俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが……   作:私は誰だ

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1.いっそ追放してくれ

 俺、世界最強と謳われる勇者パーティ五人組の一員。

 だが困ったことに、その輝かしい肩書きはたった今、過去形になろうとしていた。

 

 リーダーである勇者は俺の幼馴染なのだが、絵に描いたような「超」がつくほどの善人だ。

 ギルドで誰もやりたがらない底辺クエストを率先して引き受け、報酬ゼロでも路傍(ろぼう)の子供や老人が困っていれば全力で助け、襲い掛かってきた悪逆非道な賊すらも説教で改心させてしまう。

 どうしても命を奪わなければならない時は、人間相手だろうが魔物相手だろうが、いつだってこの世の終わりみたいな悲痛な表情を浮かべる男なのだ。

 それでも剣を振るうのは、ひとえに「勇者として選ばれた使命」ゆえ。自分が世界を投げ出すわけにはいかないからだと言う。

 

 そんな勇者のことを、俺は仲間として、友として、心底誇りに思っていた。

 

 俺以外のパーティメンバーは全員女だが、彼女たちも明らかに勇者に惚れ込んでいる。

 俺だって男だから嫉妬心がないわけじゃないが、「まあ、この勇者相手なら当然だよな」と納得できるほどの器のデカさが彼にはあった。

 

――そんな、大親友と言ってもいいほどの大人物が。

 

 今、俺に「パーティから出て行って欲しい」と頭を下げているのだ。

 

 宿屋の一室。

 俺は俺以外の四人と重苦しい空気の中で向き合っていた。

 他の冒険者に聞かれないよう、わざわざ防音の結界まで張るという念の入れようだ。

 

 (ちまた)の噂によれば、この手の『追放』をされる奴というのは、決まってパーティメンバーから理不尽な嘲笑や罵倒を受けるらしい。

 だが、俺の場合は全く違った。勇者はまるで今から誰かを処刑するかのように、この世の罪をすべて背負ったような重々しい表情を浮かべている。

 

 スラリとした体形の銀髪の魔道士の子は、なぜか顔を真っ赤にして常軌を逸したレベルでモジモジしている。

 魅惑的で露出度が高く、町行く男どもを魅了するのが趣味だという紫髪の僧侶は、この世の終わりを見たかのように青ざめてゲッソリしている。

 

 そして、俺らと同じ幼馴染である、薄茶髪の戦士。

 いつもは不愛想なオーラを放ちつつも、面倒見の良さは勇者に匹敵する頼れる女だ。

 俺がほのかに片思いしている相手でもあるのだが……今日はやけに視線が泳ぎまくっている。普段ならもっとドッシリ構えているはずなのに。

 

 当然ながら、誰一人として俺を見下したり、失望したりしている様子はなかった。

 

――どう考えてもおかしい。

 

 俺、今から追放されるんだよな? なんでお前らの方がそんなに追い詰められてるんだ?

 

 そもそも、俺の仕事はいわゆる『バフ担当』だ。

 戦闘が始まれば、俺がその場に立っているだけで自動的に全員の戦闘能力が飛躍的にブーストされる。ただし、俺自身には一切効果がない。

 

 本当に「ただ突っ立っているだけ」でいいため、俺は攻撃すら放棄して防御と回避のみに徹してきた。

 だが、その戦闘スタイルについて不満をぶつけられたことは、これまでにただの一度もなかった。

 

 むしろ最近は、俺のそのパッシブ能力をフル活用し、『レアモノ』と呼ばれるモンスターを乱獲しまくっていた。

 勇者の提案だった。「来たる魔王との決戦に備え、基礎能力を限界まで引き上げておく必要がある」と。

 

 その結果、俺たちは名実ともに世界最強のパーティへと変貌を遂げた。

 かつて死闘を繰り広げた凶悪なモンスターが、物理攻撃力など皆無であるはずの銀髪魔道士の「デコピン」一発で消し飛んでいくという、もはやギャグのような次元に到達していたのだ。

 

 ……なるほど。そのせいか、と合点が行った。

 

 戦闘に同席し続けていた俺も当然レベルアップして頑丈にはなっているが、この四人の異常な成長スピードには遠く及ばない。

 俺のパッシブ能力自体にも磨きがかかっているはずだが、彼女たちは「もうバフすら不要な領域」に達してしまったと判断したのだろう。

 

 頭では理解できても、やはり涙がこぼれそうになる。

 魔王討伐を成し遂げるその日まで、絶対に五人で一緒だと誓い合っていたのに。本当はみんな、何もしない俺のことがずっと(うと)ましかったのだろうか。

 

「……わかったよ。俺、お前らを、知らないうちに傷つけてたんだな」

 

 自嘲気味にそうこぼすと、四人とも弾かれたようにパニックに陥り始めた。

 

 やっぱり空気が変だ。

 そもそも、この追放の話すら、全員が「死んでも口にしたくなかった」という顔をしている。

 

「違うんだ! 聞いてくれ! 俺らはみんな、お前を不可欠だと思っていた。あの日の誓いを破らずにいられるなら、自分の腕の一本でも差し出したいと本気で思ってる!」

「で、でも……俺、追放されちゃうんだろ?」

「そうなんだが……ええと、その……」

 

 あの弁の立つ勇者が、かつてないほど歯切れ悪く言い淀む。

 彼の言葉を引き継いだのは、共通の幼馴染である薄茶髪の戦士だった。

 

「あ、あのな。絶対に怒らないで聞いてくれるか」

「ああ……と言っても、怒らせてたのは俺の方なんじゃないのか」

「違いますっ! あなたは、はぅっ! あたしたちのパーティに、本当は、いて欲しいんぐッ! んで、ですけど……おお!?」

 

 ずーっとモジモジと内股をこすり合わせていた銀髪の魔道士が、俺の卑下を全力で否定するように奇声を上げた。

 

 様子がおかしすぎる。もはや正気とは思えない。

 そんな彼女を必死に抑え込みながら、豊満な肉付きの紫髪の僧侶が、ついに観念したように特大のため息をついた。

 

「キミの……その、覚醒したパッシブ能力が原因なのよね。ホンットにごめん!」

 

 彼女の言葉を受け、勇者が過呼吸に陥りそうなほど肩で息をしながら、訥々(とつとつ)と絶望的な真実を語り始めた。

 

「先日の……異常なレベルアップ作戦のせいで、お前の能力も底上げされたんだが……」

「そうみたい……だな。俺自身にかかるわけじゃないから実感は皆無だけど」

「その、お前のバフがかかる『対象』が……戦闘能力だけじゃ、なくなってしまったみたいなんだ……」

 

 勇者は血を吐くような思いで、恥を忍んで教えてくれた。

 

 勇者は……その、いわゆる、男性の象徴たる部位に規格外のバフがかかってしまっているらしい。

 彼がひとたび臨戦態勢に入ると、それは前人未到、世界最長の『48cm』という凶器と化すのだそうだ。物理的にズボンが弾け飛ぶらしい。

 

 そして銀髪の魔道士は、『性欲』に最大バフがかかってしまっていた。

 もはやまともに直立歩行することすら困難な状態で、歩くたびに床に水たまりができるという大惨事を引き起こしているのだそうだ。

 

 ……なるほど、そういうエッチな方面にバフがかかる能力に覚醒してしまったのか。

 それは確かに勇者パーティとしては致命的だ……と思ったが、悲劇はそれだけではなかった。

 

 僧侶はなんと『腹痛』のレベルが最大にブーストされているのだという。

 高位の回復魔法でギリギリ散らしてはいるが、気を抜けば今すぐ(かわや)に籠城して二度と出てきたくないほどの最上級爆発魔法クラスの便意と痛みに襲われ続けているらしい。

 

 そして極めつけは、俺の片思いの相手である戦士。

 彼女はなんと、『落ち着きのなさ』にバフがかかっていた。

 そう言われてみれば、先ほどから反復横跳びでも始めそうなほどの完璧な挙動不審さである。

 

「お前の今の能力は、人間の持つ『あらゆるパラメータ』に対して完全にランダムで干渉し、それを強制的にブーストして最大値にしてしまうようなんだ……」

 

 そう言って、勇者は再び頭を抱えて崩れ落ちた。

 

 いや、崩れ落ちたいのはこっちの方だった。

 男の象徴のデカさは、まあ百歩譲ってわかる。

 性欲もギリギリ理屈は理解できる。

 

 だが、なんだよ『腹痛』へのバフって! 『落ち着きのなさ』へのバフってなんだよ! ランダムにも程があるだろ!

 

 そもそも、俺の能力は『戦闘時にしか発動しない』という制約があったはずだ。

 それが先日のレアモノ乱獲で限界突破してしまい、あろうことか『常時発動型』の呪いへと変貌してしまったというのか。

 

 

――だが、これでようやく全員が泣きそうな顔で追放を切り出してきた意図が理解できた。

 

 

 この世界の『レベル』という概念は、パーティ単位で共有される。

 俺たち勇者パーティのレベルが高ければ、五人全員がその高いレベルの恩恵を受ける。

 リーダーである勇者がパーティレベルを保持し、俺らは彼を基準に強さを底上げされているわけだ。

 よくわからんが、この理不尽な世界を創った神の悪趣味な仕様らしい。

 

 そして、パーティから離脱した者は、このレベルのしがらみから完全に解放される。

 すると、それまで会得した恩恵や能力はすべてリセットされ、最初の状態に戻るという仕組みだ。

 だからこそ、この世界においてパーティの所属とは命綱そのものなのだが……。

 

「……つまり、俺がパーティを抜ければ、みんなのその異常なバフ状態も解除されるってことか?」

「わからない……。しかし、試してみるしか、他に道がないんだ……ッ!」

 

 もし解除されなかったらどうする気だ、と喉まで出かかったが、彼女たちの悲惨な状況を見れば迷っている暇はない。

 

 俺は腹を括った。

 

 パーティから離脱する方法は至ってシンプルだ。

 その意志を、リーダーの目の前で堂々と宣言すれば成立する。

 

「わかった。俺は、このパーティから抜けま――」

 

 言い終わる、まさにその直前だった。

 

「ふげえっ!?」

 

 突如、情けない絶叫と共に、戦士が立っていた木製の床が轟音を立ててぶち抜けた。

 分厚い床板が粉砕され、彼女はそのまま下の階層へと一直線に落下していく。

 

「ま、まさか、俺の能力がまた発動したのか!?」

「そうだ……! お前の今の能力は、一定時間ごとに不定期で再抽選されて発動する! 恐らく、彼女の『体重』が世界最大値に設定されてしまったんだろう!」

 

 あまりにも由々しき事態に、俺はめまいを起こして倒れそうになった。

 

「そして最悪なことに……発動するタイミングは全員同時だ。俺たちの変化は……ッ!」

「あ、なんか……遠くの景色までめちゃくちゃはっきり見えるようになったわ。視力が限界突破したみたいね」

 

 相変わらずお腹を必死に押さえながら、僧侶が遠くを見つめて言った。

 どうやら、人間にとって都合のいい真っ当なパラメータが上昇する『当たり』を引く場合もあるらしい。

 

 ならば、先ほどまで性欲に支配されていた魔道士はどうなったのか。僧侶がおそるおそる彼女の方を見やると――。

 

「な、ななな、なんだろう! あたし、すごい頭が冴え渡ってるッ、気がする! あひん! はぁ……はぁ……万物の、世界の真理が、わかっちゃ、った、かもお! 魔王は、実は()()()()()()()()なんですッ、お゛っ!?」

 

 ……とんでもなく喘ぎ混じりの酷い声の合間に、世界の根幹を揺るがすような超特大の極秘情報が開示された気がする。

 どうやら「世界に対する知識」のパラメータが最大値になったらしいが、相変わらずバフが入り乱れていて脳の処理が追いつかない。

 

 勇者は何が最大値になったのかわからなかった。

 この状況ですぐに確認できない何かなのだろうということだけ。

 

 良い方面に働くこともあるとはいえ、デメリットが異次元すぎる。

 体重がカンストして床下にめり込み、身動きが取れなくなっている戦士の惨状を見て、俺は心底そう思った。

 

「すまない! このままでは私たちが本当に人間として終わってしまう! 頼む、早くパーティから抜けてくれないか!」

 

 下の階から、切実すぎる戦士の叫び声が響き渡る。

 これ以上長引かせれば、本当に世界が崩壊しかねない。俺は急いで息を吸い込んだ。

 

「俺! パーティから――」

 

 宣言しようとした、またもその直後。

 突如として、俺の喉元に禍々しい紫色の『輪』が出現し、首に巻き付いた。

 

 声が、出ない。

 

「あはははは! なんかサイッコーに面白そうなコトになってんじゃないの!」

 

 空間が歪み、この部屋に突然現れたのは、幼女のような姿をしたヤツだった。

 紫色の肌をした魔族。それも、魔王軍の幹部である『四天王』の一人。これまでの旅で、何度も俺たちを死の淵に追いやった因縁の敵だった。

 

 勇者が即座に剣を抜き、殺気を放って臨戦態勢に入るが、そいつを斬ることは叶わなかった。

 魔族の少女はひらりと凶刃を避け、宙に浮遊しながら、この世で最もタチの悪い宣告を吐き残していく。

 

「いやー、あまりに傑作だからこのまま高みの見物させてもらいまーす! いま彼にかけた『永久沈黙(エターナルサイレンス)』の呪いは、わたしの命と紐付けされてるからね! 解除してほしかったら、魔王城まで来るしかないよ! ま、そんな狂った状態で辿り着ければの話だけど……プークスクス!」

 

 けたたましい嘲笑を残し、魔族は即座に空間転移で消え去ってしまった。

 

 ……どうしよう。

 

 このままでは、『俺のバフ』のせいでパーティが文字通り崩壊し、取り返しのつかない大惨事を引き起こしてしまうのは自明の理だった。

 

 呪いを解くために、早くあの四天王をぶち殺して、パーティから抜けなければ。

 というか、一刻も早くこの勇者パーティから俺を追放してくれ!!

 

 こうして俺たちは、いつ誰のどのパラメータが暴走するかわからないという、とんでもないハンデを抱えたまま、魔王城を目指す旅を余儀なくされることになった。

 

――果たして魔王城につくまで、みんなの尊厳が無事でいられるかどうかは、神にもわからない。




女神「その呪われた男を殺せばいいのではないですか?」

思いつきで書いたので多分続かない
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