俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが…… 作:あじさいファン
裁判所。
ここで何が行われるのか今、俺の回想を聞いてくれている人たちとの常識と大きく違うかもしれないからかいつまんで説明しておくとだな。
弁護団と検察が、被告人の罪を証拠品をもってして立証するんだ。双方の言い分を聞き、最終的に全てを聞いていた裁判官がジャッジするわけ。
ただ、普通は犯罪者一人を相手に延々と論議が交わされるはずで、俺ら四人をまとめて沙汰にかけるなんていうのは俺も聞いたことがなかった。
この国の裁判では、女王が法壇には座るんだけど、裁判に直接口を出す権限は与えられていないらしい。あくまでも見ているだけなんだそうだ。出席するかどうかも任意なんだと。ただ、今回は女王は被害者でもあるから強制参加ということらしかった。
アテが外れたね。いざとなればジョーヌが俺らに有利になるように裁判の内容を誘導してもらおうと思ってたんだけど、どうにも無理っぽい。
『というわけで! 今からコロシアイ……じゃなかった、王宮裁判を行います! ワックワクのドッキドキだよね!』
裁判官を務めるのは、なんか熊っぽい見た目をした感じの魔族だった。身体の中心を境目に、黒と白でパッキリ分かれている。白黒ハッキリつけるよ、という意味合いなのだろうか。不穏な単語を発している辺り、どうにも信用できない雰囲気が漂っている。
俺ら被告人は、どうせ自己弁護以外言うことないでしょ、と言われて、発言の機会も与えられないまま、被告人席に座りっぱなしだった。そうなると弁護団に生殺与奪を全て握られているわけで、明らかにこの国に属する魔族が俺らに有利な弁護をしてくれるはずがないじゃないか、と戦々恐々としていたんだけど。
当の弁護団は真面目に俺らの無罪を主張してくれた。
青い服を着たギザギザな髪型の男に、赤いジャケットの熱血そうな大声の男、そして黄色い服の女の子。人間っぽい感じがするが、この国にいる以上は魔族なのだろう。やり取りから察するに、青い服の彼が恐らく弁護団のリーダーに違いない。
外部から来たからと言って真実を歪めることはあり得ないことだ──そう言って裁判に臨む彼らの姿は実に頼もしかった。伝説の弁護団だと言われても納得できるような風格があったね。
対し、検察の面々は冷やかな目でこちらを見ていた。確実にこっちを有罪にしようという意志を感じまくった。完璧をもって良しとするらしい。冤罪なのにな。確かな証拠品も揃っているのだそうだ。
俺らの処遇を巡って、熱い弁論が始まった……はずだった。
だが、実際に起こったことと言えば、俺の想像を遥かに絶するような、物理と魔道のぶつかり合いだった。
提出される証拠品への反論を弁護団の三名が行うと、すかさず検察は反撃をした。
その反撃の内容だが、必ずしも言葉だけじゃなくてさ。
やれ鞭だの、やれ熱々のコーヒー投擲だの、やれ遠距離を切り裂ける手刀だの、やれ数珠による行動封印だのと、困れば肉体言語に訴えてたんだ。
『あれはダメだろう! ただの物理攻撃ではないか!』
女王をやらされてるジョーヌも、クマみたいな裁判官にそう抗議したが、『ここの裁判所ではいつものことだから』『なにより面白いのでオッケーにしました』『エクストリーム裁判なので』と話にならない。
だが弁護団も負けじと応戦していた。
俺らの罪を証言するために用意された証人たちを、赤の男と黄色の女が、それぞれ『癖を見抜く魔法』だの、『精神状態を分析する魔道具』だのを用いて発言の信憑性を問い詰めていく。
そして、青い服の彼だけど。どうにも彼は、格闘大会に出たことがあるほどの猛者らしい。
逆転モードとかなんとか言いながら、指を突きつけると風圧で検察を背後の壁に叩きつけたり、最終的には木槌を持った巨人の老人を召喚して直接攻撃していた。
いや、裁判してくれよ。
俺の知ってる裁判と全然違う。法廷ってのはこんなに殺伐とした場所だったのかって、常識を塗り替えられそうになったよね。
アルジャンなんか、目を輝かせて『俺も弁護士になりたい』と言い始めてたくらいだ。大いなる勘違いをしているが、どうせ一過性のものだろうと思って適当に叶わぬ夢を応援しておいた。なろうと思ってなれるような甘い職業じゃないのは、ちょっと調べればわかることだからね。というか普通、こんな攻撃はしねえからな。
ただ、そんなハチャメチャなことが行われていても、俺らの罪がどうなのかを追求するという点においては弁護団も検察も驚くくらいストイックだった。検察が用意していた証人は確かに恣意的な連中ばかりだったが、弁護団に矛盾を指摘されれば、頑なに認めないわけではなく、そこから議論を発展させていく柔軟さはあったんだ。
最終的に『俺ら勇者パーティはそれまで海底の国で姿を見せていない』『少なくとも王城に忍び込んだ形跡はない』『証人の目撃証言は全てデタラメ』という結論に至り、俺らは無罪になりそうだったんだけど。
『ここらで茶番は終わり! 最終的に勇者パーティご一行様が有罪か、無罪か? それを決めるのは国民投票なのです!』
そんなことをクマな裁判官が言い始めた。
くねくねしたどこかセクシーなダンスを踊りながらこちらを煽って来る。これが可愛い女の子だったら食い入るように見つめてたんだけど、クマじゃなあ。
てか、だったら今までの無駄な時間は何だったんだよ。最初から俺らを有罪にする気だったんじゃないか。
普通に考えて、魔族が大半を占める国民による投票で、俺らを有罪にしない手はないもんな。
弁護団の方々もそんな話まったく聞かされてなかったらしくて、全力で阻止しようと食い下がっている。
『でも青と赤の男どもは、それで一回勝ったことがあるでしょ? 恩恵にあやかっておくだけあやかっておいて、負けそうになったら反論するのって、ダサいよねー! うぷぷぷ』
裁判官の発言に二名は痛いところを突かれたらしくて、反論の言葉が浮かばない様子だった。
黄色い女の子がそれでも、と食らいつくが『ひよこは相手にしません』みたいなこと言われている。
横暴すぎる。助けてくれ。
そんな俺らの悲痛な思いを汲み取り、偽物の女王様が立ち上がってくれた。
『待ってくれ! そもそも前提が大きく間違っている!』
『……ゼンテイ……?』
首を傾げる裁判長。
いちいち怖いオーラを放つクマに臆することなく、ジョーヌは意を決して自分の身の上と現状を伝えることにしたようだ。
俺やルージュは、利をかなぐり捨てる真似になるからと止めようとしたんだけど、彼女自身が女王を演じることに耐えられなかったんだろうね。
『私は女王アジュールではない! その勇者パーティの仲間である戦士ジョーヌだ! つまり、女王アジュールは未だ捕らわれている!』
この宣言に、傍聴席をはじめ、法廷内は騒然となった。
余裕を保っていた裁判官にとってもこれは予想外の事態らしく、わかりやすく動揺してた。
ここに勝機を見出したのが弁護団、特にギザギザ頭の青い彼であった。
未だピンチには変わりないというのに、どこかふてぶてしさを感じるほどの笑みを浮かべ、果敢に反撃を開始する。
『勇者パーティは捕獲された際、四人だった! ですが、手配書に書いてある通り、パーティは五人です。このムジュンの解決方法はただひとつ! 戦士ジョーヌが女王と間違われたからです!』
それ故に勇者パーティは誘拐犯と間違われてしまったのだという主張だ。
対し、検察側は冷静に反論した。女王が戦士ジョーヌだったのを認めたとして、それは勇者パーティが誘拐犯ではない証拠にはならない、と。
まっとうな反論のように思えるな。軟体生物の人相書き一つで誘拐犯とイコールにしてきた魔族連中とは偉い違いだ。さすがエリートたち。
鞭を振るっている検察の女が、ジョーヌが女王の座を
しかし、それであれば、本人が告白するまで女王の入れ替わりに誰も気づいていなかったのだから沈黙を貫き続ければいいだけで、自ら首を絞める真似をしたことに説明がつかないと青い彼が反論。
『女王……いえ、戦士の彼女にウソをついている様子はありません。オレの腕輪に反応もありませんからね』
『それに、カウンセリングも必要ないみたいです。つまり……真実を語っているってことですよね?』
赤い彼と黄色い彼女も続く。
癖を見抜く魔法が発動するのは相手が嘘をついているときらしく、魔道具も異常を検知すると反応するらしい。超絶便利すぎ。
こうなると、裁判官も認めざるを得なかったっぽい。
今、女王の振る舞いをしているのがニセモノであり、本人がニセモノだと主張した以上は俺らに犯行が不可能だったということを。
ジョーヌがこうなることを考えたかどうかはわからないが、賭けには勝ったワケだね。
なんとなく俺らが無罪になりそうな空気。
それでも裁判官が国民投票で決めると言って無理矢理押し通そうとしてくる。
弁護団や検察の存在意義も消し去ってしまうようなとんでもない横柄さに、俺らに擦り付けるのが目的の裁判なんじゃないかと思って頭が痛くなってきた。
……そこまで考えて、俺はひとつ思い至ったことがある。
このときは、俺も弁護団の仲間入りしてるかの如く、頭をフル回転させてオーバーヒート寸前だったね。
いわゆるあれだ、逆転の発想ってヤツ。
何故この裁判官がやけに国民投票を推し進めて有無を言わさず俺らを有罪にしようとしているのか、その理由を考えるのではなく。
裁判官が俺らを有罪にすることで得する何かがあるのではないか、それを考えてみよう……って感じだ。
そう、この思考には、ひとつ大きな前提が存在している。
裁判官を務めているクマが誘拐犯と関係しているんじゃないか、という。
もちろん、物的証拠はない。
だがそこから追い詰めることが出来れば……。
──そうだ。
俺は辿り着いちまった。あまりにもさりげないから、気づかずにスルーするところだったけれど。
気づいちまえば、とんでもなくわかりやすい。本人はその失言に気づいていないんだろう。
静かに手を挙げて、質問をしていいか裁判官に訊ねた。
少しくらいの悪あがきは裁判を傍聴している者にとっても華だよね、みたいなことを言って、それはあっさり許された。
『弁護団の方にお聞きします。自身のネクタイの色を正確に言えますか?』
『え……? い、いや……適当に選んでるからなあ……』
青い彼は赤系の、赤い彼は緑系の、黄色の彼女は青系のネクタイをしている。
だが、それは自分たちでは認識できていない風なのが、その一言で良く分かった。
となれば、次の質問だ。
『裁判官。あなた、色がわかるんですか?』
そう。ジョーヌの見立てによれば、海底の魔族には共通の特徴があるはずなんだ。
それは、色を認識できない、ということ。それ故にジョーヌと女王が間違われているわけなんだから。
法廷で特等席に座っている彼女はとても良く目立つ。
色がわかっているならば薄茶と白よりの青の区別がつかないはずもないんだけど、弁護団も検察も、傍聴席もそれに対する反応がなかった。
色盲であるという見立ては間違っていないと見ていい。
さて、そんな中で、たった一人だけ。
明確に色に関する言及を行った人物がいる。
──でも青と赤の男どもは、それで一回勝ったことがあるでしょ?
ネクタイの色すらあやふやな彼らが、自分のスーツやジャケットの色を正確に判別出来ているとは思えない。
男ども、という言い方から、言われているのが自分達と認識しただけに過ぎないのだろう。
だが、あの裁判官には色が見えている。それはもう、ハッキリと。
弁護団の服の色がわかっている魔族が、女王の髪の色を見間違えるはずなんてあり得ない。
『入廷から気づいていたはずですよね? あきらかに女王が別人だと』
俺の鋭い指摘に、裁判官は言葉を失っていた。
言葉のアヤだとか聞き間違いじゃないかとか色々言い訳していたが、多くの人が見守っている中でそんなものが通じるはずもなく。
『ぐぬぬ……絶望的ィ! だが! これでいい!』
追い詰められているのにどこか喜んでいる風なのが気味悪かったが、反論の余地を失ってしまっていたっぽい。
なるほど、こうやって矛盾をついていくのは確かに気持ちいいね。才能があるかはわからないが、俺もアルジャンとは違う意味で弁護団に入団したいななんて思ったりもした。
そのときだ。
裁判官の横で書記をやっていた人物がいたんだけどね。髪がワカメみたいになってる、細い感じの不気味な男。
ずっと無言だったんだけど、彼が一際大きな溜息をついた後に、口を開いたんだ。
『勇者パーティを処断できる絶好の機会でしたのに。少しばかり荷が重たかったみたいですね』
怖気が走るくらい、静かな口調だった。
だが、次の瞬間。裁判官の身体が爆発して弾け飛んだ。
騒然とする法廷内。しかし、血は飛び散らなかった。
例のクマは、どうやらいわゆる魔導人形のようなものらしかったんだ。
『まさか、今のは宰相殿が!? な、何故……!?』
扉付近を警護していた魔族。俺らをこの場に連れて来た者たちの一人が、驚きからそんな声を上げていた。
恐怖の目線を一身に浴びている、宰相なる男は優雅な佇まいでスッとその場から立ち上がる。
『父が世話になったようですね、勇者のみなさん。ワタシはイヴォアール』
奴の赤い目からは感情の色はまるで見えない。
こちらを恨んでいるのか憎んでいるのか、それとも敬意を表しているのかこの状況を楽しんでいるのか。
全てが霧の中に覆い尽くされたような感覚だった。
傍聴人たちは逃げ出し、弁護団や検察も避難をする中。
ジョーヌを含めて俺らだけが金縛りにあったかのように身動きが取れずにいた。
『父……?』
『ええ』
誰のことかわからない、と思わずつぶやいたジョーヌにイヴォアールは向き直る。
その口から放たれた奴の正体に、俺らは衝撃を受けた。
『マスティックの息子です。研究所の一件は全て耳にしていますよ。父の仕掛けた罠を掻い潜り、見事に脱出してみせたと。会いたかったのです。ずっと』
言われてみれば面影はあるような気がした。
肌の色こそ真逆で病的に真っ白だが、何もかもを見下したかのような狂気的な目つきはそっくりだ。
マスティック教授の息子、イヴォアール。
冷たい死神を思わせる、ただならぬ雰囲気に俺らはただただ息を呑むしか出来なかった。
女神「勇者はどうにも力を持つ者になら誰にでも憧れるきらいがありますね。まず弁護士は戦闘要員ではありませんし、魔族に憧れるなどあり得ません。ドレなる男は彼に対し、しっかり教育して欲しいものです。話は変わりますが『7』はまだでしょうか? あとクマが出る方の新作は発売延期だそうですね。かえって楽しみになって参りました」