちが言葉にする前に気づいてくれることもあるから」

 

ほのかは、九校戦でのことを少し思い出していた。

 

怖かった時。

 

迷った時。

 

気づけば、聖火は必要な場所にいた。

 

派手に助けるわけではない。

 

でも、そっと支えてくれる。

 

「だから、頼れる友達……かな」

 

ほのかはそう言って、少しだけ笑った。

 

その答えは、今のほのからしかった。

 

ついこの前、達也へ自分の気持ちを伝えたばかりのほのかにとって、聖火への感情は迷うものではない。

 

大切な友人。

 

頼りになる人。

 

それで十分だった。

 

雫は、しばらくカップの中を見つめていた。

 

ほのかが少し首を傾げる。

 

「雫は?」

 

「私?」

 

「うん。雫は、聖火くんのことどう思ってるの?」

 

雫はすぐには答えなかった。

 

深雪も静かに雫を見る。

 

雫は少しだけ目を伏せる。

 

「分からない」

 

「分からない?」

 

ほのかが聞き返す。

 

雫は頷いた。

 

「恋愛対象として見ているかは、分からない」

 

ほのかは少しだけ目を丸くした。

 

深雪も、わずかに表情を動かす。

 

雫は淡々と続けた。

 

「でも、気になる」

 

「気になる……」

 

「うん」

 

雫は窓の外へ視線を向ける。

 

「聖火は、見ているところが少し違う。人の好みとか、空気とか、言葉にしないものに気づく。なのに、自分のことはあまり話さない」

 

ほのかは頷いた。

 

「それは、分かるかも」

 

「だから、気になる」

 

雫は短く言った。

 

「それが恋愛かは、まだ分からない」

 

その言い方は、雫らしく率直だった。

 

好きだと断言するわけではない。

 

違うと否定するわけでもない。

 

ただ、自分の中にある曖昧な興味を、そのまま言葉にしている。

 

深雪は穏やかに微笑んだ。

 

「雫らしいわね」

 

「そう?」

 

「ええ」

 

ほのかも小さく笑う。

 

「でも、雫がそういうふうに言うの、少し珍しいかも」

 

雫はカップを置いた。

 

「聖火が変だから」

 

「それ、理由になるの?」

 

「なる」

 

雫は真顔で答えた。

 

ほのかが思わず笑い、深雪も口元を押さえた。

 

三人の間に、柔らかな空気が流れる。

 

聖火が戻ってくるまでの短い時間。

 

それぞれの中で、鷹山聖火という少年の位置が、少しだけ言葉になった。

 

深雪にとっては、理由の分からない安心感。

 

ほのかにとっては、頼れる友人。

 

雫にとっては、まだ名前の付かない興味。

 

同じ少年を見ていても、見えているものは少しずつ違っていた。

 

その時、扉の向こうから足音が近づいてきた。

 

メイドの気配。

 

そして、もう一つ。

 

聖火の声が聞こえた。

 

「すみません、茶器はこちらで合っていますか?」

 

メイドの穏やかな返答が続く。

 

どうやら、紅茶の準備に少し手間取っているらしい。

 

ほのかが小さく笑う。

 

「噂をすれば、だね」

 

雫は静かに頷いた。

 

「ケーキ、楽しみ」

 

深雪は扉の方を見た。

 

その表情は、穏やかで、少しだけ嬉しそうだった。

 

まもなく扉が開いた。

 

先にメイドが入り、続いて聖火がワゴンを押して応接室へ戻ってくる。

 

ワゴンの上には、きれいに切り分けられたフルーツのパウンドケーキと、温められた茶器。

 

それから、香りの立つ紅茶のポットが載せられていた。

 

「お待たせ」

 

聖火は少しだけ肩の力を抜いたように笑った。

 

「厨房をお借りしました。ありがとうございます」

 

メイドへ丁寧に頭を下げると、メイドは静かに一礼した。

 

「とんでもございません。見事な手際でございました」

 

「いえ、さすがにこちらの厨房は少し緊張しました」

 

「聖火でも緊張するんだ」

 

雫が言う。

 

「するよ。ここ、雫さんの家だよ?」

 

「普通」

 

「雫さんにとってはね」

 

聖火はそう言いながら、まず雫の前に皿を置いた。

 

薄く切り分けられたパウンドケーキは、しっとりとした生地の中に、赤や橙、淡い黄色の果実が散っている。

 

表面には控えめな艶があり、甘い香りの奥に、柑橘と茶葉に似た爽やかな匂いが混ざっていた。

 

「これが、約束のフルーツパウンドケーキ」

 

聖火は少しだけ真面目な顔で言った。

 

「知り合いの料理人から教わったレシピを、俺なりに少し調整したものだよ。果物の香りが強いから、紅茶は渋みが出すぎないものにした」

 

ほのかの目が輝く。

 

「すごい……お店みたい」

 

深雪も静かに皿へ視線を落とした。

 

「とても綺麗ね」

 

雫はしばらくケーキを見つめていた。

 

そして、短く言う。

 

「合格」

 

「まだ食べてないよね?」

 

「見た目」

 

「第一審査ってことかな」

 

「うん」

 

聖火は苦笑した。

 

「では、第二審査をどうぞ」

 

雫はフォークを手に取り、パウンドケーキを一口分だけ切った。

 

動作は静かだが、視線は真剣だった。

 

ほのかと深雪も、どこか見守るように雫を見る。

 

雫はケーキを口に運ぶ。

 

ゆっくりと味わう。

 

聖火は黙って待った。

 

雫は表情をほとんど変えない。

 

だが、数秒後、ほんの少しだけ目を細めた。

 

「おいしい」

 

その一言に、聖火は目に見えて安堵した。

 

「よかった」

 

「思ったより軽い」

 

「雫さんならそう言うと思った。重すぎると途中で飽きるかなと思って」

 

「果物の香りが強い。でも甘すぎない」

 

「そこはかなり気をつけた。紅茶と合わせる前提だったから」

 

雫はすぐに紅茶へ手を伸ばした。

 

一口飲む。

 

そして、また短く頷く。

 

「合う」

 

ほのかが嬉しそうに笑った。

 

「雫、かなり気に入ってるね」

 

「気に入った」

 

雫は否定しなかった。

 

聖火は小さく息を吐いた。

 

「約束を果たせて何よりです」

 

「まだ」

 

「まだ?」

 

雫は真顔で言った。

 

「もう一回分、要求するかもしれない」

 

「約束が増えた」

 

「おいしかったから」

 

「それを言われると断りづらいな」

 

ほのかが笑いながら、ケーキを口に運んだ。

 

「本当だ。すごくおいしい。果物の味がちゃんとするのに、重くない」

 

「ありがとう。ほのかさんは、もう少し甘めでもよかった?」

 

「ううん。これくらいが好きかも。紅茶と一緒だとちょうどいい」

 

「よかった」

 

深雪も静かにフォークを入れる。

 

一口食べた後、少しだけ目を和らげた。

 

「とても優しい味ね」

 

「優しい味?」

 

聖火が首を傾げる。

 

深雪は紅茶を一口飲んでから、微笑んだ。

 

「ええ。果物の甘さも、生地の香りも、どちらかが強すぎることなく、きちんと調和しているわ。紅茶も、ケーキの香りを邪魔していない」

 

「深雪ちゃんにそう言ってもらえると、頑張った甲斐があるな」

 

その呼び方に、ほのかと雫が一瞬だけ深雪を見る。

 

深雪はいつものように微笑んでいたが、その表情は少しだけ柔らかかった。

 

ほのかは、先ほどの会話を思い出す。

 

ただの深雪として見てくれる。

 

深雪ちゃんとして見てくれる。

 

その意味が、少し分かった気がした。

 

聖火はその視線に気づいたのか、気づいていないのか、平然と紅茶を注ぎ足す。

 

「雫さん、紅茶はもう少し濃い方がいい?」

 

「今のままでいい」

 

「了解」

 

「聖火」

 

「ん?」

 

「これ、さっき言ってた料理人の人のレシピ?」

 

「うん。元はね。ただ、その人のレシピそのままだと少し大人向けだったから、果物の種類と香りの出し方を変えた」

 

「大人向け?」

 

「かなり香りが強い。たぶん、ウイスキーとかブランデーに合わせる前提」

 

「それは駄目」

 

「だから変えた」

 

「正解」

 

雫は淡々と頷いた。

 

ほのかが感心したように言う。

 

「そこまで考えて作ったんだね」

 

「せっかくの約束だったからね」

 

聖火は軽く笑った。

 

「それに、九校戦で頑張ったご褒美でもあるし」

 

雫はフォークを止めた。

 

少しだけ目を伏せる。

 

「聖火も頑張った」

 

「俺は裏方だから」

 

「裏方も大事」

 

雫は短く言った。

 

「それに、ダンスの約束を覚えてた」

 

「雫さん、あれは忘れたら怒るでしょ」

 

「怒る」

 

「ほら」

 

雫はもう一口、ケーキを食べる。

 

その表情は相変わらず静かだったが、どこか満足そうだった。

 

ほのかはそんな雫を見て、嬉しそうに笑った。

 

「よかったね、雫」

 

「うん」

 

深雪も紅茶のカップを手に、穏やかに微笑んでいる。

 

聖火は四人分の紅茶を確認しながら、ふと息をついた。

 

「それにしても、雫さんの家はすごいね。さすが、って言葉が自然に出たよ」

 

「普通」

 

「普通ではないと思うよ」

 

「私には普通」

 

「それはそう」

 

ほのかがくすりと笑う。

 

「聖火くんでも、そういうこと言うんだね」

 

「言うよ。豪邸を見て豪邸だと思わないほど、感覚は麻痺してないから」

 

「鷹山家も十分すごいと思うけど」

 

「うちは変な家だから」

 

深雪が小さく笑う。

 

「聖火くん、それは治憲叔父様と美沙叔母様に失礼では?」

 

「でも否定できないでしょ?」

 

深雪は少しだけ考えるように目を伏せた。

 

「……温かい家だと思うわ」

 

「深雪ちゃんは優しいね」

 

「本当のことよ」

 

その言葉に、聖火は少しだけ照れたように視線を外した。

 

雫はそれを見て、ぽつりと言う。

 

「照れてる」

 

「照れてない」

 

「照れてる」

 

「雫さん、そこは追及しないでくれると助かる」

 

「分かった」

 

言葉とは裏腹に、雫は少しだけ満足そうだった。

 

ほのかがまた笑う。

 

深雪も静かに微笑んだ。

 

応接室には、紅茶の香りと、果物の甘い香りが満ちていた。

 

九校戦で交わされた小さな約束。

 

ダンスの後、雫が当然のように要求したパウンドケーキ。

 

それは少し遅れて、夏の終わりの午後に果たされた。

 

そして、その約束の席で、三人の少女たちは、それぞれ少しだけ、自分の中にある聖火への距離を知った。

 

頼れる友人。

 

気になる相手。

 

理由の分からない安心感。

 

名前は違っても、そこにある空気は穏やかだった。

 

雫は最後の一口を食べ終えると、紅茶を飲み、静かに言った。

 

「聖火」

 

「はい」

 

「次は、別のケーキも食べたい」

 

「要求が増えた」

 

「増えた」

 

聖火は少し困ったように笑った。

 

「分かった。次は、また考えておくよ」

 

雫は満足そうに頷いた。

 

「期待してる」

 

「だから、その期待は圧なんだよ」

 

ほのかが笑い、深雪もくすりと笑う。

 

雫は変わらない表情で、しかしどこか楽しそうに言った。

 

「圧はかけてない」

 

その言葉に、応接室の空気がまた柔らかくほどけた。

 




果たしてこの伏線の話までたどりつけるのでしょうか?

実は聖火のヒロインってまだ決まっていないんですよね。
いろいろと候補があるのですが、真夜は殿堂入りしており、別枠になります。
その理由もあるのですが、そこまで話が続くかは不明です。


ただ、そのまま真夜がヒロインになる可能性も捨てきれませんので、聖火の恋愛話はしばらく、はぐらかすと思います。
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