作業帽を目深にかぶった青年がガレージのシャッターをくぐると、スキンヘッドで一様に髪型を揃えた、彼と同年代の男達の喧騒が耳に入ってきた。いつにもまして荒れているということは、ロンディニウム・ギャングを名乗るこの新参者のごろつきどもは前回に続き手酷く負けたのだろう。
「カズ、レッドキャップのトルクをもっと上げらんねえのかよ!」
「やるだけは、やっておくよ」
「まーたそれかよ!」
頭上のコクピットから不平不満がかえってきても、カズと呼ばれた青年はどこ吹く風だ。
パワーを上げることはできる。できるが、その分繊細な操縦が求められる。今のようにリミッターでも設けなければ、力加減を見誤って喧嘩相手を半壊させるのは目に見えている。そうしたら押し相撲では済まなくなる。なので、できないと答える他ない。
――そう真摯に説明したところで、はなから通じる相手ではない事は、カズもこの数年の腐れ縁で思い知っている。
「……」
内心で毒づくと、カズはガレージに滑車とワイヤーで吊るされたタラップに掴まると、レッドキャップと名付けられたヘビガンの損傷箇所をチェックしていく。足下から、腰、胴体、肩、そして名前の通りに真っ赤な頭へと。
メインカメラのセンサーを保護する深緑のゴーグルと向かい合う。
(だいたい、チンピラにこんなものを使わせるのはおかしいんだ)
仕事の取り分を決めるのに、モビルスーツが押し相撲をする必要がどこにあるというのか。これまで繰り返し唱えてきた不満が、またカズの胸の内からムクムクと吹き上がってくる。
『旧戦闘宙域に程近く、残留、漂流する危険物を想定しつつの諸作業に通常のプチ・モビルスーツでは力不足だから』
一居住者用に過ぎないチンロン・コロニーの中にこうもテンオーバーが跋扈しているのは、ひとえにそういう名目の筈なのだ。
だというのに、「チンロンの所属とわかるカラーリングが施されていれば」「爆装さえしていなければ」とあれやこれやと規制のたがが緩んでいって、こんなところにまでへビガンが立っている。
『いつの間にかこうなっていた』
行政も、彼らと癒着しているバク・シャーらギャングの頭目どももそう言ってしらを切る。だが、そんな事は全くの嘘なのだ。そうなったキッカケは、コロニーに住む誰にとっても明らかなのだから。
(あんなもの、寝かせておけばよかったんだ)
4年前の今頃に乱暴者どもへ余計な自尊心を植え付けて以来、チンロン・コロニーの工業技術力と「連邦なにするものぞ」という反骨心に近い自立意識の象徴は、年一回のパフォーマンスでコロニー記念館から持ち出され、周囲に向けてその立ち姿を見せつけていた。
「ティッツ……ゼータ・ガンダムなんて作るから!」