俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが……   作:あじさいファン

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21.魔王の話・その4

 女神の森は、目を黒い布で覆った筆頭魔道士の男が言っていた通り、神秘的な空気感が漂う空間だったそうだ。

 気を抜けば浄化されて自分が自分じゃなくなるような感覚すら覚えたとか。

 

 張られていた結界とやらは、さほど問題じゃなかったという。

 アルジャンとジョーヌが武器を打ち付けるだけで音を立てて壊れたのだとか。

 ただ、それでも相当な反動が手に残ったみたいで、冒険を始めたての頃だったら入れなかっただろうと、アルジャンもジョーヌも口を揃えて言っていた。

 

 森に棲み着いていた魔物……いや、聖なる気に当てられて変質した、呪霊とやら。

 なんか見た目がだいぶヤバいことになってたらしい。人間と魔物の間みたいな感じで、人型なんだけど、目が大量にあったり、腕があらぬ方向にねじ曲がってたり、身体中に風穴が空いてたり。

 魔物が無理矢理人間化しようとしたらあんな感じになる、とルージュが言っている。

 一応、後に俺も見る機会があったんだが……まあ、確かにそういう表現になるかもな。

 

 で、それのどれもが強かったそうな。

 特に魔法攻撃に関してはだいぶイカれた威力をしてたらしくて、防御力に圧倒的な自信を持つルージュが激痛を覚えたほどだという。

 アルジャンたちが斬れば容易に倒せるとはいえ、一瞬の油断が死を招く、ヒリついた戦いを強いられちまったんだと。

 

 高火力と高火力の押し付け合い。

 圧倒的にレベルが上がり過ぎちまった今じゃ信じられないくらいだが、そういう時代もあったというわけだね。

 

 みんな、俺のバフがないせいだったと言っている。

 常に俺の自動パッシブ能力が発動している状態で戦うことに慣れちまってたから、思ったより力を出せない状態になってて、身体が重たかったんだと。

 俺の必要性を再認識したんだそうだ。嬉しい話だね。必要とされるのは本当に嬉しい。

 

 そんな劣勢を強いられる中でも戦えていたのは、四人が持ち合わせる類まれなる戦闘センスの賜物なんだろうさ。

 俺のパッシブバフがない不足分を、戦略で乗り越えてたんだそうだ。

 戦闘に関する知恵は俺が考えることも多かったけど、アルジャン自身も結構いい作戦を考えるからね。

 

 てなワケで。

 襲い来る呪霊を薙ぎ倒しながら、花を探し回ったらしい。

 

 神の花とやら、見るからにそういう雰囲気を漂わせてるとのことでね。

 と言われてもその雰囲気がどういうのか全然わかんないから、みんな途方に暮れてたらしいんだけど。

 

『あ! あれじゃないですかあ!?』

 

 不意に、ブラウが指を差した先。

 そこには明らかに異彩を放っている花があったんだそうだ。

 七枚の花びら。一枚一枚別々に、虹色に輝いていて、一秒おきにその色が切り替わる不思議な代物。

 

 その仰々しい名にふさわしいほどの、神々しさを放っていたんだそうだ。

 

『おお、あれが……!?』

 

 アルジャンが近づこうとした、そのときだ。

 この場にいるはずのない人物が、四人の背後から声をかけたという。

 

『凄いね。さすがは勇者アルジャン。ここの面倒な連中をものともせず、簡単に辿り着いちゃったんだ』

 

 拍手をしながら現れたその人物。

 輝いてる金色の髪に、澄んだ水色の瞳。

 

 アルジャンとジョーヌ、そしてルージュにとっては、このタイミングが初対面となる。

 

──魔王アン・コロール。

 

 三人は事前に、魔王の出で立ちを聞かされていた。

 だから、女神の遣いのような見た目をしている彼のことを、迷わずに敵として認識出来たんだそうだ。

 

 彼を見て震え始めるブラウを庇うように立ち、アルジャンは剣を抜いて睨みつけた。

 

『……ドレが世話になったらしいな。礼をしてやりたいと思ってたんだが、受け取ってくれるか?』

『フフッ。ボクがどうしてここにいるのかとか、そういうことは聞かないんだ? いいね、今回の勇者は好戦的で。潰しがいがありそうだ』

 

 ふわりと微笑む美青年。

 一見、隙だらけで無防備なように見える振る舞い。

 しかし勇者アルジャンは悟ったんだと。わずかにでも動けば、すぐに反撃を受けてしまうであろうことに。

 それほど、達人の風格が備わっている、と見抜いた。

 

『どうしてあんなゴミクズを必死に助けようとするのか、よくわからないな。バッファーが欲しいのなら、そういう専門職を雇えばいい。世界にはいっぱいいるよ? 王国の筆頭魔道士なんかもそのうちの一人だし』

『貴様のような奴にわかってもらおうとは思わん』

 

 俺を蔑む魔王に、心底腹が立ったらしい。

 戦士ジョーヌは一歩前に出て、斧を地面に叩きつけて威嚇した。

 

 だが、奴は一切怯まず、口元には憎たらしいほどの微笑みを湛えていたんだと。

 

『わざわざ出向いてくれて感謝するわ。貴方のこと、ぶっ飛ばしてあげたかったもの。魔王城に行く手間を省いてくれてありがとう』

 

 僧侶ルージュが溢れんばかりの怒りを抑えることもなくメイスの先を魔王に向けた。

 怒りを露にしすぎるのは信徒としてあるまじきという戒律に真っ向から反発するようにね。

 

『魔王様……いえ、魔王。ここで殺してあげますよッ。もう恐れることなんて何もありません』

 

 魔道士ブラウ。

 ジョーヌに触発されるように、かつての主君が吐き散らす俺への侮辱の前に、身体を震わせている場合ではないと思い直したという。

 手に大きな魔力を溜めて、今にも魔王に放ちそうなほどの威圧感を放っていたらしい。

 

 勇者パーティ四人から向けられる殺意を前にしても。

 やはりアン・コロールは一切、動じなかった。ニコニコと微笑み、四人の勇敢さを称えるように何度も頷いていた。

 

『なるほどね。今のキミたちを突き動かしているのは絆か。いいよね絆。ボクは絆を軽視していないよ。それはキミら人間らにとっても、ボクら魔王軍にとっても大切なものだ。だからこそ』

 

 両手を合わせて。

 とびっきりの笑顔を見せて来たんだと。

 

『ズタズタに引き裂いてあげるのが、あの店のオムライスの次に大好きなんだ! 気分がいいから、ちょっと相手してあげようか!』

 

 ……ここから先だけど。

 戦闘が終わるまで、俺の感想がいちいち入り混じるのは野暮ったいってモンだよね。

 

 だから、俺が良く好む冒険小説風に伝えようと思う。いわゆる三人称視点ってヤツでな。

 俺に文才があるわけじゃないから、わかりづらかったらゴメンな、と前置きだけはしておくぜ。

 

 

 

 さて……。

 

 

 神秘的な、女神の森の深奥。

 七色の光を放つ奇跡の神の花を背に、そののどかな空間は、一瞬にして死の気配へと塗り替わった。

 

 静寂を破り、先陣を切ったのは戦士ジョーヌだった。

 未知の怪物であっても、己の恐怖を押し殺して敵の致命傷を探るのが彼女の役目だ。

 これまでの戦いにおいても、常にそうしてきた。

 

 渾身の力が込められた斧が、棒立ちの魔王へと振り下ろされる。

 だが、一撃の重みが手に伝わることはなく、「魔王だったもの」は霧のように掻き消えた。

 

『く……幻影か!』

 

 かつて研究所でマスティックが用いた狡猾な幻術。それを魔王は息をするように展開していた。

 実体を捉えられぬ焦燥。斧を構え直そうとした彼女の背後へ、魔王はすでに回り込んでいた。

 

『綺麗な背中。ボクも自分の身体を手入れしてるんだけどね、見倣おうかな』

 

 品定めでもするかのように、魔王の掌がジョーヌの背に優しく触れる。

 

 ただ、それだけの動作。

 しかし直後、凶悪な破裂音と共に空気が弾け、ジョーヌの身体は十メートル先の巨木へと叩きつけられていた。

 

『ジョーヌ!!』

 

 幼馴染の危機に叫びを上げながらも、勇者アルジャンの剣筋に一切の迷いはなかった。

 彼女への追撃を断ち切るため、不可視の衝撃波を幾重にも放つ。

 

『素晴らしいなあ。剣から衝撃波を放てる達人の勇者は、歴史上でも数が少なかったらしいよ』

 

 嵐のような斬撃を前にしても、魔王は愉悦の笑みを崩さない。

 彼が右足で大地を一度踏み鳴らすと、地中から「三本の巨大な緑色の手」が這い出た。

 魔物を思わせるそれらは、勇者の放った衝撃波をすべてその身で受け止め、無傷の魔王に代わって勇者たちへと殺到する。

 

『規格外ね……! 笑えて来ちゃう!』

 

 迫り来る巨腕に対し、僧侶ルージュは逃げるどころか、自ら突進した。

 強固な防御結界を纏い、巨腕が彼女を握り潰そうとした、その僅かな硬直を狙って鋼鉄製のメイスを叩き込む。

 

 ダメージに耐えきれなくなった腕が闇の魔力を散らして消滅し、もう一本が放った指先からの斬撃も結界で弾く。

 生じた隙をアルジャンが瞬時に斬り伏せ、巨腕は残り一体となった。

 

『凄い防御結界だよ。僧侶は回復だけしていればいいって思ってる奴も多くてね。うんざりしてたんだ、ボク』

 

 その最後の一体は、すかさずブラウが放った爆炎魔法によって消し炭へと変えられていた。

 

 見事な連携。しかし、魔王の規格外さはそれをさらに上回る。

 ジョーヌの元へ向かっていたはずの魔王が、空間を跳躍し、瞬時にルージュの真横へと顕現したのだ。

 

──転移魔術の応用。

 

 攻撃にも転じるその予測不能の動きに、さしものルージュも一瞬反応が遅れた。

 

『ところで、キミはエッチなことが好きなんだってね。ボクがもっと刺激的なことを教えてあげるよ』

 

 耳元での甘い囁き。

 そこに性的な欲望など微塵もない。あるのは純粋な愉悦と、圧倒的な強者の余裕だけ。

 

 フッ、と吐息を吹きかける。

 

『ね──気持ちいいだろう?』

 

 直後、状態異常を一切受け付けないはずのルージュの特殊体質を貫通し、猛毒、暗闇、睡眠、麻痺、魅了、石化が彼女の肉体を同時に蝕み始めた。

 猛毒が血を腐らせ、暗闇が視界を奪い、睡魔が徐々に意識を刈り取り、麻痺が神経を焼き切り、魅了が魂を縛り、石化が身体を足元から砂礫(されき)に変える。

 

『へえ。(かたく)なに沈黙にはかからないのかあ。すごいすごい、そんな人初めて』

 

 しかし、完全に意識が魔王に埋め尽くされる前に、眠る前に、石になる前に。

 ルージュの僧侶としての本能が動いた。

 彼女は自身へ最高位の状態異常回復を叩き込み、一瞬にして全ての呪詛を取り払ってみせたのだ。

 

 ならば魔力が枯渇するまで同じことを繰り返そう。

 そう考えた魔王が再び接近しようとした、その時だ。

 

『口説きがへたくそですよお、魔王。そんなんじゃっ! 女の子はトキめきませんね!』

 

 魔道士ブラウの声が響く。

 

 ルージュの左右の足元。そこにブラウは、あらかじめ踏んだ瞬間に発動する電撃魔法の罠を仕掛けていた。

 敵がどちらに転移しようとも確実に仕留めるための自己判断だ。

 

 右側へ飛んでいた魔王の身体を、落雷のような魔力の槍が下から貫く。

 さすがの魔王も無傷とはいかず、思い切り雷撃を食らって口から血を吐き出した。

 

『そうか。参考になるよブラウ』

 

 そのとき、血を拭う魔王へ向けて、上空から一つの影が飛来していた。

 巨木に叩きつけられ、戦闘不能になったと思われていた戦士ジョーヌだ。

 

 彼女は衝突の瞬間、腕を交差させて急所を守り抜いていた。

 木を蹴って、砲弾のように飛来するジョーヌ。空中で体勢を整え、斧の切っ先を魔王に向ける。

 

『気色悪いんだよ魔王! 私たちのルージュを誤解するな!!』

 

 咄嗟に幻影を張れなかった魔王は、その斧の切っ先を素手で受け止める。

 

『凄まじいな! 魔族にしておくにはもったいないぞ! 何故人を襲うことにその力を振るう!?』

『……アルカンシエルを否定するためだよ』

 

 魔王から薄笑いが消え、冷酷な真顔が覗いた。

 

『大嫌いなんだあの女。死んでしまえばいいって思ってるんだよね』

 

 手に込められた魔力が、王から賜ったジョーヌの剛斧を一瞬にして腐食させ、使い物にならない塵へと変えた。

 

 だが、武器を失うことは、戦士の敗北を意味しない。

 ジョーヌは闘気を込めた拳を、魔王の足元の地面へと思い切り叩きつけた。

 大地がうねり、巨大な「地の槍」となって隆起し──防御が間に合わなかった魔王の腹部を深々と貫き通す。

 

『やっちゃえ! アルジャンさん!!』

『終わりだ、魔王!!』

 

 地の槍に縫い止められた魔王。

 その頭上へ、ブラウの爆炎魔法を纏ったアルジャンの剣が振り下ろされる。

 

 まさに必殺の連携。

 しかし、魔王は腹を貫かれたまま、恐怖に顔を歪めるどころか楽しそうに大笑いしていた。

 

『んー、素晴らしい! 今の時点でボクを追い詰めるなんて凄いや!』

 指先が鳴らされ、魔王の周囲に透明な結界が展開される。

 

『ダメよ、アルジャン! 攻撃を中断して!!』

 ルージュの鬼気迫る絶叫。その結界が、受けた威力を数倍にして反射する類のものであると瞬時に見抜いたのだ。

 アルジャンはルージュの声を信じて空中で強引に刃を引き、地へと着地する。

 

 すべてを遊戯とでも思っているかのように、魔王は自らを貫く地の槍に手を当てた。

 岩の槍がボロボロと崩れ去ると同時に、彼の腹部に空いたはずの風穴も、瞬く間に再生していく。

 

『なるほどなあ! これは今後の成長が楽しみだ! それだけに、あの一般人が邪魔なのがいただけないね。追放すればいいのに』

『貴様にはドレの良さなどわかるはずもないな。だが、アイツがいないと俺たちはダメなんだ』

『うーん……他の人を入れた方がいいと思うけどなあ』

 

 まるで散歩の途中のような軽さで、魔王はふわりと微笑んだ。

 

『まあいいや、今回は許してやろう。また会おうね、アルジャン』

『逃げるのか? ずいぶん弱気だな』

『そう、逃げる。ボクは素直だからね。遊び時間を厳格に守ってるだけなんだ。お腹も空いたし』

 

 闇の球体が、ノワールがかつてそうしたように魔王の身体を包み込んでいく。

 

『また楽しく殺し合おうね』

 

 背筋の凍るような言葉を残して。

 魔王アン・コロールは、完全に姿を消した。

 

 

 ……ってな感じだったらしい。花はこの後、なんとか摘んだそうだ。

 いやー、この戦いに俺が混じれなかったことが本当に悔しくて仕方ないね。

 

 

 で。

 宿に戻ってきたアルジャンたちは、筆頭魔道士の男の手ほどきを受けながら花を(せん)じて飲み薬とし、俺に飲ませたらしい。

 直接飲ませてくれたのはルージュだ。教徒として他人を介抱した経験が多かったから名乗り出たらしいが、アルジャンが言うには、どうしても私がやると言って聞かなかったらしい。

 

 こうして俺は復活したってワケだ。

 内部から引き裂かれる痛みが一切なくなってさ。身体が軽くなった心地だったね。

 

 助けてくれた王や筆頭魔道士、僧侶の少年に深々と礼を言って、俺らはひとまずそこから一週間ほど身体を休めてさ。

 新年祭を楽しめなかったけど、結果としてパーティの絆はより深まった感じがしたね。

 

 回復を済ませて、旅立ち前。ジョーヌが斧を失ったことでいい機会だったから、ルージュが荒稼ぎした金で武器を最高峰なものに新調した。

 俺も結構上質なローブを買ったな。デザインが俺とブラウとで同じだったせいで、なんか気恥ずかしかったけど。

 なんかブラウ、すげえ上機嫌だったっけ。そんな気分が良さそうだった理由はよくわかんなかった。

 

 このままでは魔王を倒せないと思った俺らは、ギルドの仕事を片っ端から受けて、自分達の実力を上げることに邁進した。

 時々、そんな俺らを品定めするかのように魔王が直接出向いてきて、戦うこともあった。

 俺に向けられる罵詈雑言も、女神に対する罵声と並んで凄まじかったね。

 

 

*****

 

 

「……しかし、なんでアイツさ、あの日、呪いなんかかけて俺を直接殺さなかったんだろうな」

 

 実際に殺そうと手を翳していたんだし、そうすれば良かったはずだ。

 

 俺が相当嫌いだっつーし、さっさと殺せば良かったのにな。ブラウに責任を擦り付けられるチャンスだっただろ。

 アン・コロールの奴は、そこに罪悪感を覚えるはずもない性格だろ?

 

 今日に至るまで数回出会ってきたが、結局、俺が直接手にかけられることもなかった。

 多分花の薬のおかげで、呪いに対する抵抗が出来ちまったので、同じ手段で来られることもなかったしな。

 みんなが俺の防衛に徹してくれてたからだね。そのせいで魔王の首を直接取る機会にも恵まれなかったけど。

 

「どうせ私たちに絶望を与えたかったのだろうよ。ドレを助けられなかった絶望を糧に成長して欲しいとかだ」

 

 なるほどね、言いそう。

 ジョーヌのその言葉に、俺はひどく納得したね。

 

 確かに、サディストの極みみたいな性質を持つアン・コロールの考えそうなことだ。

 何度も前に立ちはだかるたびに俺らに負荷をかけていたアイツは、攻撃されどれだけ追い詰められてもニコニコし続けていたし、希望を掴みかけた者へ極限の絶望を与えるのを至上としているのは間違いない。

 

 女神への呪詛を呟きながら、希望が膨れ上がるほど潰した時の反動が大きくなって良いみたいなことを恍惚としながら言ってたな。

 何故そんなに女神が嫌なのか、全否定をしたいと思う程になったのか、世界を壊そうとしているのか、初めて出会ってから二年以上経つが未だにわかってない。

 

「戦う度、楽しそうにしていたアン・コロールだが、時々、寂しそうな目をしていた。世界の崩壊を望むのは、本人がそうしたいからというよりは……そうしなければならないからと考えているような感覚がするんだ」

 

 寂しそうな目を不意に見せていたのは事実だ、俺も見たことがある。

 だが、今アルジャンが言ったのは新説だな。魔王は世界の崩壊を望むのが当然って俺は思ってたから、義務感が働いているという可能性は盲点だったね。

 

「だが女神を否定するために手段を選ばなかった。あちこちの町や村を焼き払い、目障りと思えば人を平気で殺し、最終的には戦争を四天王に命じて引き起こさせた」

「私たちの怒りを煽りたいから。そう言ってたわね」

 

 アルジャンの振り返りを、ルージュがそう補足する。

 愉悦で動いている邪悪。それを倒さぬ道理はない……俺らは決意を新たにした。

 

「それでも、そこまで女神を毛嫌いする理由は知っておきたい。俺らはもうあのときとは違う。魔王に後れを取ることはないだろう。真意を聞き出してやる」

 

 アルジャンは一度言ったら必ずそれを通そうとしちまう男だ。そして諦めが悪い。

 ずっと本心を言わなかった魔王だ、死の淵に立たされようとそう簡単に真相を打ち明けるとは思えない。

 だが、勇者様はそれでもどうにかして聞き出しちまうんだろうなって思わせられちまうよね。

 

 勇者アルジャンってのは、言ったことを実現させちまうようなすげー男なんだから。

 

「そろそろ寝よう。思っていた以上に魔王城までの道程が遠すぎる。明日着けばいいんだが」

 

 城の影も見えてこねえしな。明日ってのは難しいんじゃないかな、って思った。

 となると、俺が自動でかけちまうバフが妙な暴走をしないことを祈り続けるしかないよね。

 まあ、最悪俺が寝るか、変な状態になった仲間を眠らせりゃいいだけなんだけど……。

 

「告白イベントは? ねえ、決意表明イベントは!? ただでさえこの物語、一話切りが多いんですよ!? 評価もだだ下がり! 赤バーなんて程遠い! それでもついてくださっている神を想えば、あるはずのイベントがないというのは、それだけで低評価の温床ですっ! しっかりサービスしていきましょうよ、ねえ!?」

 

 今から寝るというのに、ブラウは未だよくわかんねえことを言っている。

 結局、この子にかかったバフの正体は何だったんだろう。明日には消えてることだけが救いだったね。

 

「もう、あたしが無理矢理イベント起こしちゃいますよお! アルジャンさん、ドレさん! みんなですね、二人のことが──」

 

 そこまで言いかけて。ジョーヌが後頭部を平手打ち。

 ぴい、と鳴いて前のめりになってそのままブラウは気を失っちまったようだ。

 

 暴力はよくねえぞ、ジョーヌ。そう(たしな)めておいた。

 

 

 起きたらまた過酷な旅が始まる。頑張ろう。




女神「眩暈(めまい)がしてきました……死んでしまえばいい、ですか……。あ、ええと……魔王アン・コロールですが、歴代は基本的に城から出ない者ばかりでした。こうやって外に出てくる彼はだいぶ稀有(けう)(ほう)と言えますが……はあ……。それと魔道士の女、最後まで言えなくて残念でしたね。こんなときだけ察しの悪くなる男たちに私も呆れてしまいますよ」
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