俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが…… 作:あじさいファン
て思ってコメディ→冒険・バトルにジャンル変更を施しました。
真面目な回が増えて来たので……。
すみません! 元は二話完結の一発ネタな名残だったんです!
不意打ちの策かと思ってさ、俺らは身構えたよ。
魔族にとって、勇者やその仲間は忌まわしい
しかもノワールはその最前線に立つ、上澄みの中の上澄みたる四天王だ。
そんなヤツが俺らに頭を下げて人助けを懇願してくるなんて、天地がひっくり返ってもありえねえはずだからさ。
だけど、ノワールはプライドも何もかもかなぐり捨てて、必死に、
お願い、お願い、って、小さな声を震わせながらね。
そんな姿を見せられちゃあさ、どんなに警戒していても毒気を抜かれちまうのは当然ってモンだろ?
特に人が良すぎる俺らの勇者様は、真っ先に武器を引いて、彼女の話を聞こうとする姿勢を取った。
以前の町での戦いで、こいつの呪いによって直接的な大ダメージを負わされているルージュすら、そんな過去の遺恨を感じさせないほど、真剣な眼差しでノワールを見つめていたね。
俺とジョーヌは、リーダーである勇者様がそう決めたなら反対する余地はなかった。
何でも首を縦に振るだけのイエスマンに甘んじてたワケじゃないけどね、とにかくこのときは、四人の意見が満場一致で「ノワールの話を聞く」という方向でカチリと噛み合ったんだ。
当のノワールは、それこそ
だからこそ、俺たちがこれほどあっさりと対話に応じてくれるお人好しだとは思っていなかったらしく、驚愕にその目を大きく見開いていた。
思わずお礼を言いかけて、敵対する立場としての意地が邪魔をしたのか、慌てて言葉をツンと引っ込めていたのを、今でもよく覚えているよ。
ブラウの襲撃がやんでからは、俺たちも町の宿に泊まる機会が増えてきてたんだけどさ。
その日ばかりは深い森の中で野宿をし、焚火を囲むことを余儀なくされた。
なにせ、四天王のノワールを抱えたままじゃ、町に入れるワケがなかったからね。
そんなことをすれば大パニックになって、俺たち勇者パーティが魔族と通じる反逆者扱いされちまう。
パチパチと爆ぜる火を挟んで、ノワールは俺たちに具体的な要求を突きつけてきた。
それは、今俺たちが焚火を囲んでいる位置からはだいぶ離れた場所にある、魔王軍の隠された『魔導研究所』に囚われているブラウを救出して欲しい、という内容だった。
ただそこから連れ出すだけなら、四天王の権限を持つノワール単独でも隠密裏にやれなくはなかったらしい。
だけど、それは魔王に対する明確な叛逆の意志とみなされ、見つかれば彼女自身の処断は免れない。
そこで、ブラウ強奪の罪をそっくりそのまま、人間のパーティに被ってもらうことを考えたというんだ。
もちろん、そんな敵のど真ん中に忍び込むような危険な作戦を、喜んで引き受ける人間なんてこの世にアテがあるはずもない。
仮に腕利きの傭兵がいたって、命を懸けるだけの莫大なメリットがなけりゃあ、誰が進んでそんな無茶をやろうと思うかって話だ。
だが、例外がいた。そう、まさに俺たちだ。
俺たちは喉から手が出るほど、優秀な魔道士の仲間を欲しがっていただろ?
ノワールに直接その話を漏らしたことはなかったんだが、こいつは俺たちのパーティ編成を見て、すべてを察していたらしい。
まあ、一応は戦闘のプロである魔族から見れば一目瞭然だったってことだろうな。
で、ノワールが俺たちに求めた『真の救助』ってのは、単に檻からブラウを引っ張り出すことじゃなかった。
ブラウを、正式に勇者パーティの一員にして欲しい──ノワールはハッキリと、俺たちの目を真っ直ぐ見据えてそう伝えてきたんだ。
……ここで、この世界に存在する絶対的な魂の契約システムである『パーティ』について、俺の脳内を覗いてくれている物好きな人向けに、少し丁寧めな説明をしておこうと思う。
最大五人まで組める。
リーダーがパーティのレベルを保持する。
誰かが入ったり抜けたりするたびに、その個人の能力は一度初期化されたり、能力が変質したりする。
まあ、ここまでは今までに語った通りの基本的なルールだよな。
でも、これを聞いて疑問に思った人もいるだろ?
パーティに入る前からルージュは回復魔法の才能に満ち溢れていたじゃん、って。
実はそれは、パーティシステムによる恩恵とはまったく違う、個人的な基礎能力というか、生まれ持った個性の
筋トレをすれば筋肉が増えるとか、毎日走り込みをすれば足が速くなる、みたいな、生きていく中での積み重ねの成果。
パーティレベルのような明確な数値として目に見えるものじゃないから、世界的には『パーソナル』なんて呼ばれる代物だ。
だが、パーティシステムとパーソナルの決定的な違いは、その努力の限界値にある。
パーソナルには個体ごとにあらかじめ超えられない上限が与えられていて、どれだけ血を吐く努力をしても、運動センスのない奴の足は一定以上速くならない。
その上、悲しいかな加齢や病気によって、せっかく鍛えた力もどんどん衰えていっちまうのさ。
そこを劇的に補ってくれるのが、パーティレベルシステムだ。
生まれ持った才能がまるでなくても、この契約を結びさえすれば、危険な外の世界を旅できる程度には人間の身体能力を底上げし、戦うための強固な補正をかけてくれる。
俺たちがそれぞれ固有の『パッシブ能力』を得られるのも、この魂のシステムが身体に変質をもたらす一環ってワケっぽいね。
まあ、俺はこれで攻撃力がほとんど高まってないから、ここにも個人差があるっぽいけど。でも割と頑丈だし、長旅に耐えられる体力があるのはパーティに入ってるお陰だよ。
てな事情もあって、この世界では旅をする際は必ずパーティを組んで、複数人で歩くことが強く推奨されている。
一人で孤独に歩く者にはこの魂の補正がかからないから、よっぽど素のパーソナルが化け物じみていない限り、外に出るのは自殺行為に等しいんだ。
そして、魔王軍の魔族どもは、何をどうやっているのか、このパーティレベルシステムの補正だけを不正利用して、個人のパーソナルを限界突破させている状態にあるんだと。
その歪な術理の原理についてはノワールもわかっていないみたいだし、当然俺たちも知らない。
だからこそ、世界の調和を重んじる女神様から汚らわしい不純物として忌み嫌われているんだそうだ。
ルージュは、このパーソナルのうち回復に関する魔力が恐ろしく高いわけだけど、パーティに加入して、より高くなった。
その上で防御能力を得たわけだからね。世界を見回しても彼女を上回るヒーラーなんて、見当たらないんじゃないかなってくらい。
で。
今回、ノワールが持ちかけてきた話で最も大事なのが、そのパッシブ能力の部分だった。
ノワールは、ブラウを一度魔王軍の不正システムから切り離し、正統な『勇者のパーティ』に加入させることで、彼女の魂に刻まれたパッシブ能力が『無害なものへ変質してくれること』に、すべての賭け金を張ったらしいのさ。
『あの愚図の固有パッシブね。外部から与えられたあらゆるバフの効果を、数十倍にまで無理やり高めて永続させる効果でさ。……その代わり、反動として本人の身体に、激痛ダメージを与え続けるわけ』
それを聞いて、俺たちの脳裏のパズルが一気に繋がった。
魔王軍の刺客として派遣されてくるブラウが、しきりに痛みを訴えて
身体能力を強制的に上昇させる凶悪な薬物を飲んでから、俺たちに突撃してきていた、ってことらしい。
『……作戦に失敗してばかりでしょ。もう戦力として使い物にならないからって、貴重なパッシブ能力だけを身体から抜き取って、処分しようって言い始めた奴がいて』
魔王軍には、パーティシステムの不正利用だけにとどまらず、個人の魂から能力だけを無理やり抽出できる、おぞましい超技術が存在するらしい。
そんな危険極まりない技術を持つ連中が人里で暴れまわったりするんだから、女神様が魔族を根絶やしにしようと危険視するのも、大いに納得のいく話ではあったんだ。
ただ。
ノワールは辛辣な物言いばかりを並べ立ててはいたけれど、その小さな肩を震わせる姿は、どう見てもブラウの身を本気で案じて、心から心配しているようにしか見えなかった。
こいつはかつて、町で多くの死傷者を出した恐るべき大犯罪者で、本来なら今すぐここで討ち果たさなきゃならないはずの冷酷な魔族なんだが。
その必死な姿を見ていると、紫の肌をしているっていうだけの、普通の女の子にしか見えなかったね。
『ずいぶんな心変わりだな、四天王。お前、そんなにブラウのことが好きになったのか?』
『はあ!? 寝言は寝てから言ってくれないかな、戦士サマ!? わたしはね、あの愚図が絶望して苦しむ顔を、これからも見たいだけだから!』
べー、と小馬鹿にするように舌を出し、面食らうジョーヌに向かってピーピーと反論するノワールだったけれどさ。
言葉の裏にある彼女の本音なんて、俺たち幼馴染三人、そしてルージュにはとっくに筒抜けだったよ。
こいつは、心底からブラウを死なせたくないんだって。
『……あいつが死んだらさ。もう二度と、苦しむ顔が見れなくなるでしょうが……』
*****
翌朝。
俺たちは早速、標的である魔導研究所の付近までたどり着いていた。
ノワールの転移魔法を使ってもらったおかげで、歩く分の疲労は一切なしだ。
あれ、凄かったぜ。身体がフワッと浮き上がって、景色が一瞬で切り替わる感じでよ。
で、肝心の研究所だけど、とにかく
どおりで、今まで町で話題になったのを聞いたことがねえワケだ、と変に納得しちまったね。
『ねえ。協力者三銃士を連れて来たよ』
『キョウリョクシャサンジュウシ……?』
なんでも、今回のブラウ強奪大作戦には、強力な魔族の内通者がいるらしい。
ノワールと個人的に密接な縁があるらしく、彼女がこの作戦を打ち明けたところ、快く協力を引き受けてくれたんだそうだ。
それでも、彼らが魔王軍側に属している以上、パーティシステムを利用した真の救出は行えない。いくら彼らが手練れであろうとも、俺たち勇者パーティが必要なくなる理由にはならない、ってワケだ。
で、その信じられない面子なんだが。
『防御貫通奥義、月光の専門家。
『安心するがいい。勇者よ、そなたらには指一本触れさせぬ』
真っ黒な重鎧に身を包んだ、赤マントの重装騎士。
『伝説の英雄で、怒涛の八回連続攻撃の専門家。
『ともに運命に抗ってみないか?』
黒い片翼を生やした、長い剣を持つ超イケメンのお兄ちゃん。
『そして近道の専門家。
『与えられたもんを受け入れて生きていく……ってのも悪くないが。アンタらには、そういう気はなさそうだな』
青い上着を着た、アホほど回避率の高い骨。
……ツッコミどころがありすぎたね。
おい、こいつら、少し前まで俺たちのことを本気で死ぬほど追い詰めて来たヤバい連中じゃねえか。
一緒に肩を並べて戦うのってホントに大丈夫そ? 背中から刺されたりしない?
後、名前的に大丈夫かな? ちょっと震えが止まらないんだけど。
特に、三番目の骨の彼ね。
アンタ、なんか別の冒険者にフライパンでボコボコにされて死んでなかったか?
しかも、骨のくせに口からドバッと血を流してた記憶が鮮明にあるんだよね。
俺が恐る恐るそれを問いただしてみると、『スケルトンが口から血を出すわけないだろ? ケチャップだよ』なんて涼しい顔で言い訳しやがった。
まったく納得はいかなかったが、そもそもなんであの状態から生きてたのかについては、まともなことを教えてくれなかったな。
セーブとかロードとか、俺たちにはよくわからない単語ばっか口にしててさ。
『この三人が見張りの注意を引いてくれるから。その隙に、ブラウをわたしたち五人で助け出しましょ』
『確かに……特に彼らには、過去に非常に苦しめられているからな。その戦力の強さについて疑う点はない』
アルジャンにとって、彼らの圧倒的な強さは恐怖よりも純粋な尊敬に値するものだったらしい。
相手が凶悪な魔族だということもすっかり忘れて、まるで憧れの英雄を見るような目でキラキラと輝かせていたね。
そんな勇者様を、深く呆れたような眼差しでたしなめたのは、戦士ジョーヌだった。
『いやいや、待てアルジャン。四天王であるノワールの寝返りすら危ういというのに、彼らまで味方として協力するなんて話が美味すぎる。今更遅いかもしれないが……これごと罠ではないのか?』
あの化け物本人たちを目の前にして、一切怯むことなくハッキリと言い放つ彼女。
そういう飾らない芯の強さが、俺がジョーヌを好きになった最大の理由なんだけど、それにしても命知らずにも程があるだろってヒヤヒヤしたね。
だが、魔族側の規格外戦力三名は、不敬を咎めるどころか特に気にしていなさそうだった。
俺たちから疑われるのは至極当然のことだと、異口同音にジョーヌの警戒心を認める発言をしてくれたんだ。
『そう、オイラたちはあくまで敵同士。これが終われば、また殺し合うワケだ。……会話、もういらないよな? いくぜ』
骨の男の静かな号令をもって、俺らは一気に気持ちを引き締めた。
近道だ、と言われて背中を押されたので、目の前にある研究所とはなぜか明後日の方向の、何もない開けた場所に向かって歩き出した。
……マジで大丈夫か、これ?
そう疑ったのも束の間。
さっきまで森の中を歩いていたはずが、気づけば、いつの間にか研究所の内部の通路に辿り着いてた。
正面の入り口には厳重な門番もいたはずなのに、誰一人としてこっちの侵入には気づいていない様子だったね。
『ね、サンちゃん、スゴいでしょ。近道の手順の専門家だから』
ノワールが得意げに鼻を鳴らしてたけど、正直、空間の
さて、ここからは別行動だ。
俺ら人間四人とノワールの五人組は、魔族の協力者三名が警備の注意をド派手に引いている間に、ブラウが囚われている最深部の部屋へ駆け込まなくちゃならない。
互いの武運を祈って、俺たちはついに、銀髪の魔道士の救出作戦を開始したのさ。
女神「……………………(絶句)」