俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが……   作:あじさいファン

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祝!20話!


20.魔王の話・その3

 内側から食い破られそうな痛み。泣き叫ぶブラウ。

 いやあ、まさにこの世の地獄を味わってるみたいだったね。

 

 俺は人混みの中に姿を消しちまった魔王に向かって手を伸ばして、うわ言のように『魔王、魔王……』って言ってたっぽい。そのことを、後でブラウから教えてもらった。

 そのせいで、俺らに駆け寄ってた人たちはザワついてたらしいんだ。

 

 多分なんだが、あの人たちは魔族の代表みたいな感じの見た目を想像してたんだろう。

 角が生えているとか目が三つあるとか翼があるとか肌の色が紫だとか……。

 

 だが、アン・コロールの奴はどこから見ても正真正銘、見目麗しい人間そのものだったから、奴をとっ捕まえようという動きはそこになかった。俺が幻覚を見ていたか、あるいは転移魔法をもって瞬時に消えたと……そう判断したに違いない。

 

 んで、そうしていると、雑踏の中から、僧侶の人が現れてくれた。

 俺にはその人物に見覚えがあった。

 かつて、俺らが僧侶探しでギルドに頼ったときに出会った人物。

 

 未成年の割にやけに死線を潜り抜けてきたかのような面構えをしている白髪の少年だった。

 

『来たぜ……ぬるりと……』

 

 彼は、こちらの顔を覚えててくれてたらしい。

 かつて立ち寄った町で魔族相手に奮戦した勇者パーティの一人だと。

 大した功績を上げてねえのにな、泣ける話だぜ。

 

 だが、そのときの俺は痛みで彼との再会を喜んでいる余裕はなかった。

 痛みはどんどん酷くなっていく。いっそ殺してくれなんて思うくらいにはね。

 

 白髪の少年は惜しみなく回復の魔力を俺に向けてくれたんだ。

 勇者パーティのレベル効果で増幅されているルージュと比べりゃさすがに劣るが、それでもソロで活動しているとは思えないくらいの魔力を見せてくれたんだけど。

 それでも、ダメだった。あまりにも呪いの力が強すぎて、彼でもどうしようもないとのことだった。

 

『それにしても、随分手の込んだ呪いをかけるね。……俺はもっとストレートに行くよ』

 

 なんか物騒なことを言ってたけど。

 でも、脂汗を垂らしながらこちらに回復をかけ続ける彼には、ルージュと同種の、「真の僧侶」の神髄を見た気がしたね。

 

 それから、ほどなくして。

 俺の大切な仲間達が血相を変えて現れた。

 

 アルジャンとジョーヌとルージュ……三人一緒だった。

 この騒ぎが王都中を駆け巡っていたようだが、彼らもそれで知ったのだろうか。

 勇者による闘技大会を、賭け飲み勝負を放ってまで俺のとこにやってきてくれたんだ。

 

 

*****

 

 

「……あのときは、すまん。俺のせいで、大会にも出られなかったし、賭け飲みも終わっちまったんだよな? オムライスも食えずじまいだったしよ」

 

 俺がそう言うと、四人とも怒り始めた。

 大切な仲間を放って遊びに興じていられるものかと異口同音に並べ立てたんだ。

 

「あんな非常事態に悠長に戦っていられるわけがないだろう。知らずに大会に出ていたらと思うと今でも背筋が凍る思いなんだぞ」

「アルジャンの言う通りだ。いい加減にしてくれドレ。お前はいつまで、自分自身の評価がそんなに低いんだ?」

 

 苦楽を共にしてきた、幼馴染二人からの叱咤。

 本気で俺のことを仲間として想ってくれているのがわかって、心が温かくなっちまうよね。

 

 本気で怒らせちまってるみたいだから、俺は「すまん」と頭を下げた。

 確かに自己評価が低いのは、ついぞ魔王との決戦を目前とした今になっても直らなかった自分の明確な欠点だな。

 

「ドレがとんでもないことになってるのを知って、少しだけあった酔いもさっぱり消し飛んだわよ。本当に生きた心地がしなかったわ」

「オムライスもそうですが、一番許せないのは、あたしとドレさんのデートを滅茶苦茶にされたことです! もうあの瞬間、魔王様呼びはやめたんですよ! まだ許してないですからねクソゴミアン・コロール! 評価ゼロ爆撃を百個くらい受けて永遠の青バーになればいいんです! 平均評価、驚異の星0.00! あ、『俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが……』は赤バー欲しいですね!」

 

 溜息を吐くルージュと、よくわからないことを捲し立てるブラウ。

 気持ちは嬉しいけど、デートだとか、あんまり男に誤解されることを言うもんじゃないぞ、って思ったね。これもポジティブが極まっているせいの言葉選びなんだろうか。

 

「しかし、その頃から奴の言っていることは一貫しているな。世界を作り直したい、ドレが嫌い……ずっとその感情を持ち続けていられるところには、ある意味評価に値する」

 

 そう、アルジャンの言う通り。

 初めて出会ってから二年強経つわけだが、何度も何度も出会う機会があった魔王。

 まともな戦闘になったことはほとんどないが、顔を合わせるたびに意味深な台詞と俺に対する呪詛を吐き散らしてた。

 

 こいつの呪いだが、俺、あの後寝ちまってたみたいで、目を覚ましたら回復しててさ。

 で、耐性が出来ちまってたため、あの痛みを二度と味わうことはなかった。

 二回目があったら耐えられなかったかもしれないね。アナフィラキシーショックみたいな?

 

「……そういや、あの後、どうなったんだ? なんか薬を飲ませてくれたんだっけ? でも、俺、どうやって寝られたんだ?」

「それはですねえ、あたしがスリープをかけたんです! 寝ている間もうなされてましたけど、起きてるときよりは痛みを抑えられてるみたいで」

 

 今明かされる事実だったが、納得はした。

 あんときは前後不覚でほんと何が起こったかまったく覚えてなくてさ。魔法で寝させられてたのね。

 

「せっかくだ。あの後、どうなったか、ドレにも聞いてもらおうか」

 

 色々あって頑張ったんだ、とだけ聞かされていた、俺の寝ている間に起こった出来事。

 アルジャンたち四人は、その紆余曲折を丁寧に語ってくれることとなった。

 

 俺らの動向を見守れている者がいるなら、追体験してもらおうかな。

 俺が聞いたものを、俺の言葉で語る形式にする。良かったら続けて聞いていってくれ。

 

 

*****

 

 

 オムライス屋の前で、魔王の呪いにより腹を抱えてのたうち回っていた俺。

 白髪の少年が治癒に当たっても、回復されない身体。

 

 そのあまりの惨状と激痛による絶叫を見かねて、ブラウは『睡眠魔法』を試してみたんだそうだ。

 深く眠らせることが出来れば、少なくとも辛そうな俺をなんとか出来るんじゃないかなと思ったそうだ。

 

 結果として、それは成功した。

 もちろん呪い自体を解けたわけじゃないから解決策にはなっておらず、途方に暮れたらしい。

 

 その後、ブラウはすっ飛んできたアルジャン、ジョーヌ、ルージュと合流した。

 アルジャンが俺の身体を軽々と背負い上げ、急いで、既に予約してあった宿屋の一室へと運び込んだとのことだ。

 

 宿のベッドに俺を寝かせると、今度は我らが誇る最強の僧侶様、ルージュの出番だ。

 彼女は自分の持つありったけの解呪魔法や浄化魔法を、自分の身を省みずに俺に叩き込んでくれたらしい。

 

 だけど……その全てが、ダメだったんだと。

 

 ルージュの魔法が完全に弾き返されるなんて、俺たちの旅では前代未聞の出来事だ。

 魔王アン・コロールが直接施したその呪いは、ただのデバフや状態異常の類じゃなかったようでね。

 俺の魂そのものに絡みつくような、ある種この世界のものでないような邪悪な代物だったと。

 

『……私の力じゃ、ダメ……ッ。なんて、私は……無力なの!? 大切な人の危機に、何も出来ないなんて……!』

 

 いつも余裕たっぷりのルージュが、絶望に顔を歪めて床に膝をついた。

 ジョーヌも、アルジャンも、己の無力さに唇を噛み締め、ベッドでうなされ続ける俺の手をただ強く握ることしかできなかったという。

 

 勇者パーティの力をもってしても、大切な仲間一人助けられない……。

 重苦しい絶望が部屋を支配しかけた、まさにその時だった。

 

『大事な勇者パーティの危機と聞いてな。駆けつけたぞ』

 

 宿屋の扉を蹴破るような勢いで飛び込んできたのは、なんとこの国の王様。

 そう、俺らが村を旅立つときに、破格の上質装備と軍資金をポンと気前よく支援してくれた、あの名君だ。

 

 王都のど真ん中で起きた騒ぎと、勇者パーティの一人が倒れたという報告は、傍の警備に当たっていた兵士達のおかげで、瞬く間に王城へ届けられていたらしい。

 

 普通は、一国の王様がただの一冒険者のためにホイホイと城を抜け出してくるなんてあり得ないだろ?

 だが、この王様は違った。護衛の騎士たちを慌てさせるほどの爆速で、自ら陣頭指揮を執って俺たちの宿までやってきてくれたんだ。本当にありがたい話だ。

 

『……こんな再会になり、申し訳ありません。新年祭が終わってからご挨拶にと思っていたのですが』

『礼節を重んじる姿は好ましいが……それよりもアルジャンよ。彼の容態は?』

『常軌を逸した呪いをかけられていると、私の仲間が。打つ手が……ありません』

 

 ガックリとうなだれるアルジャン。

 今にも泣きそうになっていた勇者様の頭を、父親が子供をあやすように、王が頭を撫でてくれたという。

 

『案ずるな。勇者は常に前を向き続けるものだ。これまでもそうしてきたのだろう?』

『ですが……こればっかりは』

『こんなこともあろうかと、我が国が誇る最高峰の知恵袋を連れてきた。存分に頼ってくれ』

 

 王様の後ろから、ぞろぞろとローブを深く被った集団が部屋に入ってきた。

 王宮に仕える、呪術や解呪を専門とする宮廷魔道士の精鋭部隊だった。

 

 彼らはすぐさま俺のベッドを取り囲み、何やら難解な呪文を唱えたり、怪しげな魔導具をかざしたりして、俺に絡みつく呪いの正体を徹底的に解析し始めた。

 

 そして、筆頭魔道士らしき人物。

 布で目を覆った──前見えてるのかどうか怪しいと、アルジャンが補足したが──透き通るような白髪に長身の男が、妙に軽々しい口調でこう告げたそうだ。

 

『あー、こりゃあ面倒な呪術にかけられたね。僕でも解呪は無理だ。この世界に存在する術式じゃない、というか初めて見る(たぐい)だね』

 

 最強を謳われるという、その男でも手の付けようがない凶悪な呪い。

 その言葉に、宮廷魔道士たちにも緊張が走った。

 

『解く方法は……ないのか……?』

 

 アルジャンが問うと、男は深く頷いた。

 

『あるよ』

『そうか……えっ、ある!?』

『うん。「神の花」ってのがあってね』

 

──神の花。

 

 それは、この世界を創造した女神アルカンシエルが、かつて地上に降り立った際にその足跡から咲いたと言い伝えられている、奇跡の植物らしい。

 あらゆる邪悪な呪いや瘴気を浄化してくれる、この世で最も強力な浄化作用を持つとされる代物だ。

 

『別世界の現象には別世界の現象をぶつける。呪術の鉄則だ。神の花もまた、かつてこの世界には存在しなかった特殊な花だそうだ。きっとアレなら、この呪いも解けるだろう。多分』

『た、多分……?』

 

 ジョーヌがあやふやな単語に反応し、眉をひそめていたんだそうだ。

 しかし、これに頼らない手はなかった。まあ、ルージュの回復が一切効かないんじゃあ、藁にも(すが)る思いだよな。

 

『それはどこにあるのでしょうか! 世界中どこへだって取りに行きます!』

 

 だが、筆頭魔道士の男は、どこか軽薄な姿勢のまま、それでも険しい口調で言った。

 

『……王都より北西へ馬を走らせた先にある「女神の森」と呼ばれる秘境にそれは生えているらしいよ。でもね、今も生えているかどうかまでは責任持てないね』

『賭けるしかない……ってこと?』

 

 ルージュの言葉に、男は頷く。

 

『それにねえ、ヤバい呪霊がいっぱいいるんだよ。迷い込んだ魔物がその神聖な力にあてられて変質した存在だ。ま、僕が勝手にそう呼んでるだけだけどね。でね、強い結界みたいなの張っているからさ、入るだけでも一苦労するんじゃない?』

 

 神聖すぎるが故の、人間を拒絶する領域。

 過去に何人もの高名な冒険者や騎士団が神の花を求めて森へ挑んだが、門前払いされてしまうのがほとんどで、運よく入れても帰還出来た者はほんの僅か。

 

 だから、花の存在自体も、もはや伝説となっている。何もかもが未知数だったんだそうだ。

 

『……なるほど。だが、行くしかない』

 それでも、アルジャンは迷うことなく、力強く断言したという。

 

『ああ。ドレを助けるためなら、どんな地獄だろうと踏破してやる』

 ジョーヌが斧の柄を強く握りしめ、覚悟を決めたように頷いて。

 

『女神の森、ね。いいわよ、むしろ女神に喧嘩を売る絶好の機会じゃない。ドレの命を天秤にかけるなら、神気だろうがなんだろうが全部ぶち壊してあげるわ』

 ルージュは不敵な笑みを浮かべ、メイスを肩に担ぎ直した。

 

『あ、あたしも行きます! あたし、ドレさんを守れなかったから……今度こそは……!』

 ブラウも涙を拭い、小さな両手で杖をしっかりと握りしめた。

 

 こうして、俺を救うための神の花入手作戦が、即座に決定した。

 俺を置いていくことへの不安はあっただろうが、ここで立ち止まっていては俺が死ぬだけだって、そう思ったらしい。

 

『……焼かれながらも人は、そこに希望があればついてくる……』

 

 その光景を部屋の隅から見ていた人物がいた。

 俺がオムライス屋の前で倒れた時に駆けつけてくれた、あの白髪の未成年僧侶だ。

 彼は、王様たちが駆けつけた後も、心配してずっと宿屋に残ってくれていたらしい。

 

『行くんだろ、その森へ。このにいちゃんのことは、俺に任せなよ』

『君は、どこかで……?』

『クク……ただの通りすがりの、ギャンブル好きな僧侶さ。宮廷のお偉方たちと一緒に、にいちゃんの命綱をがっちり握っといてやるよ』

 

 白髪の少年はニヤリと笑い、俺のベッドの傍らに座り込んで、再び回復の魔力を俺に送り込み始めてくれた。

 宮廷魔道士たちも、『彼が持ちこたえられるよう、我々も全力で生命維持の結界を張り続けよう!』と約束してくれた。

 

 王様も、『森まで、馬車で護送しよう。歩きよりは早いだろう?』と全面的にバックアップしてくれた。

 

 本当に、この世界は優しい人たちで溢れているよな。

 俺みたいな凡人のために、これだけの人たちが一丸となって動いてくれるなんてさ。

 

『ありがとうございます……! 必ず、ドレを救う花を持ち帰ってみせます!』

 

 アルジャンは王様や宮廷魔道士たち、そして白髪の少年に深く頭を下げた。

 そして、俺の寝顔を一度だけ強く見つめると──。

 

『行くぞ! みんな!!』

 

 勇者様の号令と共に、四人は嵐のような勢いで宿屋を飛び出していった。

 

 目指すは、北西の『女神の森』。

 かつてない強敵が待ち受けるであろう神聖なる秘境へ向けて。




女神「ああ……あの森ですか。私の名前だけついている、私とはほぼ無関係な森です。花が特殊なことだけは認めますが……教徒が聖地巡礼の地にこの場所を選んでいない時点で、そもそも私と無縁だと誰か悟って欲しいものです。今からでもおそくないので改名を推奨します」
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