俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが……   作:あじさいファン

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22.魔族の集落

 次の日。

 困っちまった。色んな意味で。

 

 起きてから半日歩き続けたが、魔王城が一向に見えて来ねえんだもん。

 歩いても歩いても平原、森、山、平原、森、山……。歴代の勇者パーティはどうやってこんな魔境を渡り歩いたっつーんだ?

 

 魔族が転移魔法をみんなしてポンポン使っている理由がなんでなのか、よくわかったね。

 こんな異常な場所に住んでるんじゃ、転移がなかったらロクに出歩けねえもんな。魔族には必須スキルなんだろうよ。

 

 俺らにとって戦闘は、脇腹が痒くなったから掻くねくらいの障害でしかないのが唯一の救いだ。

 見た目からして凶暴そうな、こんなのが町を襲ったら一瞬で壊滅しちまうんじゃないかってくらいの魔物がわんさと現れるんだが、ホント弱い。その辺の雑草を抜く方が苦戦しそうな感じがする。

 

 俺らの攻撃力がおかしいって……強すぎって意味だよな?

 

 まあ、実際におかしいのは戦闘方面じゃない。俺のバフによる効果だ。

 起きてからしばらく、異変はなかった……というよりは、異変と感じるバフが発動している様子がなかった、と言った方が正しいんだけど。

 

 日も差さないような暗い森に踏み入れた辺りで、面倒なバフを引いちまった。

 対象者はブラウだった。この子、累積パッシブのせいでいつも変なのもらってばっかじゃねえか?

 

「ひ、ひゃああ!? な、なんですか、これ!?」

 

 ブラウの全身が虹色に輝き始めた。服ごと。目だけは無事。

 なんだろう、身体の発色がカンストすると虹色になるのか? 新発見だな。

 

 本人も慌てふためいているが、俺らも見ていて目が痛くなってくる。

 

「そうだ! 魔王がこういう発光の仕方をするイスを持ってました! げえみんぐ、って言うらしいですよっ!」

 

 ゲエミング。聞いたことがない名称だ。

 

 どうにも魔王軍っていう連中は、俺らとは違う言語形態というか、独自の単語を有しているらしい。チートだのゲエミングだの。

 今まで出会ってきた魔族が淀みなく聞き覚えのない単語をいくつか発していたから、共通言語なのは確かなんだろうが、一体なんなんだろうな。

 

 しかし、これはちょっと放っておくのはまずいな。

 ずっと見ていると、俺らが目にデバフを食らっちまう。だからってブラウを一切視界に入れないわけにはいかないし。

 

 状態異常を付与する魔法は、当然っちゃ当然だが、術者自身を対象にすることは出来ない。

 だから万が一のために睡眠を施す係が変なものにかかってもらっちゃ困るんだが、そう思ってるとかかるものなんだよなあ。この子の場合、寝なきゃ自動解除されないし。

 

 粉を使うか、と思って道具袋を漁ってみたが、見当たらない。

 この前、町で使ったのが最後だったんだろうか。もう少し持ってたと思ってたんだけどな、あれかな、売っちまったかな。

 お金を増やすために魔物が落とした素材とかを売った記憶があるし、その中に混じっちまってたのかもしれない。

 

「……ブラウをこの状態にしておくしかないのか?」

 

 アルジャンがブラウを心配そうに直視している。

 目を悪くするから、視界に入れないようにとルージュが注意していた。

 

 移動を切り上げて休もうにも、まだ正午を過ぎたばっかりだ。

 昼寝するほど疲れてもいないし、キャンプを張るにはちょっと狭い場所にいる。

 仮眠を取るにしても、出来れば空が見えてて、広い場所を見つけた方がいいと思った。

 

 いっそこのまま寝ずに魔王城を見つけて、このブラウを先頭に配置することで相対する連中の目を潰していけば、必要以上に戦わずに済むんじゃないかと思ったんだけど。

 まあ、どうせ、もう俺らは戦っても誰にも負けることはないだろうし、ブラウを見て自爆するよりは直ってもらった方がいいなって思い直した。

 

「ひええ……すみません……あたし、まだ眠くなくて……というか、自分の身体を見てたら眠気も来なさそうというか……」

 

 謝らなきゃいけないのは俺だと思う。

 

 つか、よく考えたらブラウの魔法で、俺が寝た方がいいんじゃね? ゲエミング化していたところで、魔法を放つのが阻害されているわけじゃないだろうし。

 もっと言えば、ずっと俺は寝かされたままで、アルジャンに背負われて移動した方がいいんじゃね? そうするとパッシブの発動がなくなり、デメリットを背負う可能性はゼロになる。

 

 なんで最初からこうしておかなかったんだろう。

 俺は嬉々として、それを伝えたが。

 

「ブラウに寝かされるのはいい。虹色は目に痛い。だが、ずっと寝て、俺が背負うなんてのはダメだ」

 

 断固、といった様子でアルジャンは俺の提案を拒絶した。

 今までの旅の最中でも、俺の提案を何らかの理由で拒否したことは珍しくない。しかし、その度に、ほぼ必ず理由を頭につけていたから、こう頭ごなしに否定していたのは珍しかった。

 

 驚いていたのは俺だけじゃなく、ジョーヌもだ。

 村に居たころから見ても、こういう態度になったことは初だから面食らっている。

 

 まさか、俺のバフによる効果のひとつか? なんて思っていると。

 

「ドレが寝たら、再び筋肉バフがかかる確率がゼロになる。そんなの有り得ない」

 

 ……もう筋肉の話はいいって……。

 

 俺と同時に呆れ果てる女性陣だったが、ひとまず『俺を寝かせて移動するべきではない』という部分にのみ、賛成していた。理由は、大雑把に言うと会話相手が一人減るのが嫌なんだと。

 面倒なバフがかかってもいいから、俺と会話したいらしい。まあ、俺が寝入っちまうと、惚れてるアルジャンだけになっちまうから気まずいのかもしれないな。

 

 それでも虹色肌は迷惑をかけるからと言って、一瞬俺を寝かせてリセットしようとするブラウだったが。

 何故かうまく発動しなかった。魔力が上手く練れないらしい。

 

 試しに火球を放つと言い始めたので全員で止めた。

 俺のバフが悪さして放てなくなっているのが状態異常関係だけなら、規格外なブラウが軽く放った火だけで森が全焼しかねないと不安だったからだ。

 

 当のブラウは、力加減を間違えることはないですよう、と言っていたが、過剰なレベリングの後に攻撃魔法を未だ放っていないのだから不安しかない。

 

 ひとまず、寝れないモンはしょうがないから、俺らはブラウをこの状態にしたまま旅を続けることにした。

 頑張って目に入れないようにしたいが、あまりにも目立つから視界に入っちまう。

 隊列の最後尾に回しても、彼女が纏う異様な空気感は変わらず、もう俺らは気にしないようにすることで必死だったね。

 

 

*****

 

 

 そんな虹色な女の子を抱えながら俺らは深い森を突き進んだ。

 明かり要らずだったね。いつもこういう暗いトコでは、たいまつとか、ブラウによる灯火の魔法で照らしてもらうんだけど、本人がテカテカ光っているからねえ。

 

 襲ってくる魔物は、強い光に慣れていないみたいで、ブラウを直視して目を焼かれていた。当の本人はそんな様子の魔物たちを見て、申し訳なく思ったのかしきりに謝っていたな。

 昨日のブラウだったら胸を張って自慢げにしていただろうが、このちょっと引っ込み思案な感じがいつもの彼女なんで、少し安心した。

 

 この虹色発光以外には、俺らに特に変化らしい変化は訪れなかった。

 良い変化も起きなかったってことなんだけど、俺のパッシブ、悪い効果を引き当てたときが最悪すぎるんで、それなら大した影響のない場合の方がありがたいよね。

 早いとこブラウを寝かせるか俺が寝るかしてリセットし、願わくばいいバフを引きたいが、無理なら影響が少ない奴を引いて、早いトコ魔王をぶっ飛ばしたい。

 

 って思って、頑張って歩いて、森を抜けた先で建物が見えた。

 でも。それは城じゃなかったね。村……というよりは、小さな集落っぽかった。

 

 遠巻きじゃ誰かいるかどうかはわかんなかった。昔、魔族が住んでたとかかな、なんて思ったりした。

 長く歩いて日が落ちてきていたし、そこで休もうと、俺ら五人は近づいてみたんだけど。

 

 普通に住民がいた。魔族だった。

 耳が尖ってたり、目が三つあったり、尻尾が生えてたり、羽根が生えてたり。一応どれにも当てはまらないような、普通の人も。

 

 そういった連中に、着くなり取り囲まれた。だが、俺らに武器や魔力を向けようとする奴は一人もいなかった。

 それどころか、どこか怯えているような、恐怖しているような、そんな感情の色が瞳に現れている感じに見えたんだ。

 

 戦闘能力が数値として見えるワケじゃないが、辺りの魔物の方が圧倒的に強そうな気配はあった。

 アルジャンが剣を振り回して衝撃波を放てば、集落の建物ごとここの魔族を一掃出来ちまうんじゃないかってくらいだ。

 もちろん、勇者様が怯える者にそんな蹂躙めいたことをするはずもなく。

 

「……俺らはその、ただの旅人だ。まさかここに……魔族が住んでいるとは思わなかったんだ。怯えさせてすまない。俺たちは出ていこう」

 

 警戒させてしまったことに心を痛めたアルジャンは深々と頭を下げた。

 それでも警戒が弱まることはない。理由は、俺らの背後で縮こまっている虹色の生物のせいだろう。本当にすまない。

 

「騙されんぞ! 我々を殺しに来たのだろう!?」

 

 誰かがそう叫んだ。女の人の声だった。

 声の震え具合が半端じゃなかったから、恐らく、実際に俺らが暴れたら対処のしようがなかったんだろうね。

 

 この空気をなんとかしようと考えたのだろう。

 俺が仄かに片思いしている相手である戦士様が一歩前に出て、意を決した表情で声を上げた。

 

「落ち着いてくださいまし。私は海底の国の女王アジュールの親族ですわ」

 

 おや? どうしたんだろう。

 いやいや、どうしたじゃないね。俺のバフの効果が暴走しちまってるんだろうな。

 

 この道中、ジョーヌはずっと無言だったからなあ。

 まさか『お嬢様レベル』みたいなのが最大値になってるなんて知らなかったよ。

 

「皆様に危害を加えるつもりはないんですのよ。ここにいる仲間達は、とても優しい方たちですの。魔族だからといって頭ごなしに否定したりしませんわ」

 

 普段のジョーヌらしからぬ、わざとらしいくらいの高貴な口調。

 ルージュが今にも噴き出しそうに顔を膨らませている。虹色に光っているブラウにも一瞬目線を映したが、同じ様子だった。

 アルジャンだけが真面目な顔をしていたが……すまん、俺も笑いそうだった。

 

 無骨ないつもの態度とのギャップが面白いというのもあるんだが。

 

 アジュールってのは、実在する人物なんだ。

 髪色以外ジョーヌにそっくりの魔族で、本当にこんな感じの喋り方をする女だった。

 

 魔族っつっても敵対はしなくて、俺らとは仲が良くなったんだけど。

 アジュールがこれを知ったらどう思うんだろう、って考えると、あまりにおかしくてさ。

 何せあの女王様、ジョーヌを気に入りすぎて王位に挿げ替えようとしてたからな。本気にしちまいそうなんだ。

 

「アジュール様の……!?」

「そんなはずはない!」

「しかし、言われてみれば雰囲気はそっくりだぞ」

 

 魔族たちがどよめいている。

 アジュール、有名人なのは知ってたけど、魔王軍側から見たら反逆者でね。

 大丈夫なのかなと思って見てたが、ジョーヌの賭けは見事に成功したらしい。少しだけ張り詰めた空気がなくなっている。

 

 と。そのとき。

 俺らを取り囲む魔族たちを割って出てきたのは、全身白くて、尻尾の生えた人物だった。

 部分部分が紫で染められている。いかにも魔族って感じの見た目のヤツだったが、そいつはこの集落の長であると名乗った。

 

「集落の戦闘力はとても低いのです。平均値にすると5.3と言ったところでしょう。集落の者たちがご迷惑をおかけしました。争う気はありません」

 

 戦闘力というのはなんだろう。

 パーティレベルみたいなもののことかな? 確かにその数字じゃ低いけども。

 どうにも滅茶苦茶強そうな空気を漂わせてる感じがするんだけど気のせいかな。

 

「私の家にご案内いたしましょう。お茶もお出しします。アジュールさんのお知り合いであり、何より勇者パーティである貴方がたを邪険にするわけには参りませんからね」

 

 まあまあ威圧感のある風体とは裏腹に、穏やかな物腰。

 ここの人達が彼らを尊敬している素振りを見せていたけど、納得の風格をしていたね。

 

 お茶に毒を入れられたりしないか、なんて考えたけど、そんな発想をするのは失礼ってモンだよな。

 ただ、そうしかねないくらい、集落長さん、なんか怖い感じなんだよね。うまいこと見た目の説明が出来ないのが残念だ。

 身体にトゲとか生やしてない、シンプルな感じなのが余計強さを感じさせるって言えばわかるかな?

 

「ああ、でも、そこの……お嬢さん、でいいですか? 申し訳ありませんが、黒い布を用意いたしますので着ていただけますか。どうにも見ていて落ち着かないし、目に悪そうなので」

 

 ブラウを薄目で見ながらそんなことを言っていた。

 虹色に光る生物を敵対視しなかっただけでも、この人はだいぶまともな感じがした。

 

 当の本人は弱々しく縮こまってばかりで、小さく「すみません……」とだけ漏らした。

 集落長さんのおつきの人、恰幅のいい魔族とイケメンな魔族が黒い布を纏わせてくれた結果、光量を抑えることには成功した。

 目元だけは隠すわけにはいかなかったけどね。呼吸は大丈夫なのかな、と思って聞いてみたが、普通に出来るとのことだ。

 

 全身黒ずくめの不審者みたいになってた。なんか推理小説の犯人っぽいぞ。

 原理よくわかんないんだけど、装備品扱いじゃないから虹色発光の対象じゃないのかな?

 

 

 んで。

 俺らはこの人の家に招待されたってワケだ。

 この辺境で取れる茶葉で作られたお茶は、独特な風味をしていたけど美味しかった。毒なんて入ってなかったね。

 

「良かったです。人間の方々には、お口に合わないかと思っていましたから」

 

 笑顔で言う彼に、こちらを騙そうとかいう意志は全く感じられなかった。

 ホント、見た目だけで疑っちまった俺の浅ましさを恥じなきゃいけないな。

 

「しかし、何故俺たちに良くしてくれる? ここは魔王アン・コロールの膝元ではないのか?」

 

 アルジャンがもっともな質問をぶつけていた。

 まあ、俺が警戒する理由そのものだな。とっくに魔王軍の陣地に入っちまってて、そこにある集落なんだから、当然、魔王に忠誠を誓っていておかしくないはずなんだ。

 戦闘能力が低い的なことを言ってたけど、それと忠誠心はあんまり関係ないもんな。

 

 少しだけ、集落長さんは困った顔をして。思い切った表情をして、話し始めた。

 

「……我々がバグ、と呼ばれているのは知っていますか?」

「ええ。かつてある魔族に聞いたことがあります。でも、それが何を意味するのかは……」

「そもそも、全ての魔族がバグなわけではないのですよ。私を含めた、ある特徴を持つ者だけがそれに該当します」

 

 初めて聞く情報だった。

 そもそも、バグってのが何を示すのか、今まで一切わからなかったからな。

 

 魔王が心の奥底に隠した本意に迫れるかもって思って、俺ら五人は食い入るように話にのめりこんだね。

 

「バグ、というのは。……別世界に似たような存在がいる個体です。『モトネタノアルヤツ』……と古文書には書かれています。人間離れした見た目をしていない者ですら、バグの因子を持っているとされています」

 

 彼が放った言葉。

 俺らの理解の範疇を大きく上回っていたんだ。




女神「ああ……。勇者パーティが外世界の情報を知る。これこそがもっとも忌むべき事態なのです。やはり今回も『失敗』だったのですね」
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