俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが……   作:あじさいファン

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17.魔王城への旅路

 町の人々からの温かい声援を背に受けて出発した俺たち勇者パーティ。

 この長い旅の成果もあって、魔王城の位置はハッキリしている。

 もう恐れるものは何もない、とばかりに、魔王城へ向けて歩き始めた。

 

 辺境も辺境、世界の最果てと呼ばれる場所に連中の城があるんだ。

 俺たちより前に、ここに足を踏み入れた勇者パーティがいくつもあったらしいが、最終的にその全てが帰ってこなかったんだそうだ。

 

 かつて魔王軍に居たブラウだけど、出征の度に転移で移動させられてたから、具体的な城の位置は旅を通して初めて知ったらしいよ。

 

 さて。魔王城への道程ともなれば、やっぱり強力そうなモンスターがうようよ湧いて出るワケだ。

 でけーライオンとか、首のない甲冑とか、全身にトゲ生やしてるクマとか。俺ら以外で倒せんのかな、って感じの凶暴そうな連中。

 

 道を阻もうと必死に飛び掛かってくる。魔王に忠誠を誓っているのかはわかんないけど、なんとも健気よな。

 しかし俺らにとっちゃ、冒険序盤に出て来たスケルトンとか草のモンスター並の……いや、それ未満の存在だった。

 

 ジョーヌが斧を軽く振れば、風圧で吹き飛びながら全身が粉々になって肉片と化す。

 たまたま打ち漏らしてこちらに近づいてきた奴らも、ルージュのメイスで叩けば天上まで吹き飛び、ブラウが足で小突くと、数キロメートル単位で弾き飛ばされた。

 

 それでも尚、怯まないモンスターたちには、称賛に値したね。

 面倒だからと、勇者様は剣も抜かなかった。

 

 大きく息を吸ったのを見て、俺らは後ろに下がって、耳を塞いだ。

 多分、俺らには必要ないかもだけど、一応ね、念のため。

 

「強靭な筋肉が、欲しいーッ!!」

 

 雄叫び、いや。魂からの絶叫。

 口からの音波攻撃だけで、這い寄ってきた魔物は全て灰になってしまった。

 

 ほんと規格外。

 四天王たちの言葉を借りるならチート級の強さってやつだ。その単語の意味はまだよくわかってないけどね、クソ強いって意味なんだろう。

 

 一匹だけ、高い攻撃力を誇るワニみたいなモンスターの噛み付きを俺が食らったが、逆に牙をへし折っちまった。

 ただ突っ立ってるだけなのにね、防御力が高すぎるのかな。

 

 てかアルジャン、すっかり落ち着いたと思ってたんだが、まだ未練たらたらなのかよ。

 

 てなわけで。

 俺らにダメージを通せる奴なんて一体もいない。もう、魔王城の連中も今頃、戦々恐々としているんじゃないかな。

 

 この間も、俺の自動効果によるバフは発動していたが、道中は比較的大人しかった。

 アルジャンはリズム感が最大値になってたりした。後はわかんないけど、戦闘に影響のあるような感じじゃなかったんだろうね。

 

 人間の持つパラメータというのは星の数ほどあるからねえ。

 あと、ハッキリ断言できるわけじゃないけど、死に至るような数値が対象になることはなさそうと考えていいかもしれない。

 

 ああ、でも。

 変質により俺に対するバフもかかるようになってるわけだけど。

 今回かかっているのは『攻撃力』だった。いつもこうであってくれないだろうかと切実に思う。

 

 さっき牙を折ったワニがまた食らいついてきたので、腕を振り上げたら、きれいに吹っ飛んでびっくりした。

 

「お、俺に……こ、こんな力が……?」

 

 これが、三年以上旅を続けて、初めてモンスターにダメージを与えた瞬間だった。

 なんだけど、初撃破とはならなかった。一発は確実に耐えられる固有の能力を持っていたらしい。小癪な話だよな。

 

 とりあえずアルジャンは、その辺の小石を軽く投げつけてた。すると、砲弾に当たったかのように爆散してった。

 凄すぎるよね、逆になんか不安になるわ。あくまでも敵との戦闘だけで起こっている強化現象らしいから、一般の人に危害を加える心配はないと思うけどさ。

 

 ある程度一掃したら、重たい羽音と共に、でかい生物が飛来してきた。

 上級のドラゴンだ。エルダードラゴンという学名があるらしいよ。

 

 ド定番だね。何度も数多の冒険者パーティを消し炭に変えて来たやべーモンスター。

 知能もあって人語を介し、中には魔法を使用する者までいるという、魔族に、いや、四天王クラスに比肩する化け物さ。

 魔族四天王に入れないのは、魔族じゃなくて魔物だから。

 

 強いには強い、んだけど。

 でもなあ。過剰なレベリングを施した俺ら勇者パーティには赤子に等しい存在なんだよなあ。

 かつての俺らは、ドラゴン自体が割と苦戦したこともある相手なんだけどねえ。あのときにこんな上級な奴が出てきてたら、五人まとめて今頃仲良く死んでただろうな。

 

『我の手下をいとも容易(たやす)く葬るとは……見事……』

 

 ……こいつ、直接脳内に。

 

 てか、一人称「我」なのか。

 いっぱい冒険小説読んで来たけど、こういうモンスターとか偉そうな生物って、大体自分のこと「我」って呼ぶのはお約束なのかね?

 

『いいだろう。我が、相手になって──』

「えい」

 

 そのドラゴンの声が最後まで続くことはなかった。

 ブラウが、細い人差し指でツン、と突いてみせると。

 

『ほがああああああああっ!?』

 

 情けない声と共に、ドラゴンの骨が全て砕け散るような滅茶苦茶やべー音が響いてさ。

 そのままその場に倒れ込んで、ピクピクと痙攣(けいれん)して動かなくなっちまった。

 

「ふっふっふー! どうですかみなさん! これが世界最強の魔道士、ブラウ様の神髄なんですよおっ!」

 

 胸を張ってドヤ顔をするブラウ。

 彼女のパッシブ効果もあって、ポジティブさは留まるところを知らない。

 

 まあ、最強の魔道士は否定しないんだけどさ、せめて魔法攻撃を放ってから言って欲しいものだな。

 ああー、もしかしてなんだけど、魔法(物理)ってやつかな? なワケあるか。

 でも真面目に以前のような爆裂魔法を放ったら、世界もろとも吹き飛びかねないし、やっぱやめてもらったほうがいいかもしれんね。

 

 

*****

 

 

 向かうところ敵なし。

 

 そんな状態で、世界の果ての道を突き進むが、なかなか城が見えてこない。

 気が付けば夜になってたから、結界とテントを張って、次の日に持ち越しってことになった。

 

 一日で辿り着くほど甘くはないかあ。

 ま、明日着くって保証もないけどねえ。

 でも、物資はしっかり補給を済ませているし、食事もいくらでも作れるくらい食材を買い漁ってある。

 

 次の日に備えて、寝よう。

 ……って、今までだったらそうしてたんだけど。

 今の俺らには、面倒な懸念点が一個だけ存在している状態だった。

 

 言わなくてもわかるよな。俺のパッシブ能力だよ。呪いみたいなやつ。

 

 ドラゴン撃破から時間も経ってたから、俺自身も含めてみんなに与えられているバフの内容が変化したワケなんだけども。

 今は、みんな視認できる効果になっちまってた。俺自身にかかっているものも含めて、だ。

 

 勇者アルジャン。恐ろしく足が速くなった。

 今から町に戻っても五分後に帰って来れるくらいの速さを得たという。

 魔王城への抜け駆けも出来なくもないが、足並みは揃えて欲しいのでそうはさせなかった。本人もそれには快諾してくれたけど、これがかかるタイミングが良ければ使い道も多かっただろうに非常に勿体ないね。

 

 戦士ジョーヌ。魔力が最大値になった感覚がするのだそうだ。

 だが、彼女は俺と同じく魔法の類が一切使えない。まさに宝の持ち腐れというか、当たりなのに外れ。

 せめて魔法のひとつでも使えていたらなあ。でも、そのせいで世界が滅んでもまずいか。何事もバランスだよね、バランス。

 

 僧侶ルージュ。料理が非常にしたくなってた。対象になったの、『料理したいレベル』とかか?

 彼女は俺の次に料理がうまいが、最近ではもっぱら俺しか料理を作っていなかったんだよな。

 俺が率先して作ろうとしてたからなんだけどね………というわけで今回は、久々に晩飯を作らせてみた。

 ルージュの得意料理、野菜たっぷりのポトフ。素晴らしく美味かった。

 時々食わせてもらうそれが不味いワケではないが、今回は格別だったね。料理人としてもやっていけそうなくらい。

 バフの効果でこうなってるってのがちょっと悲しいけど。

 

 魔道士ブラウ。色々累積していたが、とりあえず目に見える効果としては、ポジティブさに加え、その……なんだろう、これ。誰か解説してくれる? 俺にはわかんないんだけど。

 

「決戦前夜の決意表明キター! この空気、間違いなく起きますよね!? 告白イベントとか! 明日には魔王城なんですよね!? 来る……名シーン来る! 弾幕コメント用意……全国民が泣いた!」

 

 うーん、この子には何が見えてるんだろう?

 ポジティブとの相乗効果でおかしくなってんのかな。

 言ってることがよくわかんないから、パーティのみんなもなんか苦笑いしているだけだった。

 

 てか、告白イベントって。

 女性陣三名がアルジャンに好きですって告白するのか?

 蚊帳(かや)の外になる俺の気持ちも考えて欲しいので、できればそんなイベント起こさないで欲しいんですけどもダメですか。

 

 あるいは俺もアルジャンに好きですって言って、仲間入りした方がいいのかな?

 

 いや、やっぱねえわ。

 確かに俺はアルジャンが好きだけど、そういう好きじゃねえから。

 

「決意表明? いらないわ。これまでいっぱい、してきたじゃない。今まで通りやるだけよ。魔王を倒すのも、四天王やマスティックを倒してきたときと変わりないわ」

 

 淡々と、しかし優し気な声色でルージュがブラウを諭した。

 だけど当の魔道士様は頬っぺたを膨らませてどこか不満そうに反論した。

 

「ええー! 決意表明イベントは冒険モノに必須ですよ! ないと、死ぬほどアンチコメントが流れてきます! 『は?』って。感想欄が※運対※まみれになっちゃいますけど……いいんですか!? いいわけないですよ、ねえ! そして言うんです、『この戦いが終わったら結婚しましょう』って! フラグを立てていくべきなんです!」

「べきなんです、って言われても……」

 

 ブラウの熱量に、いつも余裕のあるルージュがタジタジになってしまっている。

 呆れたようにジョーヌが苦笑して、その言葉に返答した。

 

「……私たちは、ある種、不浄な想いを抱えている。打ち明けるにしても全てが終わってからだ……そう決意したはずだろう、ブラウ」

「やっぱ不浄だなんておかしいですよ! だってえ──」

 

 何かを言いかけたブラウの口を、思わずジョーヌが塞いだ。

 ルージュも動きかけていたからそれくらい秘めておきたい何かなんだろうとは思った。

 

 不浄って? アルジャンが好きだって言うことが、悪いことなのか?

 俺は思わず、親友の勇者様を見てみた。何の話が行われてたかわからない、とばかりにポカンとしている。

 

 自分に向けられた感情に妙にニブいトコあんだよなあ、勇者様って。

 超絶イケメン、一切狙ってない口説き発言。本当に罪づくりな男だと思うよ。

 

 この点だけは見習ってほしいもんだよね。

 俺は日ごろの発言や行動に気を付けているから、女に誤解されない。結果、モテることもない……言ってて悲しくなってきたぞ。誰か俺に惚れてくれ。

 

「話を変えましょう。全てが終わるまで、ドンカンすぎる男たちに、変な意識をされても困るもの」

 

 はあ、と殊更大きな溜息をつくルージュ。

 一瞬俺にも目線を向けていたが、どういう意図なんだ。

 

 あ、もしかして、俺がお前らのアルジャンに対する想いに気づいてないとでも思ってる?

 確かにお前ら、ハッキリそういうこと言ったことねえもんな。だけど気づいてるっつーの。それを邪魔するような真似はしない、当たり前だろ。

 

 そういう意志を込めてルージュを見つめ返したが、当の僧侶様は逆にそれを鼻で笑うだけだった。

 おい、なんなんだ。温厚な俺でもキレるぞ、そりゃあ。

 

「……魔王アン・コロール。今更なんだが……」

 話題を変えよう、という提案に乗っかるようにアルジャンが口を開いた。

「時々思うことがあるんだ。ただ倒さなければならないだけの巨悪なのか、ってな」

 

 優しい勇者様らしい発言。

 それに強く反論したのは、ブラウだった。ジョーヌの口塞ぎからは既に抜け出していた。

 

「倒すべき相手に決まってるじゃないですか! 忘れたんですか? 今から二年ほど前の、新年祭で! ドレさん、殺されかけているんですよ!?」

「そうよ。あのとき大変だったのを、忘れているはずがないわよね? 本当に今更よ。情けをかけるなんてどうかしてるわ」

「……思想に共感する点はあるが、手段が横暴すぎる。そう判断したのはアルジャン自身だっただろう」

 

 ブラウの声に呼応するように、ルージュもジョーヌも、勇者様に食ってかかった。

 そういう反応が来るであろうことは、当の勇者様も承知の上での発言だったらしいね。

 

「……奴と何度か顔を合わせて、その度に思ってたんだが、目の奥に悲哀が宿っているように見えたんだ。いつも言っていることが抽象的すぎてわからんが、ただ殺戮をしたいだけには見えん。だからといって許すつもりはないし、俺は手加減はしない。だが、その真意を聞かなければ、また新たな魔王が生まれるだけなんじゃないか?」

 

 実は。

 過去に魔王に殺されかけた俺だが、今のアルジャンの言葉には全面的に同意だった。

 本質を知らずにただ倒すだけというのは、俺たちの長旅を無意味に終わらせることになるんじゃないかっていう直感があったんだよな。

 

 そんな俺の言葉と、アルジャンの「後世にも繋がる平和を導くのが勇者としての務めだ」という発言に、女性陣三人は反論するのをやめ、納得してくれている様子だった。

 殺したくない、という意図じゃないことがわかったからだろう。

 もちろん、アルジャンがそんなことを言うはずがないのはみんな知っていたが、俺がかけるバフのせいで日和(ひよ)ったんじゃないかと不安になったんだと。

 

「……アン・コロール。やけに綺麗な奴だったな。初めて会ったとき、女と間違えたんだよ俺」

 

 あのときに何が起こったのか。

 俺とブラウ以外は実は直接見てたワケじゃないんだよな。

 

 俺はそのときのことを、振り返るように口にし始めていた。

 この状況を俯瞰(ふかん)して見ている、女神様じゃない超常的な存在がもし、まだいるのであれば。一緒に聞いていってくれるかな。

 

 題して──魔王の話。

 




女神「私もこの淫らな僧侶と同意見です。鼻で笑っていいですかね?」
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