「『ヴェスパーに来ないか?』」
「....つまり、勧誘、か?」
良くて放置、最悪で即処理と思っていたが、まさか勧誘とはな。
「ふむ...分かった。入ろう。...だが、いくつか条件がある。」
「『ほう。言ってみてくれ。私の一存でできる限りは便宜を図るつもりだ。』」
...ここまで怪しい人物にそこまでするとは、それほど、ヴェスパーは戦力不足なのか。ふむ。それならばヴェスパー部隊にて戦果をあげ、地球に戻る。そして、人類の今を見届ける。それと...そうだな。再び心躍る戦いがしたい。...この考えが出てくるところを見ると、やはり私は人に戻ったとはいえ、死神部隊のNのままなのだろうな。
さて。私から突きつける条件は、以下の三つだ。
・専用ACの所持権限とそれのアセンブル権限。
・私の過去に関する詮索を行わないこと。
・部隊長権限を与えること。
上二つは確実に通さなければならないが、最後はオマケだな。通れば上々といったところだ。
「条件は三つ。私専用のACを組む権限と、私の過去に関する詮索をしないこと、そして部隊長権限を私に与えること。...まあ、部隊長権限に関してはできれb「『なんだ、その程度か。承知した。上司に伝えておこう。』」
「はっ?...いいのか?身元も無いんだぞ。」
「『その腕前を私は買っている。ある程度の問題は私が押し通そう。』」
....こいつ、底抜けの善人か?あまりにもこちらに都合が良すぎる。ヴェスパーに配属後も夜逃げ出来るようにしなければな。
「『では、基地まで案内しよう。...ボロボロのACでは目立つな。こちらのコックピットまで来れるか?』」
「ああ。しかしながら私は裸でな。それでも気にしないというのなら、同乗させえてもらおう。」
「『ふっ。その程度、このラスティが気にするとでも?それとも、その声で女性だったりするのか?』」
ラスティが小粋なジョークとともに、コックピットを開放する。
私は数十分とはいえ、相棒であったACに別れを告げ、ラスティの機体へ飛び乗った。
足裏が冷えた金属に触れ、すこし寒気を覚えつつ、内部へ入る。
程よく引き締まった肉体、熱く荒々しさを秘めた瞳。なるほど、いいAC乗りだ。
ラスティはCOMにコマンドを出し空調を調整していた。私の為だろう。気遣いもできるとは、よくできた人物だ。彼の内心評価を引き上げておこう。
「やあ、N…...本当に裸なのか。ひとまず、着いたら服を支給しよう。色んな話をするのは、その後でいいだろう?」
「ああ。...ほう、複座なのか、このACは。」
機内を軽く見渡せば、操縦席と比べると小規模ながらも席がもうひとつあった。
先程の私の機体にはなかったが、そういうACなのだろうか。
私はその席に座り、安全用の固定装置を着けていく。
「いや、これは私がカスタムで付けたものだ。この速さなら、緊急脱出した仲間も迎えに行けるのでね。」
「ふむ、仲間思いなのだな。いいことだ。」
どうやら、敗走した仲間を助けるためのパーツのようだ。私のいた時代では、そんなものは無かった。AC乗りは全員が傭兵。裏切り裏切られの渦中にあったのだ。仲間という概念はなく、良くて弾除け程度だった。企業がAC乗り部隊を結成しているのを見るに、傭兵の価値観というのも変わっているらしい。
「...そうだな。よし、出すぞ。準備はいいか?N。」
「ああ。」
急激に掛かるG。どうやらオーバード・ブーストを使っているようだ。私が乗っている座席は操縦席の背後にあるため、正面のモニターは見えないが、かなりの速度だ。少なくとも、あのジャンク機の1.5倍は速いだろう。
…緊張が途切れたな。Gが掛かっているというのに眠気が出てきた。...ラスティが操縦を間違えるとは思えんし、少し寝るとするか。.......そういえば...寝る、なんて....いつぶりだった.....か......。
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起きると、ベッドの上だった。起き上がって周囲を見れば、無機質ながら清掃の行き届いた床と壁、そして机と椅子があるだけの殺風景な個室が目に映った。
枕元を見ると、灰色の少し洒落たシャツと、シンプルなズボン、下着一式が置いてある。誰かが置いてくれたようだ。
「ここは...少し寝すぎたか。」
おそらく、ここはアーキバスの宿舎かなにかだろう。しかし、私一人とは。誰かいないのか?
軽くベッドから立ち上がり歩いてみると、机の上にメモと簡素な地図が置いてある。内容はこうだ。
『おはよう、N。よく寝ていたな。悪いが、置いてある地図を見て第3ブリーフィングルームまで来てくれ。そこで話そう。』
「これは、ラスティか。ふむ...なかなか広い。地図は持っていこう。」
地図を見れば、宿舎にしては幾つものフロアがあり、食堂、訓練施設、娯楽施設までもが完備されている。
ほう、シュミレーションルームまであるのか。後でラスティと一戦交えたいものだ。...いや、今はそれじゃないな。第3ブリーフィングルームは...四階か。今いる場所は、二階の部隊長用の個室。丁寧に印が付けられていた。
「ドアは...勝手に開いたな。」
取っ手がなくどうすればいいか悩んでいれば、ドアが自動でスライドした。ふむ、戦場では安全のために常に手動だったから新鮮だな。廊下に出たが、人気はない。まあ、部隊長しか住まないようだし、よほどのことがなければ来る者は少ないだろう。
地図に従いエレベーターに乗り、四階に向かう。エレベーターの中で一般の社員(隊員か?)と会ったが、少し怪訝な顔をされた後、三階で降りて行った。三階は...娯楽系のフロアだったか。休憩かなにかだろうか?
そんなことを考えていれば、すぐに第3ブリーフィングルームまでたどり着いた。自動ドアが開くと、そこには眼鏡を掛けたオールバックの男と人当たりの良さそうな男、ラスティの三人がいた。
「...彼が第四隊長が拾ってきた野良犬ですか。メディカルチェックはしたのですか?ホーキンス。」
「ああ。一応、メーテルリンクにしてもらった。結果は良好、コーラルの残滓は残っているものの、強化人間手術すら行っていない真人間だったよ。」
「なっ...真人間なのか。それであの実力...フロイトに並ぶかもしれないな」
完全に話に置いて行かれているが...。少し気になる単語があったな。強化人間手術...ファンタズマビーイング化の施術は私はしていると思うのだが、ここでの強化人間手術の定義が違うのだろうか。
ある程度話が終わったのか、眼鏡の男がこちらを鋭い眼光で見つめてきた。...強い野望を感じる。なるほど、面白い人間だ。
「ふん...まあいいでしょう。N、といいましたか。その実力を見込み、アーキバスで雇用をしましょう。本来ならば身元が不明の人物など受け入れ無いのですが...第四隊長たっての希望です。あなた要望も全て飲んであげましょう。あなたを第九隊長を第九隊長に任命します。細かいことは、このヴェスパー第五隊長ホーキンスに聞きなさい。」
眼鏡の男は言うことを言うだけ言って席を立ち、こちらへ...いや、ドアへ向かってくる。
「ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私はヴェスパー第二隊長、スネイルです。精々、アーキバスの役に立つようにしなさい。」
すれ違いざまに眼鏡男...スネイルはそう吐き捨て、こちらに対する嫌悪感を隠そうともせずに去っていった。
…なにか、対応を間違えたか?いや、私は何も喋っていないしな...。
「N君、気にしなくていいよ。第二隊長どのはいつもアレなんだ。いちいち気に病んでいると、心が持たないよ。」
「...そうなのか。感謝する。」
「よし、それじゃあ君の部隊とACについてだけど...ああ、座りなよ。これでまずは機体を組んでみてくれ。」
ホーキンスがこちらへ手招きをする。有難くその辺りの席に座らせてもらうと、ホーキンスがタブレットをこちらへ差し出してきた。
そこにはACのフレームと武装の一覧が載っている。どうやら、ここから選んで組めということらしい。
「ふむ...この、灰色になっているパーツはなんだ?」
パーツを見ていくと、所々灰色に表示されているパーツがあった。在庫切れかなにかか?
それを聞いたホーキンスは、あぁ、という表情を浮かべ、苦笑した。
「それはライバル企業のベイラムおよびその系列企業のパーツなんだ。一つか二つならなんとか取り寄せられるが...要るかい?」
「なるほど、敵企業のパーツか。...少し時間をくれ。構想自体はもうあるんだ。それに当てはまるパーツを探したい。」
私の乗っていた機体、R.I.P.3をなんとか再現しようと思ったのだが...どうやら、ショットガンはベイラムとRADしか取り扱っていないようで、しかしRADのショットガンは癖が強く私には合わない。...あと、FCSだな。アーキバスが取り扱っているFCSは遠距離用が多く、軽量二脚型の私には合わない。ここもベイラム製のものが必要だな。...他は、なんとかなりそうだ。
......ん?これは...技研?武装名は、『IA-CO1W2:MOONLIGHT』。...私を殺したヤツの武装も確かMOONLIGHTだったか。これは...運命を感じざるを得んな。
「...待たせたな、ホーキンス。機体構成はこうだ。それとベイラム製品が二つだが...いけるか?」
「ふむ...二つか、わかった。申請を出しておくよ。部隊員については希望は?」
部隊員か...。たしかKやMはUNACを引き連れていたんだったか。まあ、どうせ弾除け程度だ。適当でいいだろう。
「特にはない。死ににくければ良い、というぐらいだ。...ああ、事務仕事がある程度出来るヤツが居ると助かる。私は事務仕事が苦手でな。」
「ふっ、なんだか、フロイト君に似ているね。そうは思わないかい?ラスティ君。」
「ああ、確かに似ているな。...これで少し楽になるか...。」
ホーキンスは微笑まし気に、ラスティは少し複雑そうにこちらを見る。なにか変なことを言っただろうか。少し不安だが...まあ、徐々に慣れて行くとしよう。
ラスティ(ぜひともフロイトの模擬戦相手になってもらいたい)