M36 青き衛士
微睡の中、彼女の待つ庭園に足を運ぶ。花の香りが広がるその中で、少女は紅茶を片手にこちらを見、そして微笑む。
それにつられて向かいの椅子に座って、耳を少し触る。
「ふふ、私は君に見捨てられたわけだ。EDFといっても所詮、人一人の死に対してなど無干渉で無感情な、眉一つ動かさず見捨てれる一般人な訳だね」
「……それは……その…………」
「ふふっ、冗談だ。少し意地悪だったね。君がどうするべきか悩んでいたのは知っているし、そもそも君は本当に一般人だしね」
クスリと笑う彼女の頬をテーブル越しにつつき、ひとしきりつついて満足した後、マグカップにコーヒーを淹れる。呆れたような顔をする百合園に微笑んで、持っていたキャラメルを投げ渡す。
「……別に、甘いものが欲しかった訳じゃないんだが」
「そうか。次回は面白い物を用意しよう」
「この前のジンギスカンキャラメルは酷い目にあったよ」
「次回はサルミアッキを用意しよう。こっちで言う北欧のグミだ」
「キヴォトスにあるのかい?」
「前ヴァルキューレの売店で見た」
コーヒーの入ったカップを口に寄せ、少し啜る。苦味が口いっぱいに広がり、思考を支配した。
「……夢、なんだよな」
「そうだね、夢だ。君と私の二人しかいない、どこまでも閉塞的で、どこまでも開放的な夢だ」
「……そう、だな」
百合園から目を背け、口の中にキャラメルを放り込む。
「……君の考えていることはわかるよ。だが、それは間違っている」
「……だが」
「私を殺したのは私だ」
「けど、お前が死ぬことを知って……」
「それは私も同じだ。それに、君はバレンランドという逃げ場を提案した」
「…………」
「大体、君が殺したことにはならないだろう。ミカか、ベアトリーチェか……せめてアズサだ。実行犯でもなく、計画犯でもなく、手を差し伸べて、その手が振り払われただけの君に、何の責任がある?」
百合園は、一直線に俺を見つめる。
「全くも〜、そんなに見つめられちゃうと、お兄さん照れちゃうゾ」
「そうやって、話を逸らそうとするのは君の悪い癖だ。それに、君はもうおじさんだと、自分で言っていただろう?」
「俺はまだ三〇手前だ」
「いや、君前……」
「アラサーは! 二十八ならおっさんじゃない! というか三〇もそこまでおっさんではない」
「はあ……まあ、話を戻そうか」
紅茶を啜って、俺の方を再び向き直す。
「私は、私が死ぬことを知ってこの選択をした。そして君はそれを憂いてバレンランドを提案して、私はそれを断った。それだけのことだ。わかるね?」
「……一応」
「ならいいんだ。君は善人だよ。それで十分だ」
「……うそくせえ」
「もちろん、君のことを掛け値なしの善人だと称してるわけじゃない。そんなわけがない。君が掛け値なしの善人なら、ミネがすごく、とても、マジで善人になってしまう」
「それはそうだろ」
「……それもそうだね」
ようやく落ち着いた百合園にコーヒーを一杯差し出す。
「……私は紅茶派だと話さなかったかい?」
「俺はアイスシャーベット派だ。目覚めたら奢ってもらおう」
「黒服にたかれば好きなだけ買ってもらえるだろうに……まあ、いいよ。君が望む物を望むだけ買ってあげよう」
「いいのか? 破産させるまで頼んじゃうぜ」
「君、兵器以外は貧乏性だろう?」
「じゃあお前のカネで爆薬買うぞ」
「ははは、テンペスト用だけはやめてくれ」
「フォボスZ4×二十発分なら?」
「……フォボスZができていたとは」
「できてないが」
「せめて活用できる物にしてくれ。私の懐が可哀想だ」
「仕方ないな。だったらアレなんかどうだ? ……アイス」
「気の利いたボケが思いつかなかったんだな」
「そうとも言う」
「そうとしか言わないよ」
百合園の訂正を受けたものの、まあ気にすることではないと思い、足を足で小突く。
「ふふ、やめてくれ」
ふと、とあること……まあ、タスクのような物を思い出した。
「蒼森に伝言とかあるか? 明日お前の死体見るんだけど」
「まだ生きているよ」
「対外的には死んでいると思われているのだから、それはもはや『死者』そのものだろう。事実は認識によって歪められ、いつかその本質さえ歪められた事実そのものになってしまうのだから」
「君も私になったかい?」
「俺は嵐山一だが」
「わかっているよ、君が一だと言うことは。そう言う話じゃないんだが……」
「で、なんかあるか? 無いなら『おしりぺんぺん、おっぴろぴょろっげー。う◯ちぶりぶりブリザード』とでも伝えておくが」
「殴るよ? 君のふざけた言動に私の信頼を巻き込まないでくれるか?」
「じゃあ、何て伝える?」
「……月並みな言葉にはなってしまうが、『いつもありがとう』、と」
「了解。明日バレンランド行って伝えてくる」
「……君にも感謝しているよ」
「——ほへ?」
百合園の発した想定外の言葉に、つい素っ頓狂な音で返してしまう。
「な、なななな何に⁉︎ うん◯ぶりぶりブリザードに⁉︎」
「はあ…………君は気づいていないようだが、私にとって君はある種心の支えなんだ。私一人の夢の中に土足で踏み込んで、好き放題言って、帰って。それに、未来を知っているという苦しみを共有してくれる」
「…………風邪でも引いたか?」
「死んでるよ! いや、死んではないけど……」
「ね、熱ある?」
「無いよ」
「ぎゃああああ! オバケ!」
「………………
………………落ち着いたかい?」
「あ、ああ。い、一応?」
「……単純な話だ。あの時まで私は未来を見る苦しみを一人で味わっていたわけだ。そこに君がいた……これ以上言わせないでくれよ」
「……なるほど……? そういうものか」
「……言わないよ。流石に面と向かってこう言うことを言うのは恥ずかしいんだ。火力に脳みそが支配された君にはわからないかもしれないがね」
「流石に俺にも恥はあるよ。まあ、わかった。一旦帰るとし——そうだ。アビドスの件、無事に終わったぞ、イレギュラーはあったが」
「……詳しく」
「何故がビナーがやってきた。俺の知る歴史ではあの時点で先生とビナーは接触しない」
「……なるほど。心当たりは?」
「無い。ビナーの誘導など、する意味もなければする方法も……あるな」
「まあ、君のスタンス的にすることはないだろう」
「以上だ。検証はまた後日行う」
「わかった。良い報告を待つとしよう」
「蒼森、ちゃお」
「こんにちは……戦略基地バレンランドでしたか」
「そうだな」
「……これで負傷者を増やすつもりですか?」
「逆だ。先んじて憂を潰すことで、未来の危を退ける」
「なるほど……貴方も『救護』の精神を持つものでしたか」
「……いや、私の持つ精神は
「ED? 病は救護ですよ?」
「あー、
「なるほど」
「あと、百合園から言伝だ。『いつもありがとう』だとさ」
「……セイアさんがそう素直に?」
「そう素直に」
「明日は嵐ですかね」
「今日もバレンランドに
「まあ、貴方が嵐のような人なのはそうですけどね」
「人をかき乱すのは得意だ。空爆とかミサイルとか」
「救護しますよ?」
「人を守るためにしかしてないから。どこぞの災厄FOXと一緒にしないでほしい」
「まあ、貴方はそう言う人ですよね。セイアさんがよく言っていました」
「なんて?」
「碌でも無いやつではあるが、同時に善人でもある。と」
「……ふふっ、そうか」
「あ、あとすごいですねこのマシン。くれません?」
「リバーサーか? 体に少し負担かかるんだよな……」
「……では、仕様書などを……」
「わかった。そこの棚の三段目だ」
「あれ、案外近くに?」
「医務室だからな。治療設備の整ってないのはただのゴミだし」
「ありがとうございます」
「……ただ、使いすぎは厳禁だぞ。寿命が縮む」
「わかっています」
「戦闘時の緊急治療用だからな!」
「……蒼森、頼みがある」
「何ですか。改まって」
「百合園のこと、よろしく頼む。友人として、幾分か不安なのでな」
「……わかりました。貴方も、体には気をつけてくださいね」
【テンペスト】
戦略基地バレンランドから発射される超大型ミサイル。ブルアカだと多分爆破属性のEXスキル
【リバーサー】
医療用ナノマシン。キヴォトスではそこまで強くない。
お絵描きしてたら遅れました。