俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが……   作:あじさいファン

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24.戦士の話・その2

 異変はそれだけじゃなかった。周囲を魔族に固められていたんだ。

 剣や槍を持ってる奴、魔法を放つ構えを取ってる奴、触手をうねうねと動かしてる奴……ぱっと見た感じ、百は下らない数が、確実に俺らを敵と認識していた。

 

 絶体絶命の危機だったね。俺はアルジャンの強さを疑っちゃいなかったが、圧倒的な数の差というのはそれだけで不確定要素になる。実力に開きがあっても、こっちの疲労を突かれちゃ終わりだからな。戦っている間に援軍を呼ばれちゃ目も当てられない。

 

 大体、火力担当のジョーヌが不在という事実が、どうしても嫌な想像を駆り立てちまう。

 

 俺らが気絶してる間に、殺されちまったんじゃないか……なんてね。いくら彼女が強くったって、気を失っているのを狙われたんじゃ反撃なんて出来るはずもないしな。

 

『待ってくれ! 俺たちに敵対する意思はない! ただ女王様に会ってみたいだけなんだ!』

 

 勇者様が正直に叫んだ。

 と言っても、何もかも明け透けにしたわけじゃないけどね。アルジャンは、この辺りの頭がよく回るんだ。

 

 うん、わかっちゃいたけど逆効果だった。

 何せ「なんで会いたいか」の部分はうまいこと説明出来なかったもんな。

 魔王を倒すための情報収集とレベリングを兼ねて海底に来ました、なんて言ったらどうなるか、想像するだけで震えちまうし。

 

『やはり貴様らか! 我らの女王を誘拐したのは!』

 

 あらぬ冤罪をかけられちまった。

 女王の誘拐。全く身に覚えがない。今来たばっかだしな、ここに。

 呆気に取られる俺たちだったが、海の魔族たちは本気で言っている様子だった。決してこちらに適当な罪をなすりつけようとしているわけじゃなくて、確証をもって俺らが敵だと判断したっぽい。

 

『残念だったな。我々は既に女王様は取り戻している』

『……あ! あいつ、人相書きに書かれてた奴ですよ。勇者アルジャン!』

 

 別の魔族が、紙を片手に叫んでいた。水に濡れない特殊な材質で出来ているらしい。

 魔族にとって有益な研究所を破壊したもんなあ。あの作戦を立てたノワールが俺らに全ての罪を着せる算段なのは知っていたし、お陰でブラウが加入したんで、その件で恨んじゃいなかったが、こうしてツケが回ってくるとはね。

 

『誤解だ! 俺らは初めて海底に来たんだぞ!』

『黙れ勇者! この人相書きを見ても同じ口が叩けるか!?』

 

 ……いや、人相書きがあることと女王の誘拐には因果関係なんてまるでないと思うんだけど。

 そんなツッコミが脳裏をよぎったが、口にすることは出来なかった。その前に、紙を持っていた魔族がその内容を見せつけるように、俺らに向かって突きつけてきたからだ。

 

 勇者アルジャンの人相書き。

 その圧倒的な画力に俺らは言葉を失うしかなかった。

 

 雨粒のようなフォルム。水色。赤い口が緩いカーブを描いて伸びていて、くりくりとしたつぶらな瞳。

 俺らが冒険を始めたての頃に戦った雑魚モンスター連中に混じっていてもおかしくないデザインをしていた。八匹くらい集まると、でかいのに変身しそうな風格がある感じ、と言えば伝わるかな。

 

 妙に愛らしいが、少なくとも断言できるのはアルジャンが描かれてないってことだね。つーか、人間が描かれてない。

 

『それのどこがアルジャンさんなんですかあ! あたしたちの勇者様はカッコよくて、もっとこう……カッコいいんです!』

 

 ブラウの必死の反論には、語彙力が皆無だった。イケメンなのは確かなんだけどさ。

 

 魔族の方々には、絵に描かれている軟体生物と俺の親友が同一に見えてるのかな? 俺が見えている世界と他人が見えている世界が同じとは限らない、みたいな学者の論があったが、マジでそうなんじゃないかと思わせられるね。

 

 で。

 不一致の人相書きを見せつけられたアルジャンは無言でわなわなと震えてるっぽかった。

 

 当然だな、これを自分だと言われたら俺だって怒りで震えて涙が止まらない。そんなことを思いながら、親友がなんて言うのか見守ってたんだけど。

 

『……似ている……俺に……』

 

 なんと。

 あろうことかその軟体生物を自分とそっくりだと言い始めたんだ。

 

 この世界には姿見があります。よほど酷い宿屋じゃない限り、大体部屋に一個は置かれてます。

 それでこの認知? 大丈夫か? 俺は親友の目が壊れてないかどうか不安になった。

 もしかして、普段から俺のこと、栗饅頭(くりまんじゅう)の仲間と見間違えてたりしてないだろうか。

 

『この筋肉の足りない感じ……まさに俺だ……』

 

 こんときから筋肉がどうのこうのって言ってたんだな、勇者様は。

 その青い奴だけど、筋肉が「足りない」じゃなくて「ない」んだが。俺が見えてる世界がおかしいんだろうか。実は隣に立ってるルージュやブラウなんかも、ほんとは肉塊とかだったりしない?

 

『そうだ。似ているだろう。だから貴様らは女王誘拐犯なんだ』

 

 いや、その理屈はおかしい。

 よしんば勇者がやけに可愛い雑魚モンスターみたいな見た目だったとしよう。百歩譲ってもありえねえと思うけど。

 

 それと誘拐犯がイコールになる方程式を誰か俺に紐解いて教えてください。

 1+1は女神アルカンシエルです、と言われてるような意味不明な衝撃がさっきから脳味噌を揺らしてくる。誰か助けて欲しい。

 

『城に連行してやる。沙汰は追って言い渡されるだろう』

 

 槍を持つ魔族による厳格な言葉。

 冤罪も(はなは)だしいんだけど、申し開きの機会とかはないのこれ? ジョーヌとも合流できないまま、勇者パーティ壊滅?

 

 アルジャンもなんか、『人相書きに書かれてるなら仕方ない、多分自分の中のもう一人の自分が女王を(さら)ってしまったんだろう』みたいなことを言ってる。いや、納得すんな。

 

『……この人数を相手に戦うんじゃ、互いの被害が甚大になるわ。大人しく捕まりましょ。やってないってわかってくれる人もいるわよ、多分』

 

 やっとまともな意見が飛び出してきた。

 ありがとう、ルージュ。こんなふざけた空気をまともな方向に戻してくれて。大好き。

 

 ただ……真面目に言うと、勇者に強い恨みみたいなのを持ってそうな海底の魔族たちが、そう簡単にわかってくれるとは思えなかったけどな。俺らがやってない、という確たる証拠が出てこない限りは。そんなん、悪魔の証明だろ。

 

 でも、無駄な血を流すのは俺も嫌だったしな。不本意だが、今は捕まっておくしかなさそうだ、って思ったね。

 

 ブラウは、自分が処刑されるんじゃないかと思ったらしく、ガタガタ震えながら俺にしがみついてきた。

 ひとまず落ち着けさせるために、頭を撫でてやると震えは少しだけ収まっていた。

 

 勇者様は。

 

『……あまりにも似過ぎている人相書き。よほど優秀な絵描きが魔族側にはいるに違いない』

 

 あの絵が一度見たら忘れられない感じのインパクトとフォルムなのは間違いないけどさ。国民的に愛されるデザインになりそうだけどさ。

 お前とは似てねえから。あらゆる意味でお前の真逆に位置するから、あれ。

 

 

*****

 

 

 そんなこんなで。

 俺らは、海底の国のお城に連れて行かれ、地下の牢屋に閉じ込められちまった。

 

 凄い外観の城だったな。

 地上にある王城も見ていて惚れ惚れしたけど、海底の城は幻想的なんて三文字じゃ足りないくらいの美しさを誇っていた。

 

 青白い色に淡く明滅する不思議な貝殻で出来ててさ、強い魔力を放っててバリアが形成されてんの。

 後で聞いた話だが、このバリアの効果は城下町まで届いてるらしいんだけど、特に城周りが強固らしくて、出入口から以外の侵入経路がないらしいよ。

 外敵から身を守る用途でもあるんだけど、海の生き物、たとえば魚とかクラゲとかが迷い込んで帰れなくなってしまう、なんて事態が起きないようにという、はからいでもあるらしい。

 

 こうして、とっ捕まってなけりゃ観光だと言って隅々まで見回っていただろうに、真の女王誘拐犯の存在が恨めしい。

 

 そんな美しい外側とは裏腹に、地下牢は、この世の負を全て煮詰めたような場所だった。

 暗いし、狭いし、異臭がするし、見たこともない虫が這っている。ブラウなんか、ぴいぴい悲鳴を上げて何度も気絶しそうになってた。

 

 罪人を収納する場所なんか、適当でいいとでも言うような杜撰な管理がなされているのが窺える。

 というか、俺ら四人以外には捕まっている様子がなかった。直近まで誰かが入っていたような形跡もないから、もしかすると、ほとんど犯罪が起きないからここにぶちこまれるヤツがいないのかもしれない。だから牢屋が汚いのか、と納得するけど、一刻も早くここを出たくて仕方ない気持ちになった。

 

『おかしいわね。ジョーヌが先に捕らわれているものだと思っていたのだけど』

 

 ルージュが険しい表情をしながら、寄ってくる虫を足でプチプチ潰していた。そこに、虫を恐れている様子はなかった。

 怖れを知らぬ様子はあまりにも頼もしくて、震えあがっているブラウは彼女の背中に(すが)り付いてたね。

 

 そう、大勢の魔族に取り囲まれ、俺らが捕らわれた場にいなかった戦士様。

 俺も牢にいるもんだとばかり思ったんだけど、この場にいない……となると、どうしても、嫌な想像を抑えられなくなっちまうよな。

 

『……殺されているのなら、死体が近くになかったのはおかしいし、あの魔族たちから言及がなかったのも妙だ。アイツは生きている』

 

 俺らの勇者様がそう断言した。

 どこか自分自身に言い聞かせるような口調に、俺らは懸念事項を伝えるような無粋な真似は出来なかったよ。

 

 いちいち悪く考えるのは俺の悪いクセだな……そう思い直して、俺も信じることにした。

 好きな女の生存を信じなきゃ、男が廃るってモンだよな。これがアルジャンと俺の差なんだなって痛感したね。

 

 とりあえず、この牢に逃げられそうな抜け道はなさそうだ。冒険小説なんかじゃ、脱獄は定番なんだけどね、抜かりなし。

 鉄格子の向こうには見張りが二名だ。ブラウの魔法で吹き飛ばすことも考えたが、死角になっている廊下にも人がいるっぽくて、応援を呼ばれると面倒なことになっちまう。

 

 どうしようもないし、大人しく待ってるしかねえな……と思って、余計に体力を消耗しちまわねえようにその場に座り込もうとした、そのときだ。

 

『女王様!? な、何故地下牢に!?』

『捕らわれた者たちと会話をしに来たに決まっているだろう。席を外せ』

 

 廊下でそんな感じのやり取りが聞こえて来た。

 普通、為政者が直接牢に足を運ぶってのはあんまりない例だ。危険だからな。だから衛兵が困惑してた、と素直に捉えればそういう感じなんだけど。

 ただ……なんか、聞き覚えのある声だな、って思ったんだよね。そう感じたのは俺だけじゃなかったっぽい。他の三人もそうだった。

 

 女王様なる人物は、廊下の兵士を払った後に、そのままこっちに来た。俺らを見張ってる二人の魔族が動揺しながら敬礼のポーズを取っている。

 

『さっきの、聞こえてたな? お前たちもしばらく休憩していいぞ』

『女王様……? なんだか様子がおかしくありませんか……?』

 

 普段の口調と全然違う、と言って兵士のうち片割れが、いぶかしんだような表情をしていた。

 牢獄全体が暗いせいで、俺らからはちゃんと顔が見えない。

 指摘された当の女王様は堂々と『喋り方が違うのはイメチェンだ』と言ってのけていた。

 

『しかし……罪人との対話に、護衛もつけないなんて。いくらなんでも無謀すぎます』

『問題ない。私はお前達より強い。無礼なことをされれば暴力でわからせるだけだ』

 

 あまりに自信家すぎる発言に、兵士たちは呆気に取られた様子だった。

 少しだけ押し問答を繰り返した後、これ以上止めても無駄だと察したのだろう、兵士たちがこの場を去っていった。

 代わりに女王様が俺たちの牢屋に近づいてくる。そのとき、初めて俺らは彼女の恰好を確認したんだ。

 

 肩と胸元の開いた、綺麗な空色のドレス。

 薄茶色の髪をポニーテールにしていて、どこか精悍な顔立ちをした……。

 

 

 ……どう見ても、俺らの戦士様だった。

 

 

『何やってんだよ、ジョーヌ』

 

 俺が好きな女を見間違えるはずがなかった。

 どれだけ化粧を施されていても、どれだけ絢爛な衣装で着飾っていても、どれだけ世界にそっくりさんが居たんだとしても、目の前の女は間違いなくジョーヌだと断言できる。

 

『ええっ……!? ジョーヌさんが、海底の国の女王様だったんですか……!?』

 

 ブラウが驚いたが、そんなはずはなかった。

 彼女は間違いなく俺らの村の出身のはずだ。物心ついたときからずっと一緒だったからな。

 本当に同一の故郷の『生まれ』か、と聞かれるとちょっと自信をなくしちまうけども。

 

『へえ、似合ってるわよ、そのドレス』

『あまりからかわないでくれ、ルージュ。わかってるだろう、私は女王なんてガラじゃないんだよ』

『からかってるつもりはないんだけどなあ。でも、どうしてこんなことになったの?』

『うむ……私にも、よくわかっているとは言い難いのだが……』

 

 ジョーヌは目を覚ましたら、城の中だったらしい。側近により事情説明を受けたんだと。

 女王は数日間、姿をくらましていた。身勝手に外に出る人物ではないのと、女王の部屋が荒らされていたから、誘拐以外ありえないと判断されていた。

 国民を混乱させないように捜索をしていたが、ついさっき賊を捕らえたので安心していい、と。

 

『まさかとは思ったが……アルジャン達が誘拐犯扱いされているとはな』

 

 ジョーヌは女王の部屋に飾ってある肖像画を確認したらしい。

 髪色以外、あまりにも自分にそっくりな人物がそこには描かれていたんだそうだ。

 自分が女王だと勘違いされたのは当然だなと、悟ったらしい。

 

『髪の色が違うのに? ってことは、ここの魔族……』

『肖像画を描いた者は例外として、恐らく色が識別できない者が多いのだろう。勿体ないことだ。自国の美しさの真髄を堪能できないということだからな』

 

 しかし、重要なのは魔族たちが色盲であることじゃない。

 白よりの薄い青をした髪をしている、真の女王様。それが――

 

『まだ捕まったまま……ということになるな』

 

 アルジャンが放った推測は恐らく正しい。俺らはこれから起こることを予想して、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

 

 ジョーヌは自分が女王ではないと説明しようとしたが、頭を弄られて記憶が曖昧になっているという結論を下されているらしい。

 そうなると、どんな渾身の説得も無意味になる。全部俺らのせいにされちまうわけだからな。

 

 てことは、ジョーヌは望まぬ王位に就き続けなければならず、俺らは女王の身を危険に陥れた大罪人として厳罰、いや、死刑にされてしまうのだろう。

 真の女王様は誘拐されたままだ。そちらもまた、殺されてしまうかもしれない。

 

『こうしてる場合じゃないですよお! 早く脱獄して、本物の女王様を助けに行きましょう!』

『……そうすべきなのは確かだけど、情報が少なすぎるわ。私は、ジョーヌが勘違いされている状態を利用すべきだと思うの』

 

 慌てるブラウを諭すように、ルージュは冷静さを保っていた。

 俺らはこの国についたばかりで、どこに何があるのかもわかっていない。こんな状況で牢を抜けだしたら、一方的に追われるだけ追われて、女王の身柄を取り戻すだけじゃなくなっちまう。

 そもそも、誘拐なのかそうじゃないのかの判断も俺らには出来てないからな。僧侶様の言う通り、情報収集を行いたいところだ。

 

 ジョーヌが女王と勘違いされているというアクシデントは、うまく利用したい。

 地下牢から人払いすら可能な権限を振りかざせば、俺らを釈放することも出来るはずだと考えた。

 

 ……んだが、甘かったっぽい。

 さっきまで居たのと別の兵士が四人、牢の中に踏み込んで来たんだ。

 

『なんだ、お前達は。今、私が対話している最中だ。引け』

 ジョーヌが厳格な態度で引き下がらせようとするが、兵士たちは聞く耳を持たない。

 

『そうは参りません。宰相殿のご命令ですので』

『彼らを裁判所に連れてこい、と。罪の全てを暴露させ、(あがな)わせます』

 

 裁判所。

 王都ヴィオーレにもあるという話だが、俺らは直接足を踏み入れたことがない施設。

 まさか、海底の国にもあるとはね。

 

 罪人が本当に罪を犯したかどうかを公平な立場で解決する機関、のはず。

 でも、どうにも嫌な予感がした。人間で勇者パーティである俺らを公平に裁いてくれる気がしなくてね。

 

 女王の威光が無効だった以上、食い下がっても無意味なのは明白だった。

 その裁判で無実を証明するしかない――裁判で行われる一連の流れがどうだったかを、これまで読んだ書物の記憶を呼び起こして、俺は決意を固めたんだ。




女神「政治的に致し方なく国王と交流をしているのだとしても魔族は魔族。積極的に人間に対して友好的に接しているわけではないのなら、話を聞くべき相手ではないし、敵だと思うのですが……結局こんな無謀な行いで危機に陥っているのですから元も子もありませんね」

最近ちょい体調悪いので、無理しないことにしました。今回の更新はここまで。
時間かかっても頑張って完結させます。風邪には気を付けよう! 次回更新:2026/07/07予定
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