世界のために死んだら俺を殺した子がヤンデレになっていた 作:散髪どっこいしょ野郎
「ふう、大体こんなもんか」
斧を両手で持ち、今日の分の薪を割る。これは前世でもやってたのでそつなくこなせた。しかし前世と違う点は……
「うん。よくできたね、ロスキンス」
光を失った目でマイネが俺を見ているというところだった。
同棲するようになって感じるのが、マイネの視線。俺が何をしていても誰と話していても常に彼女からの視線を感じる。下卑た意識が介在していないだけマシだが、なんだかソワソワする。
「……なあマイネ。薪割りくらい一人でできるぞ」
「ダメ。私の見ていない所で、あなたはまた無理をするから」
……前世の行いが俺に牙を剥いている。思わず嘆息した。
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「マイネはその魚捌いてくれ」
「うん」
大鍋に水を張り具材を投入。今日はシチューを作る予定だ。
「たっだいま~!買い出し済ませてきたよ~!」
「おう、じゃ、冷室に入れてくれ」
シャヴィとホスパーが帰宅。本来購入した食材は基本その日の内に消費しなければならないが、ホスパーが生み出した魔法はその常識を覆した。
永久冷却魔法。この普及により、食材の保存が全世界で可能となった。更に魔法使いであれば誰でも使いこなせるように簡略化されており、あらためてホスパーの天才ぶりが伺える。
「ロスキンスさん、代わりましょうか?」
「いや、後は煮込むだけだから俺に任せてくれ。そういえば畑は無事か?」
「暫しお待ちを。……はい。問題ありません」
監視魔法を使用したのか、秒速で家の離れにある畑の様子を確認したホスパー。……年々神業を増やしてないかこの子?
俺たちの住む家屋は切り立った崖の上に建っている。シャヴィ曰く、『誰にも邪魔されたくないから』とのこと。だから重いって。
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「う、うう……ああああ……」
送った。ボクたちの手で、ロスキンスの首を刎ねた。
涙が止まることなく溢れ出る。最愛の人を喪失した悲しみは、いくら準備しても受け入れられるものじゃなかった。
ホスパーとマイネも泣いていた。世界は救われたのに、ボクたちは到底喜べない。
ロスキンスの肉体は消滅。その遺骸を抱きしめることすらできない。この傷は、一生涯残り続けるものだった。
魔界に光が差し込む。魔王を殺したことで、既に魔界は崩壊しつつあった。それでもボクたちの心は暗雲に包まれている。
好きだ。ロスキンスが大好きだ。もっといっぱい、色んなことをしたかった。一緒に見たい景色が山ほどあった。それなのに、キミは……
「……魂が、溶けきっていない?」
「え?」
すすり泣きしか聞こえない場を破ったのはホスパーの疑念だった。
「少々お待ちください。感知魔法を使います……」
その緊迫感に呼吸すらできない。ボクとマイネは縋るようにホスパーの言葉を待っていた。
「……魂の残滓を確認しました。本来であれば人が死亡すれば魂は空に消えるだけですが……。……ッ!や、やっぱり……!」
「どういう、ことなの?」
マイネが問うと、ホスパーは目を見開きながらこう言った。
「魂が天界の神々の元へ送られています!これはもしかすると、転生する可能性が……!」
「ロスキンスと、また会えるってこと?」
「魂の情報は掴みました!後は一致する人間を探し出せば……!」
……そっか。ロスキンスとまた会える。話せる。いっぱい抱きしめて、いっぱい幸せにできる。
「……二人とも、この後のことなんだけど」
ボクが呟くと、二人は微かな希望を瞳にこちらを見やった。考えてることはきっと同じ。
「ロスキンスを探そう。今度こそ、ボクたちはあの人を離さないんだ」
待っててねロスキンス。絶対、ぜーったいに、キミを見つけてみせるから。
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自慢じゃないが、俺の魔力操作練度は結構高い。前世の経験も後押ししていた。
「そう……そうです。ふふ、貴方は筋が良いですね」
「昔から魔力を練るのは得意だったしな」
今、俺はホスパーの指導の元、魔法を使った縫い物をしていた。
シャヴィは好意が分かりやすい。マイネは恥も外聞もなく好意を伝えてくる。では、ホスパーは?
出会った当初、俺は彼女から距離を置かれていた。分け入った話は聞いてこなかったが、どうもマイネ辺りはホスパーの事情を知っているらしい。
……まあ、同棲しているとはいえなんでもかんでも聞けばいいというものではない。隠したいことの一つや二つ、誰にでもあるだろう。俺がそうであるように。
「後はそこを魔力で繋げれば……完成です」
「ああ。ありがとうホスパー」
しかし、どうしても気になることが一つある。
魔王討伐以前から、ホスパーは時折うなされている。俺たちが心配しても『大丈夫』の一点張り。
今なら。世界が平和で満ちた今なら、聞けるかもしれない。
「なあ」
「はい」
「答えたくなければ言わなくていい。お前は何が原因でうなされているんだ?」
「……」
虚を突かれたように目を見開き、彼女は俺を見る。しばらくそうしていたが、軽く息を吐くと綴り始めた。
「……わたしが、学院に通っていた頃の話です」
話を聞いた。盗賊団との邂逅、そして虐殺と、賛美。
「……わたしは、人を殺しました。大勢の人を、です。それなのに許されて……こんなに幸せでいいのか、と、今でも考えてしまって……」
「……よく話してくれた」
命は平等に重い。犯罪者だろうが一般人だろうがそこに生きているという事実は本来であれば冒していいものではない。
──だが、ホスパーだけじゃない。俺たちは魔王、そして魔族や魔物を殺してきた。
命は重い。生きるために背負わなければいけない。だからこそ、俺たちは許されてはいけない。
「お前だけじゃない」
「……え?」
「俺は、大勢の魔族を封じ殺してきた」
「で、でも……魔族は人を襲います。貴方の行動は称えられるべきで──」
「種族は関係ない。命はただそこにあった。俺はそれを奪った。それに、人を襲うなら盗賊団も一緒だ」
俺は口下手だ。それでも伝えたいことがある。
「ホスパー。お前は救われなくてもいい。許されなくてもいい。悪夢を見る。それはどうしようもないことだ。だから、俺たちを心の片隅に置いてくれ」
「…………」
人殺し。俺の言葉の一つや二つで解放されるものではない。それでもせめて、俺たちは仲間だという真実は置いてほしい。
「俺たちはお前を愛している。それを、罪と一緒に引きずってくれ」
「…………はい」
お、笑った。旅をしていた時は中々見られなかったが、やはりこの子は笑ってくれていた方がいいな。
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「ロースキンスー!」
「……シャヴィ。お前くっつきすぎじゃないか」
「いーじゃん別に。ホスパーの魔法のおかげで涼しいんだし」
ここまでド直球で好意を示されるとどんな反応をしていいか分からない。俺は恋愛というものにとことん疎いのだから。
「んふふ~、前はボクの方が背低かったけど、今はすっかり逆転しちゃったね~」
「まあ今の俺は十歳と少しだけだしな」
膝上に乗せられ、正面から抱きしめられる。……これは人には見せられないな。
「あ、またやってる」
「マイネも来る?ロスキンスあったかいよ?」
「俺を抱き殺す気か」
世界を救った勇者が、一人の少年に傾倒している。……これを世俗の人々が知ったらどうなることか。
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「みんなみんな~!クァンタルク王国でお祭りやるって!みんなで行こうよ!」
「いいけど、私たちの知名度的に変装しないとバレちゃわない?」
「そこはわたしの魔法でどうにかできますが」
「ロスキンスは?一緒に行かない?」
「俺はお前らが行きたいならそれでいい」
……祭り、か。前世では修行と封印でそれどころではなかったが、たまにはそういうのもいいだろう。
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「モグモグ……ロスキンス!これすっごく美味しいよ!」
「お前どんだけ食うんだよ。俺みたいなガキにはそんな入んないぞ」
王国は人でごった返していた。離れないように、とのことで俺の両手は彼女たちに繋がれている。手が二つしかない関係上一人あぶれてしまうため代わる代わる手を取っていた。
俺たちの存在は認識阻害魔法によってそこいらの一般人と同じ扱いを受けている。本当にホスパーの魔法は多彩だな。……と、以前マイネとシャヴィにこぼしたら当てつけのように剣技やら何やらを見せつけられたから、心の中に押しとどめるだけにしておく。
「ロスキンス、肩車しよっか」
「なんでだよ。十分周りは見えてるが」
「肩車、しよっか」
……どうやら拒否権は無いらしい。しぶしぶマイネの両肩に足をかけた。
「ロスキンスさん、舞台はよく見えていますか?よろしければわたしの魔法で視力を一時的に向上させますが」
「ん、いや、今のままでも十分に──」
「使いますね」
俺の権利はどこへやら。視力に補正をかける魔法のおかげで、祭りの中心にある大舞台のショーやら演劇やらがよく見えた。
……幸せだ。周囲の人々も、それを分かち合っている。だからこそ俺は、それを護りたい。
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「…………」
あれから、色々と見てきた。魔族から解放された人々や、英雄ロスキンスに憧れる者など、俺の愛した人間たちがそこにはいた。
だが、負の面は確かに存在している。奴隷、犯罪者、浮浪者。救われていない人々を見てきた。
俺はきっと、このために二度目の生を受けたのだろう。今ならハッキリ分かる。
「…………」
家では彼女たちが眠っている。今は夜。加え、夕食に入眠作用のある花の蜜を入れたためしばらくは起きない。
崖から転落しないように、柵が設置されている。そこに寄りかかり、改めて今日までの旅路を振り返った。
幸せだった。誰かのために死ねることが、俺にとっては何よりの恐悦だった。
空に手をかざす。そして俺は、約十年ぶりに封印術を行使した。
何を封印するのか。それはあの神々と話した時から決まっていた。
『ククク……貴様らも愚かなことよ。我を滅したところで人間共は争う。その観念すら持てないというのは、まったく醜悪としか言い様が無い』
悔しいが、あの魔王が言ったことは事実なのかもしれない。ここ最近、国と国の関係が悪化する話をたまに聞いていた。
魔王がいなくなったら、きっと今度は人間同士で争う。俺はそれを止めたい。
そして俺は、
「ッッ……」
魔王を体に封印した時よりは症状は軽い。しかしそれでも負のエネルギー。俺の心を殺していく。
「……ざっと、二年分ってとこか」
二年分の人類の悪意。それを集めて、殺す。
人間から悪意が消えている内に各国で融和を結んでもらいたい。遺書にはそうしたためた。彼女たちを再び傷つけてしまうことは申し訳なく思うが、俺は恒久的平和を何よりも望んでいた。
「二度も殺させたら悪いからな」
そう言って、俺は自分の首にナイフを刺した。
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「ふあぁ……おはようみんな……あれ?ロスキンスは?」
「んう……こんなに寝たのは初めてかも……ロスキンス?先に起きたの?」
「……?」
三人が起き抜けに感じたのは、違和感。安定した日常に差し込んだ黒い影。
「おーい、ロスキンスー、どこいるのー?……ん?」
テーブルに置かれていたのは、羊皮紙にしたためられた文言。それを眺めていたシャヴィの胸に、針を刺すような衝撃が走った。
「……え……ロスキンス、が、死ぬ……?」
遺書の文章は大きく分けて三つ。
一つ。これまで旅を共にしてくれたこと、そして見つけ出してくれたことへの感謝。
二つ。人間の悪意を封じ殺したため、国と国の和合のために力を貸してほしいとのこと。
三つ。先立つことへの謝罪。
「……嘘だ……嘘だ、嘘だ……!ロスキンスッ!!」
悪夢にうなされるかのように外に出る三人。彼女たちが目にしたのは、
「ロス、キンス?」
血だまりの中にいた、彼の死骸。
「ロスキンス……なに、してるの?起きてよ……」
シャヴィが駆け寄っても、骸は起き上がらない。ホスパーとマイネは呆然とその光景を見やっていた。
「そん、な……嘘だって、言ってよ、ねぇ……!」
骸は何も語らない。それは当然の帰結だ。
「なんで、なんでっ、キミはこれからたくさん幸せになる筈なのに──」
「……ホスパー。魂は?」
問うマイネ。
「……もう完全に、肉体から離れています」
答えるホスパー。
「なんで、なんでだよロスキンス、なんで!あ、あぁあああ────!」
勇者の慟哭が、三人きりの丘に響いた。
主人公は割とサイコパスです
魔王討伐時のキャラの年齢
ロスキンス 二十歳
マイネ 十九歳
シャヴィ 十六歳
ホスパー 十五歳
神々の反応
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クソボケがーっ
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絶句
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この、馬鹿野郎!
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本当にいい加減にしろよお前……
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(満足げな顔)
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爆笑