俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが…… 作:あじさいファン
今、この
他に居た連中は弁護団も検察も傍聴人も、俺らを除いて全員避難しちまった。女王を守るべき兵士たちはジョーヌが女王ではないとわかったから置いてっちまったみたい。薄情だな。
この事態を引き起こした張本人は、殺気を纏うでもなく、堂々とした立ち振る舞いで俺らを見据えている。先程まで裁判官をしていたクマの魔導人形の残骸を足で踏みつけてた。
『つい先日、四天王の一人となりましてね。これから長い付き合いとなることを期待しております』
口元だけ笑っているが目元は笑っていない。言葉と裏腹にこちらを殺そうとする気だけは感じられる。漂う底知れぬ恐ろしさに、俺らはその場で硬直するしか出来なかった。
武器は牢獄にぶち込まれた際に取り上げられている。当然、この場に持ってきているわけもない。
最初から武器を持たない俺や、魔法さえ使えれば問題のないブラウとルージュはさておいて、アルジャンはあまり戦力として考えない方がいい局面だった。
ジョーヌに関しては、体術も操れるから不安視はしてなかった。斧を用いた攻撃よりは数段火力が落ちるんだろうけど、それでも十分強いのはよく知っている。
ただ、動き辛そうなドレスを着ているからな。それが足枷になっちまいそうだったね。
さて。
このイヴォアールとやらの自分は四天王です発言に対し、大きな反応を示した者がいた。かつて魔王軍に在籍した経験があり、現在の四天王の内訳について詳しいブラウだ。
『四天王が代替わりしたんですかあ。誰が死んだんです? まさか、ノワール様じゃないですよね!?』
『グリーズ様ですよ。相当なお歳を召されていましたからね。そしてアン・コロール様の勅命によりワタシが空いた座に当てがわれたのです』
後で聞いたが、ブラウはこのグリーズとかいう四天王と会ったことは数えるほどしかなかったそうだが、水や氷を操る老人の魔族だったのは確かだったみたい。俺らが旅をしている間に寿命で死に、後釜にこいつが抜擢されたわけだな。
余命いくばくもない感じだったらしく、ブラウはその名前を聞かされて納得していた様子だった。
『四天王ながら海底の国の宰相として手腕を振るっておりましてな。死期を悟ったのでしょう、三年ほど前からワタシを後任へと据えるべくノウハウを叩き込んでくれました。……しかし、ワタシに言わせれば手ぬる過ぎます。魔族であるのに海底に引き篭もり、のんびり過ごしていること自体がおかしい』
なんか崇高な使命感があるっぽい。だけど、俺らにはこいつの身の上話なんて死ぬほど興味がなかった。語りたがりなのは確かに、マスティック教授譲りなんだなと思わされたね。
これを遮ったのは我らが僧侶様であるルージュだった。愛用のメイスが取り上げられ、攻撃に参加できなくともやれることはあるとばかりに、イヴォアールを睨みつけてた。
『女王様を誘拐したのは、貴方なのかしら。こっちに罪を
他に俺らの海底行きを知ってるのは、自他共に最強な筆頭魔道士だけなはずなんだけど、まさかルージュは彼が情報を売り渡したと思ったのかな、と、その言葉を聞いて率直に感じた。
しかし、彼は親友殺しの際に心を痛めていたのは紛れもない事実だったし、その協力を俺らにさせてたのも苦渋の決断という感じに見受けられたから内通者だなんて思いたくはなかったね。
もちろん、ルージュもあの人を俺らの敵だなんて考えているわけじゃなかったっぽい。
気のせいかもしれないから俺らにも伝えられなかったみたいなんだが、最近どうにも誰かに見られているような感覚があったらしくてね。
『ええ。数ヵ月前から、アナタがたの動向は常に監視しておりましたから』
不気味に微笑むと、イヴォアールは指をパチっと鳴らした。その瞬間、奴の肩らへんに、デカい目に触手がついたような魔物が現れる。
この魔物と見たものを共有できるらしく、そして姿と気配と魔力反応を一切隠せるのだという。
その代償に戦闘能力を失っているらしいことだけが唯一の救いだったが、要はその触手モンスターを常に俺らに同行させてたんだそうだ。全く気が付かなかった。
『きっしょ』
ルージュによる、あまりにどストレートな暴言。しかし、言われた当の本人は眉一つ動かさない。
『それで? 手ぬるいから何なのだ。魔族の国を治める女王を何故、魔族である貴様が
『説明の義務はありません。経験則上、余計なことを口走ったときこそが
ここまで
冷静な口ぶりのまま、詠唱もなしに闇に包まれた虫みたいなものを召喚してきて、こちらにぶつけようとしてくる。
これを阻止したのはルージュだった。瞬時に防御結界を展開してた。飛来してきてた虫は結界に身体を叩きつける形となり、そのまま散っていく。
『ジョーヌを女王に挿げ替えるつもりだったのか? 何故そんな真似をする必要があるんだ!?』
『答える気はありません』
怒りを伴ったアルジャンの叫びにも、奴は一切動じない。氷の塊を両手の間から生成し、刃の形状に変換してこちらに飛ばしてくる。凄い数の氷の刃。ルージュが展開した結界に切り傷が何度もついていた。
こういうとき、遠距離から衝撃波で攻撃できるアルジャンが無力化されてるのが結構キツいね。
『俺らを処刑って形で始末したかったんだったら、破綻してんだろ。あんたが本性を現しちまった時点で』
『そう考えるのが素人の浅はかさというものです。どう転んでもワタシに損はないようにしてあります』
俺が挑発して情報を引き出そうとしてみたが、核心に迫ることを口走らない。
語りたがりのくせに、妙に慎重なのな。こういう奴はかなり手ごわいぞ。
『そろそろ諦めて死んでいただけますか。いや、重傷を負うだけでも構いません。嫌なんですよ、魔法を何度も使うの。疲れるので』
『なら、やめればいいじゃないですかあ。そんなに、お父さんの無念を晴らしたいんですかね!』
雷のビームを放ってくるイヴォアール。結界が破壊されると踏んだのだろう、すかさずブラウが間に割って入り、彼女もまた似たような光線を放って相手が放つ魔法の威力を相殺してみせた。
そんなことをされているというのに、舌打ちひとつしない。まともな感情を捨て去ってるんじゃないかと思うような冷静ぶりだ。
『無念? 父は生きていますが。ああ、魔導研究所でアナタがたにしてやられたのを恨んで息子が報復しにきたとでも? 世俗の虫どもが好きそうな低俗なシナリオですね』
誠に遺憾だとでも言うように、魔法のエネルギーを手に再び収束させていくイヴォアール。
次に放たれるのは虫か、氷の刃か、強烈な光線か? 何が来てもいいように、俺らは身構える他なかった。
そのときだった。イヴォアールの足元に黒い魔方陣が浮かぶ。
俺ら五人のうち、誰も魔法による攻撃行動を取っていなかったから、こいつも一瞬反応が遅れちまったっぽい。
『さっきはよくもやってくれたな! 助けて!
直前まで聞いた独特な声色。裁判官をやってたクマだった。遠隔操作しているヤツが、新たな個体をこちらに寄越したに違いない。
どうやら強力な魔道士であるらしく、今しがた叫んでいた槍とやらによる攻撃が行われた。足元から生えて来た鋭利な槍が何本も、瞬時にイヴォアールの身体に突き刺さったんだ。
何本もの槍に貫かれてるっつーのに、こいつは腹立つことに涼し気な顔を維持したままだった。
『……おや、アナタが反逆するとは。完全に油断しましたね』
『反逆ついでに耳寄りな情報を勇者パーティにお届けしちゃうもんねー! 真の女王は東にある「海鳴りの
イヴォアールと協力関係にあったはずの、クマによる手助け。
俺らや女王を助けたいという意志はなく、このワカメ頭を困らせてやりたい、絶望の淵に追いやってやりたいという意志がありありと感じられた。
当の宰相様が平然としていることに、滅茶苦茶腹を立てている様子だったっけ。
『いけませんねえ。ワタシが口を閉ざしているのに、アナタがベラベラ喋っては』
ゲイボルグの槍が突き刺さったイヴォアールが霧のように掻き消えた。かと思えば、瞬時にクマの背後を取り、軽く引っぱたく。二体目のクマもまた、一体目のように音を立てて破裂しちまった。
どうやら、幻術だったらしいな。こいつの父であるマスティック教授の十八番だ。いちいち面倒なことをしやがる。
『
イヴォアールは静かな殺気を纏っていた。
クマの口から居場所について漏らされたことに対して相当な立腹だったのが窺える。
俺にもわかる、強すぎる魔力の波動。先程までの攻撃が児戯だったとすら感じられる戦慄に、果たしてルージュの結界で弾き切れるかどうか……。
こんな防戦一方ではラチが明かない、と思ったのだろう。
俺らの戦士様が不意打ちでぶん殴ってやろうと動き始めていた。
あまりに動き辛いからと、今まで着ていたドレスをビリビリに引き裂いてその場に脱ぎ去り。下着姿になっていることなんて
ヤツに幻術を使う暇を与えないよう、吼えずに電光石火の速度で肉薄すると、思いっきり顔面に鉄拳を叩き込んでいた。
『む……っ!』
この奇襲にはさしものイヴォアールも慌てたらしい。すぐさま魔法結界を展開するなり幻術で避けるなりしようと思ったみたいだが、間に合わず。
ジョーヌの馬鹿力をもって、少し離れた壁に向かって吹き飛ばされ、周囲の破壊を伴って轟音が響き、激突していた。
『行くぞ、みんな! 東の
ジョーヌが怒り任せに号令をかける。
俺らもそうしたいところは山々だったが、しかし、所持品の一切を奪われてしまっていることはネックとなってた。
それに、ジョーヌが女王ではないということが裁判をもって多くの者に周知となっちまったため、女王という立場を利用した情報収集は出来なくなっちまっている。
『よくもワタシの身体に傷をつけてくれたな……! 逃がさんぞ……!』
まともな攻撃を受けたイヴォアールは余裕をなくしちまってた。
すぐさま闇の魔力で己の傷を回復し、悠然と立ち上がって激怒の標的をジョーヌに向けている。
そして、ヤツの全身を覆い尽くす闇のバリア。素手による攻撃以外に今出来ることがない戦士様にとっては厄介極まりない代物だった。直接触れたらヤバげなのが伝わってくる。
『……この何も出来ない無力感。ドレの気持ちが少しだけ分かった気がする』
俺の隣で不意に親友がそんなことをボソッと呟いた。
アルジャンは剣術以外で敵を攻撃する方法がない。ジョーヌみたいに体術を得手としていないし、攻撃魔法だって当時ブラウに習ったばかりで、魔法に対する抵抗力が高い傾向にある魔道士に使える代物ではない。
だから筋肉をつけたかったんだろうな、と今なら思う。悲痛な表情をしていた勇者様に、かけてやれる言葉はそのときにはなかった。
早いとこ武器を回収しねえとな。そんなことばかり思ってたが。
しかし、目の前の四天王をなんとかしないことには、それも叶わないからどうしたものか。
絶体絶命の危機。
俺らが一方的に不利な戦いをどう乗り切るべきか、果たして無傷で乗り越えられるのか。
勇者パーティ五人全員の背筋に恐怖が汗として伝った──そのときだった。
『ここは、ぼくが引き受けます! 勇者たちは、ぼくの部下二名と合流して、女王のいる地の詳細な位置を聞いてください!!』
そんな怒号と共に、イヴォアールに向かって振り下ろされる巨大な木槌。呼び出された大きな老人による攻撃だ。
先程まで俺らを真面目に弁護してくれていた弁護団のリーダーである、青いスーツのギザギザ頭な男だった。俺らのことが心配になってきて戻ってきてたらしい。飛び出す機会を窺っていたんだそうだ。
『信じていましたからね。あなたたちが女王の誘拐犯であるはずがない、って』
『で、でも……!』
心配そうに声を上げたのはルージュだった。
四天王を名乗っていることに偽りはなく、この僅かな交戦でも理解できるほどにイヴォアールの戦闘能力は底知れない。これでいて本気を出している感じもないのだから恐れ入る。
そんな者を相手に、たった一人で抑えようとする魔族の彼の身を
『問題ありません。ぼく、こう見えて結構、頑丈なんですよね』
イヴォアールは振り下ろされているハンマーを必死に結界で受け止めている。
とは言ってもイヴォアール側は劣勢といった感じじゃなくて、むしろ、巨人側が押されているように見えた。
『あなたたちの所持品は、検察が回収した証拠品に混じっているはず! みんな裁判所の外に逃げています! さあ、急いで!!』
このままでは、弁護士の彼の勇気が無駄になってしまう。
そう思った俺らは互いに顔を見合わせた後、意を決してここを後にすることにしたんだ。
『絶対に生き延びろ! カッコつけて死ぬなんて許されないからな!』
ジョーヌの悲痛な叫びに、青スーツの彼は笑顔で見送ってくれた。
俺らが法廷の出入口から抜け出そうという頃、イヴォアールの結界は木槌を押し返すことに成功しちまったらしい。
背後から鳴り響く破裂音が何なのかを、確認する時間は俺らには残されていなかった。
『……行くぞ』
勇者様による静かな号令。そこには様々な感情が乗っている、そんな気がした。
こうして。俺らは法廷を後にしたんだ。
女神「どうにもこの勇者パーティは魔族の協力を得て行動する傾向にありますね。愚痴っていても仕方がありませんので豆知識を。この国の物理法則ですけどね。水中ながら、地上と同じように動き回れるみたいですよ。城から中心に放たれる魔道の影響らしいですよ。それでいて海洋生物には悪影響を及ぼなさない。何とも都合が良く、恐ろしい話です」