俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが……   作:あじさいファン

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祝! 10話! なんで続いてるんだ?
良ければお祝いしていって下さい。こ、高評価……とか。


10.魔道士の話・その3

 そこからブラウと再会するのは、彼女との初対面から三日後と、そう遠くない日のことだった。

 

 暗い顔で、のそのそと近づいてきて、高度な爆裂魔法を放つ。

 タネさえわかっていれば、もう引っかかることはなかったんだが。

 それでも彼女は愚直にその手段だけで俺たちを殺そうとしてきた。

 

 つーか、それ以外の戦術を教わっていない様子だった。

 魔王にも、直属の上司にあたるノワールにも、襲撃の手立てについて何一つ授けられていなかったんだろうな。

 

 ちゃんとなんか教えてやれよ。なんかあんだろ、もっとさあ。

 

 俺たちはブラウの攻撃を難なくいなすと、魔王軍を抜けるべきだという説得を試みることにした。

 かつてアルジャンたちが港町で得た情報をもとに、「実はブラウの故郷を襲撃したのは人間の賊ではなく魔族であり、魔族こそが真の仇なんだ」と。

 

──結論から言うと、その説得の言葉は()()()()()()()()だった。

 

 何故かって? 

 俺の推論がミリ単位の狂いもなく大外れだったからだ。

 彼女にとって魔王軍は、歪みなく彼女を救い出してくれた救世主そのものだったらしい。

 

 真実はこうだ。

 

 確かに彼女は魔道士の集落で生まれ育ったのだが、あまりにも高すぎる魔力を持って生まれたがために、周囲の期待を一身に背負わされたという。

 

 次期集落長の座は、ゼロ歳にして彼女の義務として確定。

 そのためにありとあらゆる知識と魔道技術を叩き込まれなければならず、一歳の頃にはもう過酷な修行が始まってた。

 泣き言を一つでも言えば、「魔道への耐性をつけるため」とかいう大義名分のもと、炎で(あぶ)られ、氷の中に埋め込まれ、雷を当てられ、水に沈められてたんだそうだ。

 

『はあ? 狂った親も居たものね』

 

 彼女の語りを聞いて、隣で僧侶様が拳を強く握り締め、ワナワナと激しく震えてた。

 ルージュの親も大概だったけどさ、ブラウの親は輪をかけて異常者だと思わされたね。

 

 しかもな、この残虐な教育は両親からだけではなく、集落の全員から施されていたんだと。

 同年代の子供たちは大人たちのお墨付きもあり、「ブラウはイジメていい対象」と認識して、容赦のない暴力が毎日のように彼女へ飛んできたらしい。

 

 俺たちも聞いていて吐き気がしてきた。

 他人の心の痛みを自分の痛みに変換してしまえるくらい優しい戦士様なんか、あまりの苛立ちに、地面に向かって何度も怒りのままに斧を打ち付けてたな。

 

 その魔道士の集落は、人間側にも魔族側にもつかない、いわゆる中立勢力として存在してたそうだ。

 これまでの歴史では、状況に応じてどちらの陣営にもついたことがあるため、周囲からは「コウモリ集団」と言われて忌み嫌われてたらしい。

 

 そんなエピソードに因んだ、外部からの名称があった。

 

「コウモリの里」だ。

 

 今から七年前、来たるべき魔族のための聖戦に備え、魔王は本格的に動き始める前に、このコウモリ集団を自分の傘下に入れようとしたんだと。

 

 だがコウモリたちはそれを拒絶。

 それでも、魔族にしちゃ理性的っつーか、何度も集落に通って暴力に訴えないで交渉を続けていたらしいが、その過剰な往来が、辺りを縄張りにしていた人間の賊に勘違いさせたみたいなんだ。金銀財宝の類があるってな。

 

 で、賊により夜襲を受けてコウモリたちの集落はあっさり崩壊。油断を突かれてなすすべなかったのもあったが、その賊、元王都の騎士やら兵士が多くて異様に強かったんだと。

 

 ほどなくして、魔族がかけつけたときには賊の巣になっていたが、容赦なく壊滅したそうなんだ。

 そのときの立役者になったのが、例の三名……あの漆黒のフルプレートアーマー騎士、片翼のお兄ちゃん、そしてパーカーを着た骨だったんだって。ほとんどこの三名だけで戦って、無傷だったらしいよ。

 

 納得したけどさ。

 じゃあなんであいつら四天王になれてないの?

 

 んで。

 ブラウはというと、彼女の才能だけは集落の財産として守らなきゃいけないと考えた親が、地下の隠し部屋に閉じ込めてたらしい。

 これを聞いて、「どうせ愛情じゃなくて、集落の存続の道具としてしか考えてなかったんだろうな」と、俺もみんなも胸糞悪くなったね。

 

 そんなブラウを見つけたのは魔王自らだったそうだ。

 そして、魔王城に連れ帰られた彼女は、それまでと比べれば破格の待遇を受けたという。

 失敗すれば痛みで教えられることには変わりなくても、常軌を逸した監禁虐待のような手段ではなかったってさ。

 

 ……下手人の正体が賊か魔族か、どうして話に食い違いが出たかっつーと、これは俺の推測でしかないんだが。

 この一件のだいぶ後で知ったんだけどな、そのタイミングで集落から、たまたま離れてた生き残りがいたんだよ。

 直接ハッキリそう言ってたワケじゃねえけど、そいつが魔族の仕業だと吹聴したんじゃねえかな? 魔族との交渉があったの、知らねえはずねえだろうし。

 

『……というわけですから。あたしにとって、魔王様は大恩人なんです』

 

 そう言って再び、ブラウは悲しい顔で爆発魔法を放ってきた。

 しかし、俺の防御バフ効果と、ルージュが俺にかけてくれた防御強化魔法の効果もあって、今度は後方に吹き飛ぶようなこともなく、その威力は完全に押し殺されていた。

 

 無傷というわけにはいかなかったけどね、一番ダメージが少ないルージュが即座に全体回復をかけてくれるおかげで、実質ノーダメージだ。

 これに顔面蒼白になったブラウは、狂ったように何度も何度も魔法を唱えてきたが、俺たちは全く同じ対処をし続けた。

 

 二分もしないうちに、彼女はまた激しい拒絶反応で身体を震わせ、その場にしゃがみ込み始めた。

 俺たちは慌てて駆け寄ろうとしたが、ひときわ大きな悲鳴で「近寄らないで!」と制されて、思わず足を止めちゃってさ。

 

 その隙に、彼女は無理を押してその場から離脱。

 転移魔術は人間ゆえに使えないため、涙を流しながら猛ダッシュで立ち去っちまった。

 

──こうして、ブラウへの一度目の説得は完全に失敗したんだ。

 

 

 

 その夜。

 また焚火を囲んでどうするべきかの作戦会議を行ったよ。

 

『無理なのではないか。あんな背景があるのでは、魔王に心酔していて当然だ』

 

 ジョーヌが表情いっぱいに悔しさを(にじ)ませながら、ぽつりとそう言った。

 確かに、ブラウから聞かされた過去のエピソードは、人間よりもいっそ魔王軍の方が善なんじゃないかと思わされてしまうような、あまりにも酷い内容だったもんな。

 

 いっそ精神魔法の類で認知を歪まされているのではないか、とも思ったんだけどね。

 術式について、結構詳しい僧侶様が首を横に振ってそれを否定した。

 彼女が見た感じ、ブラウにはその類の洗脳術がかけられている形跡は一切ないんだとさ。

 

『でも』

 だが、ルージュはまだ光明はある、と力強く断言してくれた。

『心酔しているにしては、あまりにも妙なのよ。痛がるとき、彼女は魔王をしきりに怖がっていたわ。そこが活路になるかもしれないわね』

 

 ノワールも「調教する」とか不穏なことを言っていたもんな。

 集落時代と根底は変わっていなくて、結局は都合よく利用されているだけという俺たちの認識は、間違っていないはずだ。

 

 過去の地獄に比べれば相対的にマシになったっつっても、結局、魔王軍は魔王軍。

 ブラウに愛情があるわけじゃなく、ただその絶大な魔力を利用しているだけなんだから、そこに善意なんてあるはずがないだろ? 

 

 

 

 てなわけでね。俺らは諦めなかった。

 なんとしてもあの痛ましい少女に、道具としてではない普通の生を与えられないかと苦心したんだ。

 

 ブラウはそこからも、定期的に俺らを襲撃しに来ていた。

 町中にいるときに襲ってくることはなく、必ず人里離れたタイミングを狙って攻撃してきてさ。

 というか、ブラウと会った日を皮切りに、なぜか他の魔族の刺客が一切襲ってこなくなったんだよな。

 

 その銀髪魔道士の子の作戦といえば、やっぱり正面からのそのそ歩いてきて魔道を放つ感じだった。

 

 いや、ワンパターンにも程があるだろ。そろそろ別の作戦を考えておいでよ。

 

 あ、でも爆裂魔法から別の魔法には変わっていたな。炎とか氷とか雷とか、色んな属性が使えて本当に凄かった。

 だけど、こっちの対処法は変わらないんだよね。ダメージを受けてもルージュの回復魔法で一瞬で全快。

 熱かったりメチャクチャ冷えたりビリビリしたり。でも、俺たちには無意味だ。

 

 一度だけ、ルージュに呪文封じの沈黙魔法をかけようとしてきたことがあったな。幾度にも渡る襲撃を経て、彼女なりに学習して成長したらしい。

 でも残念、俺らの僧侶様はそういう類のもの、一切効かないんだよなあ。

 何度試しても沈黙がかかることがなくて、ブラウはすげー絶望的な顔をしてたっけ。

 

 彼女の攻撃をいなす度、俺たちは魔王軍からの離脱を奨めていたんだけど、この子は頑なにそれを拒絶した。

 そして、いつも青ざめて満身創痍の体で逃げていく。

 

 これが一ヶ月以上も続くとさ、さしもの俺たちの中にも諦めムードみたいなものが生まれつつあったね。

 もう彼女は何を言っても、あの魔王軍を離れる気はないんじゃないかって。

 

 だが。

 勇者アルジャンは、そんなことでめげるような男ではなかった。

 

『お前らが諦めても、俺だけは絶対にやめない。老人になっても、彼女を説得し続ける』

 

 どうも本気で言ってるっぽいしさ、俺らも付き合うしかなかったんだよな。

 嫌だったわけじゃないぜ。勇者様がそこまで言うなら、いつか絶対に叶うんじゃないかって、信じてられたからだ。

 

 

 

 明確な異変があったのは、彼女の初襲撃から一ヶ月半後。

 ルージュの加入から見れば、三ヶ月が経過した頃の話だった。

 

 あれだけしょっちゅう襲ってきた魔族もブラウも、めっきり姿を見せなくなってさ。

 度重なる失敗の責任を問われて、とうとう処刑でもされてしまったんじゃないかと、俺たちは不安に駆られた。

 

 確かめる術はなかった。何せ魔王軍の内情だしね。

 

 俺らにとっては、刺客が来なくなるのは助かる話のはずだった。

 襲撃を受けなくなるのなら、夜だってちゃんと安心して寝られるだろ? 

 でも、あの銀髪の、おどおどした小さな女の子のことを思うと、誰もまともに寝つけなかったんだ。

 

『ねえ……アルジャンって』

 ブラウが襲撃をぴたりとやめて、一週間。夜の寝床で、ルージュが勇者様に問いかけた。

『ブラウを……どうしたいのかしら。魔王軍から離脱させて、その先は?』

 

 なんとなくそうなんじゃないかなって、みんなが確信していた答えがあるんだけど。

 やっぱり俺らの勇者様は、考えていた通りの答えを惜しみなく口にしたんだ。

 

『ああ。パーティに入れたい。五人目は、元から魔道士がいいと思っていた。物理攻撃の通らない特殊な敵を相手取る方法が、今の俺らには圧倒的に不足しているからな』

『それはそうなんだが……入ってくれるとはとても……』

 

 ジョーヌの懸念はもっともだった。

 そもそも、こちらに心を開いてパーティに入ってくれそうな雰囲気ではなかったからね。

 魔道士なら大きな町のギルドに行けばいくらでも優秀な人がいるし、そっちから普通に募集した方がいいんじゃないか、とか。

 

『彼女じゃなきゃダメだ。彼女は、戦いの中で救いを求める目をしていた。目の前の命を救わないのは、勇者として恥だ』

『そうね。そこは私も同じ気持ちよ。でも……』

『ルージュ。俺は、その後の面倒まで無責任なままでありたくないんだ』

 

 悪徳や魔族から救うだけ救って、「あとはどうなろうが知ったことではない」と突き放すのは違う。

 

 世間には、名声と報酬を手に入れるためだけに悪を倒し、残された人々を放置して、結局は生活苦で死に追いやるような冒険者の事例が発生してる。

 そんな無慈悲な現実に、俺らの勇者様は深く心を痛めていた。

 一度手を差し伸べた後は、その人が一人で立てるようになるまで支えたいのだとさ。

 

 だけど、現実はそう上手くいかないよな。人間の手は二本だ。抱き留められる数には限界がある。

 それでもアルジャンってヤツは、可能な限り手をいっぱいに伸ばして、目の前のすべてを救おうとする男なんだ。

 

『だから、ブラウは俺が面倒を見る。勇者パーティの一員にさえなえれば、彼女は自分の足で歩けるようになるはずなんだ』

 

 他の人が聞けば、富める者の傲慢だと笑うかもしれない理想論だ。

 しかし俺らは、この勇者の真面目な理想論が大好きだからこそ、今日まで共に旅をする決意を固めてこられたんだ。

 

 理想論だって、実際にやり遂げてしまえば、それは理想じゃなくて現実に変わるだろ? 

 それを勇者様は己の身をもって証明したいと思っているわけだ。カッケーよ。

 

 パーティは五人まで。じゃあ、六人目以降は同じ救い方が出来ないんじゃないか。そう思うよな? 

 でも勇者様には、それをどうにかするための、理想論を貫き通す方法があった。この数ヶ月で確立した方法だ。

 今回の話には関係ないから、説明はしないでおくぜ。パーティに加入させる方法ではない、とだけ。

 

 

 

 だが。

 会いたいと願えば願う程、ブラウは俺たちの前に姿を一切見せない。

 

 焦燥と不安に駆られながらも、表向きは順調な旅を続ける俺ら。

 そうこうしているうちに、更に一ヶ月ほどが経ち……ブラウと初めて出会ってから、二ヶ月半が経過した。

 

 このとき。事態が、あまりにも大きく動いたんだ。

 

 ギルドの依頼を受けて、ダンジョンの最奥に巣食う凶悪なモンスターをようやく撃破した、その帰りのことだった。

 

 

『久しぶりね、勇者サマ』

 

 

 ダンジョンの狭い出入口を塞ぐようにして立っていたのは、あの紫肌の魔族の幼女。

 四天王の一人、「邪鎖(じゃさ)のノワール」が唐突に現れたことに、俺たちは激しく戦慄した。

 なにせ、ここのモンスターとはかなりの激闘だったからなあ。生命線であるルージュの魔力も、すでに枯渇気味でよ。

 

 全滅の二文字が脳裏をよぎったんだけど、意外なことに、ノワールは俺らに襲い掛かる素振りを見せなかった。

 

 というか。

 こいつの最大の特徴である、人を小馬鹿にしたようなあの憎たらしい薄ら笑いが、その顔から完全に消えてた。

 もの凄く必死で、真面目な顔をしてこっちを見てくるもんだから、俺ら四人とも完全に度肝を抜かされちまった。

 

 で。

 挨拶の後に放った、奴の言葉が、さらに俺たちを驚愕させたんだ。

 

『もうあんたらしかいないの! お願い! あの愚図を……ブラウを助けるのに協力してっ!!』




女神「ま……まさか。魔族四天王の言葉を鵜呑みにしたのではありませんか? この四天王は三年後も生きていた……。はあ、勇者の甘さもここまで来ると芸術的ですね。まったく褒めてませんよ」
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