世界のために死んだら俺を殺した子がヤンデレになっていた 作:散髪どっこいしょ野郎
「……あー、よく寝た」
久しぶりに熟睡できた気がする。帰還直後は拘束されたり見張られたり、とても休める状況じゃなかった。俺の自業自得と言えばそうだが、睡眠不足は事実だ。
「起きたんだ、ロスキンス」
俺が例の蜜を食事に混入させてから、マイネはメンバーの誰よりも先に起きるようになった。気負わせていないか心配だったが、元々旅をしていた頃から彼女はショートスリーパーだったため問題はない……筈。
「……相変わらず、よく見てるな」
「あなたに怪我させたら二人に顔向けできないから」
朝食の準備をする俺をマイネは見つめぬく。もう重いとか軽いとか言っていられる次元を過ぎていた。
▫▫▫▫▫
「……」
「手伝おうか?」
「んー……じゃ野菜切ってくれ」
「分かった」
料理は好きだ。前々世は指先が腐り落ちていたことで満足に調理できなかったが、前世で料理の楽しさに気づいた。
鍋はコトコト、食材はサクサク、小気味よい音調が台所に響く。そろそろパンが焼ける。
▫▫▫▫▫
「それじゃ、始めようか」
「ああ。よろしく頼む」
俺とマイネは食事前に手合わせをする。もうこの世界には魔族や争いの種はないとはいえ、ある程度自衛できる強さが欲しかった。
「──行くぞ」
両腕に魔力をみなぎらせ、地を蹴り、加速する。マイネは木刀を構え、俺を迎える。
「シッ──」
「うん。速いね」
封印術は失ったが、俺の魔力操作精度と総量は高い。後は出力を増やしていくのみだ。
何度か打ち合い、彼女の実力を看破する。忌み断ちの異名をいただいただけあり、俺の遥か上を行っていた。要するに手加減されている。
なら、本気を引き出させるまでだ。
「ハァッ!」
「……魔力の弾?ホスパーから習ったの?」
「ちょっとは驚いてほしかったがなぁ……っ!」
初見で対処されるが俺には魔力弾という遠距離手段がある。これも立ち回りにいれていこうと思った。しかし、
「……!フッ!」
「ぐあっ!」
「……あ、ごめん。今のヒヤッとした」
上がる剣速に追いつけずいいのをもらった。少し悔しいが成長できている。
あまり怪我したら二人に心配させてしまう、とのことで鍛錬は一日のこの時間限定となっている。
「はぁ……はぁ……やっぱお前強いな」
「これでも勇者パーティーの戦闘役だからね」
今は俺とマイネ以外寝ているが、たまにシャヴィかホスパーがこの手合わせを見ている時がある。……中々プレッシャーを感じる。
とまあそんな感じで軽く汗を流した後は風呂に入り、起きてきた彼女たちと朝食を摂る。ここまでがモーニングルーティンだった。
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「わあ……!見て見てみんな!雪だよ雪!」
「この地域に降るなんて珍しいね」
小窓から外を流れると、辺り一面銀世界だった。この地域は比較的温かい気候なため、この景色は珍しい。
「ホスパー。畑の雪対策は?」
「既に済ましてます」
「流石だな」
俺が問うと、ホスパーはいつも通り返す。しかしいつもと違うところは目が輝いていた、という点。
「せっかくだしさ、みんなで遊ぼうよ!雪合戦とか、雪だるまとか!」
「いいよ」
シャヴィはどこまでも無邪気だった。マイネは席を立ち上がる。ホスパーは少しだけ呆れたように笑い、「少しだけですよ」と言いながら寒さ対策として永久放熱魔法を俺たちの体に施した。
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「フッ!」
「マイネちょっと速……うわっ!?」
「……ふふ」
「……ふっ」
雪合戦最強はマイネだった。雪球をぶつけられながら体制を崩すシャヴィを、俺とホスパーは微笑みながら見つめていた。
「ほらほら、ロスキンスもホスパーもどんどんこないと!おりゃー!」
「わっ……ぷ、この野郎……!」
「わー!ロスキンスが怒ったー!あはははっ!」
シャヴィが投げた雪球が俺の顔面にクリーンヒット。俺はムキになって投げ返した。
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「シャヴィさんはいつも天真爛漫ですね」
「そうだな」
雪合戦がひとまず終わり、マイネとシャヴィは雪だるまを作っていた。そこから少し離れた位置に俺とホスパーは座っている。
「ロスキンスさん」
「なんだ」
「わたし、今でも貴方のことを許していません」
「……ああ。一生かけて詫び続けるよ」
あんな身勝手な死に様、許されていい筈がない。だから生涯をかけて謝意を見せる。
「ですが、わたしはわたしに許されてしまいました」
「?と言うと?」
「悪夢を、見なくなったのです。貴方たちのおかげで」
「ああ……それはよかった」
苛み続けていた、奪命の過去。少しでも楽になったらと切に願っていたため、その報告は喜ばしかった。
「だけどそのかわりに、わたしは恐れました。貴方が勝手に消え行くことを」
「それは……すまない」
「いえ、責めているわけではないのです」
俺たちはもう大人だ。いつかのように、いつまでも子供ではいられない。自身の心にも、折り合いをつけなければいけない。
「せめて知ってください。貴方のような人を好きになれるのは、わたしたちくらいですよ」
「……三人もいれば上等じゃないか?」
「そうですね。言ってて思いました」
雪が降り積もる。明日には溶けてくれることを願いながら、少しだけ目を閉じた。ちなみにこのやりとりをする中ホスパーはずっと俺の体に顔をうずめていた。
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「「「「乾杯」」」」
『ボクたちもう大人なんだからさ、お酒飲んでみない?』というシャヴィからの提案に乗り、俺たちは酒盛りをしていた。
「ん、我ながら美味いなこれ」
「うん、美味しいよ」
「……あ、本当……」
「キミって料理上手だよね~」
酒のアテとして俺がいくつかつまみを作った。それに舌鼓を打ちながら夜は更けていく。
……魔王討伐の時は酒なんて味わう余裕は無かった。前世はまだ子供だったこともあり、この『酔い』は全くの未知だ。
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「ちょっと外の風浴びてくる」
「じゃあボクが付き添うよ。ホスパーとマイネは寝てて大丈夫だから」
「……すみま、せん……」
「……ごめんね……ありがとう……」
ボクたちの暗黙の了解として、ロスキンスを一人にはさせないという取り決めがあった。もう置いていかれるのはごめんだ。
加え、ボクはどうもお酒に強いらしい。みんなと同じペースで飲んでいたけど体が少し火照る程度で済んでいた。
「ふー……いい風だ……」
「ロスキンスって風浴びるの好きだよね。なんか理由とかあるの?」
ベランダで冷たい風に目を細める、最愛の人。もう見ているだけで『好き』の二文字が溢れ出る。
「前々世で住んでた村は風通しが悪くてな。ここは強すぎないし弱すぎないからちょうどいい」
「へー……」
好き。キミのことが大好き。それはもう、抑えられそうになかった。
「……」
「……っと、突然どうした。いやいつもそうだが」
ロスキンスを抱きしめる。もう何処にも行かないように、ボクたちの命で縛りつける。
「えへへ……ずーっと一緒にいようね、ロスキンス!」
「……ああ。ずっと一緒だ」
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「……本当に、世界は平和になったんだな。ありがとう、みんな。本当に……感謝してもしきれない」
「どういたしまして!和平交渉するのすごく大変だったんだよ?だからゆっくり噛み締めてね!」
『平和になった世界を見て回りたい』という俺の要望はすんなりと通り、ホスパーの転移魔法で世界各地を巡る、日帰りの旅をしていた。
繰り返し確認してきたが、俺はもう封印術を使えない。最低限の自衛能力とちょっとした料理の腕ぐらいしか誇れるものはない。
それでも、俺たちがこの平和を作った。それをじっくり味わっていた。
「シャヴィ、マイネ、ホスパー」
「ん?どうしたの?そんな改まって」
「なに?」
「どうかしましたか?」
「……ありがとう。愛している」
俺がそう言うと、三人は顔を見合わせて、
「これで恋愛分からないんだから、ホント罪な男だよねロスキンス」
「私でも恋はできたのに、あなたは……」
「ロスキンスさんらしいと言えばらしいですが……」
何事かを囁き合う。そんなに頓珍漢な言動だっただろうか。
「はあ……ロスキンス!」
「なんだ?」
「せーの、」「「「大好き!」」」
「……ふっ」
いつかのように、三人に抱きしめられる。少し暑苦しいが、仲間と愛を分け合える今に、俺はそっと笑んでみせた。
本作のR-18小話を同時投稿したのでよかったらユーザーページからどうぞ
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