俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが…… 作:あじさいファン
ブラウの勇者パーティ入りから時間がそれなりに経過した。
半月は隊列の後ろで暗い表情をしてばかりだった彼女だったが、時間をかけるにつれ、どんどん心を開いてくれるようになった。
そんな彼女の加入によって、大きく変わったことがあったんだ。
それは、「足」。
彼女の使用出来る大人数向けの転移魔術なんだが、俺ら五人を運ぶ程度なら大した魔力は使わないそうで。
魔族側だけが使える禁術って話だったけど、俺らはこれを遠慮なく頼ることにしたんだよね。
ブラウは当初、これを使うのを非常に
俺ら勇者パーティのことを女神の眷属だと思ってたから、魔族の技術を利用するのは重大な背信行為にならないかと怯えていたんだ。ルージュも加入前、似たような勘違いをしてたっけな。
そんな、彼女の不安を否定し、何なら大いに喜んだ人物がいた。
そう……俺らの僧侶様だ。
ルージュは一応アルカンシエル教徒だが、知っての通り彼女の基本的な行動理念は『戒律を片っ端から破ること』にある。
魔族の
最初は困惑していたブラウだったけど、自分の魔道が役に立つのなら嬉しいと考えてくれたみたいで、必要に応じて惜しみなく使用するようになってた。
転移魔術の基本的なルールは二つ。
ワープ先はパーティのリーダーである勇者が一度足の踏み入れたことのある、勇者へ敵対意識を持つ者が少なくて、かつ多くの人が住む拠点であること。
この条件があるから、ブラウは魔王城について知っていても、そこに奇襲をかけることは出来なかった。何故術者であるブラウが基準じゃないのかは謎だけどな。
ブラウをリーダーに変えることで実現する案も出たが、能力の変質、およびパーティの入脱による大幅弱体化の噂もあって分が悪すぎる賭けだった。自分の目で確かめて到着しろ、ってこったね。
そして、敵対勢力の拠点や巣で行使した場合、転移先が固定化されるということ。
その場所の最寄りで、敵に襲われず離脱も容易な安全地帯に飛ばされるんだ。
あの日、研究所で使った転移魔術の効力は、この第二のルールに則ったものだったワケだね。
そこから町や都市にも飛べるが、再度魔法の行使が必要になる。
対象の人数が減っても長ったらしい詠唱は必要だから、ノワールみたいに戦闘時の緊急離脱には使えないけどね。それでも、移動のストレスが格段に違いすぎた。
ルージュが基盤なら、ブラウは交通。
他の冒険者パーティが持ち合わせることのない多大なるアドバンテージに、もう俺らは心が打ち震えたよね。
しかもその交通担当は、もちろんただの便利屋なだけじゃない。
ありとあらゆる属性の魔法を使い分けて、しかも威力が高いもんだからアルジャンやルージュでも倒せない敵を排除するのに大活躍してた。
状態異常を付与する魔法にも、一通り心得があるからね。
攻撃役としての魔道士に求められる全てを持っているような状態なのに、伸び代まであるから手をつけられない感じ。
その上、魔法を教える才もあってさ。アルジャンに色々魔法をレクチャーしてた。
結果、ブラウには遠く及ばなくても、物理を通さないモンスターにダメージを与える程度の魔法は覚えてたよ。
俺もそんな彼女の知識にあやかろうとしたんだが……やっぱダメだね。村にいた頃と結論は不変、俺には魔道の才能、ナシ。
結局戦闘では突っ立ってばっかだったが、新参のブラウも文句を言うことは当然なかった。
俺が傍に立ってるだけで、めちゃくちゃ安心するんだとさ。パッシブによるバフが仕事してくれてる影響だねえ。
……旅は割と順調だった。
あれだけ差し向けられてた魔王軍からの刺客も、ピッタリ止んでいたしね。
ノワールがなんとかしてくれたのかな、なんて思ったりもしたが、真意を確かめる方法はなかった。
ただ、やはり魔王城の位置も、魔王の情報も判然としなかった。
具体的な位置がブラウ自身もわかっていなかったのは前に言った通りだが、彼女が全部話してくれてたら魔王の情報くらいなら全部わかってただろ、って思うじゃん?
でも、当初のブラウは魔王の名前を聞くだけでガタガタ震えて過呼吸を起こしてたからさ。ちゃんと聞き出せなかったんだよな。
──アン・コロール。
名前しかわからない存在だが、ここまでブラウが恐怖するなんて相当厄介な敵に違いない、と俺らは決意を固めてた。
いつかの三銃士とやらとは違って、共闘してくれるような優しい奴ではない、倒さなきゃいけない敵なんだろう、ってね。
各地で魔王軍によって滅ぼされた町も多くあると聞いていたから、何としてでも凶行を止めようと思ったんだ。
でも、大した手がかりも集まらないまま……。
俺らの旅が始まって、だいたい十ヶ月が経った。ブラウの加入から四ヶ月ってところだね。
この日、世界は新たな年を迎えていた。
ガンタンと呼ばれる一年の最初の日から三日かけて、各国の主要な都市がお祭り状態になる。
女神がこの世界を存続させてくださっていることに関する感謝の三日間、という名目だけどさ、この日ばかりは冒険者も貴族連中も無礼講と言わんばかりにドンチャン騒ぎするのさ。みんな真っ昼間から酒を飲んだり遊び回ったりするワケだ。
敬虔なアルカンシエル教徒は、一切騒がずに三日三晩、わずかな食事だけをして女神に祈り続けるだけらしいんだけど。
うちのアルカンシエル教徒は待ってましたとばかりに、往来の男相手に賭け飲み勝負をけしかけていた。
ルージュが勝ったら所持金の半分をいただく。負けたら、三日間身体を好きにしていい。
この条件に、スケベな男たちは群がったんだが……ルージュが敗北することはなかった。勇者パーティに加入し、レベルが高まったことで状態異常耐性も高まった彼女は、『酔い』すら無力化してたそうな。ズルじゃん。
でも、そのお陰で、俺らの懐は超
……そう、この日、俺らもまた王都にいたわけだ。
冒険の初めに多大な資金と装備を与えてくれた名君のお膝元。
──王都ヴィオーレ。
俺らの故郷からはかなり遠いし、直接来るのは初めてだね。俺はここから本を取り寄せてもらってはいたが、行商人に依頼してただけだし。
正午を少し過ぎて。
とりあえず、夕方までは自由行動にしようとアルジャンが提案した。日が落ちる直前に、取った宿屋の前に集合しようってね。
いつまでもルージュの酒勝負を眺めててもつまんないしな、百パーセント勝てる勝負なんだぞ。
僧侶様に伝えると、合流までに一生食うに困らないほど荒稼ぎすると息巻いていた。
なんとも
四人でアテもなくブラブラしていたわけだけど、アルジャンとジョーヌはあるものに目を惹かれちまっていた。
「勇者様の勇者様による勇者様のための武闘大会」
そんな長ったらしいタイトルが看板に書かれていて、結構な人数が集まってて盛り上がってた。
実はブラウ救出時に助け出した冒険者パーティの一部は再び旅を再開したらしいんだけど、各地で勇者パーティに助けられたことを吹聴して回ったんだそうだ。
ただ、そのときは意識が
その結果、勇者パーティを騙るニセ勇者パーティが多く現れたみたいなんだ。
俺らの名を騙って悪事を働こうとする不届き者もいたんだが、あまりに多い勇者パーティの増加に、人々はこういう判断基準を下してた。
「民にとって正しい行いをしないパーティは賊と変わらない」
そんな意識を誰もが持ってくれてたおかげで、俺らの名前が不当に貶められることはなかったみたいなんだよね。
だから偽勇者パーティたちも、俺らに負けず劣らずの名声を得ていたり、善行に励む連中ばかりでさ。
全体的に良い方向になっていったってワケ。優しい世界だ。
この多く現れた勇者パーティの群れに、王都の闘技場を取り仕切っている男が金の匂いを嗅ぎつけたらしくてね。
勇者を名乗る者達を集結させ、総当たり形式でぶつからせ、一番多く勝利を収めた者が真の勇者である……そんな触れ込みで大会を開いたそうなんだ。
こんな理由で大きすぎる掛け金が動くと王に興行停止を食らうため、小規模のリングを設置し、そこで戦わせる方式となったみたい。
二人一組で戦う。あと一チーム募集している。
そんな話に、勇者様は飛びついちまった。ジョーヌを相棒として指名してね。
『いいよな、ドレ!? 絶対優勝するから!』
『あまりこういうことで目立つのはどうなのかとは思うが……まあ、せっかくの新年祭だしな』
目を輝かせて戦いたがるアルジャン。
さも冷静な分析をしているように見えて、ウズウズしているジョーヌ。
普段の旅はいつも危険と隣り合わせだからねえ。こういう息抜きもいいだろう、と俺は快諾したよ。
実際、集まった偽勇者パーティたちはみんな強そうだ。これを全て倒せるなら俺らのハクも上がりそうだなって思ったんだよな。
ルールはシンプルだ。
特殊な結界が張られたリングで、相手が敗北を認めるか気絶したら勝ち。
この結界内で戦っている限り対戦相手を殺す心配はなく、外部から補助魔法をかけたりするような反則行為も出来ない。
闘技場においては常にこの結界を張っているらしく、それをそのまま使っているとのことだ。
どれだけ暴れても死者が出ない、ということにも勇者様は魅力を感じたんだろうな。
計、十六チーム、三十二人の勇士が集う戦いが始まろうとしていた。
最後に登録したってのもあって、アルジャンチームの初戦は、もう少し後。
俺はのんびり観戦でも楽しもうかなって思ってたんだけど。
『ドレさん……ごめんなさい……おなか、空きました……』
申し訳なさそうに、蚊の鳴くような声で俺の服の裾を引っ張るブラウ。
喧騒に紛れてはいるが、耳を澄ませば確かに腹の虫の音が聞こえてきてた。恥ずかしさで顔を真っ赤にしてる。
俺は周囲を確認したが、ポップコーンと酒しか売ってなかった。
がっつり食事をしたければ一旦ここを離れるしかない。
ブラウにどうするか聞いてみると、人が多すぎるのも苦手だからここから離れたいと控えめに訴えてきた。
『アルジャンさんたち……ガッカリしませんかね……? あたしたちが見てなくて』
『俺らに見られるために出場したワケじゃねえよ。それよりも何が食いたい? 一緒に美味いモンでも食おうぜ』
この子ね、外食するよりも俺の手料理を食うのが好きらしいんだけど。
もちろん外食が嫌いってワケじゃねえから、今回は料理できる場所がないし、俺が良い店を選ぶよと言うと、それでも喜んでくれた。
歩く時もずっと俺の腕にしがみついて、離れようとしなくてさ。
俺、きょうだいとかいねえんだけど、妹ってこんな感じなのかな……そんなことを考えてたっけ。
彼女との相談の結果、オムライスとバニラアイスが楽しめるお店で食うことにしたんだ。
食事のメニューはオムライスだけなんだけど、そのバリエーションが異様に多い。
追加料金を払えば、具材をこちらで細かく指定できるシステムなんだ。
ケチャップとデミグラスソースとホワイトソース、好きなものをかけられる。オムライスだけに
おまけのデザートも人気があるみたい。
ブラウはガラスケースの中にあるサンプルを食い入るように見て、ヨダレを垂らしてた。
女の子ってこういうの選ぶの時間かかる傾向にあるよな。俺は、じっくり待つことにした。
彼女の結論を、店の前で待っていると。不意に、後ろから声をかけられたんだ。
『やあ。キミもここの店が好きなのかい? ボクも好きなんだ。美味しいよね』
ふわりとした、透き通るような空気感。輝いてる金色の髪に、澄んだ水色の瞳。
物腰が柔らかそうで、常に口元には微笑みを湛えている。
王城住まいのお姫様がお忍びでやってきたのかな、って思うくらいの出で立ちだったね。
本当に絵に描いたような美人だったよ。女と勘違いするくらいには。
ボク、という一人称と声で辛うじて男だとわかる感じ。その声も中性的で、女に聞こえるって人もいるんじゃないかな。
『あ、すみません……店の前に立ってて邪魔でしたよね。ど、どうぞ』
『フフッ。優しいんだね。でも、今回、ボクが興味があるのはキミの方なんだ』
新手のナンパか? と思った。
自分で言うのもなんだが、俺は冴えない顔をしているから、今まで声をかけられることなんてなくて初めての経験。
アルジャンはよく声をかけられてるんだけどな、めちゃくちゃ顔いいからアイツ。
てか、なんで俺に興味を持ったのか、そのときはわからなかった。
噂に聞く
俺の困惑を見抜いていたのか、その人物は楽しそうに目を細めてクスクスと笑っていた。
『ドレさん! 決まりましたよ! あのですね、野菜がいっぱいの──』
朗らかな笑みで近づいてくるブラウ。
だが。
俺の横にいる人物を一目見るなり、その笑顔は完全に消滅してしまったんだ。
『ま、魔王……様……!?』
ガタガタ震え始める彼女の言葉に、俺も戦慄した。
俺も瞬時にその人物の方へ視線を弾いたが、そいつはそのまま穏やかな笑みを浮かべていた。
『元気そうで何よりだよ、ブラウ。あ、自己紹介がまだだったね。ボクはアン・コロール。気軽にアンって呼んでほしいな』
……それが。
俺が魔王と顔を合わせ、魔王であると認知した衝撃的な瞬間だった。
女神「この世界には大きな国がいくつかあります。王国は私を崇めるアルカンシエル教を国教としていますが、『必ずしも信仰せねばならない』とはしていないようです。自由を重んじる気風、と言えば聞こえはいいのですが……」