M38 静かなる脅威
『先生! ミレニアムサイエンススクールからお手紙が届いていますよ!』
青く光るタブレットの中の少女が『先生』に話しかける。書類の山々に囲まれた先生は、青ざめた顔でそれに返事をする。
"ミレニアム……ユウカとか、ハジメとかの学校だよね? どんな手紙なの?"
『んんっ、読み上げますと……『ゲーム開発部は今、存亡の危機に陥っています。勇者にして、砂漠の救い手よ……、どうか、私達を助けてください!』……との事です!」
シッテムの箱と書類との間に視線をあっちこっち動かしながら、逡巡し、意を決して動く。
"…………よし、行こうか!"
積み上がった書類から目を背け、身支度を始める。
ミレニアム。生徒達の要請を受け、その生徒達の思いに応えるために(あるいはシャーレの部室内に山のように積み重なった書類から背中を向けて逃げるために)そこに来ていた。
"ここがミレニアム……"
キヴォトスでも有数の、類を見ない技術に目を輝かせながら、左右を見渡す。尤も、先生自身がその手に持っているタブレットが他の何より異常な技術で構成されているのだが。
「こんな物——!」
上空から降ってきた黒色の物体——恐らくゲーム機——が、先生の頭に直撃する。いくらオーパーツと言えど、上空から落下するプライステーションを防ぐ機能は無いようで、無惨にも先生の頭に直撃する。
「だ、誰か倒れてる! もしかしたら先生に⁉︎」
「私達のプライステーションが!」
窓から身を乗り出し、下を眺める少女達は、自らが過ちを犯したことを恐れて、叫び出す。そして、手早く証拠の隠滅を始めた。素早く一階まで降りて、プライステーションを紙袋の中に隠し、
「ど、どうするお姉ちゃん! だ、誰かがやったことにする?」
「む、無理だよ! ミレニアムには監視カメラがいっぱいあるし、何よりユウカから逃れられる気がしないよ!」
「じゃ、じゃあどうするの!」
「そ、それは……一回部室に置いてから考えよう!」
「そ、そうだね!」
この二人が慌てていることなど、もうミレニアムでは日常茶飯事のため、いつもなら誰も気にも留めないが、人を運んでいる——しかも、その運ばれている者が大人が大人である——のだから、流石に皆気には留めるが、あまりの気迫が故に話しかけることさえできない。
「——あ! んん、ようやく目覚めたか、勇者よ……」
「お姉ちゃん、何やってるの……」
「いやいや、先生が死んでないってわかったらつい嬉しくなっちゃって……」
「はあ……すみません。お姉ちゃんが窓からプライステーションを投げちゃって……」
「ふーんだ、一人だけ悪者にしちゃって……ミドリだって第一声は『私達のプライステーションは⁉︎』だったじゃん!」
「わ、私達の財産リスト第一号だったから……つい……」
二人の少女が、そこにいる先生を他所に論争を始める。
「改めて……ゲーム開発部へようこそ! 先生!」
「先生に来ていただけて嬉しいです」
「私は、シナリオライターのモモイ!」
「イラストレーターで、ビジュアル全般を担当しています。ミドリです」
「ここにはいないけど、企画全般の担当をしてるユズを含めて、ゲーム開発部だよ! よしっ、じゃあ、『先生』も来たところだし『廃墟』に行こっか!」
"……廃墟……?"
「あ、じゃあ最初から説明しようか。まず私達ゲーム開発部は平和に16bitのゲームを作ってたの……、そんなところに平和を脅かすセミナー四天王が! 一昨日には、セミナー四天王のユウカが最後通牒を叩きつけてきて……」
モモイの放つ言葉が、一瞬澱んだ瞬間、ドアを開け放つ音と、ドアを開けた主の透き通った声が、ゲーム開発部の部室内に響き渡る。
「それに関しては、私から直接説明しましょうか?」
"ゆ、ユウカ……?"
「久しぶりです、先生。このような形で会いたくはありませんでしたが……」
「セミナー四天王が一人! 『冷酷な算術使い』の早瀬ユウカ! 私達に最後通牒を叩きつけた張本人だよ!」
「人にモンスターみたいな二つ名をつけないでくれる?」
表情こそ笑顔ではあるが、ピクピクと眉が動いていて、明らかにその腹には怒りが隠れていることが——隠し切れてすらいないが——わかる。
「大体、あなた達は問題行動を起こしすぎなのよ。無断で施設を作ってカジノを運営したり、資料集めと称して歴史研究会を襲撃したり……」
「そ、それは……けど! ハジメ先輩だって爆撃してるじゃん!」
「セミナーにEDFへの干渉をする権利はないわ。それに、先輩はエンジニア部としても、トレーニング部としても大した問題行動は起こしていないし……」
「ぐ、ぐぅ……」
「大体、私、言ったわよね? 部員が規定人数に達しないか、大した実績を得られなければ廃部って」
「じ、実績なら……」
「そ、そうですよ。『テイルズ・サガ・クロニクル』は、『あのコンテスト』に受賞を……」
"テイルズ・サガ・クロニクル……?"
ユウカは表情を変え、戸惑っている先生に話しかける。
「テイルズ・サガ・クロニクル……、先生はご存知ないようですね。内容もさながら、レビューの内容が非常に印象的でした。
『私がやってきた中で、最も『絶望的』なRPG。いや、シナリオがどうじゃなくて、ゲームとして完成度が』
『このゲームのクリアは推奨されていません。本機の目的は、理不尽を体感することで、極限状態での精神的抵抗力を高めることです』
『このゲームの中で、足りない物はいっぱいあるけど、最も足りない物は『正気』だろうね。これは間違いない』」
「わ、私たちはインターネットの悪意には屈しない……!」
「たとえプレイヤーが無数にいたとして、たくさんの評価が収束したらそれはたった一つの答えに近い数値よ。それに、あなた達の持っている実績は、その『今年のクソゲーランキング一位』だけでしょう?」
「う……うぐっ……」
悶絶するモモイに、追撃のようにさらに口を開く。
「とにかく、結果を示してみてちょうだい。それができなければ、この部室も空けて、ガラクタも処分して……」
「ガラクタなんかじゃ……」
「だったら何なの?」
「……わかった、全部、全部結果で示す。そのための準備も、全部してあるんだから!」
意を決したモモイとは相反し、口を大きく開け、驚いた様子を示すミドリ。
「そうなの⁉︎」
「なんでミドリが驚いてるのさ! とにかく! 次回のミレニアムプライスで、TSCの続編……『テイルズ・サガ・クロニクル2』を出すんだから!」
"ミレニアムプライスって……何?"
「ミレニアムサイエンススクール中の部活が各々の成果を競い合う、ミレニアム最大級のコンテスト! ここで受賞すれば、いくらセミナーといえど文句は言えないでしょ!」
「まあ、そうね。……受賞できたら、の話だけど。いい? あなたが今言っているのは、『弱小運動部がインターハイに出る』なんてレベルじゃない。『球児がメジャーリーグで優勝する』みたいな、荒唐無稽で現実味のない話……まあ、いいわ。なんだか、私も楽しみになってきたし」
一息ついたユウカは表情をより和やかに変え、先生の方を見る。
「久しぶりの再会がこのような可愛くない形になって残念です。しかし、これもまた仕事なので。次回はもっと、落ち着いた状況でお話ししましょう」
ユウカが踵を翻して、部室の外に出る。
「……じゃあ、早速、『廃墟』に……」
"そもそも、『廃墟』って……?"
「元々、連邦生徒会が立ち入りを禁じていた区域なんだけど、『危険だから』って理由だけで立ち入りを禁じられていたんだ。中にどんなものがあるかとかも全然わかってないんだけど……私達ゲーム開発部は一つの情報を掴んだの!」
"それって……?"
「かつてミレニアムに在籍していたゲームクリエイターが、その真髄を残した……『G.bible』があるっていう情報を! それを使って、私達の宝物がガラクタなんかじゃないってことを証明したいの!」
"……でも、危険なんでしょ?"
「そこは安心して! 『協力者』がいるから!」
「お姉ちゃん……いつまでこうしてればいいの?」
『廃墟』の中、機械兵の視線から瓦礫の後ろに隠れたミドリが、同じく瓦礫の後ろに隠れたモモイに問いかける。
「おかしいな……予定時刻だと、もう『協力者』は到着してるはずなのに……先に行っちゃおう。今の私たちには少しでも時間が惜しい……」
瓦礫から身を乗り出した瞬間、機械兵に見つかり、銃撃を受ける。
「いったぁ!」
"ミドリ、カバーを!"
「はい!」
モモイを撃った機械兵は撃破するが、伝達によってやってきた他の兵士たちが次々とやってくる。
「このぉ!」
「お姉ちゃん! 落ち着いて!」
機械兵と生徒では、
「うわああああ!」
乱射、というのがまさに適切な射撃であった。これだけの数がいて、誰にも当たらない弾が二割を占めるところまで行ってしまう。
"ど、どうすれば……"
胸ポケットに入ったそれの存在を思い浮かべる。生徒を守るためなら、いかなる責任も——。
『こちらウイングダイバー、作戦エリアに突入した。スーパーウェポンを使う。頭上に気をつけろ』
空から舞い降りてきた少女が光球を投げる。光球は空中で静止し、幾多もの光を生み出し、そしてその光それぞれが敵に向かって突撃していった。
"君は……"
「今更他人行儀な振る舞いか? 嵐山ハジメだ。こいつらの『協力者』として同行させてもらう——途中までだがな」
「ハジメ先輩! 遅いよ!」
「遅いのは君たちだろう。予定時刻から五〇分過ぎてもまだランデブーポイントに来ないものだから探しに行ったんだよ」
「うぐぅっ……」
「……説教は後だ。まずはこいつらを凌いでから、だな」
ハジメが手に持った弩のような機構から、電撃が発射される。電撃は敵に直撃し、跳ね返りまた直撃し、壁に当たるとまた跳ね返るのを繰り返した。
「才羽姉、才羽妹、前線は任せた。集団戦を想定した装備ではないのでな」
光球から発せられる光の槍は、いまだ機械を貫き続ける。そして、ハジメが武器を弩のようなものから、漏斗を横に倒したようなものに持ち変えて、チャージを始めた。
「あの戦車を破壊する。チャージが終わるまで暫し待て」
モモイとミドリが前線を張っているうちに、チャージが完了する。
「行くぞ、ドラグーン!」
ハジメが飛び上がり、ドラグーンランスを戦車に突き刺す。光と直撃した戦車は大破し、あれだけいた敵はいつの間にか全滅していた。
「もう安心していい、この先はきっと安全だ」
「嘘だよね⁉︎」
「嘘だが」
"その衣装は……"
自らの服の裾をピラピラと弄りながら、ハジメは返答する。
「EDFの由緒正しき兵科、降下翼兵ウイングダイバーの装備だ。極限まで飛行性能を高めるために、極限まで布量を減らしている」
"パンツ見えてるよ"
「……まあ、見せパンみたいなものだし……次に進むのは、グレイプニールのリチャージが終わるまで待ってくれ。準備は万端にしてから挑みたい」
【ドラグーンランス】
ファ◯ネルではない。ウイングダイバーの個人的生命線。貫通属性。
【サンダーボウガン】
名前からライトニングボウとの違いがわからない武器ランキングトップ1、属性は未定。
【グレイプニール】
サイオニックリンクを用いて自らの思考で操作することができる。むしろこっちがファンネル。神秘属性。
今回、なんと! ウイングダイバーが戦闘に使われるのは、この小説内初めてとなります!
感想とかください! 後今週の投稿多分これで最後!