魔法科高校の劣等生 四葉の火の鳥   作:ペンギン豚

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今日のAIはどうしたのでしょう。なかなかいうことを聞いてくれています。
もうお気づきの方もいるかと思いますが原作時間の話は原作のタイトルをそのまま使っていくつもりです。


戻りつつある日常と変わりつつある環境

鷹山聖火が家に帰ったのは、家出してから一か月後のことだった。

 

聖火にとっては、三十年近い時間が過ぎていた。

 

戦場を渡り、国を越え、時代を越え、クローバーとして数えきれないほどの命を拾ってきた。

 

だが、玄関の前に立った瞬間、その三十年はひどく薄くなった。

 

表札。

 

郵便受け。

 

門扉の傷。

 

庭木の形。

 

すべてが、あの日のままだった。

 

あの日。

 

父の再婚を受け入れられず、怒鳴り、飛び出し、そして二度と戻れなくなった日のまま。

 

聖火はしばらく、インターホンに指を伸ばせなかった。

 

鍵は持っていない。

 

持っていたとしても、使えなかっただろう。

 

ここは自分の家だ。

 

そう思うには、彼はあまりにも長く帰っていなかった。

 

けれど。

 

逃げるには、もう遅すぎた。

 

聖火は、インターホンを押した。

 

しばらくして、扉が開く。

 

父がいた。

 

記憶より、少しだけ疲れた顔をしていた。

 

だが、聖火にとっては三十年ぶりの顔だった。

 

父は、何も言わなかった。

 

怒鳴りもしなかった。

 

問い詰めもしなかった。

 

ただ、一歩踏み出して、聖火を抱きしめた。

 

「……すまない」

 

その声は震えていた。

 

「すまなかった、聖火」

 

聖火は、何も言えなかった。

 

三十年分の言葉が、喉の奥で詰まった。

 

自分はもう、子供ではない。

 

そう思っていた。

 

だが、父の腕の中で、聖火はようやく思い出した。

 

自分は、家出したままの子供だった。

 

父の背後で、誰かが息を呑む気配がした。

 

聖火は、父の肩越しにその人を見る。

 

女性が立っていた。

 

記憶よりも少しやつれている。

 

けれど、その面影はよく知っていた。

 

母に似ている。

 

正確には、母の妹だった。

 

父が再婚しようとしていた相手。

 

聖火が、どうしても受け入れられなかった人。

 

彼女は玄関の奥に立ったまま、動けずにいた。

 

泣きそうな顔をしている。

 

だが、泣く資格が自分にあるのか分からない。

 

そんな顔だった。

 

聖火は父の腕の中で、少しだけ息を吸った。

 

喉が痛い。

 

戦場で叫びすぎた時の痛みとは違う。

 

もっと古くて、もっと子供じみた痛みだった。

 

「……ごめんなさい」

 

最初に言ったのは、彼女だった。

 

「聖火君、ごめんなさい」

 

聖火は首を横に振った。

 

それは違う。

 

違うのだと、三十年かかってようやく分かった。

 

悪いのは彼女ではない。

 

父でもない。

 

いや、誰も悪くなかったと言うには、あの日の自分は傷つきすぎていた。

 

けれど。

 

少なくとも、彼女だけを悪者にしていい話ではなかった。

 

聖火は父から少しだけ離れ、彼女に向き直った。

 

「謝るのは、俺の方です」

 

女性の目が揺れた。

 

「俺は、あなたが悪いわけじゃないのに、あなたを悪者にした」

 

声が震えそうになる。

 

聖火は奥歯を噛んだ。

 

「母さんの代わりに来た人だと思った。父さんを取る人だと思った。俺の家を変える人だと思った」

 

女性は何も言えなかった。

 

「でも違った」

 

聖火は言った。

 

「あなたも、母さんを失った人だったのに」

 

その一言で、女性の顔が崩れた。

 

涙が落ちる。

 

父が、何かを言おうとして、やめた。

 

玄関には、三人分の沈黙が落ちた。

 

一か月分の沈黙。

 

そして、三十年分の沈黙。

 

聖火は小さく頭を下げた。

 

「ごめんなさい」

 

その言葉は、家を出た少年が言えなかった言葉だった。

 

そして、三十年かけてようやく持ち帰った言葉だった。

 

父はもう一度、聖火の肩に手を置いた。

 

「入れ」

 

声はまだ震えていた。

 

「……家だろう」

 

聖火は、少しだけ笑った。

 

「うん」

 

それだけを返すのが、精一杯だった。

 

玄関をくぐる。

 

靴を脱ぐ。

 

廊下を見る。

 

壁にかかった時計。

 

少し古びた傘立て。

 

母が好きだった花瓶。

 

何もかもが、記憶の中とほとんど変わらなかった。

 

変わっていないことが、苦しかった。

 

けれど、少しだけ救いでもあった。

 

その日、鷹山家では長い話し合いが行われた。

 

怒鳴り合いにはならなかった。

 

誰か一人が悪いという話にもならなかった。

 

父は何度も謝った。

 

美沙も何度も謝った。

 

聖火もまた、謝った。

 

すぐに家族になれたわけではない。

 

そんな都合のいい奇跡は起きなかった。

 

それでも、同じ食卓につくことはできた。

 

同じ家で眠ることはできた。

 

翌朝、起きた時に誰かが台所にいる気配を聞くこともできた。

 

それだけで、聖火には十分すぎるほどだった。

 

それからしばらく、鷹山家は少しずつ家族をやり直した。

 

旅行。

 

食事。

 

買い物。

 

ぎこちない会話。

 

何でもない散歩。

 

父は必要以上に聖火を気遣い、美沙は遠慮がちに彼の好物を食卓に並べた。

 

聖火は最初、そのたびにどう反応していいか分からなかった。

 

だが、少しずつ軽口が戻っていった。

 

「父さん、泣きそうな顔で味噌汁出されると、こっちが飲みにくいんだけど」

 

「泣いていない」

 

「いや、だいぶ泣いてる顔だよ」

 

「泣いていない」

 

「じゃあ、その顔は玉ねぎ?」

 

「朝食に玉ねぎは使っていない」

 

「父さん、そこ真面目に返すところじゃない」

 

そんな会話をして、美沙が台所で小さく笑う。

 

その笑い声を聞いて、聖火は少しだけ肩の力を抜く。

 

完全に元通りになったわけではない。

 

そんなものは、そもそも戻らない。

 

けれど、壊れたままでも一緒に暮らすことはできる。

 

聖火は、ようやくそれを知った。

 

そして、学校にも通常通り通い始めた頃。

 

休日の昼前、鷹山家のインターホンが鳴った。

 

聖火はリビングで菓子をつまみながら、だらしなくソファに沈んでいた。

 

「聖火、出てくれるか」

 

父に言われ、聖火は面倒そうに立ち上がる。

 

「はいはい、鷹山家の迷える子羊相談窓口でーす」

 

「その名乗りはやめなさい」

 

母にたしなめられ、聖火は肩をすくめた。

 

「はーい」

 

返事だけは素直だった。

 

玄関へ向かい、扉を開ける。

 

そこにいたのは、司波深夜だった。

 

その後ろには、桜井穂波。

 

そして、司波達也と司波深雪。

 

深夜は、見る者を不安にさせるほど綺麗な笑みを浮かべていた。

 

「ごきげんよう、聖火さん」

 

聖火は数秒だけ固まった。

 

そして、無言で扉を閉めようとした。

 

深夜が扉に手を添える。

 

「失礼ではありませんか」

 

「いやいやいやいや」

 

聖火は扉の隙間から深夜を見る。

 

「深夜さん、何でうちの玄関にいるんですか」

 

「ご挨拶に伺いました」

 

「ご挨拶」

 

「ええ。先日は大変お世話になりましたので」

 

「それは……まあ、分かりますけど」

 

聖火は深夜の後ろを見る。

 

穂波は丁寧に頭を下げる。

 

達也は無表情にこちらを見ている。

 

深雪は少し緊張した様子で、それでも礼儀正しく立っていた。

 

どう見ても、ただの近所の挨拶という顔ぶれではなかった。

 

「……いや、分かるようで分からないな」

 

聖火は額に手を当てた。

 

「普通、こういう挨拶って事前に連絡しません?」

 

「ご近所ですもの。直接伺った方が早いでしょう」

 

「ご近所?」

 

聖火の動きが止まった。

 

深夜は微笑んだまま言った。

 

「ええ。司波家は、こちらから歩いて数分です」

 

「……初耳なんですが」

 

「今、申し上げました」

 

「そういう意味じゃないんですよ」

 

聖火は深く息を吐いた。

 

「いや待ってください。つまり、あの沖縄の戦場で出会った司波家が、実はうちの近所だったと?」

 

「そうなりますね」

 

「怖い偶然ですね」

 

「偶然でしょうか」

 

「そこで意味深に笑うのやめてもらえます?」

 

深夜は微笑みを崩さない。

 

「被害妄想です」

 

「深夜さんの笑顔でその言葉を言われると、説得力が死ぬんですよ」

 

そのやり取りを聞いていた父が、玄関の奥から顔を出した。

 

「聖火、お客様か?」

 

聖火は振り返り、少し困ったように笑った。

 

「うん。えーっと……命を拾ったら、ご近所だった人たち」

 

「説明になっていないぞ」

 

「俺もそう思う」

 

深夜は父へ向き直り、丁寧に頭を下げた。

 

「突然の訪問、失礼いたします。近所に住んでおります、司波深夜と申します」

 

穂波も続いて頭を下げる。

 

「桜井穂波です。司波家に仕えております。先日は、聖火さんに命を救っていただきました」

 

達也も深くはないが、きちんと礼をする。

 

「司波達也です」

 

深雪もその隣で、丁寧に頭を下げた。

 

「司波深雪です」

 

父は一瞬、言葉を失った。

 

それから、慌てたように姿勢を正す。

 

「これはご丁寧に。聖火の父、鷹山治憲です」

 

続いて、父の隣に立っていた女性も静かに頭を下げた。

 

「鷹山美沙です」

 

聖火はその横で、なんとも言えない顔をしていた。

 

「……いや、急にちゃんとした挨拶の空気になると、俺だけ浮くんだけど」

 

治憲が横目で聖火を見る。

 

「お前が一番ちゃんとしなければならない場面だろう」

 

「正論で刺してくるのやめて、父さん」

 

深夜は微笑んだ。

 

「ご家族は常識的で安心しました」

 

「今、俺だけ非常識扱いしましたよね」

 

「違うのですか?」

 

「達也君、助けて」

 

達也は少しだけ間を置いて答えた。

 

「判断材料が不足している」

 

「不足してるなら助けてよ」

 

深雪が小さく笑った。

 

穂波も口元を押さえ、わずかに肩を震わせている。

 

その空気を見て、美沙が柔らかく微笑んだ。

 

「皆さま、よろしければ中へどうぞ。玄関先でお話しするのも何ですから」

 

治憲も頷いた。

 

「ああ、そうですね。どうぞ、お上がりください」

 

深夜はもう一度、丁寧に頭を下げた。

 

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

 

聖火は小さく息を吐き、扉を大きく開けた。

 

「……はいはい、どうぞ。まさかご近所付き合いがこんなに濃いとは思わなかったけど」

 

美沙が穏やかにたしなめる。

 

「聖火」

 

「すみません」

 

即答だった。

 

深夜はそれを見て、楽しげに目を細めた。

 

「良いご家庭ですね」

 

「深夜さん、それ褒めてます?」

 

「もちろんです」

 

「その笑顔で言われると怖いんですよ」

 

「失礼ですね」

 

「深夜さんにだけは言われたくないですねえ」

 

聖火はそう言いながら、一歩横へ退いた。

 

戦場で繋がった縁が、休日の玄関先に立っている。

 

それは奇妙で、少し厄介で、けれど不思議と悪くない光景だった。

 

司波家の一行が、鷹山家の玄関をくぐる。

 

深雪は少し緊張した様子で靴を揃えた。

 

穂波はその隣で自然に手を添え、深雪の動きを助ける。

 

達也は黙って周囲を確認していた。

 

子供らしさよりも、警戒と観察の方が先に立つ目だった。

 

聖火はそれを見て、苦笑する。

 

「達也君、うちは戦場じゃないぞ」

 

「分かっている」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、その警戒レベルを二段階くらい下げようか。うちの玄関に敵兵は出ないから」

 

「可能性は低い」

 

「ゼロって言ってほしかったなあ」

 

深雪が小さく眉を下げる。

 

「お兄様は、いつもこうなのです」

 

「深雪ちゃんも大変だね」

 

「いえ。お兄様ですので」

 

「今ので全部許されるんだ」

 

深雪は不思議そうに首を傾げた。

 

「はい」

 

聖火は達也を見る。

 

「達也君」

 

「何だ」

 

「妹さんに感謝した方がいいよ」

 

「している」

 

「うん、そういうところだよ」

 

達也はわずかに首を傾げた。

 

「どういう意味だ」

 

「真面目すぎて逆に面白いって意味」

 

「面白がられる要素はないと思うが」

 

「そこが面白いんだよなあ」

 

深夜はそのやり取りを見ながら、楽しげに目を細めていた。

 

「聖火さん」

 

「何ですか、深夜さん」

 

「随分と達也さんと打ち解けているようですね」

 

「打ち解けてますかね、これ」

 

「少なくとも、達也さんが返事をしています」

 

「それ、基準低くないですか?」

 

深夜は微笑んだ。

 

「達也さんですので」

 

聖火は一瞬だけ、深夜を見る。

 

母が息子を呼ぶには、少しだけ他人行儀な響きだった。

 

だが、今ここで触れることではない。

 

聖火は肩をすくめる。

 

「司波家、妹さんもお母さんもその一言で全部通す気ですか」

 

深雪はきょとんとした顔で答えた。

 

「はい」

 

「深雪ちゃんまで」

 

達也は表情を変えずに言った。

 

「事実なら仕方ない」

 

「達也君、君も乗っかるのか」

 

「否定する理由がない」

 

「強いな、司波家」

 

穂波が口元を押さえ、わずかに肩を震わせていた。

 

聖火はそれに気づき、穂波を見る。

 

「穂波さん、笑ってます?」

 

「いえ。微笑ましいと思っただけです」

 

「それ、だいたい笑ってる人の言い方ですよ」

 

「失礼いたしました」

 

「いや、謝られるとこっちが困るんですけど」

 

美沙が台所の方へ向かいながら、穏やかに言った。

 

「聖火、お茶の準備を手伝って」

 

「はいはい」

 

「返事は一回」

 

「はい」

 

即答だった。

 

達也がそれを見て、少しだけ聖火を見る。

 

聖火は目ざとく気づいた。

 

「何その目」

 

「いや」

 

「今、意外そうな顔したよね」

 

「していない」

 

「いやした。ほんのちょっとだけした。母さんに言われたら即答するんだ、みたいな顔した」

 

達也は少し間を置いた。

 

「そう見えたなら、そうなのだろう」

 

「認め方が真面目すぎる」

 

深雪が小さく笑った。

 

「聖火さんとお兄様は、少し似ていますね」

 

聖火と達也が同時に深雪を見る。

 

「どこが?」

 

「どこがだ」

 

声が重なった。

 

深雪は嬉しそうに微笑んだ。

 

「そういうところです」

 

聖火は達也を見た。

 

達也も聖火を見る。

 

しばらく沈黙が落ちる。

 

先に聖火が肩をすくめた。

 

「達也君、今のは俺たちの負けだ」

 

「勝負だったのか」

 

「たぶんね」

 

「そうか」

 

「納得するんだ」

 

深夜はその光景を見て、静かに笑っていた。

 

からかいではない。

 

観察でもない。

 

ほんの少しだけ、日常を見るような笑みだった。

 

居間へ向かう廊下を、司波家の一行が進んでいく。

 

聖火はその後ろ姿を見ながら、少しだけ息を吐いた。

 

自分が戦場で拾った縁。

 

拾った命。

 

拾われた言葉。

 

それらが今、家の中へ入ってくる。

 

奇妙な気分だった。

 

だが、不思議と嫌ではなかった。

 

鷹山家は、再び家族を始めたばかりだ。

 

そこに、司波家という奇妙な隣人が加わる。

 

面倒なことになる。

 

それは間違いない。

 

だが、退屈はしなさそうだった。

 

聖火は台所へ向かいながら、小さく呟いた。

 

「ほんと、今日は濃いご近所付き合いだな」

 

「聖火」

 

美沙の声が飛んだ。

 

「はい、すみません」

 

やはり即答だった。

 




追憶編と入学編の間の話になります。
ここから司波家(父親は除く)と鷹山家の交流が始まります。
多分原作の中では父親が一番嫌いです。哀れなんですけどね。
補足ですが、ちゃんと警察には失踪届を出していましたが取り下げております。
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