世界のために死んだら俺を殺した子がヤンデレになっていた   作:散髪どっこいしょ野郎

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人間の始まりと終わり

 痛み。寒気。蟻走感。ナイフを喉に突き刺したことによる悪感情が今もハッキリ記憶に残っている。首を刎ねてもらうよりも苦痛は大きかった。

 

 だけどもこれにて俺の命はおしまい。後のことは彼女たちに任せる……筈だったのだが。

 

 

「クソボケがーっ!!!」

 

「本当にいい加減にしろよお前……」

 

「アーッハッハッハ!」

 

 

 またあの白い空間にいた。そして俺を転生させた神に詰られている。

 

 

「ええ、言いましたよ!確かに言いましたよ!娶るも振り払うも自由と!だけどこんな終わり方、あんまりじゃないですか……!」

 

 

 神々の反応は三者三様だった。笑い転げる者、言葉を失う者、俺を糾弾する者等々……。

 

 

「確かに自由に生きなさいとは言ったけど!どうして貴方は、幸せになることを諦めようとするのですか!」

 

「俺が転生するということは、本来生まれる筈だった誰かを乗っ取るということだ。そんなの、許されていい話じゃない。だからせめて、誰かのために命を使いたかった」

 

 

 そう言うと神は頭を抱えた。

 

 

「どうする?また転生させる?」

 

「ただの人間を一度転生させた時点で特別なのに二回目もあるなんてズルイでしょ」

 

「ていうかこの子の言い方的に転生してもまた誰かのために命を捨てるんじゃない?」

 

「それに再会できる頃にはシャヴィちゃんたちも年取ってるだろうし」

 

「あー笑った笑った。これ以上はいいでしょ。本人もそのつもりなんだし」

 

 

 ああでもないこうでもないと神々は議論を白熱させる。俺はそれをどこか他人事のような感覚で眺めていた。

 

 ……シャヴィ、マイネ、ホスパー。俺の遺言には従ってくれただろうか。

 

 これがどういう類いのものかは知らないが、俺は彼女たちを愛している。だがそれと同時に、人間を襲う不幸が憎かった。

 

 たとえその選択肢を選ぶことが人として間違っていようと、俺は他人の不幸が許せない。これはもう変わりようがない。

 

 俺はやりたいように生きた。それも、変わりのない事実だった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「だからさあ、本人に生きる意志が無いんだから──」

 

「だからといってこんな結末が──」

 

 

 ……長い。神々規模の議論ともなるとかかる時間も段違いだった。五千時間くらい経った気がする。

 

 

「……死ぬってのも、案外面倒なんだな」

 

『そうだよロスキンス。キミの命はキミだけのものじゃないんだよ』

 

「え?」

 

 

 幻聴かと思った。寂しさに駆られた哀れな男が作り出したまやかしかと勘繰った。しかしその声は神々も感知したようで、全員の動きが止まる。

 

 白い空間に亀裂が走る。そのヒビはどんどん大きく形を変え──

 

 

「ロスキン──ぐえっ」

 

「いけませんよシャヴィさん。ロスキンスさんは()()霊体なのですから」

 

「いちかばちかの賭けだったけど……やっぱり天界にいたんだね」

 

 

 空間が割れると同時にこちらへ突撃してきたシャヴィが俺の体をすり抜け、頭から転倒。これまでの旅と比べれば大したダメージにはならないとは思えど心配が勝った。

 

 

「は!?え!?な、なんで人間がここに──!?」

 

「あり得ない……人間界からここまで遥かに離れているというのに……」

 

 

 神々は驚愕していた。生身で天界に乗り込む人間はかつて観測されたことが無いらしい。

 

 

「いてて……あ、それよりも──ロスキンス」

 

「──ッ」

 

 

 かつて味わったことがない程の威圧感がシャヴィから吹き荒れる。霊体の身でありながら冷や汗が頬を伝った気がした。

 

 

「ボクたち、怒ってるんだよ?分かる?」

 

 

 息ができなかった。死んでるからそれはそうなのだが、存在が揺らぐ程にシャヴィ……いや、シャヴィたちの圧は果てしなかった。

 

 

「……すまなかった。相談もなく勝手に背負って、勝手に死んで。挙げ句には融和の手段を任せきりにして」

 

 

 やっとの思いで捻り出した陳謝。確かに悪いことをしたという罪悪感はあった。たとえ死ぬことが人間として正しかろうと、彼女たちを悲しませてしまうとは分かっていた。その上で俺は死を選んでしまった。

 

 

「分かればよし!じゃ──帰ろう。今度こそ一緒に幸せになるんだから」

 

「……いいのか?そんな簡単に許して」

 

 

 問う。すると彼女は笑い、

 

 

「ボクたちが欲しいのはキミだけだから。どんなに女泣かせでも、それがボクたちが求めたキミなんだよ」

 

 

 そんなことを、大胆に言ってのけた。

 

 

「ところでどうやってここまで来たんだ。魂の残滓を感じ取るより大変だっただろうに」

 

「ホスパーにきっかけを作ってもらって、マイネに道を切り開いてもらって、ボクが諦めない心で導いた。そして目指す場所にキミがいた。このパーティーじゃなかったら、成し得なかったんだよ」

 

 

 ……口にすれば簡単だが、人類最高峰の技術と忍耐力と執念を発揮したことが優に分かる。

 

 

「知ってた?ボクは諦めの悪い女なんだよ」

 

「……知ってるよ。だってお前は、勇者だからな」

 

 

 挫けそうな時も、悩める時も、お前が俺たちパーティーを照らし続けてくれたものな。

 

 求められているなら、帰ろう。

 

 

「ちょちょっと、待ちなさい!」

 

「……なに?」

 

 

 彼女たちの圧が更に強くなる。……やっぱ重いって。

 

 

「転生させるか否か今話し合っているんです!貴方たちが勝手に決めるなんて──」

 

「だぁからこれ以上転生させたって無駄だって。そんなことよりも──」

 

 

 またしても俺たちそっちのけで議論が始まる。

 

 

「……ロスキンス。神様たちってずっとこんな感じだったの?」

 

「……認めたくないがな」

 

 

 加熱していく論争。無視してシャヴィたちが俺の魂を連れ去ろうとすると──

 

 

「ま、待ちなさい!まだ話は終わっていません!それに、人間がこの神域に乗り込むなんて、なんて罪深い!」

 

「罪?キミたちがそれ言う?ロスキンスのことは救ってくれなかったくせして」

 

「邪魔するなら、斬る」

 

「……もう二度と、ロスキンスさんを失わせない」

 

 

 一触即発の空気。それを破ったのは、やけに軽い音調だった。

 

 

「いいんじゃないの?」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 

 その姿を、俺は永遠に忘れはしないだろう。

 

 

「……か」

 

 

 誰かが言った。

 

 

「カダチ様……!?」

 

 

 カダチ。この世界の神を束ねる──絶対神。

 

 

「こうして顔を合わせるのは初めてだね。勇者一行」

 

 

 他の神々のように背光が凄まじいわけでもない。なのに、なんだこの存在感。

 

 見た目はただの少年。だがその中に眠る威光はかつて目にした何よりも強く。

 

 本来、絶対神カダチが人間の前に姿を現すのは千年に一度レベルの機会。普通に生きていれば到底出会うことはなかっただろう。

 

 

「お礼させてよ。だからどっちか選んでくれる?十歳の体で現世に戻るか、魔王討伐時の肉体で戻るか。……ああ、封印術で欠損した部位は特別サービスで治してあげるよ」

 

「……お礼?どういうことなんだ?」

 

 

 俺が問い返すと、カダチはニッコリと微笑み、言葉を続ける。

 

 

「いやー、君たちのおかげで肩こりが治ったんだよね。今までは戦争と魔族の所為でずっと肩こりが収まらなくて。だからそのお礼」

 

「ちょ、ちょっとお待ちくださいカダチ様!ただの人間にそこまで手厚くするなんて──」

 

 

 カダチの登場によって絶句していた神々が口を開く。確かに一人間に施すにはできすぎている程の奇跡だ。

 

 

「じゃあ君たち何してたの?神を名乗ってるくせして魔王は人間に任して。見守るだけだったじゃん」

 

「そ、それは……神が介入しては人間の力が育たないと思い……」

 

「だったら成長しやすい土台を作るぐらいのことはしなよ。育てる環境も整えてないのに静観決め込むなんて、ただの怠け者でしょ」

 

「キミからはどうにかできなかったの?」

 

 

 カダチ相手にキミ呼ばわりできる辺り、シャヴィは怖い物知らずだ。まあ俺もタメ口聞いているんだが。

 

 

「僕は世界そのものだからね。魔族だけ消そうとしても人間たちへ及ぶ影響が未知数だから、リスクが高いんだ」

 

 

 納得はしにくい。が、飲み込んだ。

 

 

「それで、どうする?二十歳か十歳か」

 

「……俺は」

 

 

 前世の両親には悪いが、俺はシャヴィたちと歩んできた『ロスキンス』を望んでいる。一緒に年を重ねて、一緒にくたばりたい。今になって、そんなことに気づくなんてな。

 

 

「俺は英雄ロスキンスだ。魔王討伐時の俺で、現世に戻してくれ」

 

「はいよー。あ、そうそう、シャヴィ、マイネ、ホスパー」

 

「……な、なに?」

 

「……」

 

「は、はい……?」

 

「ここまで来たご褒美に、『名』をあげる。僕のつける名前は特別な意味を持つから、死んだ後に色々と有利になるよ」

 

 

 カダチは一分程度瞑目し、口を開いた。

 

 

「『忌み断ちのマイネ』。『冥渡りのホスパー』。『勇者シャヴィ』。そして──『英雄ロスキンス』」

 

 

 魂に名が刻まれるのを感じた。これでより一層、命を無駄にできないなと考えて。そして。

 

 

「じゃあ、お幸せにね四人とも。これからも頑張って生きて。僕はいつでも見守ってるから」

 

 

 白い光が放たれる。それは俺たちを飲み込み──

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「……あ」

 

 

 崖の上の原っぱで寝ころんでいた。身を起こすと、そこにいたのは俺が愛し、俺を愛してくれた彼女たち。

 

 

「……ロスキンス?」

 

「ロスキンス……」

 

「ロスキンス、さん」

 

「……シャヴィ、マイネ、ホスパー」

 

 

 久しぶりに笑ってみせる。もう封印術は使えないことが、なんとなく分かった。

 

 

「……ただいま」

 

「ロスキンス……あ、ぁあ……!生きてる……!ロスキンス……!」

 

 

 三人に抱きしめられる。これじゃいつかの再現だな、と軽く笑ってみた。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「……シャヴィ。いくらなんでも今の俺とするには色々と危うくないか?」

 

「なんでさ。今までだって散々してきたじゃん」

 

 

 最年長者だった俺が、今や最年少。とはいえ二十歳の肉体は未成熟だった頃とは違い、ガタイも大きくなっている。

 

 シャヴィは頻繁に俺を抱きしめる。前々世では後ろか横かから、前世では真正面から。

 

 羞恥心なんてものは無いのか、今世の俺と真正面から向き合って抱きしめてくる。この家には彼女たち以外誰も来ないとはいえ、少々恥じ入るものがあった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……なあ、マイネ」

 

「なに?」

 

「視線の圧が凄いんだが」

 

 

 マイネは前世以上に俺を見つめ続けるようになった。あんなことをしでかしてしまったのだから当然ではあるが、なんかモヤモヤする。

 

 

「……勝手に死んだくせに」

 

「う゛……悪かった、悪かったよ」

 

 

 しかしその変化は悪影響のみではなく。今まで俺とシャヴィの言葉を絶対にしていたマイネが、ある程度自立できるようになっていた。死んだ甲斐があったな、なんて死んでも言えないが。

 

 だがそれにしても視線を感じる。ちょっと怖い。というわけで。

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 視線を絡ませる。こちらの気持ちも味わってもらおう、という報復心の元に。

 

 

「……ふふ」

 

「……っ」

 

 

 ……不覚。一瞬だが、微笑んだ彼女に心を奪われかけた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「なあホスパー。ちょっと動きにくいんだが」

 

「そのための魔法ですから」

 

 

 シャヴィもマイネも今まで以上に重くなったが、その最たる例がホスパーだった。

 

 

 魔法の鎖で縛られ、一方的に撫でられたり匂いを嗅がれたりシャヴィに倣って抱きしめられる。これが毎日ときたものだから、重さがかなりのものだった。しかしこれでも帰還直後と比べればまだマシな方である。

 

 

「スゥゥゥゥ……」

 

「……くすぐったい」

 

 

 神々の元から帰ったばかりの頃は常に監視魔法で見張られ、寝る時は自害できないように拘束され、終いには風呂を一緒にするよう強制された。

 

 とまあここまで愚痴っぽくなったが、それが彼女の愛情表現なのだと考えれば微笑ましくも……。……ならないな。

 

 いずれにせよ俺が勝手に死んだ結果がこれだ。贖罪のためにも、もう逃げはしない。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「それにしてもだが」

 

「ん?どうしたのロスキンス」

 

 

 ずっと聞いてみたかった。確かに俺は勇者パーティーの一人。しかしそれはあの封印術が使えたから。それすら失った俺に、存在意義はあるのか?

 

 

「封印術を使えない俺に何の価値がある?」

 

「……ボクたちがじっくり教えてあげる」

 

 

 以降、色々と褒めちぎられることが増えた。普通に恥ずかしかった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 俺には死ねない理由ができた。封印術を失い、彼女たちを悲しませたくないのももちろんだが、最も強い故由はシャヴィが作った、命を共有する魔法。

 

 帰還直後速攻で結ばれた契約。その魔法の効果は三人と俺の命をリンクさせるというもの。これにより一人でも欠けたら全員が死ぬことになった。

 

 今でも覚えている。魔法を使用したシャヴィの含み笑い、息遣い、全てを。

 

 

『デメリットしかない魔法だけど、キミには存分に効くでしょ?』

 

『……じゃ、頑張って生きないとな』

 

 


















一応これで完結となります

後日談(短め)いる?

  • いる
  • いらない
  • いるついでにR-18も書いてみない?
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