俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが……   作:あじさいファン

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15.魔道士の話・その8

『なあ、ノワール。それに、ええと……セフィちゃんに、サンちゃんだったか。どうして、人間と魔族は殺し合わなきゃならないんだ? 俺たちはわかり合うことは出来ないのか。……今回みたいに』

 

 アルジャンは、この場にいる魔族たちに向けて、切実な目を向けた。

 

 その真っ直ぐな問いに返答したのは、あの異様に回避率の高い骨の男だった。

 

『わかり合う? アンタらとオイラたちがかい? カンチガイしてもらっちゃ困るぜ、勇者のにいちゃん。今回はただ利害の一致があったから、一時的な協力関係にあっただけだ。本質としちゃ、互いにわかり合えっこないね』

 

 少しおどけたような身振りをしてみせていたけど、どこか骨の彼の口調は悲しそう、というより、最初からすべてを諦めちまってるような感じがしたな。

 

 俺も、心の中ではアルジャンとまったく同じ意見だった。わかり合えるなら、その方が絶対にいいって思った。

 

 何せ、重装騎士の彼がこの場にいないことが、胸が張り裂けそうなくらい辛かったくらいだもんな。

 

 おかしいのはわかってるよ。敵だし、まともに言葉を交わした期間なんてほんの一瞬だ。俺だって、なんで自分の中にこんなにも強い喪失感が湧き上がってたのか、謎だったさ。

 

『……私も、魔族は問答無用で全部敵だと教わってきたわ。「絶対に情けをかけるな」って、教典にもしっかり書いてあるもの。でも……貴方たちが、教えで言われるような悪い存在だなんて、どうしても思えない』

 

 そう言ったのは、僧侶のルージュだった。

 

 彼女は、盲目的な教えのために平気で人を見殺しにした自分の親や狂信徒たちと、目の前の彼らを比較したそうなんだ。

 

 彼らはブラウを守るため、文字通りその命を懸けた。そう、これもまた、教典に反している行いだよな。

 

 女神の意志に反している、だから人間と敵対している……そんな短絡的な関係であるならば、今回に限らず、互いに手を取り合い続けられるんじゃないか。そう思ったって、夢を見たっていいよな。

 

『言っておくが、マスティックのやり口がすべて間違っているとは、私は思っていない。魔族をも研究材料にしようとしていたが叶わず、結果、人間のみを標的にしていたのだから。魔王軍にとっては正しい在り方さ。今回はただ、ブラウが対象となったから私たちが動いただけだ』

 

 ルージュの温かい想いを真っ向から否定するように、片翼のお兄ちゃんがフッと冷たく笑ってみせた。

 

 この銀髪の魔道士が標的にさえなっていなければ、三銃士は叛逆を起こすつもりなど毛頭なかった──彼の緑がかった青い瞳は、雄弁にその残酷な事実を語っていた。

 

『何故、そこまでして「悪者」であろうとするのだ』

『あろうとしているわけじゃないぜ、戦士のねえちゃん。本当に悪者なんだよ、この世界にとって……()()たちは』

 

 ジョーヌの厳しい問いに返答したのは、またしても骨の男だった。

 おどけた「オイラ」ではなく、「オレ」と自らを呼んだそのひどく低い声に、俺たちは一様に唾をごくりと飲んだね。

 

『私たちは、魔族と呼ばれている。お前たち人間に恐怖を与えるのに都合が良いから、こちらもその呼び名を使っているだけだ。しかし、これは我々の真実の名ではないのさ。……ブラウを救ってくれた礼だ。我々の「正しい呼び名」を教えてやろう』

 

 片翼のお兄ちゃんは、ブラウと同じ美しい銀髪を風にたなびかせて、眼下で燃え上がる研究所を見下ろしながら、俺らに背を向けてその不可解な名前を口にした。

 

 

 バグ。

 

 

 これが、彼らの正しい名称。

 

 ……正直、それが種族名なのかどうかも、誰が与えた名前なのかも。そして何故、彼らがその名を嫌うのかも、俺たちにはサッパリわからなかった。

 いや、このときだけじゃなくて、今に至るまで、わかっているとは到底言えない。

 

『お嬢。オイラはもう行くが……いいのか? あの爺さん、まだ生きてんだろ。お嬢の首、飛ぶんじゃないか? オイラたちがなんとかしてやろうか?』

 

 重い話の一区切りがついて、骨の男がふいにそう言った。

 行く、というのはどういうことだとアルジャンが尋ねたんだが、骨の彼は割と真面目に答えてくれたな。

 

 叛逆をすると決めた時、いや、その前から、三銃士が魔王軍を抜けるのは確定事項だったらしい。

 重装騎士がどうしたかったのかは不明だが、骨の彼は「地底の世界」に潜るし、片翼の彼は「約束の地」ってのに行くからって。

 

 ……んん? やくそくのち?

 前戦ったときも、この剣士はそう言って途中で戦闘を中断して帰っていかなかったか? まだ行ってなかったのかよ。

 

『大丈夫。今の魔王様があのジジイを煙たがってるのは事実だし、心配してるようなことにはならないはずだよ』

『そうかい。んじゃあ、遠慮なく、お暇させてもらうとしますかね……』

 

 その言葉に合わせて、まず片翼の彼が足早にこの場を去っていった。背中の大きな黒い片翼をバサバサと羽ばたかせて、こちらを一度も振り返りもしなかった。

 

『あばよ、ノワール。そして勇者ご一行。ブラウを頼んだぜ。もうオイラと会うことなんてないと思うけど、もし会えたらホットドッグ奢ってやるよ。ああ……それから』

 

 骨の彼は、律儀にこちらへ手を振ってくれた。面倒見のいい感じがひしひしと伝わってくるよね。

 そして……最後に俺たちへ奇妙な忠告を残してくれたんだ。

 

『なんで争ってるかなんて、これ以上知らない方がいい。世の中、知らなきゃ良かったーなんて後悔することが山ほどあるからな。気に入らない奴を都度ぶっ飛ばしていくのが一番気楽だぜ?……んじゃな』

 

 言い終えるとすぐに、彼はこの場から掻き消えるようにいなくなってしまった。

 例の、空間すら捻じ曲げる『近道』とやらを使ったに違いない。

 

 俺たちは……いや、少なくとも俺は、今言われた言葉を噛み締めるように、頭の中で何度も何度も反芻(はんすう)していたね。

 

 俺、昔から本の虫だったからかな。新しい知識を取り入れていくのが楽しくて仕方ない人種なんだよ。だから、知らなきゃ良かった、なんて心底思ったことは一度もないんだ。

 それでさ、骨の彼の忠告の意味が、どうにも……ピンとこなかったんだよな。

 

 

『……わたしたちの共闘も、これでおしまい』

 しんとした空気の中で、最後にノワールがぽつりと言った。

 

 これに明確な拒否反応を示したのは、ブラウだった。

 よろめく足取りのまま、かつての上司だった女にすがりつこうとする。

 

『ど、どういうこと……ですか。ま、まさか……お別れ、なんですか……!?』

『良かったじゃない。知ってんのよ。あんた、魔王様を怖がってたでしょ? そんな不敬な奴、もう魔王軍にはいらないの。勇者サマなんかとパーティの契約まで交わしちゃったしねー? もう二度と魔王城には戻れないね、プークスクス』

 

 それは、俺らが町で初めて会ったときに見せたような、人を小馬鹿にしたノワールの嘲笑。

 

 彼女は、今後はブラウを『勇者パーティの一員』として、しっかり倒すべき敵として認識するのだと、冷酷に宣言した。

 

 ブラウはまったく納得できない様子だった。顔を真っ青にして、首を横に何度も激しく振った。

 

『いや……いや、いや! いやですっ! 確かに魔王様は怖い方です! で、でも……でも! ノワール様は、あたしに優しくしてくれましたよね? ね!? そ、そりゃあ……酷いことはいっぱい言われましたけど。で、で、でっ、でも! 大臣さんとかと違って、い、一度も殴りませんでしたし! そ、そそ、そうだ! ノワール様も、あ、ああ、あ。あたしたちと一緒に──』

 

 しどろもどろになりながら、必死にノワールを勧誘しようとするブラウ。

 

 パーティの上限が五人までだとか、種族がどうだとか、そういう理屈を全部かなぐり捨ててでも、ただ一緒に居たいと願ったみたいなんだ。

 

 でも、その震える言葉は最後まで続かなかった。

 

 パァン!!

 

 ノワールによる鋭い平手打ちが、ブラウの白い頬に容赦なく炸裂したからだ。

 これが、彼女によるブラウに対する、初めての暴力だったらしい。

 

 ノワールは、氷のように冷たい真顔だった。

 対し、ブラウは一瞬何が起こっているのかわからないような呆然とした表情をし、やがて、あまりの痛みに、特に心の痛みに耐えきれず、大粒の涙をこぼし始めた。

 

『なんで……なんで!? なんでぇっ!?』

『覚えておきなさい、勇者に仕える薄汚い魔道士さん。わたしが一番嫌いなのはね、魔王様を侮辱する発言なの。内心怖がるのはいい、あの方は恐怖の象徴だもの。でも、それを明確に口にした時点で……あんたはもう、わたしの敵だ』

 

 泣き崩れるブラウと意地でも目を合わせないようにして、奥歯をギリッと噛みしめながら、ノワールはアルジャンの方に向き直った。

 

『勇者アルジャン! 今回はわたしの願いを叶えてくれたから、特別に見逃してあげる! でも! 次会ったら絶対に殺す! あんたらが魔王軍にとって忌まわしい敵なのには、何一つ変わりないからね!』

『……ノワール。お前……』

 

 明確な、敵対宣言。

 しかし、それを静かに見つめる勇者様の目は、どこかひどく悲しげだった。

 

 俺らもまったく同じ気持ちだったよ。そこまで自分を偽って、敵対しなければならないのか、ってね。

 

 でも、ノワールは確かに、魔王に対して絶対的な忠誠を誓っていた。その揺るぎない想いと、俺らやブラウに対するわずかな絆とを天秤にかけたとき、前者が勝ってしまうのは魔族としてきっと当たり前のことなんだって、俺は悟った。

 

 勇者様は、そんなノワールの不器用な覚悟を、真っ向から尊重することにしたらしい。

 

『……お前は、かつて俺たちが訪れた町で多くの人を傷つけ、死なせた魔族だ。その重い罪は、(あがな)ってもらわねばならない。今回はブラウと、そこの冒険者たち救出の幇助に免じて、こっちこそ見逃してやる。だが、次は容赦はしない。……たとえお前が、ブラウにとって大切な恩人であったとしてもな』

『プークスクス。勇ましいねー。前は油断したけどさー、今度はしっかり首を刎ねて殺してあげるからねー』

 

 アルジャンの声も、ノワールの声も、ほんのわずかに震えていた。俺には、確かにそう聞こえた。

 

 ノワールはふう、と小さく溜息をついて。

 

 ブラウに向かって、ほんの一瞬だけ、この世の誰よりも優しい笑顔を見せた。

 

『バイバイ、愚図。……ううん。ブラウ。美味しいカレーライス、食わせてもらいなさいよ』

 

 それだけを残して。

 ノワールは深い闇の球体に包まれて、この場から去ってしまったんだ。

 

 

 

 ブラウは、しばらく声を上げて大泣きしてたよ。

 下手な慰めはかえって彼女を傷つけると思ってさ、俺ら四人はただ無言で傍にいてあげることしか出来なかったな。

 

 俺、ただ茫然と炎上してる研究所を見下ろしてた。

 そのうち雨が降ってきたから、それで鎮火したとは思うんだけど、最後まで見届けはしなかったな。

 

 だいぶ長い時間泣いてた。

 少し落ち着いてきた頃合で、アルジャンが静かに声をかけたんだ。

 ブラウは、まだ小刻みに肩を震わせて泣いてたけどね。

 

『……俺たち勇者は、魔王軍と戦っている。さっき宣言したとおり、いつかノワールを倒す日も来るだろう。それが耐えられないなら、無理にパーティにいなくても……』

『いや……いやっ! いやですっ! あたし、あ、あたしを……離さないで! ひとりにしないで……っ! みんなで楽しく旅するって、い、言ってくれたじゃない、です、かあ……!』

 

 毎日楽しく旅しよう、って約束したのは俺だ。その責任を取る必要がある。

 いくらブラウの今の感情を尊重して逃げ道を用意してやった意図があるんだとしてもさ。

 俺は勇者様の的外れな優しさに対して、ちょっと本気で怒ったよ。

 

『今のはねえよ、アルジャン……』

 

 まあ、アルジャンの懸念もわかるよ。それまで魔王軍として俺らに幾度となく襲い掛かってきた子だからな。

 魔王軍や三銃士への恩義が完全になくなったわけじゃないだろうし、いきなり人間のパーティに入ってきて大丈夫なのかって、心配する気持ちは俺にだってないわけじゃなかったさ。

 

 もちろん、俺たち四人に対する心配じゃない。ブラウが精神的に参らないかが、気にかかったのさ。親友の俺ならそれがわかるけど、ブラウ本人はそうはいかない。拒絶のように聞こえても仕方ねえだろ?

 

 アルジャンは、すぐに今の自分の言葉の非を認めたんだ。

 

『……すまん。突き放すつもりじゃなかったんだ。ただ……』

『ぐすっ……ぐすっ……わかって、ます。あたし、あたし……』

 

 ブラウは何か言いたかったみたいだけど、胸がいっぱいでうまく言葉に出来なかったらしい。

 そもそも、彼女が勇者パーティに入った直接の理由は、魔王軍から与えられたあのパッシブの激痛から逃れるためだ。

 

 転移を発動する前、俺のパッシブの効果下にあったんだけど、激痛を訴えなかったからさ。

 ノワールの目論見どおり、別のパッシブ──今でこそ判明してるが、「バフの効果が延長する」という健全なもの──にうまく変化してくれたのさ。

 

 彼女は、この時点でそういった事情をまだ聞かされていなかった。

 何もない大海原にいきなり放り出されて、不安になっちまうのは仕方ねえさ。今度は俺ら人間側に酷いことをされねえかってな。

 

 だからこそ、俺らは各々、腹を括って決意したよ。

 どれだけ時間がかかろうとも、この子を真の意味で受け入れて、凍てついた心を解きほぐしてあげたい、ってな。

 

 それが、不器用な芝居まで打って俺らにこの子を託すことにした、ノワールに対するせめてもの礼節ってものだろ。

 

『俺らはこれで五人になった。勇者パーティとして完全に完成したんだ。いいか。俺はここから、誰も追放する気はない。この五人で一蓮托生、必ず最後まで一緒にいよう。覚悟は出来てるな?』

 

 俺らの決意を、リーダーである勇者様が総括してくれた。

 俺も、ジョーヌも、ルージュも、力強く首を縦に振る。

 ブラウもまた、顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくりながら、俺たちについてくる確かな意志を示してくれた。

 

『で……あの、早速問題が発生してるんだが』

 

 感動的なムードの中、ふいにアルジャンの顔が真っ青になってた。

 何事かと俺らは心配したが、こいつが震える指で指し示した先を見て、すべてを察したね。

 

 丘の上に無造作に転がっている、全裸の冒険者たちの群れだ。

 みんな培養液の後遺症でぐったりしていて、自力では一歩も動けなさそうだ。

 かといって、ブラウの大魔法を期待しようにも、彼女もまた立っているだけで精一杯で頼めるわけがない。

 

『ノワール!! 頼むから戻ってきてくれーっ! セフィちゃんも、サンちゃんも! ここのみんなを、俺の言う場所まで運ぶの、手伝ってくれーっ!!』

 

 曇ってきた空に、勇者様のあまりにも情けない悲鳴が虚しく響き渡った。

 

 

*****

 

 

 ……だいぶ長くなっちまったけどさ。

 ここまでが、銀髪の魔道士ブラウが俺たち勇者パーティに加入するまでの経緯だった、ってワケだ。

 

 重装騎士のゼルちゃんとノワールの件で、しばらくは精神的ショックを引きずっていた彼女だったが、そのままポッキリとへし折れてしまうほど弱い子じゃなかった。

 

 半月ほどは塞ぎ込んでいたけれど、こっちが根気よく声をかけ続けているうちに、少しずつ心を開いてくれるようになった。

 そして、ルージュとはまた違う形で、俺らに馴染もうと必死に頑張ってくれたんだ。

 

 色んな出来事を経て、勇者パーティの一員としての自覚を強固にして、いつの間にか、俺たちの前でいっぱい笑うようになってくれてさ。

 最初は敵だったこの子が、今ではパーティに必要不可欠な大切な女の子になっていったんだ。

 

 ノワールとは、その後もたびたび戦場で激突した。

 しばらくは剣を向けることに拒絶反応を示していたブラウだが、彼女の中で何かしらの折り合いがついたのか、ある時からピタリと泣き言を言わなくなってた。

 無理してるんじゃないかと心配したこともあったけど、本人は決してそうじゃないと力強く否定してたな。

 

 あの日助けてくれたセフィちゃんとサンちゃんには、あれ以来、一度も会えていない。

 約束の地や地底世界とやらで、楽しく自由に生きてくれているなら、それが一番だなって思ってる。

 そう言えば、彼らはなんで『銃士』だったんだろう。銃のことは俺だって知ってるけどさ、一度も使ってなかったじゃん。

 

 転がってた裸の冒険者たちだが……もうね、頑張ってなんとかした。今もみんな、元気に生きているはずだ。

 どうやったのかは語ると長くなるから割愛する。とにかく必死だったってのと、アルジャンが提唱した「全員に手を差し伸べる方法」を用いた、それだけわかってくれればいい。

 

 マスティックのクソジジイについては……あの後もしぶとく生きてたらしいが、この野郎のせいでノワールが面倒な目に遭う、なんてことはなかったそうだ。

 魔王が狂った博士を心底毛嫌いしてたのは事実だったっぽい。その事実を、俺らも程なくして知ることになるけどね。

 あ、ちなみにこの旅の最中で、あのジジイにはきっちりトドメを刺しました。ブラウがね。

 いつか語る機会があるなら、語るかもって感じだ。

 

 

「はあい、ドレさん! 第十一回目の体操第一、いきますよおおっ!」

 

 

 ……で。現在に戻る。

 この子の延々と続く恐怖の朝の体操だが、俺とこの子以外はとっくに全員脱落しちまっていた。

 勘弁してくれ。この子も、一体どこからそんな無尽蔵の体力が……って、まさか最近の異常なレベリングのせいか!?

 

「勘弁、してー……死ぬ……」

「ダ・メ・で・す! そんな情けなさじゃ、魔王を倒せませんよ! ほら、大きく背伸びの運動! はいっ、いっち、にー!」

 

 マジで死にそうだった。いっそひと思いに殺して欲しかった。

 特大のカレーライスを作ってあげるから許してくれと土下座せんばかりに懇願してみたが、満面の笑顔で一蹴された。

 

 あ、この子の好物は見事、宣言通り『カレーライス』になりました。

 加入したその日の夕食に作ってやったんだよ。脱力してる冒険者たちの分も含めてね。幸い、道具袋の中に食材はあったから。買い溜めしといてよかった。

 初めての一口を食べて、ボロボロと涙を流しながら「美味しい、美味しい」と言ってくれたのが、心に来たのは今も記憶に新しい。

 

『……大好きですっ、とっても』

 それからカレーを作るたびに、満面の笑みでそんなことまで言ってくれたんだよな。

 

 なんかね、めっちゃ嬉しかった。

 一人のいたいけな女の子の「一番好きな料理」を作ってあげられてるというのは、料理当番として責任重大だなと思ったね。

 今後も食いたいときにいつでも食わせてやるからなと、指切りして約束してあげたよ。

 

 ……その渾身のカレーを引き合いに出したんだがなあ。今のこの体操ハイになった子には無駄みたいだ。

 助けて、アルジャン。ジョーヌ。ルージュ。頼むからそろそろ起きてきて、俺をこのエンドレス体操地獄から救い出してくれ。

 

 なんだ? 俺のパッシブが暴走して、また変なバフがかかるのが怖くて近づけないのか?

 怖くないよ、俺は友達。怖くないよ!

 

 もうノワールでもいいや。誰か助けてくれ。なんか、『永久沈黙(エターナルサイレンス)』とかじゃなくてさ、俺のパッシブそのものを安全に封印する方法ない?

 てか、お前生きてんのかな? 昨日、変な呪いを反射しちまってマジでごめんな。助けてくれたら、お前にも特盛のカレーライス作ってやるからさー。

 

 ……ま、というわけでね。

 俺は、数々の地獄を経験したブラウが今、こうして朝日に照らされて元気に笑ってくれていることに、これでも結構心が救われちまってるんだ。

 

 でも、元気すぎる。

 誰かマジで助けてくれないかな。そろそろ腕も足も千切れちゃいそうです。




女神「あー……ええと。なんだ、この男……本当に……。そうだ、今日はパーティシステムの恩恵についてお話いたしましょう。所持する食材にも影響を与えましてね。一定以上に腐ることはないのです。最も新鮮な時期のままなわけではありませんが、たとえば、足の早い魚の防腐としては完璧です。海から遠い山の中で魚が売っていることがあるのですが、全て冒険者たちが運んだものです。魂の契約がもたらす影響のひとつですよ。手元から離れれば効果は消えますけどね」
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